機神咆吼デモンベインSS
『魔導探偵でござる』

by うぇんでぃご。

6.<夜明け>

「ん……んううっ……?」
朝日に照らされたホテルの一室
清潔なベッドの上で眠っていた人物はゆっくりと目をさまし、のっそりと起き上がる
浅葱色の袴を着た青年――安倍総司はきょろきょろと辺りを見回した。
「あれ……ここは――」
「やっと起きたがったか、バカ兄貴」
声のする方を向くと、窓際に座っていた少年がゆっくりと立ち上がった。
総司は少年の名を驚きと共に呟く
「龍馬……? どうしたんだその怪我は!?」
慌てて駆け寄ろうとする総司だったが、ベッドから起きようとした瞬間視界が歪む。
「無理するなよ。ったく、相変わらずだな」
「……仕方ないじゃないか、体の方が先に動くんだから」
「はぁ……、もういいよ。じゃ、本題に入るか」
やれやれといった感じで龍馬はもう一つのベッドに腰掛ける
「――どこまで覚えてる?」
真剣な面持ちで龍馬はたずねた。
「覚えてる、とはなんだ?」
「本当に覚えてないのか?」
「だから、何をだ?」
「………『黄衣の王』」
その単語に、総司はビクリと身体を硬直させる
「覚えがあるんだな?」
「そうか……あの時に俺は――」
総司の記憶の中に、月夜の記憶がフラッシュバックする
宝物庫に忍び込んだ自分
その奥で見つけた一冊の魔導書
黄金の光を放つ禁断の黙示録
本は問うた『お前の望みはなんだ?』
そして自分は答えた。自分の願いを。そして――
(それから……なんだ?)
そこまでしか記憶はなかった。
だがその記憶と記憶の抜けた自分、そして目の前の龍馬
「まさか……その怪我は……俺が――!?」
なんてことだ!
総司は心の中で絶叫した。
まさか自分の家族を救おうと思ってしたことが、逆に家族を傷つけてしまった
「俺が! 俺がやったのか!? 俺が、お前を――!!」
自分の浅はかさに腹が立つ!
自分の愚かさに反吐が出る!
俺は――俺は―――!!

「違う、兄貴は何もしていない」

「―――……?」
「兄貴はただ『黄衣の王』に利用されてただけだ。魔力をかき集めて喪われた鬼械神を復活させ、自分の意識を宿す依代として兄貴を利用した。俺はそれを止めようとした。それだけなんだ」
「だがしかし……俺があれの誘惑に勝てなかったせいで、お前は――」
「魔導書『黄衣の王』はもう消えた。全部終わったんだよ、兄貴」
「そんなことで俺の罪が消えるわけじゃない。俺は最低の大馬鹿者だ……!!」
「あーもうめんどくせぇ!! とりあえず、二発殴らせろ!!」
「は? 殴るっておま――

バシィッ!
ビシィッ!

左手での往復ビンタ
「――ってぇ〜…… な、なんで二発なんだ」
「俺達に迷惑と手間と心配をかけさせた分! 俺と珊瑚で一発ずつだ!」
「だ、だが――」
「――もう一度『すべて自分が悪いんだ』とか言ったら今度はグーで殴るぞ」
総司は一瞬何か言いかけたが、それ以上反抗する事が出来なかった。
そのとき、コンコンと軽く扉がノックされた
「入るよ?」という声の後に入ってきたのは緋袴の少女、珊瑚だ。
「あ、総司起きたんだ?」
「ああ、ついさっきに」
「珊瑚まで来ていたのか……」
「ついて来ないとでも思ってた?」
「いいや……」
ばつが悪そうな顔で総司は二人から顔を背ける
その様子を見て、龍馬は改めて兄に向き直り座った。
隣に付き添うように珊瑚も腰を降ろす
「さて兄貴、多分俺…いや、俺達にとってはこれからが本題だ。『黄衣の王』を使った目的は何だ?」
総司は何も言わない。
その様子を気に留めず、珊瑚は突きつけるように言った。
「私を人間にさせたかった……そうでしょ?」
「――っ!!?」
ギクリと身体をこわばらせた総司
「――見ていられなかった………これ以上」
俯いていて表情は見えない
だがベッドには、いくつもしみが出来ていた。
「勝手なことをしたとは思っている。でも俺は……お前達のためを思って――」
そのとき、総司の顔に白い腕がニュッと伸び、口の両端を掴んでギリギリと両側に引っ張った
「い、いふぁいいふぁい! ふぁにふぉふるふぁんご!!」
「何って――うーん、お仕置きかな? ウフフフフフフフフフ」
顔は笑っている。それはもうこれ異常ないぐらいだ。
だが総司はこれほどまで怒った珊瑚を見たことがなかった。
ピクピクとこめかみが動いているのは見間違いか
しばらくしてパッと手が離され、今度はキッとした目で総司を見る
「あのね、私は人間が羨ましいと思ったことは確かにあるし、人間だったらいいなとかもずっと考えてたよ。だけど私は龍馬や総司と過ごした時間は不幸じゃなかった。むしろ幸せだったぐらい。だから気付いたの――」
珊瑚は今度はフワッとした笑顔を浮かべて、言った。
「人間だから幸せになれるとか、魔導書だから幸せになれないなんてことは全然ないの。だって、私は今――すっごく幸せなんだもの!!」
そう言って彼女はガバッと勢い良く龍馬に抱きついた。
「っ――――――――――!!!」
その衝撃に、龍馬の全身に雷のような痛みが走る。
「ああっ!? ごめんね龍馬っ!! 大丈夫!?」
「き……きにするな。ダイジョウブじゃないがきにするな」
こわばった笑顔を無理やり作る龍馬
「あーうー、ごめんなさい」
「イヤ、だから、キニスルナ……アハハハハ……」
そのとき、声を殺した笑い声が兄貴の口から漏れていた。

