斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第18話 護られる者達
俺達が邪神と戦っていた頃、地上では……
「まだ、大十字さん達の様子は判りませんか?」
「申し訳ありません、お嬢様。どうやら宇宙空間まで出てしまっている様子なので、静止衛星では捉えきれず…」
「そうですか……」
其処は、かつての世界でデモンベインをサポートしてくれていたあの司令室だ。
もちろんこの世界にデモンベインがある訳じゃない。
「瑠璃ちゃん……ここは……?」
姫さんに連れられてここに来ていたライカさんやガキんちょ達は不安げに辺りを見回している。
「覇道財閥私設軍の司令室ですわ」
そう言うと、姫さんはそのドレスに手をかけて一気に引き剥がす。
どういう仕掛けになっているのかは相変わらず判らないが、とりあえずそれで姫さんの服装は一変した。
それは戦いの装束。
肩に入った『覇』の文字がその威厳を高めている。
「わぁ……瑠璃お姉ちゃん、かっこいい……」
そう呟いたアリスンに微笑むと、姫さんは司令席へと座った。
「お嬢様!」
「ソーニャ、ここでは司令と呼びなさい」
「は、はいですぅ。あ、それより! 大十字さんの…デモンベインの姿を捕捉しましたです!」
「本当ですか!?」
「はいです! 今、モニターに出しますぅ!」
その瞬間、メインモニターにデモンベインの姿が映し出される。
そして襲い来る邪神の姿も……
司令室内に、緊張が奔る。
ガキんちょ達はその姿に怯えてライカさんに縋り付いて震え、姫さん達も目を見張った。
「あれが……あれが大十字さんの言っていた……」
「九郎ちゃん……」
傷つきながらも邪神と戦い続けるデモンベインの姿。
その時、チアキが別の存在に気付いた。
「え……? あれは………」
「どうしました、チアキ?」
「……ちょっと気になることがあるんですけど……モニター拡大します」
チアキの手が踊るように跳ねてモニターに映し出される一部分を拡大していく。
其処に写し出されたものは……
「赤い……ロボット?」
姫さんが呟いた瞬間、モニターが激しい光を放った。
皆、一斉に目を伏せる。
やがて、光が治まると同時に、姫さん達は目を疑うことになった。
先程まで、デモンベインを取り囲んでいた邪神の群れが、一掃されていたのだから。
「み、味方……なの?」
「何か……話しているようですわね……ソーニャ、大十字さん達の会話を拾うことはできませんか?」
「無理ですぅ! この映像だって、最重要国家機密の軍事衛星から無理矢理持ってきてるんですからぁ!」
「……国家レベルの犯罪行為をさも当然のように言い切りますか、あなたは」
引きつったような表情で言った姫さんにソーニャは笑顔で返事を返す。
「そりゃ〜もちろん♪」
さすがにその後を聞く勇気を持ち得る者は、この場に存在しなかった。
「それにしても……ほんとに気になるわねぇ……なんとか九郎ちゃん達の声が聞こえるといいのだけど……」
戦い続けるデモンベインの姿を見つめながら、ライカさんが呟いたその時……
高鳴るギターの音。
そして……
「えりゃ〜っはっはっは! そう言うことであれば、この、大! 天! 才!! ドクタァァァァ・ウェェェェェストォォォォォォォッッッッ!! に、任せるのであるっ!!」
「な、何故貴方がここにいるのですっ!? チアキ! 基地の警備システムは何故作動していないの!?」
「え…っと……あ、いや、完璧に作動しとるんですけど……」
「この基地の警備システムをすり抜けて進入してきたというのですか……!?」
「何も驚くことはないのである。この大天才である吾輩にとって凡人が作った程度の警備システムなど、朝飯前どころか一昨日の更に前日の前日の前日の前日の前日の前日の……朝飯前なのであ〜る!」
「な……なんやて!?」
ウェストの言葉に、警備システム設計者のチアキが顔色を変える。
「ふん、落ち込むことはないのである、凡人眼鏡。別に貴様が悪い訳ではないのであるぞ、凡人眼鏡。吾輩が優秀すぎるだけであるからにして比較すること自体が間違いなのである。ああ、偉大すぎる吾輩を許せ、凡人眼鏡」
