碧天フォレストノベルコンテスト 一次審査通過作品
Original Story
『ずっとそばに…』
by Sin


第5章 『誕生日プレゼント』

 家を出た千佳は電話で約束した待ち合わせ場所へと急ぐ。休日で人通りも多く千佳としては苦手な状況のはずなのだが、なぜか気分が浮き足立っていた。
「あ、千佳!」
 通りに差し掛かった途端、千佳の姿を見つけて駆け寄ってくる友輝。どうやら急いできたらしく、額に汗を掻いていた。
「トモくん、ごめん、待った?」
「いや、俺もついさっき来たところだから。それにしても驚いたよ。まさか千佳から急に会いたいだなんてメールを貰えるとは思わなかったからね」
 友輝が笑いながらそう言うと、しばらく俯いていた千佳だったが、やがて少し顔を赤らめて微笑むと、そっと口を開いた。
「うん……ほんとはずっと会わずにおこうかと思ってたんだけど……この前電話したときに声聞いちゃったら……なんだか会いたくなっちゃって……」
「えっ……あ、そ、そうなんだ……へへ……なんだか照れるな……」
 顔を赤くしてそう言う友輝に、千佳も微笑む。友輝は知らなかったが、こんな
千佳の笑顔は最近は家族でも殆ど見ていない。
 千佳自身にも分かってはいないが、友輝の前にいるときだけは千佳はいつもと違う表情を見せる事が多い。大好きな純也の前でさえも見せないような表情を――。
「じゃあ、トモくん。お兄ちゃんのプレゼントにぴったりなものたくさん売ってる所、教えて」
「任せとけって。俺もあれから色々調べて、この前教えた店よりもいい店見つけておいたからさ」
「ありがとっ! やっぱり頼りになるね!!」
「あんまりおだてるなって。じゃあ行こうか」
「うんっ!」
 楽しげな足取りで先へ先へと歩く千佳。
「ほらほら、トモくん早く〜」
「あんまり急がなくたって大丈夫だぞ!」
「いいから〜ほらっ!」
 そう言うと千佳は友輝の手をとってぐいぐい引っ張り始める。
 傍から見ればそれは腕を組んで歩く仲良しカップルに他ならなかったが、千佳は気にならない様子ではしゃいでいた。
「ほら、そっち」
「あ、こっちね。了解〜」
「次は右」
「はいは〜い、右に曲がっちゃいま〜す」
「そのまま真っ直ぐで突き当たりを左な」
「わかった〜ほら、トモくんも早く早く〜」
 少しはしゃぎすぎの感もあったが、ずっと落ち込み続けていた分が弾けた…といったところだろうか。だが、最近ずっと閉じこもり気味だった千佳にこの運動量はさすがにきつかったらしく、目的の店に辿り着いた頃には、すっかり息が上がってしまっていた。
 
「おいおい、大丈夫か?」
「あはは、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかも。疲れた〜」
 そう言ってぺたんとその場に座り込む千佳。
「相変わらず波の激しいやつだなぁ…」
「悪かったわね〜」
 友輝に苦笑しながら言われて少しむくれて見せる千佳だったが、その表情は決して本気で怒ってはいない。
「ほら、ジュースでも飲んで落ち着けよ」
「あ、うん、ありがと」
 友輝に手渡されたジュースをこくこくと飲んでいく千佳。
「あ、トモくんも飲む?」
「ああ、サンキュ」
 千佳から手渡されたジュースに友輝が口をつけたその時だった。
「あ……っ」
 不意に慌てたような声を上げる千佳。
「え?」
 戸惑った様子で手を止めた友輝に、千佳は頬を赤く染めて呟いた。
「今のって間接っ……あ、ううん、なんでもない…」
「ん? ―――あ……っ」
 千佳の言いたかった事に気づいた友輝の顔が赤く染まる。
 同じように千佳も気づかれてしまった事を知って、耳まで真っ赤に染まっていく。
 友輝の手の中で2人の唇の跡が重なった缶が、行き場をなくして揺れていた。

