斬魔大聖デモンベイン SS 『魔導探偵物語』
by Sin
第5話 魔道
覇道邸。
アーカムシティーの中で、最大の規模を誇るとてつもないお屋敷。
はっきり言って、俺なんかのような生活ランク最下層にいる人間には到底関わりを持つことなど無さそうな上流階級の住む家だ。
「何もそうやって自分を卑下せずとも良かろうに…」
溜息混じりにアルが呟く。
「だけどなぁ……見ろよ、この広い庭。どう考えたって俺達のような奴等がのんびり散歩して良いような場所じゃないぜ?」
「所詮はただの土地に過ぎん。それに汝はれっきとした客分なのだぞ。堂々としていて何が悪い」
「まあ、それはそうなんだが……居心地が悪いというか、空気が合わないというか……」
「つくづく貧乏性だな……汝は……」
「ほっとけ……っ」
そう言い捨てて、足を進める。
と、その時、ふと俺の脳裏を1つの考えが過ぎった。
「なぁ、アル。ひょっとして姫さんって、この館から出た事って殆ど無いんじゃないか?」
「知らんな。なんだ、汝、彼奴のことが気にかかるのか?」
「いや…気にかかるって訳じゃないんだけどさ……」
「……妾だけを見ていて欲しいのに……」
「ん? 何か言ったか?」
ポツリと呟いたアルの言葉を聞き返す。
だが、アルは首を振って否定する。
「なんでもない。気にするな、九郎」
そう言ってはいるものの、どことなく寂しそうな表情のアル。
「にゃっ!?」
唐突に抱きしめられて、慌てたアルはじたばたと暴れる。
「な、何をする、九郎?」
「何って……ナニ?」
「――――っ!?」
冗談めいた俺の言葉にアルが真っ赤になったそのときだった。
「あなた達は……こんな時に、一体何をしているのです!」
突然の声。
慌てて振り返った俺達の目の前にいたのは、怒り心頭の姫さん……
「『ナニ』って……いやん、そんなストレートに訊かれても〜♪」
「大十字さん!! 今は冗談を言っているときでは…」
「言ったのは姫さんだし〜♪」
「な、な、な、貴方って言う人はぁぁぁッ!!」
完全におちょくっている俺の言葉にさすがに激昂する姫さん。だけど……
「死んでたぞ…全員……」
「――っ!?」
この一言を伝える為に、俺は無理矢理にでも気持ちを盛り上げていた。
思い出すだけで胸の奥から嫌なものが込みあげてくる。
「生きてる奴は誰も居なかった。辺りは血の海で、足を踏み出せば誰かの欠片を踏みつけてしまう……そんな状況だ」
覚悟していたとは言え、さすがにきつかったんだろう。
姫さんの顔は真っ青に染まり、震えている。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……ええ…それで、大十字さん。原因は……11番街を襲った者の正体は判ったのですか?」
その言葉に頷く。
「い、一体何者なのです!? あんな…あんな酷いことをしでかしたのは!!」
姫さんの言葉に一瞬言葉に詰まる。
一度大きく深呼吸して……口を開いた。
「――犯人は…魔術師だ…」
俺の言葉に、姫さんだけではなく、執事さんまで息を呑む。
まあ、無理もない。
前の世界なら『ブラック・ロッジ』にずっと悩まされていたこの街の人々も、この世界では、精々ウェストの破壊ロボが関の山。
魔術師による虐殺の酷さを目にした者なんて…居ないだろう。
「いったい何人の……」
瑠璃の言葉を遮るようにアルが口を挟んだ。
「おそらくは1人だ」
「1人!? た、たった1人の魔術師によって、彼程の被害を出したというの!?」
「汝等は魔術の深淵を知らぬ。それに……」
「それに?」
「九郎がその気になれば、この街どころか、この星程度数日で滅ぼせる」
そのアルの言葉に、皆の視線が俺に集中する。
「まさか……大十字さんにそれ程の力が?」
疑わしげな姫さんの視線が気に障ったのか、アルの表情が強ばった。
「世界最高の魔導書、アル・アジフの主である九郎を甘く見るな。汝等如き、九郎の手にかかればものの数秒で消し飛ぶぞ」
俺をバカにされたような気がしたのか、アルの言葉は辛辣で、殺気を多分に含んでいる。
姫さんが思わず後退るのも無理はないだろう。
「それと、彼奴は邪神の眷属も操っているようだった。返り討ちにしてやったがな」
「邪神?」
「この世界で神と呼ばれるものに敵対する存在……とでも言えばいいか。単純に言えば、強大なる力をもった邪悪なる者…といった所だな」
「そんなものがどうして?」
「魔術師に召還されたのだろう。九郎がバルザイの偃月刀やニトクリスの鏡を召還するのと同様だ」
そのアルの言葉に唇を戦慄かせていた姫さんだったが、やがてキッと顔を上げると、呟くように口を開いた。
「それで、対処法は?」
「通常の人間に魔術師の相手は勤まるまい。九郎と妾で対処するより他無かろう」
「ああ。それにしても……たまんねぇよな…あんだけ戦って…やっと平和になったと思ったら、結局またこれかよ……」
「九郎…」
呟く俺にそっと寄り添ってくるアル。
だけど姫さん達には何の事だかさっぱり判らねぇんだろうな。
あの戦い……マスターテリオンとの戦いを知っているのは……俺達だけなんだから…
「姫さん、俺達は事務所に戻るよ。何か連絡が入ったら知らせてくれ」
「判りました。ですけど……」
「なんだ?」
「もう、電話を壊すのはやめて頂かないと……」
皮肉っぽく言った姫さんの言葉にアルは目を逸らした。
まあ、仕方ねえよな。
思わず俺も吹き出しそうになるのを堪える。
「九郎〜〜っ!」
顔を真っ赤にしたアルの恨めしそうな声が更に俺の笑いを誘う。
「んじゃ姫さん、連絡頼むな。アル、行くぞ」
「う、うむ」
覇道邸を辞する俺の後にアルも慌てて付いてくる。
そしてしばらく歩いた所で俺は静かに呟いた。
「魔道の戦いが……また始まるんだな……」
「何があろうとも…妾は汝と共にある…九郎……」
「ああ……判ってる…」
11番街を染めた血の色。
邪悪なる闇の気配。
それらは今もまだ俺の胸の奥で静かに……だが激しく渦巻いていた……
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