「凡人眼鏡…て、うちの事か? うちの事なんか!? 殺す! 百ぺん死なす!! 死ャァァァァァァァァッ!!」
「あぁ、凡人眼鏡の嫉妬、此程までに浅ましいものであるか……この根性、叩き直してやるが良い。エルザ!」
「叩き直してやるロボ!」
「おうおうおう、殺れるもんなら殺ってみぃっ! 逆にバラしてリサイクルに出したるわ!!」
ヒートアップするチアキとウェスト達。
そこに姫さんの突っ込みが入った。
「いい加減になさい、貴方達! 今はそれどころではないでしょう!!」
「せやけど、お嬢様!」
「ここでは司令と呼びなさいと言っているはずです」
「りょ、了解……司令」
「よろしい。とにかく今は一刻も早く大十字さんの状況を確認しなくてはいけないのですよ。個人の争い事は後になさい」
「うぅぅ……了解……」
歯噛みしながらも、チアキは渋々引き下がる。
「ドクター・ウェスト。とりあえず今は貴方がここに不法侵入した事については言及しません。それよりも、この現状を打破する方が先ですからね。それで? 貴方なら大十字さんとの通信を可能にする事ができるのですか?」
「当然! で、ある。吾輩の手にかかれば、その程度の事、朝飯前なのである」
「……それなら、任せましょう」
「お嬢様!? こんな訳の解らない奴に任せたら何をされるか!?」
「人格的な問題はともかく、確かに、天才と言わざるを得ませんからね、彼は。今は一刻を争うのですから、解決策があるならそれを選ぶ以外に道はないのです」
「せやけど…」
「ドクター、どの程度の時間で通信が可能になりますか?」
「ここの設備を改造するだけなら、30分とかからないのである」
「そうですか……判りました、お願いします」
「任せるのである」
その返事に頷くと、姫さんはモニターを見つめた。
「大十字さん……どうかご無事で……」
「司令」
呟く姫さんに、マコトが声をかける。
「どうしました?」
「シティーの住民達から、治安警察への問い合わせが殺到しているとの事です。不安が暴動を引き起こしかねない状況になって来ていると」
「………そう…ですか。わかりました。ウィンフィールド、シティーの住民へ現状を知らせます。手配を」
「承知致しました。ソーニャ、シティー内にあるあらゆるモニターに通信を開きなさい」
「ら、らじゃーですぅ」
「司令…」
「ええ、判っています」
その瞬間、シティー内の全てのモニターに、姫さんの姿が映し出された。
街中がざわめき、全住民がその画面に注視する。
『アーカムシティーの住民の皆さん。私は覇道財閥総帥、覇道瑠璃です。現状について、皆さんにお伝えしたい事があります』
「これが覇道の…まだ子供ではありませんか……」
「まあまあ、ストーンくん。いくら見かけが子供だからって侮ると痛い目に遭うぞ」
「どういう意味でありますか?」
「彼女が総帥でいるのは、何も親のお陰だけじゃないって事さ。あの歳で覇道の総帥を勤め上げられるものがなけりゃ、誰があんな年端もいかない小娘に従うかよ。まあ、今は聞いておこうや」
「は、はぁ…」
『現在、アーカムシティーは謎の敵の襲来を受けています。そして…ほんの数時間前、アーカムシティーを救ってくれたデモンベインが、今もまた、私達を護る為に戦ってくれています』
その時、モニターに映る画像が戦っているデモンベインの映像へと切り替わった。
『これが現状です。皆さん、どうかデモンベインを信じて下さい。彼らは私達を護る為、命を懸けて戦ってくれているのです。彼らを信じて下さい』
そう言って、瑠璃は回線を切る。
「ソーニャ、映像はこのままシティー内全てのモニターに送り続けなさい」
「らじゃーです」
なおも続く戦闘。
姫さん達、覇道財閥のみんなやライカさん達は心配気にその様子を見守っている。
「それにしても…敵の数もさることながら、大十字様のデモンベインともう一体のロボット…どちらもなんという戦闘力……」
畏怖するように口にしたウィンフィールドの言葉に、姫さんも頷く。