 それからしばらくの時が流れ……。
 ようやく落ち着いた2人は当初の目的に向かってスタートしようとしていた。
「ま、まあ、これはこれとして…それはともかく…」
「う、うんっ、お兄ちゃんのプレゼント探索大作戦開始〜」
 まだ少し赤みの残る表情で楽しそうにそう宣言すると、千佳は店の中へと入っていく。
「真部千佳、突貫しま〜す」
「あ、おい、待てよ…って聞いちゃいないか。千佳、俺を置いて行くなって!」
 そんなこんなでバタバタと店へと入っていく2人。
 そこに陳列されているものは、確かに今まで見た事もないようなものが多い。
しかも品数も豊富で店内も広い上に棚がびっしり。子供なら間違いなく迷子になりそうな状態だ。
 こうして見回している今も、迷子の親を呼ぶ放送がひっきりなしにかかっていた。
「すご〜い、トモくんよくこんな店見つけたね〜」
「まあ、たまたま知り合いから聞いたんだよ。それにしても噂以上の品揃えだな。この中から選ぶのは大変だぞ……」
 店内を見回して苦笑する友輝だったが、千佳はむしろ嬉しそうに辺りを見回っている。
「いいよ、これ位色々あった方が、お兄ちゃんにぴったりのもの探せるもん」
「そう言われてみれば、そうかもな。じゃあ俺も手伝うからとことん見て回ろう」
「うんっ!」

 喜び勇んであちこちを見て回る千佳。
 友輝もそれを手伝いながら2人で色々と選んで回る。
「千佳〜」
「え? 何かいいの……きゃわぁぁっ!?」
 友輝の声に振り返った千佳の目の前に、巨大なカメレオンの置物が……。
 思わず悲鳴をあげてしりもちをつく千佳に、カメレオンの影から聞こえてくる友輝のかみ殺したような笑い声が……。
「いったぁぁい! トモくん!! 悪戯しないでよ〜っ!」
「あはは、悪い悪い」
「もう…トモくんの悪戯っ子…」
「ところで、そっちは何かいいのあったか?」
「う〜ん、迷っちゃう。よさそうなのがたっぷりあるから目移りしちゃって……」
「じゃあ、とりあえずいくつかピックアップして、その中から選ぶようにしようか」
「ん、そうだね。そうしよっ。あ、トモく〜ん」
「なんだ? って、ぬわぁぁぁぁっ!?」
 振り返った友輝は、突然目の前に現れたゴリラに思わず後ずさり。
「あはははははははっ、トモくんってば慌ててる〜」
「ち、千佳〜〜〜っ」
「さっきのお返しだよ〜っ、あははっ」
「ったく……ぷっ、あははははっ」
 楽しそうに笑いあう2人。
 周囲にある様々なもので時に脅かし、時に脅かされながら2人は純也への誕生日プレゼントを探していく。

 2時間もすると、いくつかの候補ができていた。小さいものから大きいものまで様々ではあるが、共通しているのはどれも得体の知れないもの…ということだけ。
「さてと、とりあえずこの6つまでは絞ったんだけど、後は……やっぱり千佳が決めるべきだろうな。どれがいいと思う?」
「う〜ん、これもいいしこれも……あ〜ん、迷っちゃって決められないよぉ…」
「何時間でも付き合うから、好きなだけ考えたらいいよ」
「絶対、頭パンクしそ〜」
 そう言って笑いあう千佳と友輝。
 かなり長い時間、2人で推敲しあっていたが、やがて……。
「じゃあ、これにするね。すみませ〜ん、これくださ〜い!」
 結局5時間もかかってしまったが、満足のいく買い物ができて千佳はご満悦だった。