「………プッ、くくくくく、あはははははははははっ!」
さっきの光景をみて一瞬呆気に撮られていたが、突然笑いがこみ上げてきたた。
だって、久しぶりだったから
珊瑚と龍馬の、あんなに優しくて綺麗な――心の奥底からの満面の笑みが
ああ、自分は何をしていたんだ。
自分は近道を知らなかった。だから遠回りをした。
バカだ。自分はとんでもない大馬鹿者だ。もう笑うしかない。
「アハハハハハハハハハハハハハっ!!」
でも、それでもいい
結果的には俺の望んだものを手に入れることが出来たんだから
「いつまで笑ってんだよ」
ちょっと笑いすぎたのか、龍馬が俺をジト目で睨んでいる
「すまんすまん、なんだか久しぶりだと思ってな」
やっと笑いが収まってきた俺は、改めて二人を見る
「まぁなんにせよ、二人ともおめでとう……と言うべきか?この場合」
俺の言葉に二人の顔がみるみる赤くなる
「え!? いや、その、えーっと……」
「ちょ、ちょっと、なんでいきなりそんな」
「いやいや、お兄さんはうれしいぞ。そうかそうか、よかったよかった」
顔を赤くして黙った二人は、時折お互いにチラチラ視線を交わす
「それで、キスとかしたのか?」
<B>「「――――!!?」」</B>
二人の顔がこれ異常ないぐらい赤くなった。

