機神咆吼デモンベインSS(Sin's Library三次小説)
『遥か遠く夢見た場所へ――(前編)』

by ヒカワ・カイト


誰かが言った。人外が闇に潜むのではない。闇から彼らはやってくるのだと。
そんなことを思い出させる裏路地で、ふと足を止めた。
買い物帰りで近道しようと思ったのがそもそも間違いだったのかもしれないが、
今更そんなことを言っても仕方が無い。

「誰かは知りませんけど、手を出してくるつもりなら容赦しませんよ。」

買い物袋を脇に置く。
静かに左手を上段へ、力をこめて右手を握り下段へ、天上天下の構えにてビルの陰に潜むものに意識を集中する。

「たまたま出くわしただけならば、静かに消えろ。」

とりあえずは警告を告げる。
が、続きを言うよりも早く敵が動いた。
パッと見て思ったのは小さい人型。スピードも速いといえば速いが、脅威を感じるほどではない。
一直線に向かってくるそれに対して何をする必要は無い。
最適かつ最高のタイミングでカウンターを狙う。
狙うは相手の攻撃の瞬間、明らかに自分より下位の敵は何が起きたかも分からぬまま絶命する。

「っく・・・!」

その脇から小さいのが更に二体。
完璧に不意をつかれたが、それでもなお驚異にはなり得ない。

「破ァアアアアアアアアアア!!」

軸足が地面にめり込まんばかりの勢いで回し蹴りを繰り出す。
奇襲を仕掛けた脅威は一転、宙に浮かぶ的に成り代わる。
為す術もなく壁に叩きつけられたそれは断末魔を上げる間もなく息絶えた。
三度目の奇襲に備え周囲を探るがどうやら他にはいないらしい。

「なんなんだ一体・・・・?」

この街で当たり前なはずの怪に首を傾げながらも、リューガは脇に置いた買い物袋を拾い上げた。



−*――*――*−



誰かが言っていた。災厄とは世界のあらゆる時と場所に巡るものだと。

「久しぶりのアーカムシティだね。ダディ。」
「あぁ、そうだな。いない間に色々あったらしいが、それでこそのアーカムだ。」

高度数百メートルを超高速でかける戦闘機の上に立つ老人が戦闘機の声に答える。
世界中に散らばる邪神崇拝教団を駆逐するためにアーカムシティを離れはや数ヶ月。
その間の街の状況をアーミティッジ教授から聞いていてはいるが、
その大半にあの青年が関わり、解決したらしい。

「そういえば、アル・アジフに子供ができたんだってね。」

ちょうど同じ人物を思い浮かべていたらしい。
かつての教え子、大十字九朗。一時は魔の世界から離れたと思っていた青年は、
ある日唐突に戻ってきた。しかもマスター・オブ・ネクロノミコンとして、その恋人として。
いや、流石に様々な怪と出会ってきたがあれには驚いた。

「どんな子だろ?」
「さてな、まぁ楽しみにして――――レディ!」

突如として飛来した敵意に身構える。
数キロ先の前方。まだ黒い点にしか見えないそれは明らかな敵意を持ってこちらに迫る。
この速度で接触は数秒後になる。

「問題は?」
「大丈夫だ。すれ違いざまで決める。」

スピードは緩めず。上げもせず。研ぎ澄ますのは集中力と魔力のみ。

「来るよ!接触まで約五秒!」

五―――― 練り上げた術式を世界に展開。
三―――― 呼応して大気が束ねられ、意思の元に刃へと変化し。
一―――― 一瞬で其れは意味を成し、そして終わる。

「喝ぁぁっ!!」

一喝の瞬間に、翼が生えた“それ”に烈風が奔る。秒にも満たぬ間に四度。
反撃のまもなく八等分、まさに瞬殺。

「なんなのだ一体・・・・?」

答えるものは無く、ただ風が恐れているかのように吹き荒れるだけだった。



−*――*――*−



私は助けを請われてしまった。
助けてください。子供がいるのです。
助けてください。妻が帰りを待っているのです。
助けてください。痛いのは嫌なんです。
助けてください。死にたくないのです。
助けてください。お金ならありますから。
助けてください。誰か別の誰かにしてください。
助けてください。叶えたい夢があるのです。
なるほど確かにその表情はいずれも酷いものだ。苦しさも相当なものだろう。
そして、私は答えを返した。