「ねぇ、トモくん。ちょっと寄り道していかない?
 千佳の言葉で、2人は池のある公園に立ち寄った。
 近所にある公園よりはだいぶ広いこの場所は、身体を鍛えている人のジョギングコースにもなっている場所だ。友輝も、ここを毎日走っている。
「こんな所に、何か用事でもあるのか?」
「用事って言うか…最近、トモくんとあんまりゆっくり話しできなかったから……」
「あ、そ、そう言えば……そうだな……」
 いつもとちょっと違う千佳の様子に、戸惑う友輝。
「ねぇ……トモくん」
「ん?」
「卒業式の時の事……覚えてる?」
「忘れようったって忘れられないさ。俺が千佳に振られた日なんだから」
「あは……そうだね……でも、私はもうひとつの理由で……忘れられない……」
「えっ?」
「……お兄ちゃんと真須美さんが付き合うって知った日だから…」
「あ……」
 そう言われて、友輝は身体が凍りつくような感じを受ける。確かにその通りだった。
 自分にとっては振られた日…それだけでしかなかったけど、千佳にとっては……。
 そんな思いで口を閉ざす友輝に、千佳はゆっくりと微笑んで話を続けた。
「ずっと、お兄ちゃんの事だけが好きだった。お兄ちゃんさえいれば、他には誰もいらないって思ってた……でも……」
「でも?」
「私、トモくんに会えないと、寂しいって……思った……」
「千佳……」
「おかしいよね。お兄ちゃんだけいればいい……なんて思ってたのに、トモくんに会えないのが辛いなんて…」
 そう言って苦笑する千佳になんとなく恥ずかしくて友輝は頬を掻いた。

「あの日、泣いてる私を慰めてくれたトモくんの優しさと暖かさ……忘れられないよ…」
 俯きながら、少し上目遣いで見つめてくる千佳に、友輝の胸が高鳴る。
 激しく気持ちが動揺するのを押し隠して、友輝は言葉を紡いだ。
「俺だって、あんな千佳を見たのは初めてだったし…それに……」
「それに?」
「……ほっとけなかったんだよ、お前の事。好きだから…好きな奴が泣いてたから……それだけなんだよな…」
 言いながらなんとなく恥ずかしくなって、友輝は顔を真っ赤に染めた。
「でも、あの時は友輝のお陰で元気になれたよ。またすぐに落ち込んじゃったけど……」
「そうだな、千佳はいつもすぐに落ち込んでた。あんまり酷いから、冗談抜きに心配したぞ」
「あは……ごめんね……」
 少し涙を浮かべて言ったその言葉に、友輝はそっと手を伸ばして頬を拭ってやる。
「ありがと……」
そう言うと千佳は少し頬を赤くして俯いた。
 なんとなく言葉が続かなくなって、辺りが沈黙に包まれてしまう。
 それを破ったのは、千佳だった。
「私ね、最近…トモくんの事ばかり考えてる気がするの……」
「え?」
思わぬ言葉に戸惑う友輝。
「あの日に告白してくれたトモくん、慰めてくれたトモくん、私が倒れたときに真っ先に駆けつけてくれたトモくん、私が冷たい態度をとっていても、こうしていつでも支えてくれるトモくん……」
 指折り数えながら口にしていく千佳に友輝の顔は益々赤くなっていく。
「私の中で、お兄ちゃんは一番好きな人なんだけど……きっと私、トモくんの事もおんなじ位好きになってきてるんだと思うの……」
 そう言って微笑んだ千佳の様子に、友輝は抱きしめたくなる衝動を必死に堪えなければならなかった。
「お兄ちゃんに、トモくんと付き合ってるって誤解されたとき…あんなに辛かったのに、もし、今同じように誤解されても、あまり辛くない気がする……」
 千佳は手に持った包みをギュッと抱きしめて顔を赤らめる。
「ねぇ、トモくん……」
「ん?」
「私はやっぱりお兄ちゃんが好き。でも……トモくんのことも好きだよ……」
「千佳、俺は……」
 続けようとして口ごもる友輝。
 そんな彼の様子に千佳は微笑むと、なにを思い出したのか少し赤くなった頬で話し始めた。
「……さっきの間接キス…だよね…? あは……私、トモくんが…初めての人になっちゃった……」
「え!?」
「お兄ちゃんともした事なかったから…間接キス……」
 真っ赤になってそう言うと千佳はそっと友輝に手を重ねた。もちろん友輝の顔も真っ赤に染まっている。
「私はトモくんの気持ちには答えられないと思うけど……こうして手をつないでいてくれたら……嬉しいな……」
 少し恥ずかしそうにそう呟く千佳を、友輝は思わず抱きしめてしまい、慌てて離れた。
 呆然とした様子の千佳の頬が赤い。
「ご、ごめん、思わず……」
 大慌てで弁解する友輝の様子に、千佳は……。
「……ねぇ、トモくん……」
「え、えっ?」
「少しだけなら……ぎゅってしても……いいよ……」
 頬を染めて微笑む千佳。
 一瞬躊躇った友輝だったが、信頼した瞳で見つめてくる千佳に、そっと肩に手を伸ばしてその身体を優しく抱きしめた……。

