碧天フォレストノベルコンテスト 一次審査通過作品
Original Story
『ずっとそばに…』
by Sin


エピローグ 『ずっと…』

 あれから数年の月日が流れた。
 純也は大学、真須美は短大を卒業し、2人とも社会人生活を始めている。
 千佳は真須美と同じ短大に進み、現在は二回生だ。
 友輝はあの入院が響いたのか、一度目の受験は失敗。だが、二度目の受験で無事に大学に合格し、現在一回生としてキャンパスライフを送っている。
 だが、千佳と友輝の関係はあれ以来進展せず、友達以上恋人未満のまま歳月だけが過ぎ去っていた――。
 
「お兄ちゃん、いい加減に起きないと、遅れるよ!」
 相変わらずの千佳の声。
 何年経っても真部家はあの頃のままだ。
「今日は特別な日なんだからね!! 真須美さんにもお兄ちゃんの事、くれぐれもよろしくって頼まれてるんだから!」
「俺が朝弱い事は真須美だって知ってるんだからさ〜もうちょっと寝かせてくれよ〜」
「駄目〜っ! もうちょっともうちょっとって、もう7時半でしょっ!! 冗談抜きに遅れるって!!」
 そう言って起こしても、意地でも起きようとしない純也に、とうとう千佳の堪忍袋の尾が切れた。
「ふぅん、そう……どうしても起きないって言うんだ……それじゃあ……」
 なかなか起きようとしない純也に、千佳は最終手段を講じることに……。

「せぇのっ!!」
 勢いよく助走をつけて…跳躍と共にエルボードロップを敢行した。
「ぐぼっ!?」
「どう? 起きた?」
 鳩尾に肘が直撃し、悶絶する純也。
 そんな苦悶の様子は完璧に無視して、千佳は満面の笑みで問いかける。
「ぐ……ぐぉ……」
「え?」
「……ふ、ふふ、俺の負け…だ……」
 そう言うと、純也は立ち上がろうとしてそのまま倒れる。完全なKOだった。
「え? ええ? キャ――――っ、お兄ちゃんしっかり―――――――っ!!」
 大慌てで純也を介抱する千佳。
 ともあれ、真部家はいつもにぎやかだ。
 
 
 そして…それから数時間後――。
 
 
 周囲を木々に囲まれた白いチャペル。
 そこに千佳達はやってきていた。
「あ、友輝。それに夏樹さんも」
「こんにちは、千佳ちゃん。いい天気でよかったわね」
「はい。お兄ちゃんの新しいスタートにはぴったりですから」
「ふふっ、そうね」
「へぇ…」
「……? 友輝、どうしたの?」
「あ、いや、似合うなって思ってさ……」
 そう言いながら千佳の姿を見つめる友輝。心なしか頬が赤い。
「え? そ、そうかな? ……ありがと」
 なんとなく照れくさくて、千佳の頬も赤く染まる。
「2人とも初々しいわね〜」
「も、もう、夏樹さん――っ!」
 楽しげに話す3人。
 周囲でもそれぞれの友人達が集まり、所々で談笑している。
 そう、今日は純也と真須美の結婚式なのだ。
 
 やがて、明かりがゆっくりと落とされ、ウエディングロードだけが光に包まれた。
 荘厳な音楽がが鳴り響く中、まずは純也が千鶴子と共に入ってくる。
「しっかりね」
「ありがとう、母さん」
 そっと言葉を交し合い、ロードの途中で千鶴子が席へと戻っていく。
 そして…再び開かれた扉の向こうから、ウェディングドレスに身を包んだ真須美と真須美の父、浩一郎が入ってきた。
「わぁぁ……真須美さん綺麗〜っ」
「ほんとねぇ…」
 感嘆の声を漏らす千佳と夏樹。友輝はそんな2人の様子に苦笑しながら、ロードの二人に笑顔を向けた。
「幸せにな…真須美」
「お父さん……」
 浩一郎から純也に引き継がれる真須美の手。
 これからは浩一郎ではなく、純也が真須美を守っていくことになるのだ。
「頼むぞ」
「はい」
 ほんの一言言葉を交わして浩一郎は席へ、純也は真須美と共に神父の前へと進んでいく。

「真部純也。貴方は河野真須美を妻とし、健やかなる時も病める時も愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
「お兄ちゃん……」
 ぐっと握り締められた千佳の手。その手にそっと友輝の手が重ねられる。
 少し驚いた様子の千佳だったが、やがてゆっくりと微笑むとそっと頷いた。
「河野真須美。貴女は真部純也を夫とし、健やかなる時も病める時も愛し続ける事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「真須美さん…」
 呟いた瞬間、千佳の頬を一筋の涙が零れ落ちる。だが、それは悲しみの涙とはちょっと違う気がしていた。

「それでは、指輪の交換を」
 2人の目の前に差し出される指輪。
 純也が真須美に、真須美が純也にそれぞれリングをはめる。
「では、誓いの口づけを」
 神父の言葉に、見つめ合う2人。
 真須美のヴェールを純也が静かに引き上げて――。
「純也…」
「真須美…」
 そっと、唇が重ねられた。
 割れんばかりの拍手に包まれる教会。
 それは、新たな夫婦の誕生を祝福する生命賛歌のようだった――。
 
