機神咆吼デモンベインSS
『魔導探偵でござる』

by うぇんでぃご。

2.<龍馬と珊瑚>

 突如目の前に現れた人物に、怪物はその動きを止めた。
「見つけた・・・今日こそはお前を討つ!」
 先にたどり着いたのは、鳥に捕まった少年達だった。
 大空を舞う鳥は一瞬で少女に戻り、少年の傍らへと着地する。
 煌々と光る月明かりに照らされた二人の姿
 少年は少し長めの黒髪と、眼に茶色の光を宿した東洋人
 この場に似つかわしくない青いチェックのフリースと擦り切れたジーンズ、土で汚れたスニーカーを身につけている。
 対する少女は、神秘的に流れる銀髪に妖しく輝く紫の目
 赤い袴・・・いわゆる巫女の姿で、まるでこの街の空気が彼女を中心としているような雰囲気をかもし出している。
 どちらも、見かけは10代前半で、少年より少女のほうが少しばかり幼いように見える。
 怪物は、さっきまで追いかけていた獲物をちらりと見る。
 狙われていた女性は少年達に気付かなかったようで、一目散に逃げていた。
 暗闇の中、怪物と少年少女が対峙する。
 先に動いたのは二人組。
 少年は両手に二振りの刀を顕現させ、怪物に向かって切りかかる。
 少女も、手から幾枚もの魔導書のページをばら撒き、幾筋もの雷を飛ばした。
 夜の闇の中で三つの陰が舞い始める。

