機神咆吼デモンベインSS
『ナイアちんのいや〜んな失敗談♪(てへ)』

by 梁 明


「お疲れ様でした〜」
「お疲れ〜」
「お疲れ〜」
 デモンベインの全エンディングが終了し、覇道邸の応接室に引き上げてきた一同。いずれもが大役を終えた満足感で晴れ晴れとした笑顔である。幾人かはちょっと落ち込みの表情ではあったが(笑)
 ここで揃った面々を紹介しよう。
 大十字九郎、アル・アジフ、ライカ、リューガ、ジョージ、アリスン、コリン、覇道瑠璃、ウィンフィールド、チアキ、ソーニャ、マコト、ネス警部、ストーン、マスターテリオン、エセルドレーダ、ドクターウエスト、エルザ、部下A、部下B、部下C、アウグストゥス、ウェスパシアヌス、ティトゥス、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、暴君、エンネア、そしてナイア。
 それぞれが思い思いの場所で座り、稲田の淹れた紅茶やコーヒー・ココア・ホットミルクに目を細める。たいていは関係する者同士で座っているが、ティベリウスだけはちびアルバージョンくらいの大きさの幽霊となって漂っている。生身だと臭くてたまらないという切実な事情なので(笑)。また、アウグストゥス、ウェスパシアヌス、カリグラ、クラウディウスの四人は部屋の隅で酒をかっくらっていた。

「いやあ、やっぱデモンベインが最強だったなぁ」
「まあ、妾が中枢を努めるのだ。最低でもそのくらいのことはしてもらわねばな」
「うわ! ハードル高!」
 九郎は思わず身を引いているが、それを眺めていたエセルドレーダが火をつける。
「それは最後の一度だけ。それまで繰り返されてきた戦いにおいてはリベル・レギスの圧勝連勝だったはずよ。再戦してみれば案外メッキが剥がれるかもね」
「ほほう、挑戦状か……」
 いきなりギスギスした空気に変わる。
「やめよ、エセルドレーダ。せっかくの紅茶がまずくなるぞ」
「は、申し訳ありません、マスター」
 マスターテリオンが肩に手を置き、諫める。とたんに顔を赤くして狼狽えるエセルドレーダ。
「アルもだぞ。やっとややこしいモノが終わったんだ。今だけはゆっくりさせてくれ。どうせ次はもうすぐだしな」
「う、うむ」
 頭に手を置かれたアルは、渋々矛先を納めた。
「やれやれ、僕の計画を台無しにしてくれた君たちがこんなじゃあ、この先は僕の方が有利になるのかな?」
「何でアンタが俺の頭に乳を乗せているのか知らないが、絶対に籠絡されないからな」
 頭に感じる柔らかさに鼻の下を伸ばす九郎。その脇腹をアルがこめかみに青筋を浮かべながらつねっている。全くもって、説得力のかけらもない。
「わかってるってば。それよりも、今までの僕の苦労を聞いておくれよ〜。結構大変だったんだよ〜」
「ふん、貴様の苦労話など聞いてもどうにもなるまいに」
 アルがとりつく島もなく斬って捨てるのだが、ナイアは意に介さない。それどころか、
「アル・アジフとエセルドレーダは最初、大人の姿で、ボンッ、キュッ、バンッのナイスバディだったんだよ。胸ももちろん、きょ・にゅ・う♪(はぁと)」
「なっ?!」
「なんだと?! 詳しく話せ!!」
 驚愕のエセルドレーダとアル。二人は思わずナイアに詰め寄った。
「順番よく行くからね。まず最初の十回くらいは、ここにいるメンバーのほとんどが出番無しだったのさ」
「なにいっ!!」
 作品世界の根幹を脅かす恐ろしい発言に、一同が立ち上がる。
「一回目はさぁ、大十字一家がこのアーカムシティに引っ越してきた日に起こったのさ」
「一体、何があったんだ……」
 さすがの九郎も冷や汗をかいている。
「アパートのすぐ側で破壊ロボが暴れてね、瓦礫の下敷きになってみ〜んな死んじゃった」

 ずだあんっ!!

