斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第12話 魔を断つ剣
アーカムシティーの空を、巨大な魔法陣が埋め尽くす。
それらは幾重にも重なって回転しつつ激しい光を放ちながら収束していき、全てが1つの光となった瞬間……
「あ、あれはっ!?」
姫さんの驚きの声。
俺達の身体が光になって魔法陣へと吸い込まれたからだ。
一瞬の輝き。
それはまるで太陽の光のように辺りを照らし出す。
そして……
「う………アル……?」
一瞬遠くなった意識にぼーっとした頭を振り周りを見回す。
「ここは………!? まさか、ここは!?」
「う……九郎……」
「気が付いたか、アル?」
「ああ、ここは……」
そう……ここは……
「「デモンベインの中だ!」」
懐かしい感触。
この空気。
そして周囲に広がる計器類。
何もかも、あの頃のままだ。
「はぅぅ……リル、どうなったのぉ?」
その声にハッとして見ると、アルに抱きしめられていたリルが辺りをきょろきょろと見回している。
「リルも一緒だったんだな。よかった」
ホッとして呟くと、リルは俺に笑って両手を振ってくる。
「……デモンベイン……またお前に会えて嬉しいよ……」
リルに軽く手を振り返して俺がそう言った瞬間、デモンベインの駆動音が激しく高まった。
「許奴も喜んでおるようだな、九郎!」
「ああ! これで俺達は何があっても決して負けねぇ! 俺とアルとデモンベイン。これだけでも無敵だったんだ。ここにリルまで加わった今の俺達が負ける事なんて絶対に無い!!」
全身に魔力が漲る。
そしてその魔力はアル、そしてリルの中で更に増幅され、デモンベインの全身を駆け巡った。
「行くぞ、アル! リル! 俺達の力を、奴等に思い知らせてやる!!」
「応ッ!」
「うんっ!」
俺達の意志に答えるように、デモンベインがその姿をアーカムシティーに顕現する!
エメラルド色に輝く髪をなびかせ、空を切り裂きその巨体が大地に降り立つ。
その衝撃に地面は陥没し、周囲の建物は窓ガラスが一斉に吹き飛んだ。
「待たせたな、腐乱野郎。ここからが本番だ」
「散々いたぶってくれた礼、汝にしっかりと返してやろう。万倍返しでな!」
ゆっくりと立ち上がるデモンベイン。
輝く眼に宿る確かな意志に見つめられ、ベルゼビュート―ティベリウス―は怯んで後退る。
『な、な、なに、なんなの、なんなのよ、それはぁぁぁぁぁっ!?』
「ば…かな……」
パニック状態のティベリウスの声。
そしてウェスパシアヌスもデモンベインの姿に声を失っている。
そして……
「あ…ああ……っ……大十字……さん……」
「これが……大十字様の……」
「九郎ちゃん……凄い……」
「すっげぇぇっ、かっこいい……かっこいいよ、九郎!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ……」
「あ……ぁぁ……神…様?」
呟くみんなの声に、俺は苦笑して答える。
「応よ! 邪神共を打ち砕く善なる神、魔を断つ剣。
それが…デモンベインさ!!」
俺の声はデモンベインのスピーカーを通して、アーカムシティー中に響き渡り、怯える人々へと届く。
それは街の治安を守る者達の耳に……
「デモンベイン……」
「ネス警部! あれは、一体!?」
「さっき本人が言ってただろ? どうやら俺達の味方って事だ。ヒーロー様のお出ましだな」
「何を悠長な! あんな巨大な物が戦ったりしたら、この辺り一帯にどれ程の被害が出る事か!!」
「まぁまぁ、そう熱くなるなって、ストーン君。それよりも今はこの辺りの住民の避難が先決だろ?」
「ぐ……うぅ……た、確かに……」
「んじゃ、行くぞ。俺達に出来る事は、精々あのヒーロー様の邪魔にならねぇように周りを片づけておく事くらいだからな」
「うぅ……我々治安警察の威信は……使命は…」
「考えるより先に行動。そうじゃなけりゃ君らしくないぞ、ストーン君」
「くぅ……了解…」
怯え、弱き者を見捨て逃げようとしていた者達の耳に…
「お、おい、俺達にもせめてこの辺の人くらい助けられるんじゃないか?」
「ああ、あんな化け物が相手じゃなきゃ……」
そして覇道邸にある市内の防犯用モニターの前ではメイド達がその光景に見入っていた。
「うわぁ……かっこいいですぅ」
「うぅぅぅっ、あんな凄いロボット造ってまうなんて、一体どういう人なん、彼!?」
「彼が造った訳ではないでしょう。どこからか呼び寄せたように思えました」
「くぅぅぅっ! うちもあんなかっこいいロボット造りたい!! 技術屋の魂が、こう、メラメラと燃え上がってきよるんや!!」
そして……戦場では……
『な、何が魔を断つ剣よ、デモンベインよ! そんな物、この【妖蛆の秘密】が鬼械神、ベルゼビュートの前ではガラクタ同然だという事を教えてあげるわ! スター・ヴァンパイア! 暴食せよ!!』
その瞬間、俺はベルゼビュートから飛来する殺気を捉えた。
確かに見えない。だが……
対処方法なら、嫌という程よく知っている!!