「どちらも、一体で太陽系くらい滅ぼしてしまえそうですわね……」
その時、デモンベインが一斉に攻撃を受けた。
「ああっ、大十字さん!?」
思わず姫さんの口から悲鳴が漏れる。
だが……
「うわぁ……すげーっ!」
「九郎ちゃん……」
周囲の邪神を切り裂いたデモンベインの剣舞にジョージとライカさんが呆然と見つめながら呟く。
クトゥグァとイタクァの閃光が辺りを薙ぎ払うと、司令室の歓声は益々高まった。
しかし、その時だ。
「な、なに、あれ!?」
アリスンの言葉に、全員が一斉にモニターを注視する。
「え………?」
誰もが目を疑った。
有り得るはずがない。
こんなものが存在するはずがない。
そう……思いたかった。
だけど……
「い、嫌ああああああああああっ!!」
あまりの恐怖にアリスンが悲鳴を上げてライカさんに抱きつく。
「うわわわわぁっ!」
「な、なんだよ、なんだよあれっ!!」
ジョージとコリンも同様だ。
「姉さん……あれは一体……」
「信じ…られない……ううん…信じたくない……あんなのがいるなんて……あれはまるで…悪魔……」
それは、あまりに巨大すぎた。
それは、あまりに醜悪すぎた。
それは、恐怖。
それは、絶望。
それは、災厄。
それは、禁忌。
それは、あらゆる忌むべきものの頂点……
「あ、ああああっ……」
その姿に、ソーニャの意識が遠退きかける。
ふらりと蹌踉けて椅子から落ちかけたその身体を、そっとマコトが支えた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございますぅ……」
「なんやねん……あれ……いくら九郎ちゃんが凄い言うたかて、あんなのに敵う訳あらへんやないか……」
「………大十字様……」
呟くチアキとウィンフィールドの声に、瑠璃も不安を隠せずに歯噛みしている。
「ドクター、まだ通信は……」
そう言いかけた時だった。
『九郎…やるつもりか……?』
『危険だ……って言うつもりだろ?』
『言っても聞かぬであろうに』
唐突に聞こえてきた声に、司令室内が一気にざわめく。
「今の声は!?」
『無論、そんなことは止めさせたい……だが…汝は止めぬ。例え己が身をどれ程傷つけようとも汝は止めぬ…後味が悪いから…そんな理由だけで、汝は……』
『……アル…』
『まあ、仕方あるまい。これも、汝という男を愛してしまった妾の背負うべき業だ。だが忘れるでないぞ。汝にもしもの事があれば、後味の悪い思いをするのは妾達だ……汝を愛し、汝の子を産んだ妾に…そんな思い……させてくれるなよ…』
『ああ…お前を泣かせるような真似はしたくないからな……』
『……うつけ…散々泣かせてきたであろうが…』
『これ以上は……だよ』
聞こえてくる俺達の声に、ライカさんが思わず涙を浮かべる。
「九郎ちゃん…貴方って人は……」
「ドクター、通信出来るようになりましたの!?」
「あと少しであるから、もう少し待つのである」
『最愛の女を捨てて死ねるほど、俺は無欲じゃないさ』
『妾も……此程に愛する男を逃がすほど執着心のない女ではない……たとえ地獄の閻魔からでも奪い返してみせるぞ…九郎…』
命を懸ける覚悟を決めた俺達の言葉。
その言葉に、姫さんの焦りはピークに達していた。
「ドクター!! まだですの!?」
「よし、終わったのである! 向こうの映像付きで通信できるであるぞ、覇道瑠璃」
「わかりました! チアキ、大十字さんとの通信を開きなさい」
「了解!」
チアキの指がコンソール上を踊るように動き、そして…
「九郎……ちゃん……」
思わず絶句するライカさん達。
其処に映し出されたのは、血に染まりながらもしっかりと抱きしめ合う俺達の姿。
「こんなに傷ついて……それでも私達を護る為に戦ってくれていたのですね……大十字さんは……」
姫さんの頬を伝う涙。
それを拭ってそっと口を開く……
「大十字さん、聞こえますか?」
祈りを込めたその声が、俺達の元へと届けられた……
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