機神咆吼デモンベインSS
『苦労の螺旋』

by 梁 明


 ナイアルラトホテップの野望を挫き、悪夢の螺旋から世界を救った九郎とアルは、新たに紡がれる世界で愛の限りを尽くしていた。
「く、九郎……そ…そこは……」
「お、イキそうってか。んじゃちょっと遠慮して……」
「あん、や、……やめないで……」
「いやいや、さっきっからアルばっかりイッてるからな、もうちょっとじらして……」
「ああ……、そんなイジワルしなくても……」
 つまり、夕べからずっと二人でエッチなことをやり続けていたのだ。
 であるからして、当然、先程からかかっている電話のベルに全く気づいていなかった。九時から鳴り続けてすでに三十分が経過しているのだが。それも根負けしたのか、ベルの音が鳴りやむ。
「そんじゃ、今度は後ろから……」
「ひあああああぁぁっ!」
 繋がったまま向きを反対にされたアルは、ただでさえ一杯一杯だったのにそれまでとは違った刺激を受けて果ててしまった。
「あ、しまった。抜いてからひっくり返せばよかったか」
 後悔しても始まらない。仕方がないのでアルを抱え、繋がったままソファに仰向けになる。そして右手はアルの胸から股間までを優しく愛撫し、左手はアルの頬を軽く叩いた。
「アル、アル、起きろー。早く起きないといたずらするぞー」
 言葉と裏腹にもういたずらしているのだが、それぞれの手は止まることはなかった。

 十分たった頃、ようやくアルの意識が戻る。
「お、気づいたか」
「あ……、また妾だけイッてしまったか」
 言葉の端に、悔しさがにじみ出ている。
「汝にばかり主導権を握られるのはしゃくだな。今度は妾が……」
 そう言いながら体を起こそうとするが、
「くああああぁっぁっ!」
 身体の奥を刺激され、再び絶頂に達しようとしたまさにその時、

 ドガシャアアンッ! ゴンッ!!

 事務所のドアが吹き飛び、粉々になった破片のうち比較的大きな物、ドアの半分がアルの頭に直撃した。
「アル! だいじょ……ぐわああぁっ!! 痛い痛い痛い! アル! きつすぎるって!」
「やはりいらっしゃいましたね、大十字さん! 先程、あれほど電話を……きゃあああぁぁぁっ! 朝っぱらから一体何をなさっておいでですの?! 不潔ですわ!!」
「夜中にいきなり人ん家に乱入してきて何を喚いて、って、痛い痛い痛い痛い! アル! 聞いてるのか、アル!」
 瑠璃の言葉に反論しようとするが、あまりの痛さに九郎は何も言えない。必死でアルの身体を引きはがそうとするのだが、アルの中に入っている九郎の身体の一部が強い力で締め付けられているので、なかなか離れることができないでいる。
「瑠璃お嬢様、どうやらお取り込みのようです。ここは一旦、出直された方がよろしいのでは? って、すでにいらっしゃらないですね。では私もこれで」
「こらまて! いきなり夜中にやってきて人ん家をかき回したあげくにさっさと帰るなんざ、って、くあああぁっ! いっ痛ええぇぇぇっ!」
「えー、大十字様、一つ訂正が。現在は午前十時です。
 それと老婆心ながら。大十字様の陥っている状態ですが、『○痙攣』でしょう。一刻も早く病院へ行き、筋弛緩剤でも注射されるようお勧めします。早くしないと大十字様のその巨大な体の一部がちぎれて短くなってしまうことも有り得ますので。ではこれで」
 今度こそ本当にウィンフィールドは出て行った。
「こら待て! 俺をこのままにして置いていくなあっ! っていうか、今サラリと恐ろしいことを口にしたなあっ?!」
 このままでは九郎は、『男』として死んだも同然になってしまう。エセルドレーダ辺りならここで、「これであたしのマスターが最強♪(はぁと)」
 等と言って見下すように、それでいて愉悦をにじませるところだ。
「あ、マジやばい。感覚がなくなってきている」
 おかげで痛みも薄れてきた九郎。しばし考え、
「そうだ! 魔導士スタイルになれば……」
 早速九郎はアルにアクセスし、マギウススタイルへと変化した。

 ガインッ!!

「ぐあああぁぁっ!!」
 マギウススタイルになったはいいが、先程よりも更に強烈な痛みが襲って来る。辛うじて視線を落とすと、マギウススタイルになってなお股間でそそり立つ九郎の分身に、マギウスウイングが左右から挟み込んでいたのだ。
「こ、これじゃあさっきよりたちが悪い……」
 何とか左右のウイングの隙間に両手の指を割り込ませ、力任せに開こうとする。しかし、びくともしなかった。
 悪戦苦闘すること十分。丸一日もの精力と体力を消耗し、どうにもならないことを悟ると、はらはらと涙が滴り落ちる。
「俺は……このまま『男』として終わってしまうのかな……」
「汝、何を泣いておる」
「アル!」
「まったく、気づいてみればこの姿とは、一体何があったのじゃ?」
「……はあ……」
 九郎が事情を説明するとちびアルは顔を赤くし、
「汝のそれが大きすぎるのがいかんのではないのか?」
「じゃあ、もう少し小さい方がいいとでも?」
「そうは言っておらん!」
 どっちなんだよと溜め息をつきたくなるところであるが、とりあえず差し迫った危機に対応せざるを得ない。
「まあ、どっちでもいいから、これをなんとかしてくれ」
「う、うむ」
 マギウススタイルの九郎の身体から魔導書のページが離れて舞い、アルの姿へと容を作っていく。しかし、九郎のモノを締め付ける部分だけはまだくっついていた。
「なっ?!」
「これはっ?!」
 そのついていた部分だけが別に人の容をとる。その瞬間、九郎は右に灼熱を、左に極寒を感じた。
「クトゥグア?! イタクァ?!」
「久しぶりだ、主」
「たまにはこういう形での魔力の供給も良いではないか」
 二人そろって妖しく嗤う。
「いや、アルの目が怖いんですけど」
 九郎のそそり立つモノに左右からこれ見よがしに巨大な胸を押しつける二人、対して地獄の番人もかくやと言わんばかりの冷たい視線で見つめるアル。いやいや、こめかみに血管が浮いている所など、かな〜り怒りゲージが高まっているようだ。
「くっくっくっ、汝ら、妾の前で良い度胸だな……」
 簡潔に、完全に、完璧に怒りゲージを満タンにさせたアルは、肉体絡む九郎達に、最大級の魔力をたたきつけた。

「むにょげはあああぁぁっっっ!!」

 九郎の事務所は吹き飛び、更に一時間後にやってきた瑠璃を呆れさせた。ソファで包帯だらけになっている九郎を見下ろすのは寸前で避けていたクトゥグアとイタクァ。
「まだまだ修行が足りぬな、主」
「契約は早まったかも」
 などと渋い顔で九郎に赤チンを塗っているアルの後ろから眺めていた。
「はくじょうだろ、おまいら……」


合掌



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