「バルザイの偃月刀!」
召還と同時に一閃。
一瞬の後、デモンベインの周囲に無数の爆発が起こった。
『な、なぁぁっ!? な、何故!? なじぇぇぇぇっ!?』
「ふぇ? なになに?」
不思議そうなリルに苦笑すると、簡単に説明してやる。
「奴の迷彩兵器。つまり姿の見えない武器の事だな。それが近くまで寄ってきてるのを感じたから、俺は偃月刀を召還していっぺんに切り捨てたってワケさ」
「ほぇ? でもでも、なんで見えないのにわかるの?」
「まあ、そこが俺の天才的な所って奴かな」
「うわぁ、パパって凄いんだね〜っ!」
「うんうん、その通り。リルはよく解ってるねぇ」
「えへへっ♪」
本当に嬉しそうに笑うリル。
すぐにでも抱きしめて撫でてやりたいが、今の状況ではまあ仕方ない。
とりあえず、その笑顔で我慢しておこう。
「九郎、それは良いのだが……」
「ん? どうした、アル?」
「彼奴、放っておかれて、怒り心頭のようだぞ」
「ををぅ、そういえば」
「忘れておったのか?」
「いや、意識の外に出てただけだ」
「……出すな〜〜〜っ…と言いたい所だが…まあ、よかろう。彼奴の事など、リルのこの笑顔に比べれば大したことではない。とりあえず捨て置け」
「応っ」
アルにそう応えて、とりあえずこっちの事に集中しようとしたその時。
『嘗めた事ぬかしてんじゃないわよ、バラ餓鬼ィィィィィッ!!』
いきり立って襲いかかってくるティベリウス。
怨霊呪弾を前触れもなく放ってくるが……
「緩いな。魔法障壁!」
デモンベインの前に描かれる五芒星形の魔法陣。
それは全く輝きを薄れさせることなく、完全にティベリウスの攻撃を無効化している。
「まったく……結局その程度かよ……あれだけ多くの命を奪って手に入れた力が、その程度なのか?」
「うぅぅぅぅぅぅっ、あれ嫌い!!」
呆れたように呟いた俺に続いてリルがそう言った瞬間だった。
デモンベインの心臓とも言うべき【銀鍵守護神機関】が激しい駆動音を上げ、その引き出された強大な魔力が俺に注ぎ込まれる。
「リルの為にもさっさと彼奴をブッ飛ばせって事か、デモンベイン!」
俺の問いに答えるように、デモンベインが咆吼を上げた。
「ンじゃあ、ご期待に応えてやろうじゃねぇか!! 行くぞ、アル! リル!!」
「うむ!」
「うんっ!」
「断鎖術式1号ティマイオス、2号クリティアス、解放!!」
その瞬間、デモンベインの周囲の空間に異常が起こる。
ある一定の範囲に限って時間の逆行と巡行が繰り返され、それがピークに達した瞬間、激しい衝撃と共にデモンベインは猛烈なスピードで疾駆した。
『な、なんですって!? こ、このっ!!』
向かってくるデモンベインを迎撃しようと触手で襲ってくるベルゼビュート。だが…
「っぇぁあああああああああああああっ!!」
重力制御で一瞬にして方向転換。
空中に舞い上がったその勢いのまま、二基のシールドのエネルギーをベルゼビュートに叩きつける。すなわち!
