Original Story
『獣神変幻ビーストブラッド〜獣の魂〜』
by Sin
人は誰でもその内に獣の遺伝子を秘めている…
だが、その力が表面に現れることは殆どなく、獣の遺伝子はその内に秘められたまま、人は一生を終える。
しかし、自然は時として、その遺伝子の力を顕現させた命を生み出す。
彼らこそ、人でありながら人を越え、獣の魂を持つ新たなる存在…
人は彼らを、『ビーストブラッド』と呼んだ。
今、獣の魂が、目覚める…
第1話 血の宿命? 銀色の叫び
のどかな田園風景。その中の家がまばらに立ち並ぶこの村に、1人の若者がいた。
「ユウマ、そろそろ昼飯にしようや」
「ああ」
彼の名はユウマ。この村に住む、数少ない若者だ。
今は若者はどんどん都会へと出ていってしまい、この村には少ししか残っていないのだが、それでも彼はこの村を愛し、毎日を楽しんで送っている。
だが、そんな彼には誰にも言えない秘密があった。
空を見上げるユウマ。
その瞳には僅かに欠けた月が映る。
「…また…満月が近づいているな……」
そう言う彼の髪は銀色に変わりかけていた。
頬にかかる髪を払い除けながら溜息をつくユウマ。
「誰が望んだわけでもないのに…何で俺にこんな力があるんだ……」
月が真円に近づくと、ユウマは自分の内に秘めた力を押さえきれなくなる。
髪は銀色に変わり、気性は荒くなってその姿すらも変えてしまう。
それは、彼の中に流れる血に秘められた力の現れ。そう、彼は獣の血を持つ者、ビーストブラッドだったのだ。
幼い頃、両親を亡くした悲しみから、その力を目覚めさせてしまったユウマは、毎年、満月が近づく度に、その血の暴走と必死で戦っていた。
それは決して誰にも知られてはならない戦い。
だから、例えどれ程苦しくてもユウマはたった1人でその苦しみと闘い続けていた。
初めて力に目覚めてから14年。
これまでは村人達に自分のその力を知られることなく過ごしてこれた。だが…そんな日々もいつまでも続くとは限らない。
彼を襲う運命の時は、刻一刻と迫りつつあった。
「ユウマ、午後からはゆっくり休んでくれていいぞ。お前このごろ顔色が悪いことが多いしな。後は俺達でやっておくから、お前は適当にどこかでゆっくりしてろよ」
そう言って肩を叩く青年、リィト。
ユウマと兄弟のように育ってきた彼は、時に頼れる兄のようであり、時に支えてやりたくなる弟のようでもあった。
「だけど……」
「かまわないって。俺を信じろ。お前の仕事分くらい、一日で終わらせてやるさ」
「そうか……悪いな、リィト」
「いいっていいって。あ、お礼はにぎりめし2個、でどうだ?」
「しっかりしてるよ」
「当然」
そう言うと、リィトとユウマは一緒になって大笑いした。
そんな二人を引き裂く運命がこの後に待ち受けていようとは、いったい誰が予想し得ただろう……
そして、その夜……
激しく叩かれるドアの音に目を覚ましたユウマは、何事かと起き出してドアを開けた。
「なんですか……こんなに夜遅く……」
「た、大変だ、リ、リィトの家が火事で!!」
「な、なんだって!?」
慌てて走り出すユウマ。そして彼がようやくリィトの家にたどり着いたときに見た物は、赤々と燃える劫火に包まれたリィトの家だった。
「リ、リィトは!? おじさんとおばさんは!?」
「見あたらない! おそらく……まだ中に!!」
悲鳴のような村人の言葉。
「!? リ、リィト!!」
「待てっ!! もう入るのは無理だっ!!」
止める村人達の言葉も聞かず、ユウマは劫火に包まれるリィトの家に飛び込んでいった。
「ユウマ!!」
炎に包まれるその後ろ姿に、村人達の悲痛な叫びが響く。
「何をしている! 早く火を消すんだ!!」
駆けつけてきた村長の言葉に、村人達は慌てて各々木桶を手に川へと走る。
だが…ここまで燃え上がってしまった炎を消す事は…もはや不可能だった…
「何故…何故だ……どうして神は彼らにこんな仕打ちをっ……」
