斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第17話 必滅の術式
襲い来る無数の外なる神々。
さっきまでは背後を気にしながらだったから、存分に力を発揮出来なかったけど、ここからは背後はあいつらに任せておける。
かつて、彼奴を滅ぼす為に戦っていたはずなのに、運命って言う奴は本当に皮肉なもんだ。
「クトゥグァ! イタクァ! 神獣形態!!」
召還と同時に神獣弾を装填。
一気に全弾を解き放つ。
「九郎! 攻撃を逃れた奴等が!!」
「あいつらに任せとけば心配ない。それより俺達は目の前にいる奴等を徹底的にブッ倒す!! アル! リル! 徹底的に行くぞ!!」
「応ッ!」
「うんっ!」
「うぉおぉぉぉぉおぉっ! アトランティス・トルネード・ストライィィク!!」
どれ程の数がいるか判らないが、とにかく目の前の群れを粉砕。そして更に回転するそのままの勢いを保ちながら右手にヒラニプラシステムのエネルギーを集中。
「続けてっ! レムリア・ディレイ・インパクトォォォッ!!」
次々と回転したまま周囲の輩に触れ……そして!
「「一斉昇華!!」」
デモンベインが通り過ぎた後には、一匹たりとも残ってはいなかった。
「フフ……やってくれる。大十字九郎」
「あの力…以前とは比べものになりません……やはり、あの子供の存在が大きいのでしょう」
「と言って、負けてはいられぬな。行くぞ、エセル!」
「イエス・マスター!」
ナコト写本の返事と共に、リベル・レギスから黄金の剣が雨のように外なる神々へと降り注いでいく。
更に……
「ン・カイの闇よ!!」
正面へと掲げられた右手にパネルが展開し、無数の重力弾を形成。
一気に襲いかかった。
それだけで、数万の外なる神が消滅する。
「お、おいおい、さっきあいつらが倒したのって、全部クトゥルー以上の力を持った奴等だぞ……? お、俺達、良くあんなのに勝てたな……」
「う、うむ……現在の実力で言えば、妾達の方がリルがいる分だけいくらか上回っておるが……だが、妾達だけでは到底あの力には及ばぬな……」
あっけにとられて見つめる俺達に、マスター・テリオンから声がかけられる。
「どうした大十字九郎。敵はまだまだ来る。油断をしていると、死ぬぞ!」
「………っと、お前に言われてたら世話無いな。まあいいさ、気を付ける」
答えながら両手に召還したイタクァを連射。
周囲に近づこうとした輩を掃討する。
その時だ。
「マスター!」
「敵わぬと見て一斉に来たか!?」
ナコト写本の声に、俺達も振り返ると、其処には今まで以上に大量の外なる神が群がっていた。
いや、それぞれが眷属を呼び集めたのか、今やその姿はまるで宇宙空間を覆い尽くすように広がる壁のように広がっている。
「洒落にならねぇ…一体どれだけいやがるんだ……」
「此程の数とは…拙いかも知れぬな…」
「あうぅ……パパ……」
顔色を変えるアルの腕の中で、リルも怯え震えている。
「………それでも…俺達は負けるわけにはいかない……」
「九郎……」
「パパ…でも……」
「今、この星の人達はブラックロッジに犯されることもなく、平和に暮らしている。それぞれ小さな諍いは繰り返しているけど、それでも…幸せを掴もうと生き足掻いている……それを…あんな化け物共にブチ壊されて堪るか!」
「う、うん!」
「そうだな……それに…」
「ああ。俺達家族が幸せに暮らす為にも壊させやしない。どれ程多くても決して無限じゃない。いつか限りは訪れる。それまで絶対にここから一歩も通しはしないぞ!!」
「うむ!」
その時、デモンベインの背後に背合わせになるようにリベル・レギスが近づいてきた。
「大十字九郎、貴公ならあれをどうする?」
「そうだな……中枢があるならそれをブッ叩くだけだけど、あいつらの場合はそう言うわけにも行かないし……」
「……完全に消滅させるしかないでしょう。我々の持つ必滅の術式をもって」
「うむ、それしかないであろうな。デモンベインとリベル・レギスが持つ無限熱量と絶対零度の術式を彼奴等に叩き込み、その全てを消滅させるしかなかろう」
「簡単に言うけどな。俺達の術式も完璧って訳じゃない。それぞれに隙がある」
「それなら……え〜っと、パパがやる時にはそっちのお兄ちゃんが守って、お兄ちゃんがやる時にはパパが守ったら?」
「「「「……………」」」」
一同、沈黙。
だけどそれは怒った…とか、呆れた…とかではなくて……
「あ、あは……ダメ……だよね? ご、ごめんなさぁぁい!!」
「い、いや、謝らなくていい」
「ふぇ?」
不思議そうに俺を見つめてくるリルに微笑むと、ようやく安心したのかリルも笑顔に戻った。
「リルの言う通りだ。そうだな。そうすれば……」
「必滅術式の連続起動か。デウスマキナにかなり負荷はかかるが、実質それが最も効果が高いであろうな」
「フフ……よくぞその様なことを思いつく。一度でも敵対しあっていた我等では思いつきもしなかったことだ。さすがは大十字九郎、そしてアル・アジフの娘と言ったところか」
「………負けていられません…」
苦笑混じりに言ったテリオンの言葉。
どうやら本当にあの頃は違うらしいな。
ナコト写本が妙に対抗意識を燃やしているけど、あれはリルに負けてられないって事なのか?