「アトランティス・ストライク!!」
その強大なエネルギーがベルゼビュートの腕を粉砕し、それだけに留まらず本体さえも弾き飛ばす。
『ぎゃああああああああああっ!!』
「バルザイの偃月刀!!」
召還した偃月刀を続けざまに振るう。
縦横無尽に。ベルゼビュートの身体が崩れるよりも早く。
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬ッ!!
『マダ……マダァァァァァッ!!』
「あそこまでバラバラにされても、まだ生きているというのですか!?」
「なんという化け物……」
恐れ戦く姫さん達。
だけど心配する事なんかねぇ。
デモンベインを得た俺達は……無敵だ!
「クトゥグァ! イタクァ!!」
更に二丁の銃を両手に召還し、顕現すると同時に一斉発射。
『コ、コ、コンナモノデェェェッ』
形すら定まらなくなったベルゼビュート。
だが、まだ倒れない。
更に再生を繰り返していくらでも襲ってこようとする。
ならば!!
「アル! レムリア・インパクトで決めるぞ! ヒラニプラシステム、アクセス!!」
「わかった! ヒラニプラシステム、アクセス。ナアカルコードキー認識。術式解凍! いいぞ、九郎! 存分にぶちかましてやれ!!」
「よっしゃあっ!! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
デモンベインの両手が剣指を結び、頭上高く掲げられそこから扇を開くように左右に展開。それに伴って背後に魔法陣が展開する。
そして周囲は結界に包まれた。
「光差す世界に、汝等暗黒住まう場所無し!」
右手に集う魔力。
それをベルゼビュートに向けて構える。
「乾かず、飢えず、無に帰れ!!」
デモンベインが疾駆する。
正体の見えぬ恐怖に怯えて放つティベリウスの攻撃などものともせずに。
「レムリアァァァァ・インパクトォォォォォォォォォォッ!!」
その瞬間、振り上げられたベルゼビュートの腕に、デモンベインの右手が叩きつけられた。そしてその全身に『レムリア・インパクト』の力が巡ろうとしたその時。
『ヒ、ヒィィィィィィッ!!』
「昇華!!」
アルがそう宣言した瞬間、ティベリウスはベルゼビュートの腕を肩ごと引きちぎった。
一瞬遅れて激しい閃光。
「やったか?」
「否、まだだ」
その答えを確かめるまでもなく、消えた結界の中から現れたのは、左肩から先が完全に消滅したベルゼビュートの姿だった。
「ったく、相変わらずしぶといな」
「パパ……」
「心配いらないよ。あんな奴、すぐにやっつけてやるから」
「う、うんっ♪」
「アル、もう一度決めてやる。レムリア・インパクト、行くぞ!」
俺の言葉にアルが応えようとしたその時……
「そこまで、そこまでだよ、マスター・オブ・ネクロノミコン」
「ん?」
「パパ、あれ!!」
リルの声に俺が目をやると……
「なっ!? あ、あれは!?」
思わず驚愕する。
俺の視線の先――病院の壁と言わず窓と言わず、一面にとりついている邪神の眷属。
その数はゆうに1000を超えているだろう。
「そうだ、そうだよ。君達に先程滅せられた邪神の眷属だ。だが、甘かった。いや実に甘かったのだよ。いかに、いかに倒そうとも、私がいる限りはいくらでも召還し続ける事が出来るのだからね」
「ちぃっ、ぬかったわ!」
ウェスパシアヌスの言葉に、アルが舌打ちして睨み付ける。
「君達に出来る事は2つ。1つはこのまま彼らを見捨て、ティベリウスを葬り去る事。そしてもう一つは、君達が私達に降伏し、そのデモンベインを差し出す事」
「なっ……!?」
「なんだと!?」
「さぁ、どうする、どうするかね? 降伏か、友人の死か。2つに1つだよ」
『フ、フフフ……いいわ、いいわよ、ウェスパシアヌス。このまま動けなくしておいて。九郎ちゃんは、このアタシが念入りにいたぶりにいたぶり尽くして殺してあげるわ』
「くっ……」
「なんとか……ならんのか……」
俺達が歯噛みしたその時だった。
「我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)!!」