 みんなが一斉にこけた。
「だから、リセットしちゃった」

 ごががあんっ!!

 更に転がった。
「な、なんじゃそりゃあああっ!!」
「失敗したらリセットって、よくあることじゃない?」
「ンなもんねえっ!!」
 しれっとしてのたまうナイアに、九郎が切れた。
「ま、大十字九郎育成計画はいきなり失敗しちゃったのさ。そこで今度は引っ越し先を少し移動したんだけど、今度は破壊ロボがつまずいて転んじゃってねぇ、そのドリルがまた大十字一家の避難していたシェルターに直撃してさぁ。またまた全滅♪(はぁと) そんで、リセット。そんなことが十回も続くと嫌になるよねぇ」
 ドクターに冷たい視線が集まる。
「そ、そのようなことは我輩のあずかり知らぬことであるからして、責めさいなむ視線を向けられるいわれはないものと思われって、何だかそれも、か・い・か・ん……」
「引っ越し場所をあれだけ変えたのに、まるで狙ったかのように現れては計画を台無しにしてくれちゃうものだからほとほと困ったよ〜」
「なるほど、最初っから気にくわねぇと思ってたんだよ。そんな理由が魂の奥底で無意識に残ってたんだな……」
 こめかみに青筋を浮かべてイタクァを構える九郎の手をアルが制する。
「まあ落ち着け、九郎。ここで此奴を撃ったところで妾の出番が来ないことに変わりはない」
「って、そっちかいっ!」
「まあまあまあ、みんな落ち着いてよ。最初はアンチクロスなんてのもいなかったんだし。ブラックロッジはあったけどね」
「なっ?!」
「なんだとっ!!」
 一番驚いたのはアウグストゥスだった。
「ムーンチャイルド計画が一人目を除いて成功していたのさ。だからアンチクロスを結成する理由がなかったんだよ。『Cの巫女』のエンネアと、それを守る八部衆というのがその頃の呼び方で、ライカはメタトロンじゃなくて修羅王だったの。サンダルフォンは夜叉王って名前だったし、暴君は竜王だったかな」
 ライカ、リューガ、エンネア、暴君は愕然としている。他の者達も意外な成りゆきに唖然としていた。いち早く立ち直ったのは意外にもウィンフィールド。
「異議あり!」
「ん? どうしたの?」
「夜叉王なら私が適任です!」
 みんなの身体が三十度、右に傾いた。
「いや、あのね、ここで古〜い話を持ち出してこられても……」
「私こそが夜叉王に相応しいのです! 彼は、そう、勇者王とでも……」
 汗をかきながら困った笑顔でナイアがなだめようとするが、それを全く意に介せず、リューガを指さしながら自らの主張を展開するウィンフィールド。
「ウィンフィールド。覇道家を辞めて敵に回ると言いたいのですか?」
「はっ?! い、いいえ! そ、そのようなことはございません! が、しかし、夜叉王と言えば私の持ちキャラというか初期の頃の人気キャラで……」
 瑠璃の言葉にてきめんに狼狽える。
「声優ネタは知ってる者にしか判らぬぞ。それに、夜叉王とか言うものも最初の頃のものであって、今はないのだから最初っから出番は無いがな」
「はうっ!」
 アルに重大点を指摘され、頭を抱えて苦悩の坩堝に落ち込むウィンフィールド。隣でチアキが「ウィン様〜」と、滝の涙を流している。
「まあ、馬鹿は置いといて。
 僕が目をつけたのは八部衆になる予定だった修羅王でねぇ。彼女に破壊ロボを対処させるために、研究所でいろいろと手を回したのさ。その後は知っての通り。そして八部衆が結成できなくなったので、代わりにアンチクロスを置いて現在に至る、と」
 殺気が膨れあがる。そこにいた者達はその凄まじさに金縛りになったほどだ。
「アナタのおかげで私は弟と戦うことになったのね……」
 ライカの右腕に魔力が集中し、大型のビーム砲へと変化していく。
「ね、姉さん……」
 弟のリューガですら引いてしまうほどの、オソロシイ形相であった。チビガキ共はションベンを漏らし、アリスンの背後にはジャバウォックの影が浮かび上がったほどである。
「おーや、怖い怖い。だ・け・ど、そのおかげで九郎君とねんごろになれたんだから♪(はぁと)」
「そ、それは……」
 とたんに真っ赤になるライカ。そしてふくれっ面になるアルと瑠璃。
「こらーっ! そこはかとなく危うい人間関係なんだから、火災現場にダイナマイトを放り込むんじゃねえよっ、頼むからっ!」
「あははははは! 君の場合は大差ないし♪(はぁと)」
「お気楽に笑って流すんぢゃねぇ(血涙)」
 三方向からの殺気に近いプレッシャーに、顔面冷や汗が止まらない九郎であった。