 その後、披露宴が催され、千佳が親族からの挨拶をする番になった。
「……お兄ぃ…あわわ…兄さん、真須美さん、ご結婚、おめでとうございます」
 ちょっとした失敗に、会場から若干の苦笑がもれる。その様子に顔を赤くしながら、千佳は続けた。
「私と兄は皆さんも知っての通り、両親の本当の子供ではありません。私達を産んでくれた両親は私達がまだ幼い頃に事故で亡くなりました。でも、私達は産んでくれた両親も、今日ここに来ている育ててくれた両親も、どちらも私達の本当の両親だと思っています」
「千佳…」
 その言葉に涙ぐむ俊和と千鶴子。
 純也もその様子を見ながら頷いている。
「この場を借りて、両親にお礼を言いたいと思います。お父さん、お母さん、あの日から今日まで本当に育ててくれてありがとう」
 そう言って頭を下げる千佳と共に、純也も両親に向かって頭を下げた。
 辺りから巻き起こる拍手。
 それが落ち着いた頃、千佳は僅かに口元を緩めて再び話し始めた。

「……さて、実は私、兄が初恋の人でした。そして、今でもずっと好きなままです」
 千佳の言葉に、一瞬会場がざわめく。
「だから、今まで真須美さんにも酷い事を何度も言ってしまいました。ごめんなさい、真須美さん」
「千佳ちゃん……」
「それというのも、幼い頃に兄が言ってくれた『ずっとそばにいるよ』って言葉の所為なんですけど…ね」
 そう言って笑う千佳に、純也も苦笑する。
「でも、気づいてしまいました。兄にとって私は、『そばにいてあげたい大切な妹』でしかなかったって事に」
 千佳の言葉に、辺りがシンと静まり返っている。
「真須美さんが、兄さんにとって『そばにいて欲しい人』だって事に気がついて、私は兄の事をようやく諦めることができました。まだ、未練たらたらですけど」
 冗談半分に付け足された言葉に会場が沸く。
 それは純也達も同様だったようで、皆笑っていた。
「真須美さん、こんな妹に恋心を抱かせてしまう困った兄ですから、しっかり他の女の子に取られないように見張ってて下さいね」
「はい、ちゃんと見張っておきますね、千佳ちゃん」
「おいおい…」
 そんな3人の様子に会場は爆笑に包まれる。
「お兄ちゃん、真須美お姉ちゃん、2人とも幸せにねっ!」
 最後はいつもの千佳でまとめてマイクを置くと千佳は席に戻る。
 そんな千佳に、会場からは惜しみない拍手が延々と千佳に送られていた。
 それから、いろんな人の祝福の言葉があったり、食事で盛り上がったりして……。
 いよいよ、女性達が待ち続けたブーケトスの時間となった。
 
「じゃあ……いくわね、それっ!」
 後ろ向きに大きく振りかぶって投げられたブーケに女性達が一斉に殺到する。
 混乱の中で、それを手にしたのは……。
「っててて……」
 あまりの女性達の勢いに巻き込まれて押し倒されていた友輝だった。
「あ、あれ?」
「もう、友輝が取ってもしょうがないじゃないの〜」
 周囲から巻き起こるブーイングに、冷や汗の友輝。だが、手の中のブーケと視線の先にいる千佳を見てあることを思いついた。
「千佳」
「え?」
「これ、受け取ってくれないか?」
 そう言いながらブーケを差し出す。
 周囲がざわめき、その意味に気づいた千佳が、顔を真っ赤に染める。
「え? え? え―――っ!? そ、そ、それって……」
「……今なら受けてくれるかな? 千佳、ずっと俺のそばにいて欲しい」
「と、友輝……」
 差し出されたブーケと友輝を、揺れる瞳で見つめていた千佳は、やがてそっとブーケを手に取った。
「OKって事でいいんだよな?」
 友輝の言葉に微かに微笑を浮かべると、目を閉じてそっとその答えを口にする。
「…もう一度…あの言葉を聞かせて……」
「ああ」
 そう答えると、友輝は一度大きく深呼吸してから口を開いた。

「ずっと、俺のそばにいて欲しい。千佳……愛してる」
 顔を赤くしながら真剣に告白する友輝に、千佳の頬を涙が伝う。
 潤んだ瞳で微笑みながら、千佳は答えた。
「…はい……ずっとそばにいます……あなたのそばに…ずっとあなたのそばにいます。ううん、ずっとそばにいさせて! 友輝!!」
 溢れる涙をそのままに、千佳は友輝の胸に飛び込んだ。
 周囲から巻き起こる歓声。
 少し照れくさそうな友輝に千佳は――。

「わぁお……」
 驚いた様子で顔を赤らめる夏樹。
「ふふっ、千佳ちゃんったら……」
「千佳…よかったな…」
 寄り添い合い、顔を見合わせて微笑む純也と真須美。
 俊和と千鶴子、そして友輝の両親も大喜びで拍手していた。
「――――っ!?」
 驚きのあまり、声も出ない友輝。
 その唇に…千佳の唇が重なっている……。
「ち、千佳……」
 ようやくの思いで絞り出した声は、千佳の微笑みにかき消される。
 腕の中、満面の笑みで千佳は囁く。
「友輝…大好きだよ!」

チャペルの鐘が初恋の終わりと新しい恋の始まりを宣言するかのように鳴り響く。
『ずっと、そばにいるよ』
 その約束が終わってしまったこの日、
『ずっと、そばにいて欲しい』
 約束ではなく、願い。
 新しい言葉と共に、本当に愛する人を得て、今、千佳の新たな物語が始まった。  


                                             Fin

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