DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (11)』
by Sin



2人の想い出の詰まった海岸線・・
辛い事や苦しい事もあったけれど・・
嬉しい事や・・楽しい事も沢山あった・・・

2人で水をかけ合った砂浜・・
スッ転んで泣きべそかいてた翔仔を抱き起こしてやった岸辺・・
海の底が見てみたいといった翔仔のわがままに付き合って、一緒に潜った海・・
想い出の場所が次々に横切っていく・・・

− こうしていると・・まるで・・あの頃みたいだ・・

そんな事を思いながら翔仔を見ると、ボンヤリと周りの風景を見つめていた。

「記憶・・無かったんだって・・?」
「・・うん・・・ごめんね・・・」
そう言って俯く翔仔の額を小突いた。
「なに謝ってんだよ・・」
「だって・・・大ちゃんのこと・・忘れて・・・」
「・・・気にすんなよ・・・それで・・いつ・・記憶が戻ったんだ・・?」
「・・コンビニで・・私達のことが記事になってる雑誌を見た時に・・」
「そうか・・・」
俺はそう言うと、しばらく黙り込んだ。
なんて言ったらいいか分からなかったんだ・・
翔仔も何も言わず、ただ、風景だけが流れていた・・

「・・・なぁ」
「ん・・・? どうしたの・・?」
「いや・・コンビニで記憶が戻った時・・・どうして・・どうして、すぐおれのところに来て
くれなかった?」
「う・・・うん・・・。だ・・だって・・・」
「・・・ああ」
「だって・・こんな体・・見られたくなかったから・・」

翔仔はそう言ってうつむく・・・
また、しばらくの間、静まりかえる車内・・

「・・・・バカ。おまえの体なんか、隅から隅まで知ってんだぞ」
「だって・・・」
「・・・ああ」
「それに・・・その・・・」
「なんだよ」
「・・・ほ、他の女の人が出たら・・・どうしようって・・・。だって・・・10年だよ・・。
子供とかいても・・おかしくないし・・・。大ちゃんには・・幸せになって欲しいって思うけど
・・でも・・怖くて・・・」
そう言って翔仔が俯く・・

その言葉に・・俺は・・溜息をついた。
「・・・バカ」
俺の言葉に翔仔はムッとする。
冗談じゃねーよ・・ムッとしたいのはこっちだぜ・・
「・・・独身だよ。看護婦もいねーんだぞ。みんなおまえのせいだ。責任とってくれ」
そう言う俺に、翔仔はいきなり笑い出した。
照れくさくなって、憮然とした顔で俺はそっぽを向く。

「大ちゃん・・変わらないね・・」
ひとしきり笑った翔仔はいきなりそう言った。
「・・そうか? オッサンぽくなったって、よく言われるぜ』
「うん・・。雰囲気は確かに・・」
覗き込むようにして俺を見ると、そう言ってクスクス笑う翔仔。
「お、おいおい!? おれはまだ20代だぜ! 勘弁してくれよ!」
俺が慌ててそう言うと、翔仔は吹き出した。
ようやく見れた気がする・・翔仔のこの笑顔・・俺がこの10年・・ずっと探していたもの・・

− やっと・・見つけた・・

「でも・・大ちゃん・・・あったかくなった・・・」
「あん?」
「前は・・うん・・ちょっと冷たい感じだったけど・・うん・・いまは・・うん・・あったかい・・
大人・・。いい大人・・・」
そう言って微笑む翔仔・・
だけど・・本当に俺が変わったんだとしたら・・
「・・・もしそうだとしたら・・おれを変えたのはおまえだよ、翔仔」
「だ・・大ちゃん・・・!」
俺の言葉に、翔仔は本当に嬉しそうに微笑む・・
だが・・
急に翔仔の表情が、歪んだ・・
「大ちゃん・・わたし・・わたし・・・死にたくないよう・・・!」
「しょ、翔仔!」
思わず叫ぶ・・なんとかしてやりたいけど・・俺には・・どうする事も・・
自分の不甲斐なさが情けない・・っ!
「くそっ、くそっ、くそっ・・・! ど、どうしてこんなことに・・・! おれが、人魚の肉さえ
食わせなかったら・・・! なにが、なにが、不老不死だ、この野郎! こんな、こんな効き方っ
てあるかよ・・・!」
俺は車を止めて翔仔を抱きしめた。
翔仔も必死に縋り付いてくる。
「離れたくない・・大ちゃんと・・離れたくないよう・・」
「翔仔・・・っ!」
離したくない・・絶対にこの手を・・この体を・・この温もりを・・・っ!
壊れそうなくらい強く抱きしめる俺に、泣きながら縋り付いてくる翔仔・・
だが・・その時・・
「げほっ! げほげほっ!!」
今までとは比べものにならないくらい酷い咳。
座っている事すらできずに翔仔は俺の腕の中に倒れ込んでくる。

「しょ、翔仔・・・!? おい、翔仔!? 翔仔ォォォォォォォォォォ!」
いくら揺さぶっても翔仔は目を覚まさない。

『落ち着きなさいっ!』
俺はその声に思わずハッとする。
見ると、フロントガラスに美沙の姿が・・・
「しょ、翔仔が!!」
『知ってる! 今そっちに迎えをやるから、それまでは翔仔ちゃんを頼むわよ!!』
言うだけ言って、美沙の姿はぷっつりと切れた。

待っている間にも、翔仔の顔色はどんどん悪くなっていく。

「翔仔! しっかりしろ、翔仔ーーーっ!!」

俺の叫ぶ声が、波音すら響かない車内で、激しく響いていた・・・





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