「まっ、ともかく、これで破壊ロボに対抗する手段ができたわけだ。おかげで九郎君の安全度は飛躍的に上がり、ミスカトニック大学に通える状態にまでなったんだけど……」
「だけど?」
「ハイスクールを卒業したら就職しちゃったんだよ。それはつまり、魔道を学ばないってことだからねぇ、アル・アジフと初めて会ったときに魔導士スタイルになれなかったのさ」
 ナイアが渋い顔でそう言うと、アルの表情が有り得ないモノを見るような驚愕に満ちる。九郎から魔道を取ったら意外と普通な人生を送りそうなのに、それを想像してはいけないことだと言いたげに。周囲の者もだいたい似たり寄ったりだった。
「な、なんだよ、その『ありえねー』って視線はよ? 俺が普通に就職しちゃいけないのかよ!?」
 皆が一斉に頷く。
 アルが腕組みし、不機嫌に睨め付けながら言った。
「いかんな九郎。汝がその様な奇行に走ると世界の因果律が狂ってしまい、いきなり旧世界の神々がこの世界をバッドエンドへと誘うべく大挙してやってくるだろう」
 ドクターウエストが狂ったようにギターを掻き鳴らしながら、叫んだ。
「ぬあ――――っはっはっはっは!! 大十字九郎よ!!
 貴様、吾輩との戦いに恐れをなし、逃げたので……ぶげぐらどにょうわ!!」
 エルザがドクターの頭を金属バットでカチ割り、脳漿を垂れ流している頭を踏みつけながら、涙目ですがるように言った。
「ダーリン! もうエルザのこと、愛していないロボ?!」
 ウェスパシアヌスが空になったワインの瓶を九郎に突きつけ、アルコールで濁った目を向けながら言った。
「困る。困るよ大十字君。君が“普通”な事をすると、その分世界の歪みが大きくなるのだよ。それはクトゥルーの制御にも支障を来す事になるのだ。そうなれば、そうなってしまっては我々の計画が格段に厳しいものとなってしまう。ヘタをすると、十年にわたる下準備が無駄になるやもしれんのだよ」
 アウグストゥスがどっか南の島の酋長のような格好で、自己陶酔で自分を見失った目をしながら言った。
「許さんぞ、大十字九郎! 貴様如き虫けらが私の計画を阻害する事など、あってはならないのだぁっ!!
 私は地球皇帝アウーグスートゥス!!
 皇帝の御名において、大十字九郎の“普通の生活”などというものを未来永劫破壊してくれるわ!! ふははははははははははははっ!!」
 ライカが両耳をふさぎ、ふるふると頭を振りながら恐怖におののいた様子で言った。
「いけないわ、九郎ちゃん。底なし沼のような貧乏で、そのくせ厚かましくゴハンをたかりに来るような厚顔無恥さのない九郎ちゃんなんて、九郎ちゃんじゃない!!」
 ソーニャが九郎の背後を通りながら言った。
「何を普通の夢見てるですか、ウジ虫が」
 チアキが九郎の両肩を掴み、滝のような涙を流しながら言った。
「あかん! あかんよ、九郎ちゃん!
 アンタが来ないとウチのデモンベインが動かへんやないか!!」
 マコトが観葉植物の陰から熱くとろけるような視線でアルを見つめながら言った。 
「そうするとアルたんはフリー……ハァハァハァ………」
 瑠璃が爽やかな笑顔を浮かべつつチアキの顔面にアイアンクローを食い込ませ、『お、お嬢様! ギブ! ギブ!』と言うのを聞き流しながら言った。
「大十字さん、貴方は我が覇道財閥に雇われた探偵、いわば犬です。それなのに普通に就職してしまうなんて、犬としての自覚が足りませんねぇ」
 マスターテリオンが瑠璃の執務机に上り、後ろでエセルドレーダにパイプオルガンを演奏させながら気怠そうに見下ろし、言った。
「その様な事は余が許さぬ。貴殿は余の乾きを潤し、余の飢えを満たす唯一無二の存在なのだ。故に、貴殿が余の前に立ちはだからぬのならば、その時は貴殿の就職先を倒産させるだろう」
 九郎はうちひしがれた様子で床に突っ伏しながら言った。
「あ……あんたらオニや……」
 ナイアがにっこり笑いながらみんなに向かって言った。
「だ〜いじょ〜ぶ。就職が決まった瞬間、リセットし・た・か・ら♪(はぁと)」
「おお〜〜〜〜!」
 一斉に拍手が巻き起こる。