空を切り裂く閃光。
そして爆発。その一撃で、病院の壁に張り付いていた邪神の眷属が数十匹まとめて打ち落とされた。
「なっ、なんだと!?」
「「エルザ!?」」
驚く俺達の目の前で、エルザは更にその魔法兵装を構える。
「ダーリン、援護するロボ!! 我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)拡散モード!!」
炸裂する閃光。
そして拡散したその光は狙い違わず邪神の眷属を数百匹まとめて消し去った。
「ば、馬鹿な……」
絶句するウェスパシアヌス。
そしてその隙をエルザが見逃すはずもなく……
「我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)!!」
「なっ!?」
その爆発がウェスパシアヌスを飲み込んだ……だが……
「謳え! 呪え! ガルバ! オトー! ウィテリウス!」
「あぶねぇ! エルザ!!」
「ロボ!?」
俺の言葉にとっさに飛び退くエルザ。
間一髪、エルザは髪の毛を少し刻まれただけでなんとか逃れる。
「よくも、よくもやってくれたな……ならば私の鬼械神『サイクラノーシュ』をもって、お相手しよう!」
激しい衝撃と地鳴り。
そして地面の下から現れたのは……まるで蜘蛛のような形の鬼械神、サイクラノーシュ。
ウェスパシアヌスはその上に飛び乗ると遙か上空から見下ろしてくる。
「貴君等ではこの高さまで到底届きはすまい。さて、どうしてくれようか……」
「九郎、やれるな?」
「当然だ」
強く頷いてみせる。
それに笑みで応えてくるアル。
「凍てつく荒野より飛び立つ……」
「待った待った、待つのであ〜〜〜〜る!!」
不吉な声がした。
そして響いてくるバイクの排気音とギターの音。
いや、認めたくないが……
「この戦い、吾輩に任せるのであ〜る!」
現れた。現れてしまった。
歩く災害が。大天災が。
居るだけ邪魔なだけなんだが……
「やめておけ。我等にいつもあっさり負けておる汝に彼奴の相手は勤まらぬ。怪我をする前に引っ込んでおれ」
「そうはいかんのである。それよりもなんであるか、そのロボットは……」
「デモンベインがどうかしたのか?」
「美しくない!」
「「「「「お前に言われたくない!」」」」」
ウェストの言葉に、俺、アル、姫さん、執事さん、ライカさんの5人の声が揃った。
「博士の美的センスは人間の域を大きく外れてるロボ」
トドメのエルザの言葉。
「うわーーーーん、みんなが虐めるよぅ、ママぁ!」
そのまま走り去ろうとするウェスト。
「って、お前は何しに出てきたんだっ!!」
「おお、そうであった。そうであった」
ポンと手を打つウェスト。
何を思いだしたんだか知らんが、傍迷惑なんだろうな……
「大十字九郎。空の奴は吾輩に任せるのである。貴様はさっきの奴にトドメをさすのである」
「だから、お前じゃ無理だって。それに、破壊ロボじゃ空は飛べねぇだろ?」
「甘いのであ〜る。男子たるもの、3日合わざればアテェンションプリィィィズ。問題などとっくに解決、破壊ロボは生まれ変わったのである」
「生まれ変わった?」
「今こそ戦いの時なのである。エルザ!」
「わかったロボ……」
何故か恥ずかしそうなエルザ。そしてその理由はすぐに明らかになった。
「カ、カムヒアァァッ、ロボ!」
思いきり真っ赤になって叫ぶエルザの声に導かれて、1個の巨大ドラム缶が空を飛んでくる。そしてエルザの目の前で変形すると、翼の付いた破壊ロボへと変形した。
「……エルザ、恥ずかしくないか?」
「……恥ずかしいロボ……」
真っ赤になって答えるエルザ。
「だよなぁ……」
「えひゃ〜っひゃっひゃっひゃっひゃっ。どうであるか? 飛行機能並びに変形機能、そして自動操縦機能まで搭載した超進化型破壊ロボ、スーパーウェスト28号MRX〜飛んで行くのさどこまでも〜の性能の前に言葉もないであろう……だぁぁぁがしかし。落ち込む事はないのである。なぁに、吾輩が天才過ぎるだけであって、たかだか凡人では到底到達出来ぬ高みにいる吾輩と同等の事が出来ぬ事は当然なのである」
「博士、うるさいロボ」
