斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin



第16話 再会



 満天の星空……とはよく言ったものだ。
 こうして見つめる宇宙空間は、空気という障害がない所為か、地上から見る物とは比べ物にならないくらいの美しい光を放っている。だけど……今はそれをのんびり見つめているわけにもいかない……
 何故なら……
 
「九郎、そろそろ来るぞ!」
 アルの声に、前方の空間へと注意を向ける。
 そこには有り得るはずのない亀裂が漆黒の宇宙空間に醜く広がっていた。
 
 それが徐々に範囲を広げ……そして次の瞬間!
 
 まるでガラスが砕け散るような音を立てて巨大な穴が開く。
 
 そして……
 
「くぅっ!?」
 途轍もない巨大な気配が大量に押し寄せてくるのが判る。
 勝てる勝てないの問題じゃない。
 こんなのが地球に一匹でも下りたら、間違いなく地球自体が終わる。
 
 俺達の背後に広がる、この美しい星が死の星に変えられてしまう……
 
「んな事……させてたまるかよ! アル! リル! 絶対に止めるぞ!」
「うむ! 妾達の世界、彼奴等に壊させてなるものか!」
「リル、頑張る!」
「よっしゃぁぁっ! やってやるぜぇっ!!」

 その言葉に応じるように、デモンベインの銀鍵守護神機関『獅子の心臓』が高い駆動音と共に膨大な魔力を生み出してくる。
 以前の俺達では絶対に支えきれない程の強大な魔力を、今の俺達は完全に制御していた。
 
「さっきあいつら倒した時にも思ったけど……こいつは凄いな……」
「なにせ、汝と妾とデモンベイン。そしてリルまで加わった四位一体。いかなる敵であっても、最早相手ではない。それが例えこの邪神共であってもな!!」

 襲い来るその強大な力は、クトゥルーに匹敵する物ばかり。
 いや、中にはあの、ヨグ・ソトースやナイアルラトホテップに匹敵するものまで。
 
「とりあえず、一気に吹っ飛ばす!! クトゥグァ、二重召還!!」

 召還の言葉と共に、デモンベインの両手に顕現する二丁の自動拳銃。
 
「フングルイ…ムグルウナフ…クトゥグァ…フォマルハウト…ンガァ・グア…ナフルタグン……」

 呪文に呼応して、両手に強大な魔力が産まれる。そして……
 
「イア・クトゥグァ!!」

 爆発的に高まった神気が、二丁の拳銃から放たれた銃声をも飲み込んで二匹の魔獣へと姿を変える。
 そしてそれは躊躇うことなく目の前に襲い来る外なる神の群れへと襲いかかった。
 
 今までとは比べものにならないその強大な破壊力は、あのナイアルラトホテップに匹敵するような奴等を次々と焼き尽くしていく。 だが、いかんせん数が多すぎる。
 さしものクトゥグァも、数百の外なる神を滅ぼしたところで力を失い、霧散した。
 
「一気に大技で決めてやる! アル、ヒラニプラシステム、アクセス!!」
「ナアカルコード承認。いつでもいけるぞ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! レムリアァァァァァッ!! ディレイッ!! インパクトォォォォッ!!」
「一斉昇華!」

 その強大な無限熱量の前に数千が消滅。
 だけどまだまだ終わらない。
 一体どれだけいやがるんだ!?
 
 イタクァが打ち砕き、クトゥグァが焼き尽くす。
 バルザイの偃月刀とロイガー&ツァールが次々と切り裂き続け、アトラック=ナチャが投網のように地球へ向かう輩を捉えてはアトランティス・ストライクが粉砕する。
 
 それでも終わらない。
 もう倒した数は数万になるだろうか。
 
 デモンベインもまた、疲弊していた。
 全身の傷は浅くはなく、自然修復してはいるものの、それを超す勢いで傷つけられていく。
 
 このままじゃヤバイ。
 そう思った時だった。
  
「パパ!!」

 リルの声に慌てて振り返った俺が見たものは、光学迷彩のようなもので姿を消していた輩が地球へと向かい降下を始めている様子だった。

「拙い!!」
 慌てて覆うとした俺達の行く手を数百匹の外なる神々、そしてその下部達が塞ぐ。
「邪魔だあぁぁぁっっ!!」
 レムリア・ディレイ・インパクトで一気に殲滅。
 そして追いすがろうとしたが、更に後方からの攻撃。
 なんとか打ち払うが、スピードは確実に落ちた。
 
 ダメだ、間に合わない!?
 