 しくしくしくしく……

 床に突っ伏している九郎の頭のあたりに、水たまりが広がっていった。
「まあ、泣くでない。そうでなくば妾達は出会えなんだ」
 九郎の傍らに座り、その頭をなでるアル。
「ああ。リセットするように仕向けはしたけど、実際に九郎君を死なせたのはアル・アジフだから」
「何だと?!」
 九郎が頭を上げた。
「ほら、さっき『アル・アジフとエセルドレーダは最初、大人の姿で、ボンッ、キュッ、バンッのナイスバディだったんだよ。胸ももちろん、きょ・にゅ・う♪(はぁと)』って言ったじゃないか。そのむっちりしたお尻の下敷きにしたときに、九郎君の頭が潰れちゃったのさ。それが、就職したその日の晩ってわけ」
「なっ?!」
 驚きの九郎とアル。だが、ナイアの話はまだ続く。
「そんで、次の時はお尻の下じゃなくて巨乳の胸の谷間だったんだよね。ところが倒れたときに二人とも頭を打って気絶しちゃってさぁ、九郎君は窒息しちゃったってワケ」
 もう、口をパクパクするしかない二人。
「終いには、ぶつかったときにアル・アジフが九郎君の顔面に騎乗位……」
「そんな嬉し情けない死に方なんて、ぐあああああああぁぁっ!!」
「うわああああああっ! やめてくれえええぇっ!!」
 頭を抱えてのたうち回る九郎とアル。
「……の直後に、『きゃあああっ! このドスケベがあっ!!』と、アル・アジフが九郎君の頭に正拳突きを喰らわせて砕いたってオチなんだけど、何か勘違いしたのかなぁ?」
 目を細めるナイア。気まずそうに立ち上がるアルと顔が引きつりまくりの九郎。周囲にいる者達のとーい目が今の二人には何よりイタかった。
「まあ、アル・アジフの敏感な×××の部分が九郎君の鼻と口をふさいでいたから、息ができなくって口をパクパクさせただけだったんだけどねぇ。もっとも、正拳を繰り出す前のアル・アジフの官能的な顔は、見ていたこっちまでぞくぞくするほどに艶っぽかったよぉ」
 九郎とアルの顔が真っ赤になる。

「まあ、二人が出会い頭にぶつかってドキドキというシチュエーションにこだわらなければなんてことはなかったんだけどね。でも、相変わらず九郎君は普通に就職してるわけだから、魔導士にはなれなかったという事に変わりがなくて……。
 だから、高校卒業前にいろいろ細工することにしたんだよ。父親をオカルト趣味に走らせたり、早めに両親が九郎君の元からいなくなるように仕向けて生活が苦しくなるようにしたり(笑)」
「笑い事じゃねえだろ……」
 渋い顔になる九郎。
「何とか覇道財閥の肝入りでミスカトニック大学に押し込んだら、頭の程度に問題があってねぇ……。ミスカトニック大学の一年を三留しちゃったのさ」
 そこかしこから吹き出したりこらえて笑う気配がする。いや、これ見よがしに爆笑しまくっている者もいるわけで。