ならば私が助けましょう。しかし、誰かを討つしか助ける術をしりません。



−*――*――*−



「すでに今週に入って報告されているだけで怪との遭遇した件が43件。
直接的な危害を加えてきたケースが17件。
有害な瘴気にて一定範囲を侵食するケースが22件。
霊的な反応だけならば町中に散布しており依然増加中、把握仕切れていません。」

報告を聞き終えアーミティッジはため息をついた。異常の街で起こる異常。
それがここ最近、急に件数が増加しているのだ。
その数はその世界なら知らぬもの無く秘匿される
この『ミスカトニック大学図書館特殊資料室』でさえ把握が追いつかないほどになってきている。
現状、既に後手に回りながらも手に余る状況で、原因の特定するところまで手を回すことが出来ない。

「それでまた妾達にお鉢が回ってきたわけか。」

アル・アジフが茶菓子を頬張りながらぼやく。

「まぁ、覇道の方からも同じ依頼がきてるけどさ。」

その夫、大十字九朗がその菓子を袋につめながら付け足す。相変わらず貧困にあえいでいるようだ。

「そういうことだ、発生した怪についてはこちらで対処する。
そっちには原因となる現象もしくは魔術師の捜索、対処をしてもらいたい。」



−*――*――*−



私は助けを請われてしまった。
助けてください。子供がいるのです。
助けてください。妻が帰りを待っているのです。
助けてください。痛いのは嫌なんです。
助けてください。死にたくないのです。
助けてください。お金ならありますから。
助けてください。誰か別の誰かにしてください。
助けてください。叶えたい夢があるのです。
なるほど確かにその表情はいずれも酷いものだ。苦しさも相当なものだろう。
そして、私は答えを返した。

ならば私も助けてください。人が愛おしくて殺したいのです。



−*――*――*−



「また今回も厄介な事件になりそうだな・・・」
「まぁ、うろついているのはいずれも小物だ。数は多いがそう構える必要もあるまい。」
「そうだな。どっちにしても捜査は明日からだ。はやいとこリルを迎えに行こう。
もう、完全に日が落ちちまった。」

今日のように仕事がらみの時はリルをライカさんのところに預かってもらっている。
連れていくときもあるのだがやはり大人の集まりにいるよりも、
がきんちょ共と遊んでいるほうがいい。
ちなみに、現在イタクァとクトゥグアは覇道からの依頼でアーカムを離れている。

「でもなぁ・・・最近ライカさんの影響で演歌にあの歳でハマルのはどうかと思うんだよなぁ・・・」
「うむ・・・それは妾も心配だ・・・・・」

このままライカさんのようなキャラになったらどうしようかアルと頭を抱える。
いや、ホントに嫌だぞ娘が極度の妄想癖なんて。

「――――ん?」

ふと、顔を上げると数メール先でおかしな二人組みがこちらを睨んでいた。
一人はアル位の少女。
雪のように白いショートの髪の隙間から力強い輝きのあるブルー・アイが覗いている。
その美妙な顔立ちはしかしながら、軽装の甲冑と、自身の背丈程もある秋水の剣という組み合わせで色あせている。
もう一人は俺よりも少し年下の――――大体17、8といったところだろうか?――――
青年。こちらはGパン、に随分とボロボロになっているジャケットを羽織っただけの格好。
あまり良い思い出の無い金髪と少女と同じ青い瞳。
しかし、少女のような力強さや輝きは見えず、深く底が見えない。
そしてそのどちらもが紛れも無くこちらに敵意を放っていた。

「喜べ九朗。捜査の手間が省けたぞ。」
「余計に泥沼にはまってる気がするけどな。」
「・・・オリジナルネクロノミコン、アル・アジフ様とその主
マスター・オブ・ネクロノミコン、大十字九朗様とお見受けいたします。」

凛とした鈴のような声で少女が口を開く。

「うむ。違いないぞ。」
「初対面ながら―――― 失礼っ!!」

問答も無く、少女が駆ける。数メートルあった距離を一呼吸の間に詰め、
アルに切りかかった。

「っく・・・・!」
「アル!」

その異常な速度に不意を衝かれ、反射的にアルの前に防御陣を展開する。
だが、少女はそれを気に留める様子も無く、その剣を振り抜く。

「なっ――――!?」

鉄壁の筈の防御陣が一太刀に両断する。
とっさに張ったとはいえアンチクロスの攻撃だって凌いだんぞ、オイ!