「姫さん! ライカさん! みんなぁぁぁっっ!!」

 それでもなんとかしようと、再び右手に力を集めたその時だ。
 
「ABRAHADABRA」

 一瞬の閃光。
 そしてその光が治まると、地球へ向かおうとしていた輩は全て消滅していた。

「今のは…!?」
「…真逆!?」
 
 思わず目を見張る俺とアル。
 それは……その赤い装甲を纏った鬼械の神は悠然と其処にあった。

「「リベル・レギス!?」」

 信じられない思いだった。
 あの時……あの最後の戦いの時、間違いなくあいつらは消滅した。
 そして、この世界が出来た時、あいつらの存在は全く無かったはず……それなのに…

「久しいな、大十字九郎」

 漆黒の闇の中に輝く黄金の輝き。
 それは……
 
「マスター………テリオンッ!?」
「馬鹿な! 彼奴はあの戦いの折、ナイアルラトホテップとともに滅んだはず!!」

 そのアルの叫びに答えたのは、テリオンの奴じゃなかった。
 
「私達は別にあの者に取り込まれていたわけではない。あの者が滅びれば、束縛から解き放たれるのは道理」
 そう言って姿を見せたのは……アルによく似た雰囲気を持つ漆黒の少女。
 
「ナコト写本!?」
 驚きを隠せない様子のアル。
 そりゃ当然だ。
 完全に存在そのものがなくなったと思っていた相手に再び出逢ったんだからな。
 
「完全にブッ倒したと思ったんだがな……生きてやがったか、マスターテリオン!!」
「猛っているな、大十字九郎」
「なにしにきやがった! 真逆お前が此奴等を……!?」
「無礼な! 我が主はそんな狭量な方ではない!!」
「よい、エセルドレーダ。大十字九郎、余は助けに来ただけだ」
「助け? 此奴等をか」
「いや……貴殿を助けに来た」
「……………な、なぁっ!?」
 あまりの突然な話に、一瞬頭が停止したぞ…
 アルも、完全に開いた口が塞がらなくなってるようだ。
 
「………理由や状況はどうあれ、我々は貴殿によってナイアルラトホテップの悪夢の牢獄より救われたことは事実。ならば、借りを返しておかねば後味が悪い」
「…おい、ナコト写本」
「…………気安く呼ぶな、マスター・オブ・ネクロノミコン」
「えと……えと……じゃあ、エセルお姉ちゃん♪」

 その瞬間、俺達の間の時間が完全に停止した。
 
「エ、エセル……お姉ちゃん…だと? アル・アジフ! なんの冗談………っ!?」
 どうやったのか、回線を割り込んで通信してきたナコト写本の顔がモニターに映る。
 それと同時にその表情が驚愕に凍り付いた。
 
「あ、あ、アル・アジフ……? そ、そ、そ、その……娘……は……い、一体?」
「妾の娘、リル・アジフだ。もちろん、九郎との……な」
 頬を赤らめて答えるアルに、ナコト写本の表情が劇的に変化する。
 
「む、娘だと言うのですか!? ば、馬鹿な……そんなこと、あるはずがありません! い、いくら最高位と言われる魔導書の『アル・アジフ』だからと言って、こ、子供が出来るなんて事がっ!!」
「事実だ。妾はこの身にこの子を宿し、そして産んだ。激しい苦痛を経てな。産みの苦しみをしっかりと味わったぞ」
「し、信じられない…そんな馬鹿な話があるはずが……きゃあっ!?」

 その瞬間、ナコト写本が悲鳴を上げた。
 どうやらリベル・レギスが攻撃を受けたらしい。
 話に夢中になりすぎて、周りが見えなくなっていたな、彼奴。
 
「エセルドレーダ、その話は後だ。とりあえず今はここを片づけるぞ」
「し、しかし! あ、い、いえ……済みません……イエス・マイ・マスター」
「……あの子供のことは、後でしっかりと大十字九郎達に聞くことにしよう。もしかしたら、僕達にも子供が授かる日が来るかも知れないからね」
「マスター!?」
 テリオンの言葉に、ナコト写本は心底嬉しそうな驚きの声を上げた。
「イエス……マイ……マスター」
 頬を赤らめ、僅かに涙を浮かべて返事をする様子は、本当にアルによく似ている。
 アルにも解っているんだろう。
 微かに口元を弛めて微笑みを浮かべていた……
 
「アル・アジフ。とりあえずその話は後です。今は一刻も早くこの輩を片づけましょう。私達も協力します」
「信じて良いのだな?」
「貴方がこの戦いの後、その子供が出来た経緯について、詳細に教えるというならば」
「………まあ構わぬぞ。知られて困るようなことでもないしな。のぅ、九郎?」
「ああ」
「……楽しみにして……あ、いえ……では、一気に片づけましょう」
 その言葉を残して、モニターからナコト写本の姿が消えた。
 
「フフ……一気に片を付けるぞ、九郎!!」
「応ッ!!」
「リルも、大丈夫だな?」
「うんっ!!」
「あいつらに負けてられないからな。一気に行くぞ!!」

 そしてリベル・レギスの中では……
「エセル」
「えっ……?」
「あの娘が呼んでいただろう? 聞いて初めて気付いた。お前をエセル……と呼ぶ方が、何故かとても想いを込めているように感じる。大十字九郎も、アル・アジフをアルと呼んでいるからこそ彼程強く結ばれたのかも知れぬからな……僕はこれからそう呼びたいけど……お前は嫌かい?」
「マスターがそう望まれるのならば……私は嬉しいです……」
「……では、行こうか、エセル!」
「イエス・マイ・マスター!」
 テリオンの言葉を受けて、嬉しそうなナコト写本の声がリベル・レギスの中に響き渡った……


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