「ぬわ〜〜〜〜っはっはっはっはっはっはっはっ!!!!
 何とも愉快である!!
 優秀なる吾輩の足元のミジンコにも劣る大十字九郎のおつむの出来は、遥か過去の生においてすでに決定されていたのであ〜〜〜〜る!!
 ああ、俗世より彼方に存在せし吾輩の歴史に並び無き優秀さが証明されたのであ〜〜〜〜〜〜る!」
 その場にいた全ての人物が、彼を“いない物”として認識の外に置いていた。ちなみに、エルザも全ての人物に含まれている。さらに、“いない者”でもない。つまり、ただのいらない物である。その事に全く気づいていないところがいかにもアレではあるが(笑)

 置物をみんなで“ない物”として無視すると、ナイアが続きを話し始める。
「ともかく、九郎君の学力を上げるのが先決というわけで、小学校のころから担任になって個人授業したり、個人授業したり、個人授業したり……」
 個人授業と聞いて数名が目を輝かせたが、九郎だけが目を座らせた。
「ちょっと待て……」
 地獄の底から響くような、冷たく怨念めいた声だった。
「授業の時、やたらと俺を目の敵にして当てまくっていたのはあんただったのか……」
「ん? どうしたのだ、汝?」
「俺が小学校のころ、ちょっとでも勉強ができないとすぐにバケツを持たせたり、腕立てさせたり、グラウンドを走らせたりした担任がいたんだよ」
 完全に怒りの表情だ。
「だぁってぇ、九郎君ったら『10+○=20』って問題で丸には何が入る? って聞いたら、『棒』って答えたんだよ」
 周囲の視線が冷たくなった。
「ウソをつくなウソを! あんた、小学校のころから半分以上、性教育しかしなかったじゃねえかよ!
 おまけに残りは中学レベルの問題を出しやがって! 小学生にはどう考えても無理だったろうが!」
「そうでもなかったよ。三度目の頃からはクラスのみんなも解けるようになっていったんだから。まあ、教え方が良かったんだけどねぇ」
 激昂する九郎にこともなげに答えるナイア。
「ところが、頭が良くなってくると増長して変な事を始めちゃったんだよ。
 アパートを引っ越したらそこの管理人さんが未亡人でその人とできちゃったり、株で大もうけしてそのお金にものを言わせて妹を十二人も囲ったり、高校の時はリセットするたびに何人もの違う女の子を落としては人生を変えたり、警備会社に就職したときは巨大ロボットのパイロットになったりしたし、ひどいときは小学生の分際で飛び級で大学を卒業してね、女子校の先生になったりもしたんだよ。
 レストランでバイトをしてて、そこで知り合った女の子とできたり、大学にも行かずに同人誌を書いてたり、サーヴァントを呼び出して聖杯戦争を始めたり、女神を呼び出して同棲したり、大量の自分のクローンと共に悪徳政治家を殺しまくったり、幽霊に憑かれてプロの囲碁棋士になったり、ベルトを使って変身して宇宙犯罪者と戦ったり、ゴスロリ人形や死神に取り憑かれたり……。
 まったく、こっちの予想の斜め下やら足の裏をあさっての方向やらおとといの方向に向かっていくものだから、その行き先をことごとく潰していくのが大変だったよ〜」
 一同、呆れて声も出ないらしい。九郎自身、あまりの荒唐無稽さに目が点になっていた。
