DADDY FACE SS 『もうひとつの翔仔伝説 (10)』
by Sin



再会した俺と翔仔だったが、突然翔仔が倒れてしまった。

「翔仔! おい、翔仔! 翔仔っ!!」
必死に揺さぶる俺に、草刈が声をかけてきた。
「先生、早く冬海ちゃん・・・翔仔ちゃんを紬屋に! 医療機器なら揃ってますからっ!!」
「あ、ああ!」
俺は荒い息を吐いて苦しむ翔仔を抱き上げると、草刈と共に紬屋に走った。

それからしばらくして・・・
部屋に入ると同時に、俺は最新鋭の医療機器に目を見張ったが、すぐにそれを使って、翔仔の検査を
始めた。
だが・・

「バカな・・・なんだよこれ・・・なんでこんな状態で・・」
手が震える・・
医者だからこそ分かってしまう。
翔仔の身体が・・生きているのが不思議なほど、ボロボロになっているって事が・・

荒い息を繰り返す翔仔を俺はしばらく見つめた後、俺は部屋を出て襖を閉めた。
そこには心配そうに佇む草刈達の姿が・・

「内蔵が・・もうほとんど動いてねえよ・・」
現実とは思えない・・翔仔が・・あんな身体になっていたなんて・・
「特に・・・肝臓と腎臓が・・致命的だ・・・。なんつーか・・こう・・濾過しそこねた毒素をだな
・・わざわざ全身に回して・・輸血しても透析しても・・。このままじゃ・・いいとこもっても・・
今日一日が・・!」

− バカな! 俺は何言ってるんだ!?

思わず自分の右頬を叩く。

「・・ど、どうしておれは医者になんかなっちまったんだ・・!? くそっ、知りたくもねえことを
次々と・・! どうかしてる・・! どうせなら・・」
「・・先生! しっかり!」
その草刈の言葉で俺はハッと我に返った。
だが、どうしようもない現実の前に俯くしかない・・

「・・・あのときの出来事は・・自分でも信じられなかった・・。いや、今でも・・。だから・・
あれは昔の人間のイタズラだって・・思い込もうと・・・」
俺は縋るような思いで、草刈の肩を掴んだ。
「・・た、頼むぜ、草刈! 後はおまえたちだけが頼りなんだ! 翔仔を・・翔仔を助けてやってくれ!」

俺は必死に話した。
翔仔の病気を治すために、人魚伝説を追った事・・
そして見つけた八百比丘尼のミイラと肉達磨の事・・
受け取った人魚の肉の事・・そして金ピカの針金の事・・

草刈達は、俺の話を元にして八百比丘尼のミイラを捜し、翔仔を救う方法を探してくれた・・

ミイラはすぐに見つかった・・だけど・・肝心の翔仔を救う方法は・・一向に解らなかった・・

俺は酷く焦っていたが、どうする事もできないまま、時間だけが過ぎていく・・
仕方なく食事をして部屋に戻った・・だが・・

部屋に入った俺は、そのまま翔仔が寝ているはずの布団に視線を落としたが・・そこには翔仔の
影も形もなかった・・

「しょ・・翔仔!?」
奥に入って見回してみるが、どこにも翔仔の姿はない。
慌てて廊下に出て、左右を見た後、階段を駆け下りた。
「翔仔、どこにいるんだ!? 翔仔!? くそっ、翔仔!?」

まさか・・と言う思いが俺の脳裏を駆けめぐる・・

− アンデルセンの人魚は、泡になって消えた・・

俺はその思いを必死に振り払いながら、一階まで駆け下りた。
その時だった。
「大ちゃ〜ん、こっち・・」
「・・・翔仔!? そ、外なのか!?」
ホッとすると同時に、怒りが込みあげてきた。

− こんな時にあいつ、何を考えてやがるんだ!!