 目標はすぐに見つかった。
 だが、俺はそこでさらに驚くべきものを見た。
(誰か既に戦っている!?)
 見ると、二つの陰が金色の怪物を攻防を繰り広げていた。
 時折、片方の陰から無数のページが宙を舞う。
「何者だ、あいつら・・・」
「うむ、魔術師と魔導書だな。まさかもう一組いたとは・・・」
 俺達は怪物を捕らえることを忘れ、その戦いに魅入っていた。
 戦闘は、ほぼ二人組みのほうが有利になっていた。
 迫り来る怪物を雷が襲い、そこに出来た隙に少年が刀の一撃を叩き込む
 一糸乱れぬ動きで、どちらも互いの動きを先読みしているかのようなコンビネーションだ。
「終わりだ・・・!」
 少年が二振りの刀をかざすと、無数の火炎球が化け狐に向かって放たれた。
 寸分狂わず、火炎は怪物を包み込む。
「やったか!?」
「・・・いや、まだだ!」
 さっきまで怪物がいた辺りには、焼け焦げてボロボロになったマントがただ残されていた。
「ぐあっ!?」
 突如あらわれた不意打ちのボディブローで、少年の身体は軽々と宙を舞う
「リュウマっ!?――きゃあっ!!」
 今度は少女も高々と蹴り飛ばされ、、少年と重なり合うように地面に落ちた。
 おそらく怪物はさっきのマントを囮にして、二人の死角に高速で回り込んだのだ。
 光り輝く生物はその風貌ゆえ、目で追う際はどうしても“光”に頼ってしまう
 その油断を利用し、複数の敵を一箇所に集める。
 一度に叩くには効率的な戦法だ。
 こいつ、頭もキレる!
 再びマントを身にまとった怪物は、荒れ狂う空気の塊を二人に見舞う
「ぐうっ!」「ひゃあっ!」
 魔術障壁を張る時間もなく、二人は烈風の直撃を受けた。
 追い討ちをかけんと怪物はさらに強力な魔術を編んでいく。
 その力の向かう先は、いまだ空中に浮かぶ二人
 このままではまずい!
「クトゥグア!イタクァ!」
 両手にそれぞれ顕現する自動拳銃と回転式拳銃
 俺は怪物の目前に向かって連射する。
「――!」
 突如飛来した弾丸に、金色の怪物は停止した。
 そのまま俺は怪物と少年たちの間に立ちふさがる。
「何っ!?あれって・・・まさか!」
「マギウス・スタイルだと!?」
 俺の前にいたのは、俺と形状こそ違えど、確かにマギウス・スタイルだった。
 白銀のスーツに、金色のマントをすっぽり包んでいる。
「負けちゃいられねぇな・・・バルザイの偃月刀!」
 二丁拳銃が消え、あらたに右手に一振りの刃が現れる
 対するマギウスも、マントを広げて迎え撃とうとしていた。
 なるほど、化け狐とはよく言ったものだ。
 あのマントからは、禍禍しいほどの魔力が放たれている。
「この狂ったように流れる邪悪な魔力・・・まさか『黄衣の王』!?」
「それって・・・魔導書か?」
「左様、読んだものに破滅をもたらすといわれている禁断の魔道書だ。一筋縄では行かぬ相手だぞ、覚悟しておけ」
「言われなくたってわかってらぁ!」
 地面を蹴り、弾丸のように飛び出し、高速を越える速度で偃月刀を振りぬく。
 だが、化け狐はバックステップで回避し、伸ばしたマントで俺の腕を掴む。
 そのまま、俺は空中に持ち上げられ、地面に叩きつけられた。
 そのまま引き寄せようと、マントに力が入り俺を怪物の元へ引きずっていく。
「ぐっ・・・なめんな!」
 俺は絡みついた布を偃月刀で切り裂いた。
 追撃とばかりに、さらに十数本の布が輝く刃となって俺を襲う
 伸びてくる無数の刃を、今度はマギウス・ウイングで全て切り裂いた。
「九郎!接近戦は無理だ!」
「ちぃっ――クトゥグア!」
 右手に出現する自動拳銃
 煉獄の弾丸を、マギウスに向かって連射する。
「――!!」
 何発かは障壁で防いだが、残り数発の弾丸は突き破って命中した。
「このまま一気にいくぜっ!」
 俺は左手にイタクァを出現させ、怪物に向かって一斉射撃を放つ。
 次々に光るマズルフラッシュ
 飛び出す空薬莢
 左右の拳銃を、惜しげもなく叩き込む
「・・・・・」
 弾の煙が晴れていく
 だがそこに、怪物の姿はない
 突如、闇を裂いて背後から金色の光が踊り出た。
 目の前の敵を倒すため、飛び掛る。
「なんども同じ手にかかると思うなよ」
「―――!?」
 怪物の攻撃した俺の姿が、鏡になって砕け散る
 ニトクリスの鏡だ。
「くたばれキツネ野郎!」
 後頭部に突きつけた二丁拳銃を至近距離で連射する。
 これならば囮を張る隙も無い。
「ギガアアアアアア!!」
 今のダメージは致命的だ。
 よろめきながら怪物は立ち上がる。
「九郎!捕縛呪法だ!」
「わかった。アトラック=ナチャぁ!」
 俺の髪の毛がまるで蜘蛛の巣のように張り巡らされ、一気に怪物を絡め取っていく。だが――
「・・・いかん、どうやら逃げられたようだ」
 かかっていたのは、さっきのマントだけだった。
 とことん囮戦法が得意な奴だ。
「魔術の気配はもう感じぬ。おそらく逃げたな・・・とりあえず一安心だ」
「ああ・・・」
 俺達はマギウス・スタイルを解く。
 そして俺は、先ほど戦っていた少年達に振り返る。
「大丈夫か?」
――返事は無い
「・・・ふむ、どうやら気絶しているようだな。どうする?」
「とりあえずホテルに運ぼうぜ、こいついろいろと知っているみたいだからな。それに――」
「“放っておくのは後味ワリぃ”・・か?」
「そういうこと。じゃ、もどろうぜ、姫さんへの報告もあるしよ」


「―――はっ!!?」
 ガバッと少年は起き上がった。
 周りを確認すると、どうやら宿泊施設のようだ
 隣では、俺の相棒がすやすやと寝息をたてている。
 だが頭の中は混乱したまま
 確か昨日俺は・・・夜に“奴”を追って、それで――
「痛ぅっ!・・・」
 わき腹に鋭い痛みが走る。
 そうだ、俺はたしか攻撃をくらって、それで・・・殺されそうになった
 だがなぜ生きている?
 その時、ドアがガチャッと開いた。
 入ってきたのは、一人の青年と一人の少女
「よう、気付いたか」