「何とかこっちの流れに戻したものの、今度はアル・アジフが艶っぽいのが難点になったんだよ。なんせ、同居をし始めたら毎晩、朝までヤりまくりはザラだったし、おかげでアンチクロスとの戦いの前に腹上死ってのが百回以上になるとさすがにねぇ……。だから、すぐにはそういう関係にならないように、今の姿になったというわけ。で、魔導書の人間スタイルがまちまちなのは困るから、それを存在する全てに適用したのよ」
 やれやれといった感じでナイアが溜め息をつくと、ゆらりと立ち上がる黒い影。
「そう、私がこの身体になったのは全てあなた達のおかげなのね……」
「え? や? その様な事を妾に言われても……」
 普段と変わらないように見えて実はこめかみに血管を浮き立たせているエセルドレーダ。
「ああ、マスターの魔力はキミが二十パーセントほど削っちゃってるから」
「なっ?!」
 しれっと言うナイアに驚きの目を向ける。
「出番が来るまでずっとヤりっぱなしだったからねぇ。おかげで想定していたよりも魔力というか精力が低くなったんだよ。それでやっと九郎君が追いつけたってところかな」
「……と、いうことは……」
「キミがそのままだったら、とっくの昔に九郎君が勝ってただろうね」
 衝撃の事実の前に、エセルドレーダは打ちひしがれた。全てをマスターテリオンに捧げ続けてきた自分が、よりにもよって足を引っ張る事になろうとは!!
 マスターの前にうずくまってしまったエセルドレーダ。マスターは、その頭に優しく手を乗せる。
「何を悲嘆に暮れるのだ、エセルドレーダ。余はそなたが常に側にいる事で心置きなく闘えたのだ。そなた以外に共にある事を余は望まぬ」
「マスター……」
 涙で潤んだ目で見上げると、真っ直ぐに自分を見つめてくるマスターと視線が合う。それだけでエセルドレーダの心に芽生えたかけた罪の意識が溶けていった。
「だが、それはそれ、これはこれだ。エセルドレーダよ、そなたの罪には罰を与えねばならぬ」
 うって変わったマスターの口調にエセルドレーダが凍り付く。捨てられるのではないかという恐怖に支配されたのだ。
「来い、エセルドレーダよ。今宵は眠らせぬぞ」
 立ち上がりながらのマスターの意味深なセリフに、真っ赤になったエセルドレーダはいそいそとその後をついて行く。
 とたんに、
「っかーっ! やってらんねぇー!」
 という雰囲気になった。ナイアもまた肩をすくめ、語る気が失せたらしい。
「やれやれ。からかい甲斐のある者がいなくなるとつまんないねぇ……。
 ま、あとは九郎君の力量を上げていくだけだから、マスターテリオンとの対決を繰り返させるだけだったし。なんとかシャイニング・トラペゾヘドロンが召還できたと思ったらこっちの思惑を超えちゃったのは計算外だったけどね」
「ふん。そうそう踊らされてたまるかよ!」
「けど、こっちは数億回、この世界を繰り返して準備してきたんだからね。だから、ちょっとした仕返しをさせてもらおうかな」
 いたずらっぽく微笑むナイアは、九郎の目の前で指を鳴らした。とたんに意識を失う。
「九郎! おい、九郎!!」
「大丈夫、寝てるだけだから。それよりも、今のウチにお化粧したら? 九郎君の女装、もう一度見てみたいな」