一発ぶっ飛ばしてやるくらいのつもりで、俺は靴に足を突っ込み、慌てて外へ飛び出した。
そして辺りを見回すと、狭い駐車場の片隅に翔仔の姿があった。
多分草刈達の車だろう。停まっている黒いイタリア車を翔仔は興味深げに覗き込んでいた。

俺が近づくと、翔仔は何もなかったかのように微笑んで・・
「・・ねえ、これ・・乗せてもらおっか? 二輪は・・限定解除とってたぐらいだもんね、
クルマの免許も・・取ったんでしょう・・?」
のんきにそう言う翔仔に、俺は冗談抜きにキレかけた。
「・・・な・・・なに言ってんだ、おまえ!? いますぐ布団に戻れ!」
車体を挟んで向かい合いながら、俺は怒りのあまり、ルーフをぶっ叩いた。
かなりきつく言ったせいか、翔仔が身をすくめる。
「だ、大ちゃん・・・恐いよ。どうして怒るの・・」
「う・・う、うるせえ! おまえのコト、死ぬほど心配してるから怒るんだよ! おまえ、
自分の体のこと分かってんのか!? な、頼むから・・・」
「・・・分かってるよ」
いきなり、翔仔は目線を外してそう言った。
思わず俺は戸惑う・・
「・・・な・・・に?」
「だから・・乗りたいんじゃない・・。大ちゃんとはバイクでタンデムしても・・クルマに
乗ったことはなかったから・・」
「翔仔・・おまえ・・!」

もう・・時間がない事を知っている・・
翔仔の表情はそれを物語っていた。
残り少ない時間なら・・せめて・・部屋で寝てたりしないで・・俺と・・・俺と・・・っ・・
そんな俺に、翔仔は笑いかけてくる・・
「・・・ね・・頼んで・・みよう? 駄目だったら・・仕方ないけど・・・」
翔仔の思いが・・辛くて・・苦しくて・・・
思わず拳を握りしめる・・精一杯無理して、翔仔の方からは見えない方の拳だけを・・・
零れそうになる涙を俺は必死に堪えると、翔仔に笑いかけた。
「・・ああ。そうだな」
目一杯の笑顔で翔仔に微笑む。
だけど・・その分、俺の握りしめた拳が、ギリギリと音を立てて白くなっていった。

もう・・俺が翔仔にしてやれる事なんて・・ほとんど無いかも知れない・・
医師としても・・恋人としても・・
だったらせめて・・今してやれる事だけでも・・

俺がそう思ったその時だった。

なんの前触れもなく、カウンタックのドアが跳ね上がった。
「え・・?」
翔仔がキョトンとして目を瞬かせている。
俺も訳が分からず、とりあえず中に首を突っ込んだ。
すると・・・

『・・・乗れば?』

覗き込んだ車のフロントガラスには、あの美沙とか言う草刈の娘が映っていた。
「ど、どうなってんだ・・・」
いくらなんだって、こんなハイテク、普通じゃねえぞ・・
翔仔みたいに10年も眠っていたなら別だけど・・俺はこの時代に生きてるんだぞ・・
そう思いながら、ふと顔を上げると、思い切り不機嫌そうな美沙と目があった。
「お、おい・・・いいのか?」
『・・仕方ないでしょ、医者が許可出したんじゃ。でもこのカンタくん、わたしの私物
なんだからね。ぶつけたりしたら酷いわよ・・』

そう言って美沙の姿が消えると同時に、車にエンジンがかかった。
− え、エンジンまでオートスタートかよ・・か、金かけてんなぁ・・
思わず冷や汗を流す俺の背中を、ツンツンと翔仔がつついた。

「大ちゃん・・・乗っていい?」
「あ、ああ」
驚いて呆然としている俺を避けて、翔仔が先に車に乗り込む。
そのすぐ後に俺も乗った。

ドアを押し下げると、勝手に1pくらいめり込んできて、空気の抜ける音がした。
前のガラスにも色々な表示が半透明の状態で浮かんでいる・・

− いったいいつの時代に来ちまったんだ、俺は・・まるで、映画の世界だ・・
「ブランク・・感じちゃうなぁ・・。10年って・・大きいなぁ・・・」
ふと、翔仔がそう言う。

− そうだよな・・本当に長い時間・・10年・・か・・・
無理して笑う翔仔の様子が辛くて・・俺も無理矢理に笑顔を作った・・
「・・・ウハハハ! 飛ばすからな、しっかり掴まってろ、翔仔!」
「・・・うん、大ちゃん」
そうして俺達は・・・初めての・・ドライブへと・・出発した・・・
初めての・・・最後になるかもしれない・・・ドライブに・・




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