機神咆吼デモンベインSS
『魔導探偵でござる』

by うぇんでぃご。

3.<スレチガイ>

 お開きになった事情聴取から部屋に帰る途中
「なぁアル、あいつらどう思う?」
「なにか隠しているのは間違いないな。それに・・・」
 するとアルは急に立ち止まった
「核となる部分が、まだ謎のままだ・・・」
「この事件の、核?」
 俺も立ち止まって振り返る。
 アルは指を三本立てて言った。
「左様。“『黄衣の王』の所有者”そして“その所有者とあやつらの関係”最後に“目的と動機”の三つだ」
「なるほどな・・・」
「だが、最初の二つはもうすでに予想がついとるよ」
 アルが驚くべきことを自信満々に言う
「マジか!?」
「汝も探偵だろう?少し考えればわかることだ。最初に『黄衣の王』は何処にあった?」
「最初はたしか龍馬の家・・・だったよな。―――まさか」
「そう。魔術師を家系でする者は、その存在を世間からは完全に隠蔽する。つまり――」
「身内関係・・・あいつの家族の誰かってことか?」
「それしかないだろう。彼奴がそこまで必死になる理由など、そこしか思いつかんからな」
 頭をぽりぽり掻きながら、俺達はまた歩き出した。
「なんか、仕事やりにくくなっちまったな・・・」
「しかし昨日の戦いを見れば戦力差は段違いだ。このままではあやつら本当に殺 されるぞ。しかも自分の身内に・・・だ」
「――ちょっとまてよ。なんで家族同士が簡単に殺しあえるんだよ」
「そうだ。妾にはそれがわからぬ・・・」
 昨日の戦いを思い出す。
 よく考えてみれば、怪物は最初から緻密かつ狡猾的な手段をとっていた。
 囮を多用したり、回避することの出来ない状況に追い込んだり
 挙句の果てに、とどめも刺そうとしていた。
「こりゃああいつらから直接聞き出すしかないな・・・」
「迷うな九郎。たとえ敵と認識されようと、あいつらも含めた犠牲者を増やすわけにもいかぬ」
「ああ・・・」

 ホテルから出た龍馬は、一人スタスタと歩いていく
「ちょっと龍馬!?ねぇ龍馬ったら!どうしちゃったの!?」
 心配している珊瑚の声も、今は脳には認識されない
 やがて、龍馬は建物の影に入り込んだ。
 あわてて珊瑚もそれにつづく
「一体どうしたのよ!りゅ――」
 珊瑚は、その光景に、声を止めた
「ずっ・・ヒック・・!・・・うぅ・・・」
 龍馬は壁に額をこすりつけ、泣いていた。
 珊瑚は、その光景を見守る
 『黄衣の王』を取り逃がしてしまった時、必ずある光景だ。
 耳に染み付くほど聞いた泣き声とうめき声
 眼に焼きつくほど見守った小さい背中
 珊瑚は歩み寄り、そっとその頭を自分の胸に沈める
「大丈夫だよ・・・」
 珊瑚は、随分前からこの少年のことが好きになっていた。
 人外の化け物である魔導書風情が恋などと。
 笑われるかもしれない、蔑まれるかもしれない
 だけど、珊瑚はっきりと自覚している。
 自分はこの男性を愛しているのだ・・・と
 だからこの涙は耐えられない。苦しい。辛い。
 せめて、自分がその悲しみを癒してあげたい・・・と
 珊瑚は強く、優しく、抱きしめる
 悲しみを取り去るように、やすらぎを与えるように。
「私がいるから・・泣かないで・・・」
 やがて、龍馬は胸の中で何かを呟いた。
 言葉は聞こえない。だが唇はこう紡いでいた。
 『兄貴』と――

 夕方・・・赤い空が広がる逢魔が時
 ある建物の陰に一人の青年が横たわっている。
 深緑の袴をはき、手には黄色い装丁の本がある。
(目覚めよ・・・我が主・・・)
 その声に呼応するように、青年はゆっくりと身体を起こす。
 眼に光はない 顔は空ろ 覇気は虚無
 そこにいるのはまるで人形――
(ゆくぞ・・・我が復讐のために・・!)
 金色の光が青年を包む
 そこにいたのは金色のマギウス・・・“化け狐”
「昨日は邪魔をされたが、今回はそうはいかぬ・・・もうすこしで、蘇るのだから――!」
 金色のマギウスは、日没と共に飛ぶ
 今宵の獲物を求めて・・・・