 部屋に入ると、少年のほうは既に目を覚ましていた。
 まだ頭が混乱しているのか、驚きの目で俺を見ている。
「よう、気付いたか」
「・・・誰だ、お前達は」
 少年が警戒心を抱きながら言う
 やがて、何かを思い出したように
「まさか、昨日俺達の近くにいた魔術師か?」
「当たりだ。俺は大十字九郎、そしてこいつは俺のパートナー、アル・アジフ」
「マスター・オブ・ネクロノミコン・・・だと?」
 アル・アジフの名前に聞き覚えがあったのか、俺の正体を瞬時に見抜いていた。
「そうか・・・お前達が俺達を助けたのか」
 やがて、少年は布団から立ち上がり、まだ寝ている少女を抱きかかえる。
 そして俺達を押しのけ、部屋を出て行こうとする
「世話になった。助けてもらった事は礼を言う。だが、あれは俺達が片付けなければならないものだ。余計な手を出さないでくれ。それじゃあ―――」
 その瞬間、少年の体が固まった。
 よく見れば、少年の全身に透明な糸が絡み付いている。
「逃がさんぞ、汝」
「ぐっ・・・・」
「荒事になるのは苦手なんだ。おとなしく話を聞かせてくれないか?」
 辺りに漂う冷たい緊張感――
「ふあ〜ぁ・・・・あれぇ?リュウマ?どこなのここ?」
 寝ていた巫女服の少女が目を覚ました。
 緊張感をほぐす、間延びした呟きが響く。
「・・・俺達はどうやらあいつらに助けられたらしい。だが、助けた代わりに話を聞かせろと拘束されている」
「そ、そうなの!?」
「話は後だ。脱出するぞ。サンゴ」
 少年は魔術を使役しようと、指で印を結ぶ
「・・・・やめておいたほうがいいよ。たぶん私の力じゃ逃げきれない」
「・・・ちっ」
 少女の言葉に、少年は印を解いて降伏したように告げた。
「拘束を解いてくれ」
 アルが指を鳴らすと、少年を絡めていた糸が消えた。

 少年達から詳しく話を聞く為、俺達は姫さんを呼んでホテルのロビーに集まった。
 ソファーには姫さん、俺、アルの三人が座り、両脇にはそれぞれ執事さんとメイドさんがいる。
 向かい側には魔術師と魔導書の二人が、真剣な面持ちで座っていた。
「俺は安倍龍馬。日本の魔術師だ。こいつは俺のパートナーであり魔導書の珊瑚」
 紹介された少女は、ペコリと頭を下げる。
 そして、じーっと巫女服の少女を見ていたアルが、正体を見極め、呟く。
「その娘から溢れ出る神気の気配・・・『サンの七秘聖典』だな。異界の神々、旧支配者の記述に関しては最高ランクの魔導書・・・たしか大昔に中国から日本に渡ったと聞いたことがあるが――」
「ああ、そのとおりだ死霊秘法。俺の家は代々でコイツを受け継いできた」
「なぜ、日本の魔術師であるあなたがこのアーカムシティにやってきたのですか?よろしければ理由を聞かせてくださいませ」
 その姫さんの質問には、珊瑚と呼ばれた魔導書が答えた。
「私たちの家にはもう一冊の魔導書、『黄衣の王』がありました。ある日、その『黄衣の王』が暴走してしまったんです」
「暴走だって・・・!」
「そして私たちは『黄衣の王』を破壊する為、旅に出ました」
「何回かは実際に戦った・・・いままでは俺達が優位だったが、今回は違った――!」
 そして、龍馬は拳を強く固めた。
 肩が小刻みに震えている
「・・・俺達が知っているのはここまでだ。調査を続けたいのならそれでもいい。だがアレは俺達が片付けなければならない敵だ。手出しはするな」
「えっ?」
 あまりに唐突な終わり方に、俺は間の抜けた声を出してしまった。
「もしあいつに手出しするのなら・・・俺はお前たちを敵と認識する」
 そう言い放つと、龍馬は立ち上がった。
 傍らでは珊瑚という少女がオロオロしている
「まて!まだ話はおわっとらんぞ!」
 アルが龍馬を引きとめようとする。
「俺が知っているのはここまでと言っただろ?もう話すことはない。いくぞ珊瑚」
 すたすたと入口へ向かう龍馬と、俺達を気にしながら急いで後をついていく珊瑚
 残された俺達は、複雑な表情で座ったままだった。
(なんだよ・・・このモヤモヤ感は)
 俺は頭をかきむしり、小さく舌打ちをした。


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