あけおめことよろ 機神咆吼デモンベインSS
『天使が来たりて』

by 梁 明


「憎悪の空より来たりて」
「正しき怒りを胸に」
「我等は魔を絶つ剣を執る!」

 汝、無垢なる刃、デモ〜〜ンベイ〜〜〜〜〜ン!!

 舞台の背後からスモークが立ちこめ、それが晴れた時、そこにはアーカムシティの破壊神、デモンベイン(2メートルの模型)が立っていた。
「ブラックロッジの破壊ロボめ! デモンベインが相手だ!」
 マギウススタイルの九郎が、破壊ロボ(3メートルの模型)を指さす。
「ナ〜〜ニ寝言をほざいているか、大十字九郎! そんなものは昨日よりも十年昔に見ておいてちょんまげ! って、それじゃあ吾輩の方が十年早かったという事にな〜りおりはべりいまそかり?」
 相変わらず意味不明なドクターである。
「汝は相も変わらず意味不明よのぅ。九郎、遠慮は無用だ!」
「百も承知!」
「貴様が百なら吾輩は百億万も承知ということになるわけだから優秀度は最強?
 よって貴様に敗れるぶぎゃぼらうどひゃぐりぇおあああぁぁぁぁっ…………」(キラーン)
 九郎の手にあるバルザイの偃月刀がキ○ガ○ドクターをぶちのめし、同時に模型のデモンベインが右手の黒い銃を破壊ロボに向かってぶっ放す。ドクターは空のお星様となり、破壊ロボは瓦礫と化した。
「正義は勝つ!!」
 九郎とちびアルが観客席に向かってVサインを出すと、万雷の拍手と歓声が巻き起こる。ひねりもクソもない、タダの力押しギャグだ。

 ここは教会隣の空き地に設えられた、教会主催のクリスマス・チャリティー・バザー会場である。そこの舞台を利用して、子供達向けの劇をしているところなのだ。まあ、話も短い時間でできる内容にしなければならないので、ずいぶんと簡単に筋になっていて、結局は力押しのギャグに走ってしまった感がある。

 たった今も○チガ○ドクターがお空のお星様になってしまったが、まあ、ギャグ世界においては不死身を誇るドクター・ウエストのこと、これくらいのことで死ぬはずもなく、ひょいと舞台中央にいる九郎とエルザの背後から現れた。
「愚か者め!
 この!
 大!
 天!
 才!
 ドゥオオオオックトゥアアアアアァァァ!
 ウエスットゥォオオオオオオオオおおおおおお?」

 ぐしゃ……

 ウエストが大見得を切っている背後から、エルザが全力でハリセンをかました。ちなみにこのハリセンは、破壊ロボの装甲に使われているものと同じだったりする。頭骨が砕けて脳が飛び散った頭あたりから、信じられないほどの血を吹き倒れているウエストを踏みつけ、エルザが冷たく言い放つ。
「ダーリンに暴言を吐くなんて、いくら博士でも許せないロボ」
「あー、エルザ? そういうすぷらったーは子供たちの教育上あんまりよろしくないから控えるように」
 九郎の懸念したとおり、小さなお友達は顔をしかめながら引いていた。
「うん、わかったロボ、ダーリン♪(はぁと)」
 エルザが九郎に抱きついてくるが、九郎は全く取り合わないまま客席に向かう。
「さっ、これで悪は滅びたな」
「誰が滅びるかあっ!!」

 ドクター、大地に立つ

「なっ?! 動くのか?!」
「ええい、此奴は化け物かっ!」
 なぜか傷一つないドクターに対し、再び戦闘態勢をとる九郎とアルとエルザ。
「エルザああぁぁ! おまえを造った我が輩を敵に回すとは、なんたる親不孝なのだ〜〜!」
「たとえ生みの親であっても悪いことをしているのなら、それを正すのが子供の役目ロボ!」
「おお! 珍しく模範的なセリフだ!」
「台本があるからな」


