斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第19話 Shining Trapezohedron



 突然響いた声に驚きを隠せない俺達。
「ア、アル、今の声……」
「まさか……通信出来るはずは……」
 思わずアルと顔を見合わせる。
 その時、リルがモニターに映し出された映像に気がついた。
「わぁ、瑠璃お姉ちゃんだぁ♪」
 リルがそう言った瞬間、目の前のスクリーンに姫さんの姿が映し出される。

『……大十字さん……』
 涙目で見つめてくる姫さん。
『こんなにも傷つきながら…私達を護って下さっていたのですね……』
「小娘……?」
「姫……さん? 一体……どうやって……? それにそこは……」
 驚いたのは、見覚えがない場所……だったからじゃない。
 あまりにも見覚えがありすぎる場所だったから……
 
 思い出すかつての世界の記憶。
 
 あの時、司令として俺達をサポートしてくれた姫さんと覇道家のみんな。
 モニターに映る光景は、まさにあの頃にそっくりだった。
 
『覇道財閥私設軍、司令室ですわ。通信は……その……』
「ん……?」
 なんだか言いづらそうに口篭もる姫さん。
 だけど、その答えを聞いた瞬間、言いたくなかった理由を理解した。
 
『ドクター・ウェストの力を借りましたの…』
 その瞬間、デモンベインの中にやかましいギターサウンドが響き渡る。

『そ、の、と〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜りである〜〜〜っ!! まあ、この、大、天、才、たる、ドクタァァァッ、ウェェェェェストォォォォッ! の、手にかかれば、この程度、昨日の昼飯前なのであ〜〜る!』
「ドクター・ウェスト!? ………よく姫さんが許したな、そんな事」
『大事の前の小事です……それよりも……大十字さん……』
「あ、ああ、なんだ?」
『……先程の言葉…まるで命を懸けるかのように聞こえましたけど…まさか……』
 不安げに曇る姫さんの表情。
 その時……
『九郎ちゃん、無茶しちゃダメ!! 九郎ちゃん一人がそんな大変な思いをする事無いのですよ!! 人は誰しも平和に生きる資格を持っているのです。命を懸けるだなんて、そんな事……』
「ラ、ライカさん? ライカさんがなんでそこに……」
『大十字さんの事が心配だったからですわ。私も…ライカさん達も……』
 そう言って微笑む姫さんに照れて頬を掻くと、腕の中のアルにジロ…と睨まれてしまった…このくらいで妬くなよ…

『エルザもダーリンの事が心配だったロボ!!』
『俺達だって心配してたんだぞ、九郎!!』
『そうだよ九郎!!』
『九郎お兄ちゃん……絶対……帰ってきてくれなきゃやだよ!』
 割り込むようにしてエルザが、そしてガキんちょ達の姿がスクリーンに映し出された。
「お前等……ああ絶対に帰るさ。約束だ」
 アルを抱きしめる手に力が籠もる。
 見上げてくるその瞳に浮かぶのは強き意志。
「アル……」
「ああ、帰ろう…必ず。そして汝と妾とリル……3人で幸せに暮らそう……その為にも…ここでやられる訳にはいかぬぞ! 九郎!!」
「応よっ!!」
「リルもがんばる〜!」
「………姫さん、ライカさん、みんな…俺達は必ず帰る。だから……信じて待っていてくれ!!」

 俺がそう言ったその時だ。
 
『ちょっと待つのである』
「な、なんだ!?」
 いきなりで足をくじかれた気分で、問い返す。
『……これを見ておくのである』
 ウェストがそう言った瞬間、映像が切り替わった。
 そこには……
 
「な――っ!?」
「こ、これはっ!?」
「………パパ…? みんな……寝ちゃってるの……?」

 映し出された光景に、俺達は絶句する。
 姫さん達の方もどうやら混乱しているみたいだ。
 
『現在の、アーカムシティーの様子である。少し前にその巨大な化け物が現れると同時に、シティーのあちこちでこんな状況が起こったのである』
「なんでこんな……まさか!?」
 思わず振り返る。
 目の前にその異形を見せつけるかの如く存在するアザトース。
 こうして見ているだけでそのプレッシャーは桁外れだ……魔術防御している俺達でさえこの状態……
 それじゃあ…地上にいる一般人は……!?
 