「アルッ!」
「応!!アクセス!」

息をつくまもなく二の太刀が迫るが、こちらも驚かされてばかりではない。
瞬時にマギウス・スタイルへと姿を変える。

「クトゥグア!!」

同時にクトゥグアを少女との間の地面に撃つ。
砕かれた破片が少女に襲い掛かるが、それを明らかに余裕を持ってかわしていく。
そんなの、さっきの動きで予想済みだ。

「イタクァ!!」

飛び散る破片の隙間を縫うようにイタクァの弾丸を繰り出す。
回避は不可能―――― と、俺は間違いなく確信していた。

「はあぁぁぁぁああ!!」

しかしながら少女はこちらの予想を遥かに上回った。
一喝と共に起こったのはまさしく神速の剣舞、破片もイタクァの弾丸も、
一瞬の間に砕き、弾かれる。
速すぎる。目で追うことも出来なかった。

「気を引き締めろ九朗。手強いぞ。」
「あぁ。」

幸い、距離をとらせることには成功したようで、少女は大分後退していた。
青年のほうは一歩も動いていない。

「・・・・・どうやら男の方は手を出してはこないようだな。」

その様子を見てアルがつぶやく。とはいえ、まだ油断は出来ない。
再び、少女が剣を構え駆け出す。どうやら武器は剣だけらしい。
オーケー。付き合うぜお嬢さん。

「ツァール!ロイガー!マギウス・ウィング!!」

二刀一対の剣を呼び出し、更に背中の翼を構える。
速さで及ばないならば手数で攻めるのが常等。

「おぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「――――――――」

こっちは勢いに任せた怒涛の攻め。
少女は旋風の如くその身に不釣合いな剣を巧みに、そして常識外な速度で
冷静に全ての攻撃を受け流し、かわす。

「そこだぁ!」
「――――っ!?」

数十秒の攻防。しかし、流石に体格差とパワーで一瞬少女をたじろかせる。
その瞬間を見逃さず、すかさずロイガー、ツァールを重ねて投擲。
膝をつきながらも少女はそれを剣で弾く。
だが、その致命的な隙を見逃すほど甘くは無い。
投擲すると同時に召喚したバルザイの偃月刀を握り締め追い討ちをかける。
流石に少女の表情は険しくなり、体勢を立て直そうとするがこちらのほうが圧倒的に速い。

「安心しな。加減はするさ。」
「必要ない。」

少女に向けての勝利宣言だったのだが、答えたのは傍観していたはずの青年だった。
その気配に視線を向け、その手に持っていた物を見て驚愕する。

「イタクァ――――」

白銀の魔銃の名を告げ、六筋の閃光が奔る。しかしそれは、俺の手から放たれたものではない。

「そんな馬鹿な!?」

アルが目に見えて狼狽する。
青年の握る魔銃は間違いなく唯一無二の、エンネアから貰った暴君ネロの魔銃。
その効果も間違いなく本物と同じく、容赦なくデタラメな軌道を描いて襲い掛かる。
咄嗟にマギウス・ウィングを球状にしてアルと自分を包む、
貫通する威力は無いが着弾した場所が凍っていくのが伝わってくる、こいつそんな効果まで・・・

「相手の魔術を真似るのか・・・?」
「馬鹿者!汝が使うのはそんなことが出来るレベルの魔術ではない!
妾の記述とはいえ、旧支配者の力を顕現しているのだぞ!?」
「そんなに狼狽しては小物に見えるぞ。マザー・ネクロノミコン。」
「ったぁああああ!」
「ちくしょ!また!?」

防御を解いた瞬間に態勢を立て直した少女と青年が迫る。
青年の手にはイタクァは無く、代わりに握られているのは
今、俺が握っているのと寸分の違いも無いバルザイの偃月刀。
っていうか、この状況はやばい!