「大十字さぁ〜ん・・・おぬしもなかなか悪よのぉ〜♪」
 よっぱらった姫さんが、俺にしなだれてくる。
 つーかやめれ。俺もヤバイし姫さんはもっとヤバイ。
 頼みの執事さんとメイドさんは、昨日と同じく感無量と言った表情だ。
「今日は絶対に酒をやめろと言ったはずだけど・・・・」
「えぇ〜っ、私の酒が飲めないとでも言うんですかーぁ?」
「酒は飲んでも飲まれるな!!」
「ほらぁ・・アル・アジフもあんなに・・・」
「げげぇっ!?」
 隣を見れば、顔を真っ赤にしてどろんどろんの茹ダコになっているアルがいた。
 手には「十五代大吟醸」というラベル
「お前もかよっ!!つーか魔導書も酒で酔っ払うのか!?」
「く・・ろう・・・」
 艶やかな双眸が俺を見つめる。
 はだけた浴衣、紅潮した頬
(・・・ゴクリ)
 なぜか俺は釘付けになっていた・・・ってオイオイオイ!それはいくらなんでも
 まずいだろ!
 周りのシスターやガキンチョどもも気まずそうな視線を送ってるし!
 つーかこれって危険信号レッドシグナルかっ!?
「・・・・っ!?」
 突如、爆発的に膨れた魔術の気配
 その瞬間、邪な考えは全て吹っ飛んだ
 俺は近く似合った水のグラスを掴み、アルの顔にぶちまける
「ブハッ!!? な、なにをするか汝はっ!!」
「酔いはさめたか!化け狐が現れた!行くぞ!」
「――!?わかった!」
 酔いつぶれた表情がキッと引き締まり、そこにあるのは戦士の表情
「ゆくぞ九郎!!」
「応よっ!!」

「これで・・・後一人」
 マギウスが、自分のマントでくるんでいたものを落とす。
 転げ落ちたものは、干からびた死体
 その光景に、愉悦の笑みがこぼれる
「ロイガー!ツァール!バルザイの偃月刀!」
 突如聞こえる掛け声
 マギウスはすぐさまその場に屈みこむ
 頭上を通り過ぎていく二つの刃
 その影は戻っていく刃をキャッチする
「見つけたぜ、『黄衣の王』!」
 夜の闇の中、二人のマギウスが対峙する
「どうやら今回は俺達が先らしいな・・・龍馬がどう来るか」
「細かい事は気にするな。手加減は無用だ、思いっきりやれ」
「了解っ!!」
 二つの陰が、同時に飛び出した。

「龍馬!その身体じゃ無茶だよ!」
「うるさいっ!離してくれっ!」
 龍馬と珊瑚は、宿泊施設の部屋の中にいた。
 制止を振り切り、身体を起こす龍馬。
 鋭く走る痛み。
「ぐっ・・!」おもわずわき腹を抑えた。
「ほら、やっぱり肋骨が何本か折れてるじゃない!早く治癒しないと――」
「いらない!こうしている間にも、どんどん『黄衣の王』は!」
 龍馬は昨晩の戦いで、すでに何箇所か負傷していた。
 特に、突きを入れられたわき腹は青く晴れ上がり、骨も数本逝っている
 他にも身体には無数の擦り傷、切り傷、包帯などが散らばっていた。
 いかに二人が過酷な戦いを続けていたかがわかる。
「このまま行って、どうなってもいいの!?」
「俺は兄貴を止めなきゃならないんだ!たとえ相打ちだとしても!」
 ――“相打ち”
 その言葉に珊瑚はショックを隠せなかった。
「どうして・・・そんなこと・・・・?」
「決まってる!兄貴は掟を破っただろ!?だから討たなくちゃならない!これは俺の使命なんだ!」
「使命・・・って・・・兄弟で殺しあうことが・・・?」
「仕方がないだろ!このまま被害を増やしていいっていうのか!?」
 珊瑚はこれほどまで激昂した龍馬を見たことが無かった。
 いつもなら、クールに状況を見極め、自分に的確な指示を出してくれるはずだ
 今の龍馬はまるで、手負いの獣のよう。
 だが、認めたくなかった。
 自分の知っている龍馬は、こんな人物じゃない
「そんなの・・・龍馬らしくないよ・・!」
「いちいち口出しするな!魔導書のくせに!」
「っ!!?」
 その瞬間――珊瑚の中で何かが音を立てて崩れた。
『魔導書のくせに』
 その言葉だけが、自分の中に響く
 自分でも気付かず、手が動いていた。
 龍馬が、「しまった」と気付いた時にはもう遅かった

 ――バシィッ!!

 何か叫ぶ声が聞こえた。
 乾いた音が響いた。
 つづいて、すごい勢いで足音が遠ざかっていくのを感じた。
「・・・・・・・・・・・」
 一人、部屋に残された龍馬は、ギリッと歯を食いしばる
「俺だって・・・本当はやりたくないんだ、こんなこと・・・!」
 立ち上がり、廊下を駆ける。
 時折わき腹に痛みが走る。
 ホテルを飛び出し、戦場へ走る
 少年は一人
 傍らにつく少女は、今はいない。

 to be continue


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