「がーん」
「ダーリン、上のはエルザに任せるロボ」
「だ、だから無茶だって……」
再度止めようとした俺だったが、振り返ったエルザの表情に言葉を失った。
「……みんな……エルザの目の前で殺されたロボ……」
「エルザ……」
「リーザは……エルザに初めて出来た妹だったロボ……それを……それを殺した彼奴だけは、絶対に……絶対に許さないロボォォォォッ!!」
エルザの頬を伝う光。
「………お姉ちゃん……泣いてる……可哀想…」
その様子に、リルも涙ぐむ。
優しくアルに撫でられると、泣きながらギュッと抱きついた。
「……分かった……エルザ、無理するなよ」
「ダーリンも頑張るロボよ」
僅かに微笑んでそう言うと、エルザはウェストの襟首を掴んで破壊ロボのコクピットに引きずり込む。
「はぎゃらぶっ!? エ、エルザ、もうちょっと優しく扱うのである……」
「遅いロボ」
一喝されてさすがに黙り込むかと思ったが……
「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ! 我が愛しのエルザにも邪険に扱われるこの哀しみ……存分に味合わせてやるのである。エルザ、スーパーウェスト(略)発進するのである!」
逆にギターを掻き鳴らして叫ぶウェスト。
マジにウルセェ……
って、それよりもみんなは!?
思いだし慌てて見ると、エルザにやられてかなり数が減っているものの、まだ無数に残っている邪神の眷属が、姫さん達に迫っていた。
と、その時。
襲いかかろうとした邪神の眷属が一斉に弾き飛ばされる。
「ウィンフィールド!?」
驚いた姫さんの声。
その視線は目の前で拳を振るう執事さんに向けられていた。
そして…ライカさん達の前にももう一つの影が……
「貴方は………」
「久しぶりだね……ライカ姉さん」
「リューガ!? 本当にリューガなの!?」
「酷いなぁ、たった1人の弟の顔、見忘れたのかい?」
その言葉に、俺達も思わず振り返る。
「「弟!?」」
俺達の声が聞こえたんだろう。そのリューガという青年はこっちに振り返ると、軽く手を挙げて挨拶してくる。
「うん……ずっと昔に修行の旅に出て行ったまま、ず〜〜っと音信不通だった、とぉぉぉっっても薄情な弟で、リューガって言うの」
力一杯に力説するライカさんに思わず苦笑。
「あはは……姉さんの妄想暴走癖も相変わらずだなぁ。あ、俺、ライカ姉さんの弟で、リューガ。よろしく」
「あ、ども。こちらこそ」
「呑気に挨拶などしている場合ではないぞ。どうやらそっちは従者達に任せておけば大丈夫そうだ。我等も一気に片を付けるぞ!」
「そうだな。話は此奴等を片づけた後だ! リューガ……くん?」
「リューガでいいよ、大十字さん」
「わかった。じゃあリューガ、執事さん、そっちは任せる。姫さんやライカさん達を守ってやってくれ!」
「任された!」
「承知致しました、こちらの事はお任せ下さい」
「頼む!」
リューガと執事さんの返事に頷くと、俺はベルゼビュートに向き直る。
『アンタ、本気でウザいわ……ベルゼビュート!!』
「一気に決めてやる! アル、ヒラニプラシステム、アクセス!」
「ナアカルコード確認。術式解凍! いつでも行けるぞ、九郎!」
「パパ、やっちゃえーっ!!」
「いくらでも復活するってんなら、復活出来ない様に徹底的に消滅させてやる!! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
『くっ、またさっきの攻撃? でも残念ね。それは触れたたった1つの物だけを……えっ?』
デモンベインの右の掌が連続してベルゼビュートの全身に触れる。
『な、なんのつもり……? えっ……こ、これはっ!?』
「そうか! 一ヶ所だけでは再生される可能性があるから、全身を一気に消滅させる……考えたな、九郎!」
「年貢の納め時だぜ、ティベリウス!」
『な、なに? なによこれっ! なんで、なんで動かないの!?』
「レムリア・ディレイ・インパクトォォォッ!!」
「「一斉昇華!!」」
俺の声にアル達の声が重なる。そして……