誰かの叫びが、辺りに響く……
そのころユウマは、炎の中でリィト達を探し回っていた。
「リィト! おじさん! おばさん! どこだ!!」
あちこちを探し回るユウマ。そして…
「リ、リィト!!」
炎に包まれた部屋の中で、リィトとその両親を見つけたユウマ。
だが…彼らはすでに息をしていなかった…
「リィト! 死ぬな!! 死ぬんじゃない!! 頼む…死なないでくれ……俺…また独りぼっちになっちまうじゃないか……リィトーーーっ!!」
ユウマの叫びが炎の中に響く。
炎は、ユウマの哀しみをあざ笑うかのように、その身体を包み込もうと猛威を振るう。
だが、その時だった…
「うああああああああああああああああああああっ!!」
悲痛な叫び…
そしてそれと共に、炎すらも霞む銀色の輝きが辺りを包み込んだ…
それからしばらくして……
「あっ、危ない、崩れるぞ!!」
「ユウマ! リィト!!」
村人達の見つめる前で、リィトの家は、炎の中で崩れ落ちた。
「どうして……ユウマやリィトのような優しい子達がこんなことに……なぜだっ!!」
村人の悲痛な叫び。
だがその時…
「…あっ…あれは?」
1人の声に村人が一斉に崩れ落ちたリィトの家に目を向けると、その中から誰かが歩いてくるのが見えた。
「ユウマ! 無事だったんだな! ………ん? ユ、ユウマじゃない……あれは……」
「じ、人狼!? まさかユウマとリィトは……あいつに……」
「みんな、ユウマ達の敵討ちだ! 行くぞ!!」
「よくもユウマ達をーーっ!!」
一斉に村人達がその人狼目がけて襲いかかろうとしたその時だ。
「待ってくれ」
その人狼が声を発した。
「…今の声…まさか……」
「……俺…だ…」
そう言うとその人狼はゆっくりとしたペースで姿を変えていき、やがてそこには涙の痕もくっきりと残ったユウマの姿があった。
「ユ、ユウマ……お前……まさか……」
「すまない……リィトを……助けられなかった……」
「ビーストブラッド……だったのか……お前は………」
「……ああ…」
ユウマの答えに、辺りが静まりかえる。
そして…その沈黙に誰もが耐えられなくなったその時…
「ば、化け物!!」
村人の誰かが、叫んだ…
それと共に広がるその言葉。それは…傷ついたユウマの心を激しく抉る。
「化け物……? 俺が……?」
震える声で呟いて、己の手を見つめるユウマ。
「お前なんかが村にいたら、きっと村に災いが起こる! 出て行け!!」
「お、おい、待て、待つんだ!!」
「村長、きっとこいつがいたからリィトやおじさん達が死んだんだ!! ビーストブラッドは災いを運ぶ……言い伝えの通りじゃないか!!」
「これ以上村に災いをもたらされてたまるか!! 出ていけ!! 二度とこの村には近寄るな!! もし見かけたら、次は殺してやるからな!!」
暴走する感情。
異端の存在への恐怖が、村人達から理性を奪っていく。
「よさんか!! お前達、本気で言っているのではないだろうな!! ユウマは自分の命も顧みずにリィト達を助けに行ったんだぞ!! そんな彼を罵倒して傷つけて……恥ずかしいとは思わんのか!!」
必死に止めようとする村長。
その言葉に最も早く応えたのは、ユウマだった…
「……いいよ…村長………俺が…俺が全ての元凶なら…俺は……村を出る……」
「ユウマ……!?」
「確かに俺はビーストブラッドだ……俺がいることで…もうこれ以上知っている人が死ぬのは耐えられない!!」
ギリッと噛み締められた口の端から滴り落ちる真っ赤な血。
「ま、待つんだ、ユウマ!!」
「……リィト達の身体は炎から守っておいたから、あの柱の影にある……後で手厚く葬ってやってくれ…」
それだけ言うと、ユウマは再び人狼へと姿を変じ、闇の中へと走り去る。
「ユウマ!!」
呆然と見守る村人達の前から姿を消したユウマ。
それから数日の間、村には遙か遠くから悲しげな狼の遠吠えが響いていた…