 し〜〜〜〜〜〜ん


 お涙頂戴の家庭の事情・泥沼ドラマになりかけたものがアルの一言で台無しになり、会場が静まりかえる。
「アル〜〜、せっかくの舞台が台無しなんですけど」
「ダーリン! 珍しくって非道いロボ! エルザはこんなにもダーリンのことを想ってるのに!」
「まあ、事実だしな」
「貴様ら我が輩の話を聞け! っていうか聞いて下さい! って何で我が輩が下々の者に対して低姿勢にならねばならないのか! これは理不尽である!」
 九郎とアルがこそこそ話している周りでエルザとドクターが騒ぎまくる。観客もその見苦しさに顔をしかめ始めた。
「事実でも舞台で言っちゃいけないんだよ! お客は舞台に夢を見に来てるんだから!」
「ダーリンがその逞しい腕でエルザのことを抱きしめたのは遊びだったロボ?!」
「そもそもその台本からして気に食わん!」
「この世もあの世も全てひっくるめて三千世界の最高頭脳を誇るこのドクターウェストを虫けらの如き貴様らが何故にここまで貶めるのかという形而上学的にも相対性理論的観点からしてもあり得ない現象に先程から我が輩の魂は慟哭しているのであ〜る!」
 ここまで混沌とした状況(特にキ○ガ○ドクター)に、とうとう観客席の真ん中にいた誰かさんが立ち上がる。その俯いた様子は端で見ている者の心を凍えさせるのに十分な迫力があった。

「黙りなさい」

 さして大きくもない声であった。しかし、九郎達はその右手から発せられたビームにビビらされ、声を発した人物に従わざるを得ない。
「毎度毎度貧乏な教会に食事をたかりに来るくせに、せめてその恩返しをしてもらおうとしたらこのざまなの、九郎ちゃん? もう少しくらいは私の言うことを聞いて欲しかったわ」
 にっこり笑顔でそういうシスター・ライカに、会場に詰めかけた人々(無論子供が8割ほどいたが)は心の底からの恐怖に動けなくなっていた。幼い子供達などはおしっこをチビっているのも多数いる。右手をビーム砲に変えた笑顔のライカがこれほど怖いものだとは、誰も想像しなかっただろう。
「ま、待った、ライカさん! 俺達が悪かった! 今度はまともにやるから!」
「あ〜〜ん! ダーリンに傷物にされたら、エルザはどうやって生きていけばいいロボ!」
「だいたい台本がいかん。こんな力押しのギャグでは笑えるものも笑えぬわ!」
「我が輩の待遇改善を要求する! こんな人権どころか神をも恐れぬ所行はこの世に現れた救世主の如き天才的頭脳に対する……」

 ブチッ!

 切れた。
 笑顔のまま切れた。
 舞台にいる九郎達にも、大声で喚いていたドクターすらも思わず黙ってしまう程にはっきりと大きな音がして切れた。
「わかったわ、九郎ちゃん。じゃあ最後の突っ込みはあたしがやるわね」
 天井の女神もかくやと想わせる美しい微笑みのまま、ライカはこうつぶやいた。

「変神」 

 全身が白く輝き、シスター服が原子に分解されるとムチムチプリンな裸体にボディースーツが体を覆い、さらに全身を装甲が覆っていく。プルルンな胸とプリリンなお尻を面影に残し、ライカはメタトロンになった。
「シスター……」
「なんでメタトロンが……」
「お姉ちゃん、きれい〜」
 観客達は初めて、ライカがメタトロンであることを知る。メタトロンは両腕を巨大なビーム砲へと変化させていった。メタトロンの前にいた観客達は、慌てふためきながら左右へと避難していくが、九郎達は蛇に睨まれた蛙の如く、その場を動くことができずにいる。

 キイイイイィィィィィィン

 ビーム砲に光が収束し、エネルギーが最高にまで高まっていく音が響いた。そして、
「あなたたち! いいかげんにしなさい!」
 突っ込みの言葉と共に、ビームが放たれた。


 教会の側からアーカムシティの端までを幅二十メートルの範囲で蒸発させたこの事件は、「ブラッディ・クリスマスの惨劇」と後々にまで語り継がれることになった。そしてそれ以来、聞き分けのない子供を母親が叱るときにこう言われるようになったという。

「こら! 言うことを聞かないと、メタトロンが来るよ!」と。



「う〜〜ん、う〜〜ん、ライカさん、ごめんなさい〜」
「ああっ! ダーリン! 身も心もダーリンに熔けていくロボ〜〜」
「神の光が……地獄の炎が………うぎゃああああぁぁあぁぁぁっ!!」
 全身を包帯でぐるぐる巻きにされた重傷者が呻っている。側にはアルとライカがいた。
「なあ、汝、少しやりすぎではないか?」
「てへ」
 ジト目のアルに、ライカはいつもの笑顔で小さく舌を出した。



 合掌



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