それとも……リルのような子供を産んだアルに負けていられないって意味なんだろうか……
ま、まあ、それはともかくとして…だ。
「じゃあ、とりあえず俺達から行くぞ!」
「応ッ!!」
「パパ、ナアカルコード承認したからいつでもいけるよ〜!」
「早ッ!?」
「……その内、妾の出番が無くなりそうだな……ま、まあよい。九郎、一気に決めてやろうぞ!」
「ああ! じゃあ行くぞ! テリオン。援護は任せる!」
「任せておけ。エセル!」
「イエス・マスター!」
迫り来る無数の邪神。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
天を衝くように掲げた両の剣指を左右に開いて行くと共にデモンベインの背後に展開する魔法陣。
ヒラニプラシステムがデモンベインの右掌にその力を顕現する。
「光差す世界に、汝等暗黒住まう場所無し!! 乾かず、飢えず、無に帰れ!!」
邪神へと、その輝く右手を突きつける。
そして!
「レムリア・ディレイ・インパクトォォォォッ!!」
デモンベインが疾る、疾る、疾る、疾る、疾る、疾る、疾る!
同時にすれ違う邪神共にその右手を次々と押しつけながら……
周囲から襲ってくる邪神達でこちらの手の届かないものは、テリオンの重力弾によって次々と撃ち落とされていく。
「「一斉昇華!!」なの!」
アルとリルの宣言が言霊となって邪神共に叩き込まれた術式へと干渉。
そしてその威は顕現する。
一斉に消滅する邪神。
だけど、それで全てじゃない。まだ……終わりじゃないんだ!
「アトラック=ナチャ!!」
宇宙空間に広がる巨大な蜘蛛の巣。
それが無数の邪神共を捉える。
「今だ! テリオン!!」
「エセル!」
「いつでも行けます」
「よし! 行くぞ、エセル!!」
「イエス・マスター!」
蜘蛛の巣にかかった邪神達は逃れようともがいているが、逃がすわけがない。
「ハイパーボリアァァァッ!!」
リベル・レギスの手刀が白く輝く。
極極極低温の刃。
触れれば……
「ゼロドライブ!!」
テリオンの宣言と同時に、白い閃光が漆黒の宇宙空間を両断したように見えた。
そして………
あのまるで壁のようだった邪神の群れは瞬く間にその姿を崩し、今やその中腹に巨大な穴を開けている。
更に……巨大な邪神をテリオンが重力結界で捉え……
「レムリアァァァッ・インパクトォォォォッ!!」
「昇華!」
そして更に、アルの声と同時にリルが……
「あとらんてぃすぅぅぅ……すとらぁぁいくぅぅっ!!」
近づこうとしていた邪神を真っ向から粉砕した。
「うぉ……すげ……」
「益々やりおるな……これでは妾の立場がない……」
「まあいいさ。俺達の娘は俺達よりもずっと凄いかも知れないって事でさ。親として自慢だぜ、これって」
「ふ……そうかも知れぬな」
「ふぇ? あ、パパ!!」
「ん? んどわぁぁっ!」
「きゃあああああああああっ!」
「うにゅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」
激しい衝撃に吹っ飛ばされる。
リルの活躍につい現状を忘れていた。
メチャクチャ油断出来る状況じゃなかったってのに……
「く、九郎、余所見しすぎだ!」
「わ、悪ィ…」
「パパ! 上!!」
「ちぃっ、二度も同じ手を食らうかっ!! バルザイの偃月刀!!」
召還。そして掴むと同時に身体を反転させて一閃。
そのまま回転の勢いを殺さず、続けざまに乱舞を打ち込んだ。
無数の斬撃を食らった邪神は塵となって消滅する。
「次、来るぞ九郎!」
「応ッ! クトゥグァ、イタクァ!」
召還と同時に連射。
更に追い打ちをかけようとした瞬間、辺りの邪神が消滅した。
「今のは!?」
「何を惚けている、大十字九郎。もしや、もう息が上がったか?」
「誰が!」
どうやらテリオンが俺達を取り囲もうとしていた奴をやってくれたらしいな。
くそ……借りができちまった。
そう思いつつ、デモンベインの体勢を立て直したその時だ。
「……マスター、気を付けて下さい。近づいています」
「ああ、判っているよ、エセル」
2人の声に俺は思わず辺りを探るが何も感知出来ない。
だが……
「パパ!」
「九郎、来るぞ!!」
「いぃっ!?」
それは唐突だった。
あまりにも突然すぎるその出現に、俺は一瞬我を忘れ……
「九郎!」
「――っ!? こ、こんのぉぉぉぉっ!!」
アルの声にとっさにデモンベインをその場から一気に飛び退かせる。