「拙い!! 姫さん、シティーの連中に空を見るなって伝えるんだ! こいつを見ちゃいけない!!」
『ええっ、で、ですけど、この映像はもうシティー中に……』
「すぐに止めるんだ!! こんな物を見続けたら、一般人はそれだけでショック死しちまう!!」
『し、しかし、私達はなんとも……』
 戸惑う姫さんの声。
 その時、その背後からギターの音が鳴り響いた。
 
『ふん、なんだか嫌な予感がしていたから映像にフィルターをかけておいたのである』
「……いつの間に……」
『まあ、それでも押さえきれなかったようであるが……大十字九郎』
「な、なんだ?」
『聞くのである』
 その瞬間、デモンベインに幾つもの声が飛び込んできた。
 
『お願い……助けて……』
『神様……』
『誰か…』
『…助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて………助けて……』

 無数に溢れる助けを求める声……
 
「――――っ!!」
『……全ては…貴様にかかっているのである。こんな所で死ぬではないぞ、吾輩との決着もまだ着いていないのであるからな』
「いっつもボロ負けしてただろうが」
『吾輩が負けを認めるまでは負けた事にならないのであ〜〜る』
「……ったく、相変わらず訳わからん世界で生きてやがる奴だな……判ったよ! 徹底的に負けたって認めさせてやる。首洗って待ってやがれ!」
『うむ、待っていてやるのである』
 そのいつも通りの言葉に、思わず苦笑する。

『大十字さん……御武運を……』

 姫さんの言葉に頷き、アルを、そしてリルをしっかりと抱きしめた。
 
「例え何があっても、必ず生きて帰るぞ。アル!」
「ああ! 汝が共に居るのならば、いかなるものが相手であろうと、決して負けはせぬ!」
「リル。まだ産まれて間もないお前に大変な思いさせちまってるけど…帰ったらたっぷり遊んでやるからな。もうひと頑張り、頼むぜ!」
「うんっ! リル、がんばる!!」
「……俺達の命、お前に預ける!! 頼むぜ、デモンベイン!!」
 俺の言葉に応えるように、デモンベインの咆吼が、漆黒の宇宙に響き渡った。

 アルが…
 リルが…
 デモンベインが…
 今、俺達全ての力が、1つになる。
 
 動き出したアザトースの攻撃をリベル・レギスが砕き、足止めしている。
 やるなら、今だ!
 
 地球から届いた祈りの叫びが……
 俺達に力を与えてくれる!
 
「アル! ヒラニプラシステム、アクセス!」
「ナアカルコード承認。いつでもいけるぞ、九郎!」
「……アル、リル、力を貸してくれ!」
「ああ!!」
「うんっ!!」
 構えた俺の右手に、アルとリルが共に手を重ねる。
 
「やるぞ……うおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉっ!!」
 天空を貫くように掲げた両の剣指を左右へと開き、術式を展開。
 これまでにないほどの凄まじい魔力の流れに一瞬意識が遠退きかけるが、唇を噛み締めて踏みとどまる。
「その大いなる力をもって、遙かなる時空を越え、異界への扉を開け!」
 アルの声と共に、デモンベインがその右手を天空へと掲げた。
 周囲を囲んでいた術式がその掌へと渦を巻くように集まっていく。
「「「レムリア……インパクト!」」」
 
 俺達の声が重なった瞬間…
 
 途轍もない大きさの魔法陣がデモンベインの周りに現れた。
 幾重にも重なり合い、不可思議な模様を描き出している。
 
 そして次の瞬間!
 