ホテルの廊下では、二人と一匹がその会話を聞いていた。
「これで本当に一件落着――だな」
「うむ」
「てけり・り」
俺とアル(とダンセイニ)は三人の監視――ということで廊下で待機している。
姫さんと執事さんは現場の復旧で忙しいらしく、今朝から一度も姿を見かけていない
稲田さんはというと、ライカさんとガキンチョたちを教会まで送っていくといってさっき出発した。
「あの三人はこれからどうなるんだ?」
「それは本人の意思で決める事だとは思うが……まぁ最初は事情聴取になるだろうな」
「じゃあしばらくは、覇道のご厄介になるってことか」
「てけり・り」
ちなみにダンセイニは、アルが「寝心地が悪い」と言って呼び出したものだ。
廊下を歩く人々がいちいち驚いて俺のほうを見るので、正直つらい。
「てけり・り?」
「いや……なんでもねぇ」
それよりも俺は、あの二人が選んだ道について考えた。
人間と魔導書が、互いに利用し利用される関係ではなく、愛情と言う形でつながった二人
種族と言う壁を越えて
多くの葛藤と決断を経て
龍馬と珊瑚はこれからどう生きていくのだろうか?
「なぁアル」
「なんだ? 九郎」
「……………なんでもない」
「そうか」
そういったアルはいかにも退屈と言った感じでダンセイニを弄びはじめた。
『もし人間になれるとしたら、お前はどうする?』と俺はコイツに聞いてみたかった。
あらゆる邪神の魔の手からこの世界を守るという使命から解き放たれたら、お前はどうする、アル・アジフ?
でもそんな質問は無意味だ。そんなことできるはずがない。
「人間だから幸せになれるわけじゃねぇし、魔導書だから幸せになれないわけでもねぇ……か」
そのとき、ガチャリと部屋のドアが開いて二人が出てくる
朝日でよくわからないが、顔が真っ赤な気がした。
「よう、兄貴のほうはもういいのかよ?」
「――大事無い。いろいろ世話をかけた」
「いろいろとご迷惑おかけしてすみませんでした」
そう言って珊瑚はぺこりと頭を下げる
二人の顔はなにかふっきれたようで、とてもすがすがしい感じがする。
「わぁ! なんですかこの子、かわいい〜!!」
「てけり・り〜?」
すると、ダンセイニの存在に気付いた珊瑚がかけよってぺたぺたとさわっている
「あ、こら、ダンセイニは妾のだぞ、勝手に触るでない」
「へぇ〜、ダンセイニちゃんっていうんですか?」
「てけり・り」
握手を求めるかのように触手をにゅるんと差し出すダンセイニ
それを珊瑚は楽しそうににぎり返し、ぶんぶんと振っている
アルも最初は気に障っていたようだが、自分のペットを可愛がられているのがまんざらでもないのか、いろいろと自慢していた。
そんな中、俺は龍馬に話し掛ける
「これからどうするんだ?」
「しばらくは覇道に厄介になる。俺と珊瑚は怪我が完治したら帰国するつもりだ。」
「兄貴のほうはどうなる?」
「俺の家からはすでに追放されてるからな。どうするか悩んでいたら執事の人がある施設を紹介してくれて、今度からそこに行くそうだ」
「執事さんが? どこにだ?」
「なんでも魔術の研究をしているところらしい――ミスカトニック大学とかいったか」
「ああ、なるほどな」
あそこなら兄貴のほうも何とかやっていけるだろう
アーミティッジの爺さんもいるし、心強い
「いままで本当に――ありがとう」
「……ああ、達者にやれよ。二人でな」
「わかってるさ。そっちも――お前と、ネクロノミコンと、鬼械神でな」
「――デモンベインだ」
「デモン、ベイン――そうか、覚えとくよ」
「じゃあな」
それから俺達は別れた。
夜明けの黄金の光が、やけにまぶしく感じられた。

「……いっちゃったね」
「……ああ」
去っていく三つの影を見送りながら、珊瑚はそっと龍馬によりそった。
「ねぇ龍馬」
「なんだ、珊瑚?」
「私、龍馬が大好き。」
「……ああ」
「龍馬は――私が好き?」
その言葉に、しばらく沈黙が続いた。
珊瑚は、何気なく聞いたつもりだった
しかし龍馬はそっと珊瑚の両肩をそっと掴んで、そのまま抱き寄せた。
密着した身体からは、お互いの体温と規則正しい心音がこれ異常ないぐらい感じられる
「好きだ……珊瑚、俺はお前が――好きだ」
「………うん、ありがとう。 ねぇ龍馬――」
珊瑚は、なにかちいさく呟いた。
その言葉にすこし驚いた龍馬だったが、やがてゆっくりとその顔を近づける。
朝日に照らされた廊下で、二人は―――




Fin

〜あとがき〜
デモンベイン外伝「魔導探偵でござる」たのしんでいただけましたでしょうか?
このお話、ただ単に『自分のオリジナルキャラクターをデモンベインの世界で動かしたい!』と思って書いたので、あまり「江戸」っぽい感じが出せなかったなと思っています。
龍馬と珊瑚は「将来の九郎とアルのあるべき関係」というキャラクターにしました。
珊瑚のイメージは俺の趣味です。幸せになれよ、二人とも(笑)
兄貴の総司はこの話の序盤にしか出てきませんが、ぶっちゃけ言って「お節介焼き」で「お人よし」
最後の言葉は、彼のささやかな二人への仕返しです。
「黄衣の王」については没した設定が色々ありました。
イオドエクセルをぶっ壊した相手が実はマスターテリオンで、九郎に共に復讐しようと誘うとか
最後の決戦で九郎がマギウスを倒した後、こんどは龍馬に乗り移ってしまうとか
最終的には邪神の身体をのっとろうとして自爆するとかあったんですけど
どれも龍馬と珊瑚の恋路に邪魔だったので没にしましたw
それでは、読んでいただいて本当にありがとうございました。


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