そして……俺は見た。
「な…………っ!?」
その異形。
そのあまりにも巨大すぎる異形……
それはまるでひとつの星と言えるほどの巨大さだ。
あんなものが地球にぶつかったら……ひとたまりもない。
「瞬間転移だと!? あの巨大さで!?」
その瞬間、巨大物体が時空間を超えてきた歪みで、周囲に途轍もない衝撃波が奔った。
「くっ! 防御結界!!」
アルが慌てて張り巡らせた防御結界だったが、その衝撃波は易々とそれを貫いてデモンベインを、そしてリベル・レギスを弾き飛ばす。当然、操縦席にもその衝撃は伝わり、あちこちの計器がショートして火花を散らした。
「ぐあああああああああああああああああっ!!」
俺の全身からは魔力の逆流で血が噴き出し、鮮血が周囲を赤く染める。
「パパ!?」
「九郎!!」
慌てた2人の声。
「大丈夫…だ! それより……2人とも……無事…か?」
「妾達は大丈夫だ。それより九郎の方が……」
操縦席を離れてこちらへ来ようとするアルを制すると、俺は目の前に浮かぶ巨大な存在へと目を向けた。
「なんなんだ……これは……」
「判らぬ……妾にも外なる神々のことは、あまり記されてはおらぬからな」
アルが不安げに言ったその時。
「アザトース……」
「な……っ、アザトースだと!?」
ポツリと呟いたその言葉に、アルが驚愕の声を上げる。
「馬鹿な! 存在すると言うのか、あの邪神が!?」
「間違いないのか、エセル?」
「イエス・マスター。クトゥルー神話における、宇宙のあらゆる混沌の究極的な核…それがあのアザトースです」
「我が父君、ヨグ=ソトースをも超える邪神……か。ナイアルラトホテップすらも凌駕する存在という訳だな……」
その言葉は、混乱しきっていた俺の頭に止めを刺すようなものだった。
あの、ナイアルラトホテップより上位の存在!?
冗談じゃない。それじゃあ彼奴を倒す為にはレムリア・インパクトじゃ無理だって事じゃねぇか!!
倒せるものは……
その……手段は……
「―――っ!?」
その瞬間、俺の脳裏に浮かんだ多角形の物体。
それは……
「大十字九郎。あの邪神を倒すことができるもの。それはあの戦いの折に貴公が生み出した新たなる神木を用いる他はない」
「神木………? まさか……シャイニング・トラペゾヘドロンか!?」
「そうだ。それ以外にあの邪神を倒すことは不可能。このまま行けば、まず間違いなくあの星は飲み込まれ消滅する。もはや時間的猶予はない。覚悟を決めよ、大十字九郎」
「私達はシャイニング・トラペゾヘドロンをあの戦いで失った。しかし2つのシャイニング・トラペゾヘドロンは、1つとなって大十字九郎、お前の内に眠っている……」
「俺の!?」
「なっ……」
思わず言葉を失う俺達。
だけど……もしそれが本当なら……
「九郎…やるつもりか……?」
「危険だ……って言うつもりだろ?」
「言っても聞かぬであろうに」
俺の言葉に、困ったような顔をして苦笑するアル。
「無論、そんなことは止めさせたい……だが…汝は止めぬ。例え己が身をどれ程傷つけようとも汝は止めぬ…後味が悪いから…そんな理由だけで、汝は……」
「……アル…」
「まあ、仕方あるまい。これも、汝という男を愛してしまった妾の背負うべき業だ。だが忘れるでないぞ。汝にもしもの事があれば、後味の悪い思いをするのは妾達だ……汝を愛し、汝の子を産んだ妾に…そんな思い……させてくれるなよ…」
そう言ってアルは俺の側へ来ると、涙に潤んだ瞳で微笑んで唇を重ねた。
「ああ…お前を泣かせるような真似はしたくないからな……」
「……うつけ…散々泣かせてきたであろうが…」
「これ以上は……だよ」
今度は俺の方から唇を重ねる。
真っ赤になって目を瞬かせるアルの耳元で、俺はそっと囁いた。
「最愛の女を捨てて死ねるほど、俺は無欲じゃないさ」
その言葉に初めは唖然としていたアルだったが、やがて満面の笑みを浮かべると、強くしっかりと抱きついた。
「妾も……此程に愛する男を逃がすほど執着心のない女ではない……たとえ地獄の閻魔からでも奪い返してみせるぞ…九郎…」
しっかりと抱きしめ合う俺達。
その時……。
『大十字さん、聞こえますか?』
突然、聞こえてきたその声。
それは、護られる者達から護る者達へと宛てられたメッセージだった……。
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