『ヒ・・ヒィ・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
ティベリウスの断末魔の絶叫を残し、激しい輝きと共にベルゼビュートは欠片1つ残さず消滅した。
『ティベリウス!? バカな……いかに、いかにマスター・オブ・ネクロノミコンが相手だったとは言え、あのティベリウスがやられたと言うのか!?』
焦りまくった声。
上空でウェストの破壊ロボを余裕であしらっていたウェスパシアヌスの狼狽えぶりがよく解る。
「まだ分かってなかったようだなウェスパシアヌス。これがデモンベインだ。邪悪を断つ破邪の剣だ。お前達邪悪がどれ程の力を持っていようとも、その全てを断つ!」
『くっ……だが、だが、いかに貴様が強大な力を持っていようとも、この高さにいる私には手を出す事も出来まい。唯一の攻撃手段もこの有様。一体どうするというのかね?』
「ビィィィィィムゥゥゥッ!!」
「お前にラブハァァァァト!!」
さっきから破壊ロボが連続でビームを放ってはいるけど、まったく効き目は無さそうだな。そろそろ助けないとヤバ……
『やかましいぞ、蚊蜻蛉が! 謳え、オトー!!』
「ロボ!?」
突然の攻撃に慌てて交わす破壊ロボ。
だが、かわしきれずに翼の一部が吹き飛んだ。
「ロ、ロボォォォォォォッ!?」
「わっひゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
推進力を失い、真っ逆さまに落ちてくる破壊ロボ。
さすがにあの高さから落ちたら……
まあ、ウェストなら生きてるかもしれんが……
「行くぞ、アル!」
「応っ!」
「「凍てつく荒野より翔び立つ翼を我に――シャンタク!」」
背後に宿る巨大な魔力。湧き上がるままにその形を露わにする。
そして広がる漆黒の翼。
凄まじい推進力が大地に繋ぎ止めようとする力をも上回った。
その瞬間を見た姫さん達は言葉を失っていた。
「デモンベインが――」
「翔んだぁ……」
呆然と見上げながら呟くコリンとアリスン。
「アル、とりあえず拾っておくぞ」
「うむ。アトラック=ナチャ!」
その瞬間、デモンベインの髪がうねり、蜘蛛の巣を虚空に描き出す。
「ロボ!? これは……?」
「な、なんであるか……?」
蜘蛛の巣に引っかかったまま呟く2人の戸惑いの声に苦笑しつつも、俺はそのままゆっくりと破壊ロボを地面に降ろしてやる。
「エルザ、ウェスト。そこでゆっくり見てな」
「ダーリン! 彼奴だけはエルザが殺るロボっ!!」
「お前じゃ無理だ」
「――っ!?」
俺の容赦のない言葉に息を呑むエルザ。
だけど、どう考えてもエルザの力ではウェスパシアヌスに敵うとは思えない。
むしろ返り討ちにされるだけだ。それなら…
「彼奴の事は俺に任せろ。お前の無念、リーザの無念、街の人達の無念…全て俺がお前達に代わって、彼奴に叩きつけてやる」
「ダーリン……」
破壊ロボのハッチが開き、エルザが顔を見せる。
その頬は涙に濡れ、無力さに打ち拉がれていた。
「エルザ、お前が無茶してそれこそ死んじまうような事にでもなったら、哀しむのはお前が守りたかったリーザや街の人達じゃないのか?」
「――っ!!」
「だから、ここは俺に…俺達に任せろ。必ずウェスパシアヌスの野郎を断罪してみせる。この、魔を断つ剣でな!!」
「………判った……ロボ…ダーリン……」
「いい子だ。んじゃ、エルザ。俺が彼奴ぶっ飛ばしている間に、その辺の雑魚の始末、頼むぜ!!」
「判ったロボ!」
ようやく元気を取り戻したエルザに俺は頷くと、上空のウェスパシアヌスに向き直った。
「アル、リル…エルザ達の思い、受け取ったな?」
「ああ…いかに機械人形と言えど、あの心は本物。ゆえにその思い、必ず成し遂げてやろうぞ!」
「エルザお姉ちゃんをいじめるあの人嫌い! パパ、ぶっ飛ばしちゃえ〜〜っ!!」
「徹底的にやってやる!! 行くぞ、アル! リル!」
「応ッ!」
「うんっ!」
「「「シャンタク!!」」」
そして……俺達の心が1つになり、デモンベインが大空へと舞い上がった。
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