−Short story−
嵐の夜に(前編)

by Sin

 激しい雨と風・・
 今、台風がここを通過してる最中らしい。

 暗闇の中、ゴーゴーと風の音が辺りに響いている。
 そして激しく叩きつける雨の音。
 出窓のガラスがミシミシ音を立てる度に、隣の部屋で、軽い悲鳴が上がっていた。

「あいつ、恐いの苦手だからなぁ・・」
 隣の部屋にいるのは、居候の柏木 涼子さんだ。
 一つ年下の二十歳で現役女子大生。

 母の友人の娘らしくて、こっちの大学に通う間、うちに居候する事になったんだ。
 まあ、それはいい。確かに年頃の女と突然一緒に暮らすのはなんとなく嫌だったけど・・
それくらいなら、俺が我慢すればいいだけの事だしな。
 だけど、問題はそれじゃない。

 彼女が暮らし始めてから、わずか3ヶ月後、母が突然親父まで連れて、海外に行って
しまったんだ。
 結局、この家には俺と彼女の2人きり・・
 これで何もないのが不思議なんだが・・実際、なにもないんだよな・・

 で、そうこうしてるうちに今年ですでに2年目。

 初めのうちは、家族でもない年頃の女と2人暮らしなんて、めちゃくちゃ緊張してたけど、
最近はだいぶ慣れたな。

 軽く壁をコンコンと叩いてやる。
『きゃっ・・・た、隆史くん?』
「ああ・・さっきからきゃーきゃー言ってるから、大丈夫かと思ってさ」
『ご、ごめんね・・あ、きゃっ!』
 再び上がった悲鳴に溜息をつきながら、俺はベッドに横になった。

 それからしばらくして・・ 

 ウトウトし始めた俺の部屋のドアを、誰かがノックした。

「ん? 涼子さんか?」
「う、うん・・入っても・・いい?」
「ど〜ぞ。汚い部屋だけどな」
「じゃ、じゃあ・・おじゃましま〜す・・」
 ピンク色のパジャマで、なぜかペンギンのぬいぐるみをしっかりと抱きしめた涼子さんが
入ってきた。
 だいぶ慣れたとは言っても、やっぱりパジャマ姿で二人っきりって言うのは、正直照れるな。

「それで、どうしたんだ?」
 俺が聞くと、涼子さんは照れくさそうにうつむいていたが、やがて・・

「あ、あのね・・その・・今日・・ここで寝ても・・いい?」
 その言葉に思わず溜息をつく。
 これまでにも何度かこんな事があった。

 昼間はなんてことないみたいだが、夜になると途端に怖がり出す。
 そしてこんな風に激しい嵐の夜には、必ずと言っていいほど俺の部屋にやってくる。

「ねぇ・・ダメ・・?」
 不安げに見つめてくる涼子さんに、俺はもう一度溜息をつく。

「しょうがないなぁ・・・」
 そう言う俺に、涼子さんはホッとした様子で俺の側に座り込んだ。
 抱えていたペンギンは、横にちょこんと座らせている。
「ごめんね、隆史くん・・・私・・どうしてもこんな日は恐くて・・」
 ギュッと枕を抱きしめて、涼子さんはそう言うと俺に寄り添ってきた。

 毎度の事とはいえ、こうぴったりとくっつかれると、ちょっと困る・・
 だが、その時、窓の外で激しい雷の音が鳴り響いた。そして同時に激しい光。
 その直後、家中の明かりが消えた。
「きゃあああっ!! やだぁぁっ!!」
 いきなりの停電にパニックになった涼子さんは、悲鳴を上げて俺にしがみついてきた。
 その柔らかい感触に俺の心臓は爆発寸前にまで高鳴っている。
「うわわわわわっ、りょ、涼子さんっ!!」
 慌てて俺が離れさせようとするが、涼子さんは余計にしっかりしがみついて、離そうとしない。
 強く押しつけてくる感触に、俺は鼻血を吹き出す寸前にまで追いつめられていた。

 だが・・・

「ひっく・・ひっく・・・」
 いきなり聞こえてきたすすり泣きに、俺は落ち着きを取り戻す。
 見ると、俺にしっかりと抱きついて涼子さんは身体を震えさせながら泣きじゃくっていた。
「りょ、涼子さん・・・」
「ひっく・・ぐすっ・・隆史くん・・・お願い・・離さないで・・・恐いの・・・私・・雷と・・暗いのは・・
ダメなの・・・」
 
 そう言って泣き続ける涼子さんを、俺はしばらく呆然と見ていたが、やがて、ゆっくりとその
背中に手を回した。
「・・あっ・・」
「あ、あの・・その・・ご、ごめん・・つい・・・」
 戸惑ったような涼子さんの声に俺は慌てて手を離そうとした。だが・・

「ダメ!」
「えっ・・・?」
「離さないで・・・お願い・・」
 涼子さんは、そう言って抱きついてくる。
 少し躊躇ったけれど、俺はゆっくりと涼子さんの背中に手を回して抱きしめた。






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