 二週間ほど前に、友輝と一緒に純也の誕生日プレゼントを買ってきた千佳。
 今日はプレゼントを渡すときの事を相談しに友輝の所に寄っていたのだが、一人で渡すのが不安になってしまった千佳は友輝に一緒に来てくれるように頼んだ。
「ねぇ、トモくん。お兄ちゃん…喜んでくれるかなぁ…」
「千佳が一生懸命に考えて選んだ物だからな。きっと純也さんも喜んでくれるさ」
 そんな友輝の言葉に千佳は照れくさそうに微笑むと、プレゼントの包みを大事そうに胸に抱きしめる。
 だが……。

「あっ、あれは…」
 角を曲がった途端、友輝が慌てた様子で身を隠す。不思議に思った千佳も壁に隠れながら通りを覗き込むと――。
「お兄ちゃん…それに、真須美先輩……」
 そこに居たのは、デートの帰りらしい純也と真須美の姿だった。
「チッ…最悪のタイミングだな……」
 表情の曇った千佳の様子に、友輝は思わず舌打ちする。

「今日は楽しかったよ」
「私も…今日はいつもより多く貴方と一緒にいられて…嬉しかった…」
 見つめ合う2人の様子に千佳の手が震える。見たくないのに、目が離せない。
 そして…

「真須美…」
「純也…」

 2人の距離が少しずつ近づいて……唇が重ねられた。
「あ、あぁ……」
 目の当たりにしたあまりにも衝撃的な光景に、よろめく千佳。その拍子に、足元にあった石が音を立てて転がってしまう。
「――っ!?」
 物音に驚いて振り返った純也達の視線が、立ち尽くす千佳の姿を捉えた。
「千佳!?」
「千佳ちゃん!?」
「お兄ちゃん…真須美先輩と、もう…」
「あ、え、えっと、その、これは……」
「あ…う……」
 その問いに答えることもできず、頬を染めて顔を見合わせる2人。その様子が余計に千佳の心を抉ってしまう。

 ずっと信じていた。
 例え真須美と付き合うことになったとしても、自分の事を一番に考えていてくれると。
 だけど、さっきの2人を見ていて千佳は完全に理解してしまった。
 純也の心には、真須美が一番大切な人として刻み込まれてしまっている事を。
 その思いが、今までずっと言わないように必死に耐えてきた言葉への最後の堰を壊してしまう。
「嘘つき……」
「えっ?」
「嘘つき……」
「な、何が?」
「ずっと…ずっと一緒に居てくれるって言ったのに…お兄ちゃんが……側に居てくれるって言ったのに……」
「ち、千佳……」
 純也には千佳が何故こんな事を言い出したのかまるで分からず、戸惑うばかり。
 何か言葉を返そうとするものの、何も言えない。
 その時、千佳の視線が真須美を捕らえた。
「…居なければ良かったのに…」
「えっ?」
 怨嗟に塗れたその言葉。純也は千佳が一体何を言い出したのか、全く分からない。
 そして……止める機会を失い溢れ出した言葉は、もう千佳にも止められなかった。
「真須美先輩なんて、居なければ良かったのに!!」
 突然の激しい言葉。
 あまりに激しすぎるそれは一瞬で真須美の心を抉ってしまう。
「千佳……ちゃん……」
「千佳! お前、なんて事を言うんだ!!」
 ショックのあまりに倒れそうになる真須美を支えながら、純也は千佳を怒鳴りつける。
 だが、それは千佳の中で何か大切なものを繋ぎ止めていた最後の枷すらも打ち砕いてしまう結果となった。