 爆発するかのように広がった魔法陣から光と闇が溢れ……戦場は異界と化した。

 闇が集う。
 闇が集う。
 闇が集う。

 歪んだ、狂った、悶える、異形の闇が集う。
 
 光が集う。
 光が集う。
 光が集う。

 荒ぶる、吼える、嘲笑う、異形の光が集う。
 
 闇の極限に位置する。
 光の極限に位置する。
 
 世界が異界へと――あり得ぬ世界へと姿を変えていく。
 
 まるで嵐の中の小舟のように、その光と闇の嵐の中で引き裂かれそうになりながらデモンベインは求めるものへと手を伸ばす。
 微かに感じるその気配。
 かつて、この手にした極限の魔導器。
 そして……
 
「掴んだ……!」

 感じる。
 今手の中にあるこの力。
 これを目覚めさせるのは……今だ!
 
「……うぅぅぅぅおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ…おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉっ!!」

 引き抜く。
 極限の光の中から。
 極限の闇の底から。
 
 光と闇の極限を引き裂いて……
 
 この世界へと……顕現する!!
 
 それは、不滅なる神柱。
 それは、不死なる神樹。
 それは、不敗なる神剣。
 
 それは神々の禁忌……
 
 並び立つ筈無き2つの禁忌が今…1つへと…

 その瞬間、膨大な力がデモンベインに、そして俺達へと流れ込んでくる。
 
「ぐああああああああああああああああああああああっ!!」
「「きゃあああああああああああああああああああっ!!」」

 あまりに強大すぎる力。
 その力はデモンベインの装甲さえも融解させていく。
 だけど……俺達は恐れない……
 
 知っているから……
 この力は、決して滅びの力ではないと……
 
「「「………祈りの空より来たりて!」」」
 言霊を紡ぐ。
 右手に重ねられた2人の手の温もりと共に、ゆっくりとその手を振りかざす。
 全ての人々の祈りが、俺達に力を与えてくれる…
「「「……切なる叫びを胸に!」」」
 魔術によって殺された街の人達……
 あの、エルザの流した涙……
 姫さんやライカさん、それにガキんちょ達……
 みんなが流した涙を…俺は絶対に忘れない…
「「「……我等は明日への路を拓く!!」」」
 結ばれたアル、そしてリルの手から手へと想いが、温もりが、伝わっていく。
 たとえどんなものと引き替えにしたって手にする事なんてできない最高の宝……
 その想いを込めて、振り降ろしたその手を再び天へと翳す。
 
 俺達の手が辿った軌跡が宙に光の筋となってデモンベインを包み込む魔法陣へと展開。
 
「あれは……五芒星…」
「旧神の紋章……!」
 デモンベインを取り囲むその魔法陣に、マスターテリオンが、ナコト写本が畏怖の声を漏らした。

 シャイニング・トラペゾヘドロンから溢れる超大な魔力の輝き。
 それは…無限の絶望を打ち砕く、優しき光…
 全てを享受し、創造する力……
 
 そして今、最後の言霊を紡ぐ。
 
「「「汝、無垢なる翼――デモンベイン!!」」」

 その瞬間、デモンベインは光輝となる。
 ティマイオス、クリティアス、シャンタクをフルパワーで起動させ、光をも超える速度で向かうは巨大にして強大なる邪神、アザトース。

 光へと溶けていく世界……
 その中で、俺達は姫さん達の祈りの声を聞いた…
 それは空耳だったのかも知れない。
 だけど、その声は俺達に更なる力を与えてくれる。
 更に溢れ出す眩い光。
 それは周囲の邪神を尽く焼き払い、あらゆる邪悪を寄せ付けない。
 
「……大十字九郎……貴公の…勝ちだ……」
「……見事ね……アル・アジフ……」
 輝きの中で、テリオン達の声が俺達の脳裏に響く。
 目の前に迫るアザトースの異形を、振り下ろしたシャイニング・トラペゾヘドロンの輝きが切り裂いた…

「九郎……」
「パパ……」
「アル……リル……」

 強く…抱きしめる…
 その温もりを失わぬように…

 光に溶けていく…
 アルの微笑みも…
 リルの笑顔も…

 全ては光の中へ……


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