 女性陣が色めき立ったのは言うまでもないだろう。そして……


「……ん、眩しい……」
 強い光が幾度も目の奥を刺すような感じがし、目の前に手をかざす九郎。上半身を起こすと周囲にどよめきが走った。
「な、何だ……」
「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁんっ!! 素敵素敵素敵素敵素敵素敵素敵すてきいいいぃんっ!!
 九郎ちゃんってば! 九郎ちゃんってば! 九郎ちゃんってば! 九郎ちゃんってばああんっ!
 なんて素敵なのおっ!! このまま教会に持って帰って飾っておきたいわあああぁぁぁっ!!」
 鈍い痛みが残る頭を押さえながら九郎が呟いたとたん、いきなりハイテンションになったライカに抱きしめられた。その大きな胸の谷間に頭を抱かれるささやかな幸福と、胸の谷間に押しつけられたために窒息寸前の上に首を極められたまま振り回されてさっきから首の辺りから有り得ない音が聞こえるような不幸と、釣り合いがとれるのだろうかなどという微妙な状態になる。
 ちなみに初めて姉の狂態を見た弟は、アゴが落ちたまま呆然としていた。
「うにゅう……、やはり今回もシャレにならんかったようだな……」アル
「へえええええ、九郎、なかなか似合ってるじゃない。今度、あたしとお揃いにしてみようよ」エンネア
「九郎お兄ちゃん、キレイ……(純真無垢な子供故の無邪気で真摯な意見)」アリスン
「やーい、九郎!! そのままゲイバーでも始めろよー!! その方が儲かるぜ!(純真無垢な子供故の無邪気で残酷な意見)」ジョージ
「そーだそーだ! ビンボーから脱出できるよ!!(純真無垢な子供故の無邪気で酷薄な意見)」コリン
 年少組(?)は率直な感想を述べる。
「むっ、奇抜な格好で相手の虚を突くという戦術か……、なるほど、これは使えるやもしれん。少々剣を振るのに邪魔はあるが、奥の手を出さなければ済む話だ」ティトゥス
「ぬぬうっ! 貴様、その様な格好で媚びを売ろうなど、この地球皇帝には効かぬ!!」アウグストゥス
「……ダメ、あれは男……あれは男……あれは男……あれは男……あれは男……あれは男……あれは男……あれは男……でも………………ちょっと…………いい……」マコト
 こっちはこっちで何やら方向性が違う気がする。
「くっくっくっ……やはり君は面白い男だな。見事に意表を突かれたよ。だか、だがしかし、女装はいかんよ、女装は。くっくっくっ」ウェスパシアヌス
「ひゃーーーーーっはっはっはっはっはあっ!!! バカにはお似合いだぜえっ!! 気持ち悪りぃんだよ、このクソ虫があっ!! 死ねよ! 今死ねすぐ死ねドンと死ね!! 死ね死ね死ね死ね死ね死にやがれえっ!!!」クラウディウス
 比較的まともな御意見をありがとう。
「……大十字様……やはり今回も………………美しい…………(ぽっ)」ウィンフィールド
「……く、くはあっ……吾輩は……吾輩は…………(ぽっ)」ドクターウエスト
 腐女子が喜びそうなシチュエーションになるのかどうか、微妙なところだ。
 ところが、部屋の隅で酒をくらっておとなしくしていた野獣の如き体躯の男がゆらりと立ち上がる。そして九郎の側に来ると、雄叫びをあげた。

「○〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜すっ!!!」カリグラ

 ぎょっとする一同。さすがにこいつのこれはシャレにならない。
「冗談じゃないぜ!!」
 正真正銘漢である九郎は、女の子を○るのは好きだが男に○られるのは嫌だ。尻の穴だけは純潔でいたい。故に、ライカをふりほどいて部屋を飛び出していく。無論、その後を巨漢が追っていった。ちなみに○には、読み方は違うが同じ漢字が一文字入るので、いろいろ想像してみよう。
「ダーリーン!! 待つロボ〜〜〜〜〜ッ!!」
「やれやれ、仕方のない主じゃのう……」
「あああああんっ!! 九郎ちゃん!! 捨てないでええぇぇ!!」
 後を追う者が数名、次々と部屋を飛び出していく。。
 なお、初めて九郎の女装を『素面』で見た部屋の主は、鏡の前で打ちひしがれながら呟いていた。
「ま……負けたわ………………」

 ところで、別の部屋にいた二人。
「む? 何か騒がしいな……」
「はぁ、はぁ、はぁ、マスター……もっと、……もっと私に……罰をお与え下さい……」
「ふっ、当たり前だ。今宵は寝かさぬと言ったはずだぞ」
「はい、マスター……」
 お盛んなようで。


「け、警部〜〜、自分は情けないであります!」
「ど〜したんだよ、スト〜ン君?」
「こんなワケのわからない連中に街を蹂躙され、さらにこんな情けない連中に守られていたなどと、納得できるものではありませんよ!! そしてそんな連中に手も足も出なかった自分が悔しくて……」
「まっ、しょうがないじゃない。彼らには力があって、我々には力がないんだから。アレは、人間を捨てた者故の力だよ。俺達は人間。それでいいじゃない」
「警部はまたそんなお気楽に……」
「そうきばりなさんなって。どうせ次はもうすぐだから、な。今はのんびりしようや」
 虚空を見上げ、どこへともなく呟く。


 大きく開けた窓から外を眺めているネス警部の視線上、青く澄み切った空の彼方に、わだかまる紅い闇があった。闇からは笑いの波が広がる。

「くすくすくす……
 さあ、物語を……物語を始めましょう………」



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