−Short story−
嵐の夜に(後編)

by Sin

 どうやら周りもみんな停電しているみたいだ。
 窓の外は真っ暗で、ずっと遠くに少し明かりが見える・・・
「あ〜あ、これじゃあしばらく停電治りそうもないなぁ・・」
「・・・それじゃあ・・今日は朝までこのまま・・なの?」
「えっ!?」
 朝まで抱きついているって事か!? そう思って慌てて涼子さんを見つめると・・
「え、え〜っと・・? 停電・・朝まで・・なの?」
「あ、ああ、な、なるほど、そういう事ね。あ、あはは・・あははは・・・」
 なに考えてんだ・・俺・・んなわけねぇだろ・・・
 思わず自分に自己嫌悪・・

「ん? どうしたの?」
 不思議そうに見つめてくる。だけど・・言えるわけないよなぁ・・

「・・・そっかぁ・・・朝まで・・真っ暗なんだ・・・やだなぁ・・」
「寝ちまったら一緒だろ?」
「寝れないよぉ・・こんなに真っ暗じゃ・・」
 そう言ってベソをかく涼子さんに、俺は我慢できずに思わず吹き出した。
「あ〜笑うなんてひどい〜!」
「わ、わるいわるい・・くくっ・・」
「もぉ・・いじわる・・」
 そう言って拗ねてみせる。時々思うけど、涼子さんって年齢よりもずっと子供っぽいかも知れないな・・

「でも・・朝まで真っ暗なんだよね・・・」
「え? ああ、そうだと思うけど・・?」
「・・・ねぇ・・」
「ん?」
「今日だけでいいから・・・えっと・・その・・」
「なんだよ、言い渋るなんて涼子さんらしくもない」
「・・・あの・・ね・・」
 そう言うと、また涼子さんは俺の胸に顔を押しつけて黙り込んでしまった。
 しばらく待っていると、ようやく消えそうな声で呟いた。

「・・・に・・・て・・」
「え? なんだって?」
 そんな小さな声で言われたって聞こえないしな・・
「涼子さん?」
 もう一度呼びかけてみる。
 すると、ようやく思い切りが着いたのか、じっと俺を見つめてきた。
 月明かりもない真っ暗闇だけど、少し目が慣れてきたのか、泣きそうな涼子さんの顔がうっすらと見える。そして俺の腕をギュッと掴むと、口を開いた。
「・・・お、お願い・・・い、一緒に・・・寝て・・」

 その瞬間、俺の心臓はMAXをブッちぎる。
「なっなばらっちゃってらばらっ!?」
 自分でもなにを言ってるのか訳わからないが・・・とにかく今度は俺がパニックだ。
「ど、どうしたの?」
 突然の訳わからん叫びに、涼子さんは目を丸くして驚いている。

 とりあえず俺は思いっきり深呼吸して、それからようやく口を開いた。

「な、なにを言ってるんだよっ!」
「だ・・だって・・・」
「お、俺達、もう二十歳も超えてるんだぞ!?」
「うん・・そうだけど?」
「だ、だったら、そんな・・その・・一緒に寝るなんて・・・」
「だって・・恐いんだもん・・・」
 そう言ってうつむくと、俺の胸でのの字を書き始める涼子さん。
「恐いんだもん・・じゃなくて・・」
 思わず溜息をつく。
「・・・隆史くんとなら・・・平気・・だし・・」
「え?」
「変な事・・しないでしょ?」
 涼子さんはそう言って俺の胸に顔を押しつける。
 だけど・・

「・・・あのさ・・涼子さん、忘れてないか?」
「えっ・・?」
「俺だって・・男なんだぞ・・?」
「・・・・うん・・」
「・・・目の前に・・涼子さんが寝てて・・平気だと思うのか・・?」
 俺の言葉に、涼子さんは黙り込む。
 だけど、しがみついた手を離そうとはしない。
 そのままゆっくりと時間だけが過ぎていった。

「・・・いい・・よ・・」
 ふと、涼子さんが呟いた。
「えっ?」
 なにを言われたのかよく解らず、俺は思わず聞き返す。

「隆史くんが・・私の事・・したい・・って思うなら・・・その・・」
「・・・・涼子さん・・」
「・・・あ、あは・・あはは・・・や、やだ・・私ってば、何言ってるんだろ・・え、えっと・・」

 慌ててそう言う涼子さんだが、それでも俺の手を離そうとはしない。
 それどころか、更にギュッと抱きついてくる。
「りょ、涼子さん・・」
「・・・隆史・・くん・・・」