「吹っ飛べ!」

追い詰められかけた俺を助ける為、一瞬アルが魔力波を放つ。
それを少女は変わらぬ神速をもってかわし、青年は偃月刀を投げつけ相殺し、
後方へと飛び退く。だが、ここで攻めきるつもりらしく、左手を突き出し静かに告げる。

「Sarnga――――。」

刹那に魔力があふれ弓矢が青年の手に納まり、間髪いれずに射る。
舐めんなよ、いくらなんでも弓矢ぐらいで!

「マギウス・ウィング!!」

翼を盾状にして矢に構えるが、再び予想外の展開となる。
マギウス・ウィングを物ともしないどころか、全く威力を衰えさせた気配も無く貫通したのだ。

「!? あつぅ!?」

身を捻ってギリギリの所をかわして、その理由がわかった。
この矢自体が無茶苦茶な温度を発している。
クトゥグアやレムリア・インパクトの様な破壊力とはまた違う、一点集中の超高温。
なるほどこんな超高温ならちょっとした壁など容易く突破するだろう。

「つっても、まともな魔術じゃねぇな。」

そう呟いて魔術にまとももクソも無かったなと思う。
こんな事を考えていられるのは、まぁ、まだ余力を残しているからだったりする。

「一気に決めるぞ九朗。不可解な魔術を使うこやつ等相手に長引けば不利になるやもしれん。」
「おう!」

今まで様子見として抑えていた魔力を一気に開放する。
やはり、こういうチマチマした真似は性にあわないようだ。

「イタクァ!クトゥグア!!」

両手に呼び出すのは破壊の咆哮と死の息吹。力量は既に理解した。加減は無しだぜクソ餓鬼!

「っ!?」
「なんと――――!?!?」

ためらいもセーブも無く両方の引き金を引く。
マズルフラッシュと爆音、それに伴う爆発と粉塵が少女と青年を包む。
さぁ、

「詰んだぜ、お二人さん。」

再び弾を込めた魔銃を“動けなくなった”二人に向ける。
もちろん怪我をしているわけではない。というか二人には一発だって当ててはいない。

「捕縛魔術・・・?」

身を捩じらせながら少女がうめく。
アトラック・ナチャ。アルの記述の一つで対象物を拘束する魔術。
それを何重にも粉塵にまぎれてかけたのだ。少々抗ったところで動ける訳は無い。
そのことを悟ったのか青年が力を抜くようにため息をついた。

「・・・・・ふぅ。流石に強い。」
「こいつは真似しねぇのか?」
「――――これは対象外だ。それに勝つことが目的じゃない。」
「では、汝の目的とは何だ?」
「その前にこれを解いてくれ。いきなり襲い掛かって悪かったが、もう攻撃はしない。」

微妙に皮肉っぽさを感じる笑みを浮かべて青年が外してくれとジャスチャーする。
確かにどちらにも先ほどまであった敵意は無く――――初めからだが――――邪悪な気配も無い。

「九朗。」
「あぁ。」

アルも同じように考えていたようで、お互い顔を合わせてから、二人の捕縛を解いた。
と、いきなり少女が膝をついて頭を下げる。

「ちょ、あんたいきなり・・・」
「いえ、まずは無礼の謝罪を。そして主の言葉を信じてくださったことに感謝を。」

そう言って少女はいっそう深く頭を下げる。相当堅い性格してるなこの子。

「そして――――」

頭を上げてもらおうと声をかけようとして、
今度は青年が――――こちらは立ったまま――――口を開いた。

「そのマスター・オブ・ネクロノミコンとしての力を借りたい。
この街に迫る危機を防ぐ為と、我が仇敵を討つために。」

そう言った青年の表情は、先ほどの皮肉さの欠片も無く、ただ、真剣そのものだった。





【あとがき】

はじめまして、こんにちはヒカワ・カイトです。
Sinさんのデモンベインの二次小説を読ませていただきながら、
ずっと構成が頭にあった三次小説をSinさんの許可をいただき書かせていただくことになりました。


とはいえ、なんだか思惑を外れて大きな話になっていきそうです(汗)


本当は一話完結、もしくは前後編で終わる話の予定でしたが前・中・後くらいになりそうな勢いです。
しかし、この後は比較的スムーズに進めそうです。
オリキャラとして登場した青年と少女の素性、能力は次話明らかになります。

最後に、このような機会を与えてくださったSinさんに感謝をしつつ、
今回はこの辺で失礼いたします。

ヒカワ・カイト



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