「……嫌い…」
 俯き、呟く千佳。
「千佳……?」
「お兄ちゃんも…真須美先輩も……みんな……みんな……」
「お、おい、千佳?」
 突然の千佳の様子に戸惑う純也。
 そっと手を差し伸べようとしたその時、顔を上げた千佳の表情に純也は言葉を失った。
 溢れ落ちる涙が、何かを言おうとした純也の全てを拒絶する。
 それに戸惑っている内に、最後のチャンスさえも失われた。
「千佳、駄目だ!」
 何を言い出そうとしているのか真っ先に気づいた友輝が止めに入るが、全ては…遅かった。

「みんな……大っ嫌い!!」

 泣きながら走り去ってしまう千佳。
 呆然とその様子を見詰めていた純也だったが、やがて追わなくてはいけなかったことに気づき慌てて走り出そうとする。
 だが――。
「待てよ」
 突然の声に足を止める純也。
 振り返ると、そこには瞳に怒りの色をはっきりと宿した友輝の姿が。
「友輝…悪いけど急ぐんだ。後にしてくれ」
「追いかけるつもりか?」
「当たり前だろう!?」
 苛立ちに任せて激しい口調で言う純也だったが、逆に友輝の眼差しに込められた激しい怒りの炎に戸惑う。
「純也さん、今のあんたが千佳を追いかけてどうするって言うんだ?」
「どういう意味だ?」
「今のあんたが、千佳に何を言ってやれるって言うんだよ?」
「そ、それは…」
「兄貴だから…妹だから…そんな事関係あるか! あんたは千佳を泣かせた! あいつの気持ちなんて何も考えずに、千佳を傷つけたんだ!」
 怒鳴りつけながら、純也の胸倉を掴む友輝。 慌てて止めようとした真奈美だったが、そのあまりの迫力に何も言えずオロオロと立ち尽くしている。

「そんなあんたが千佳を追いかけて何を言える?」
「だけど、千佳は大切な妹だから…」
「その考えが、あいつを傷つけてると何で分からねぇんだよ!!」
「どういう…意味だ、友輝?」
「まだ分からねぇのか? 千佳はな…あんたの事が好きなんだよ! 妹としてじゃなく、一人の女としてあんたの事が!!」
「――っ!?」
 友輝の言葉に息を呑む純也。
 それは真須美も同様だったようで、顔を青ざめさせている。

「千佳が…俺を? な、なんで…あいつはずっと妹で…俺はあいつの事を守ってやらなくちゃいけないと――」
「守られていたのが自分だって事にすら気づいてないのかよ…」
 その言葉が不安定に揺れ続けていた純也の心にとどめを刺した。
「俺が…千佳を傷つけていたのか? 俺は、ただあいつの為に…」
「あいつの為? 笑わせるな」
 苛立ちのままに言い放つ友輝。
 俯く純也の襟首を掴んで引き寄せると、怒りに満ちた視線で続けた。
「千佳があんたの目の前で笑顔でいる為に、陰でどれだけ泣いてきたと思ってんだ!」
「あいつが…俺の所為で……?」
「あいつのそんな思いも知らないで守ってやってるなんて、よく言えたもんだよな!!」
 呆れたように言う友輝の言葉に、純也は戸惑いを隠せない。
「友輝…俺は…」
「…これ以上、話してる時間はない。今の千佳は一人で放っておける状態じゃないんだ」
「――っ!?」
「あいつは俺が追いかける。あんたには任せられないからな」
「友輝……」
「あんたは河野先輩を選んだ。だから彼女を支えて守ればいい。千佳は…俺が守る!」
 そう言って走り去る友輝。
 呆然と立ち尽くす純也と真須美は、その背中を見送りながら力が抜けたかのようにその場に座り込んでしまう。
「俺の所為だったのか……俺が、あいつを傷つけて、その所為であいつはここまで……」
「純也……っ」
「真須美、俺は最低な男だ…たった一人の妹を、こんなにも傷つけて…」
歯噛みして拳を握り締める純也。
「あいつを、守りたかった…守りたくて……ずっと側にいるって言ったのに…俺は…俺は…っ!!」
「純也……っ!!」
 今にも崩れてしまいそうなその姿に、真須美は耐え切れなくなって縋り付く。
「真須美…う…うあああぁぁっ、ああああああああああっ!!」   
 優しく包み込むように純也を抱きしめる真須美。その胸で純也は泣いた。自分の不甲斐無さがあまりにも情けなくて…彼は泣き続けた……。


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