 いつの間にか、暗がりに目も慣れたみたいだ。
 目の前で、俺をじっと見つめている涼子さんの姿が、はっきりと見える。

「・・・涼子さん・・・俺・・・」

 その瞬間だった。
 突然、涼子さんは俺の腕を放すと、俺の胸に縋り付いてきた。

「涼子さん・・・!?」
「・・・隆史くん・・お願い・・もう少しだけ・・このまま・・」
「え・・あ・・う、うん・・・」

 激しい雨音が響き、風がうなりを上げている・・
 だが、俺達はそんな事など全く気にならなかった・・


「隆史くん・・」
 不意に呼びかけられて、ハッと気がつく。
 どうやら少し眠っていたみたいだ。

「眠ってたの?」
「・・そうみたい・・・だな・・」
「・・・そう・・だよね・・もう、寝てる時間だもんね・・」
 そう言われて時計を見ると、すでに夜中の3時を指していた。

「あはは・・眠いわけだ・・」
「・・ごめんね・・・」
「え?」
 突然の謝罪に俺は何のことだか訳がわからない。

「・・私が・・わがまま言うから・・・隆史くんに迷惑かけちゃって・・・」
 その瞬間、俺の中でなにかのスイッチが入った。 そしてうつむく涼子さんをそっと
抱き寄せる。

「・・えっ・・ええっ!?」
 いきなり抱きしめられて、涼子さんは驚いて身じろいだ。
「た、隆史くん!?」
「・・・迷惑だとか・・わがままだとか・・気にしなくていいよ・・・」
「えっ・・?」
「俺さ・・・その・・前から・・・涼子さんの事・・さ・・・」
 自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
 だけど、ここで止めたら・・二度と言えない・・
 だから・・・

「・・俺・・涼子さんが・・好きだ・・」
 俺の言葉に涼子さんが息を呑む。
 だが、嫌がられていないのは、この縋り付いたままの手を見ればわかる。
「・・・いつ・・から・・?」
「えっ?」

「いつから・・私の事・・?」
「・・去年の・・夏・・」
「そんなに・・前から・・・どうして・・言ってくれなかったの・・?」
「・・言ったら・・・今までの関係すら・・壊れてしまうような気がして・・」
 俺はそう言うと、なんとなく照れくさくなって、頬を掻いた。
 その様子に、涼子さんはクスクス笑っている。
 縋り付いた手は、いつしか俺の背中に回されていた。

「・・・私はね・・去年の・・春・・」
「えっ・・!?」
「君だけだと思ってた?」
「あ、ああ・・」
「・・ホント・・両想いだったなんて・・・私も・・鈍いなぁ・・」
「俺も・・全然気付かなかったもんなぁ・・」
 お互いにそう言うと、俺達は顔を見合わせて笑った。

 ひとしきり笑って・・俺達は、しっかりと抱きしめ合った。
 伝わってくる温もりが、胸の奥まで暖かくしていく。

「・・・キス・・」
「えっ?」
 不意に涼子さんが口を開いた。
 戸惑って聞き返す俺から視線を外すかのようにうつむく。
「した事・・ある?」
「・・・ない・・涼子さんは・・?」
 俺の言葉に涼子さんはしばらくそのままうつむいていたが、やがてぽつりと口を
開いた・・

「私も・・・はじめて・・」
 その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
『はじめて』ってことは、今から・・・

 その予感が的中したと知るのに、時間はかからなかった。
しっかりと俺を見つめた涼子さんが、ゆっくりとその瞼を閉じたからだ。

 俺達の距離は、数pほど・・

 そして・・2人の距離はゆっくりと縮まり・・

 柔らかな感触と・・温もりが・・・唇を包んだ・・・


 ・・・・そして・・俺達は・・
 


 翌朝・・

 いつの間にか眠ってしまっていた俺達・・

 辺りには、夕べ散らかした服が散乱している・・
 俺の隣には、すっかり安心しきって眠る涼子さんの姿・・
 2年間、何も進展しなかったのに、たったの1日で俺達・・

「・・・ん・・・隆史・・くん・・」
 側で涼子さんの髪を撫でていると、身じろいで目を覚ました。
「おはよう、涼子さん」
 俺がそう言うと、涼子さんは恥ずかしそうに微笑んでシーツに顔を埋めた。
 そして・・・

「おはよう・・大好きだよ・・隆史くん・・」

 優しく微笑む涼子さんを俺はしっかりと抱きしめた・・・

 これから先・・俺は絶対に彼女を離しはしない・・
 いつまでも一緒に・・
  






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