DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (12)』
by Sin



紬屋に運び込まれた翔仔の様子は、益々酷くなっていた。
全ての検査の結果が、もう、翔仔の命が長くない事を示している。
「くそっ! なんとか・・なんとかならないのか・・・!」
意識を失っている翔仔の側で俺がそう言った瞬間だった・・

「う・・く・・うぅっ・・・」
翔仔が酷く顔をしかめて呻いた。
「あ・・くぅっ・・」
意識が戻ってきても、あの身体の状態では、酷い痛みに苛まれるだけなんだろう・・
「翔仔!」
あまりに苦しむ翔仔の様子に見ていられなくて、俺は翔仔を抱きしめた。
「く・・あっ・・・だ、大・・ちゃん・・苦しい・・よ・・・」
その声に見ると、翔仔は僅かに目を開いて俺に微笑んでいた。

− こんなに・・苦しそうなのに・・こんなに・・汗かいて苦しんでるのに・・俺は・・何も・・

翔仔の手を握りしめる。
すると、微かな震えが翔仔から伝わってきた。

「・・翔仔?」
「・・あ、あはっ・・・や、やっぱり・・ダメ・・だね・・大ちゃんが・・心配・・するから・・
笑って・・いようって・・思ったけど・・」
その瞬間、翔仔の瞳から涙が溢れた・・
「翔仔・・おまえ・・」
「・・・大ちゃん・・私・・死んじゃうのかな・・・」
不安げに聞いてくる翔仔・・
俺は・・そんな翔仔に何も言ってやれなかった・・

「・・・やっぱり・・もう・・私・・・」

震える手で縋り付いてくる・・
その身体を、俺は強く抱きしめる事しか・・できなかった・・

その時だった・・
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、長身の女性と、美沙、それに美沙によく似た少年と、数人の女性達だった。

「お、おい! ひょっとして翔仔を助ける方法が・・・」
思わず叫んだ俺をその女性は一瞥すると・・
「・・あなたには、死んでいただくことになります」
いきなり翔仔に向かって、そう口にした。

「なっ・・・!? お、おい、どういう事だよ!! 翔仔は・・もう助からないって言うのか!?」
思わず俺はくってかかる。
翔仔も不安げに見ている。いったい・・どういう事なんだ・・・
「・・このままでは、いずれ翔仔さんは泡になって消えてしまうか、その前に循環器系の停止
により、自家中毒を起こして死ぬことになるでしょう・・」
「そ、それじゃあ・・もう・・っ」
俺がそう言った瞬間だった。

「ですが・・一つだけ・・」
「あ、あるのか!? 翔仔を助ける方法が・・・!?」
「それは・・」
一瞬、言いにくそうにした時だった。
その背後から、美沙によく似た少年が私達に告げた。
「あなたが、ナノロボットによって壊される前に、死んでいればいいのです」
「な、なんだと・・!?」
訳が分からず、思わず翔仔と顔を見合わせるが、翔仔も分かってないみたいだ。
いったい・・どういうことなんだ・・
混乱する俺達に、彼女は言った。

「あなたの体は、10年間もの間、海底にいたにもかかわらず、無傷でした。つまり、生物として死んではいても、その状態をナノロボット達が維持していたのは間違いありません。ようは、死んだ状態ならば、翔仔さん、あなたの身体は壊されることはないのです」
「お、おい、でもそれじゃあ・・・」
「今、翔仔さんの体の崩壊を止める手段は、これ以外にありません。もし、泡になって消えてしまえば、手の打ちようがありませんから・・」
「それでも死んじまうことに変わりないだろうが!!」
思わずくってかかる。
だが・・
「翔仔さんの体から、ナノロボットのサンプルはすでに入手しました。これから先、時間をかけて更に今よりも技術が発達すれば、翔仔さんを蘇生し、普通の生活が送れるようにすることも可能なのです」
「で、でも、そんな人魚の技術を人間が・・・」
「別に不死の技術まで解き明かす必要はありません。要は、ナノロボットが翔仔さんの体を壊さないようにコントロールできるだけでいいのです。それほど年月はかからずに済むと思いますよ」

− 賭け・・だな・・それも翔仔の命を賭ける賭だ・・・分が悪すぎる・・

俺に縋り付く翔仔の手が震え、ギュッと強く掴んでくる。

「だ、ダメだっ! そんな、そんなことで、翔仔の命を賭けられるもんか!!」
その時、必死に反対する俺の腕を、翔仔が掴んだ。
「大ちゃん・・わたし、やってみる・・・」
「しょ、翔仔!? お、おまえ・・まさか・・もう助からないなら・・なんて・・」
「大ちゃん・・わたし・・もう自分から死んだりしないよ・・」
思わず言った俺に、翔仔はそう言って微笑んだ。

「翔仔・・」
「わたし・・生きるために・・大ちゃんと2人で・・生きるために・・今は・・眠るの・・・」
「・・・ああ」
「だから・・・大ちゃん・・わたしのこと・・ちゃんと・・起こしてね・・・」
翔仔はそう言って俺に微笑もうとするが、その瞬間、涙が零れた。

危険な賭け・・もしかしたら・・二度とこの笑顔を・・見られないかも知れない・・だけど・・
俺達は・・全ての希望を・・その賭けに・・賭けた・・

「ああ・・・絶対・・な・・」
震える翔仔をしっかりと抱きしめて・・俺は・・そう言って笑った・・








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