斬魔大聖デモンベイン SS
『キャンパスライフは大騒動』
by Sin
第9話
純然たる輝きを放ち顕現した『召還剣デモンベイン』を握り締めた瞬間、俺の身体の中に膨大な魔力が駆け巡る。
だが、それは苦痛など伴う事のない優しい力だった。
「デモンベイン……お前の力を、借りるよ……」
俺の言葉に答えるように、剣から伝わる力は益々増していく。
と、その時だ。
「こ、これはっ!?」
戸惑うようなアルの声に見ると、アルの右手に付いている蝙蝠の形をした飾りが大きく翼を広げて、そこから眩く輝く複雑極まりない魔術文字が溢れ出していた。
「うぁっ!?」
その眩しさに思わず手を突き出して顔を背けるアル。
「な、なんなのだ、これはっ!?」
あまりの眩しさに誰も目を開けていられない。
目も眩む輝きの中、魔術文字はアルの手の中で何かの形を成していく。
そして、ようやく光が収まると……。
「…なっ……これは!?」
驚きに目を見開いたアル。その手にはしっかりと白銀に輝く剣を握り締めていた。
「この剣は……一体……」
躊躇いながらも剣を振ると、その後を追うように剣から溢れた光の粒が美しい弧を描く。
「恐るべき破邪の力を感じる。これは…まるで旧神の力そのもののようだ…破邪の刃…ノーデンスの斬魔剣と言った所か……」
そう呟くとアルはまるで剣舞のように自由に剣を振り回す。
一通りの形を試してみて、ようやく満足したのかアルは口元に笑みを浮かべて剣を構えた。
「なかなか堂に入ってるじゃないか、似合うぜ、アル」
「ふむ…何故にこの剣が顕現したかは判らぬが……まあよい。妾も気に入った。有用に使わせてもらうとしよう」
アルのその言葉に答えるように、ノーデンスの斬魔剣は、リン…と静かな音を奏でて輝く。
そして……まるでその輝きに呼応するように、召還剣デモンベインもまた、膨大な魔力を溢れさせた。
「これは……デモンベインとその剣が共鳴している?」
「……ふふ、本当に妾達の気持ちに答えてくれる剣だ」
そう言って微笑むアル。
手の中で膨れ上がる魔力は、決して俺達を傷つけることなくその威力を全てレイリーに向けようとしていた。
「奴にぶつけろと言っている訳か」
「そう言うことだな。やるぞ、九郎!!」
「応よ!!」
二振りの剣をそれぞれ構える俺達。
巨大な異形となったレイリーは、その全身に浮かぶ人面疽から呪いに満ちた声を上げ続けている。
元の奴から考えると、とても信じられないような魔力だが……今の俺達にとっては、なんと言う事も無い。
と、その瞬間。
人面疽の口から大量の舌が触手となって襲い掛かってきた。
2つの剣線が次々とそれを切り落としていく。
リルもいくつもの炎を呼び出しては次々に焼き尽くしていき、クトゥグァとイタクァは姫さん達を守りながら近寄ってくる触手を焼き尽くし、氷結させて薙ぎ払った。
「げげっ! 気持ちの悪い攻撃しやがって!!」
「彼奴の性格に良く似合った攻撃ではあるがな!!」
「言えてる。まあ、こんな気持ちの悪いのをいつまでも見ているほど酔狂じゃない。さっさと片付けようぜ、アル!」
「ああ!」
俺達の魔力に答えるように、エメラルドグリーンに輝く2つの刀身。
次の瞬間、2つの輝きは光の尾を引きながらレイリーへと奔る。
襲い来る触手は全て切り払い、本体を同時に切り裂いた。
「……どうだ?」
「否! まだだ!!」
アルの言葉に慌てて構えると同時に、横からの衝撃が来た。
「くっ!」
「九郎!?」
「大丈夫だ。この程度なんでもない」
少し跳ね飛ばされたが、全くダメージは無い。
自分でも驚くほどにパワーアップしてるんだな、俺達は。
「無傷とは……以前の汝とは比べ物にならぬな」
「そうらしい。一体何処までパワーアップしてるのやら……」
再び襲い来る触手を切り払う。と同時に炎の紋章が輝いて切り裂いた所から炎が上がった。
だが、触手はどろどろとした液体を放って炎を消してしまう。
その様子に、俺達は溜息をついた。
「全く面倒な…この剣を使ったとしても、やはり通常の攻撃では彼奴を滅ぼす事は叶わぬようだな」
「やるしかないよな、アル」
「ああ。だが、汝一人で放つレムリア・インパクトでも恐るべき力を持っている。ここで妾も共に放ったならば、一体その力はどれ程のものになるか、妾にも想像が付かぬぞ」
「まあな…だけど、今その剣がお前の手の中に顕現したって事は、やれって事なんだろうし」
「であろうな。……ん? 九郎!!」
「――――っ!」
とっさにその場から飛びのく。
直後、俺達がいた場所を何かが爆砕した。
「な、なんだぁ?」
「次、くるぞ!」
アルの言葉に更に身をかわす。
その時だ。
「きゃうっ!?」
「リル!!」
背後から上がった小さな悲鳴に思わず振り返った瞬間、今度は俺達が吹っ飛ばされる。
「―――っ、大丈夫か、リル!」
体勢を立て直して見ると、いくつかの瓦礫の下からリルがひょっこりと顔を出した。
「う、うん、大丈夫〜。びっくりした〜」
どうやらリルも吹っ飛ばされたようだが、こっちもダメージは無いらしい。
目を丸くしてシッポをパタパタとさせると再び空中に舞い上がる。
「どうやらリルも妾達と同じようにかなりの力を身につけておるようだな」
その声に振り返ると、アルが身体に付いた埃を払い落としながら立ち上がっていた。
無論、こちらも全くの無傷。
「アルも無事か?」
「ああ、なんともない。だが、お陰で奴の攻撃の正体が判ったぞ。あれは、アトランティス・ストライクと同様の原理だ。僅かに空間の歪みが感じられた」
「って事は、レイリーの奴は空間を歪ませて、その衝撃で攻撃してるって訳か?」
「そう言うことになる。威力としては他愛無いものではあるが、弾道が見えぬだけに厄介だな」
僅かに表情を硬くするアル。
だが……。
「まあ、とは言え……汝の相手ではないだろうがな」
「だな」
そう言うとお互いに口元を緩める俺達。
「ならば……やるか、九郎!」
「応ともよ!」
視線を交わし、頷く。
2つの剣がレイリーに向かって翳された。
その瞬間……。
「優しき光、安らぎの闇、たゆたう風、育む大地、雄々しき炎、閉ざす氷雪……重ね、束ね、司れ!」
突然放たれたリルの声。
しかしそれは凛としていて、まるでアルの様だ。
そして……翳されたリルの手の前に、巨大な五芒星形の紋章が描き出される。
周囲からあらゆる元素を取り込みつつその紋章は更に大きく広がって輝いた。
「イタクァ!」
「うむ!」
「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥグァ・フォマルハウト・ンガァ・グァ・ナフルタグン……」
「フングルイ・ムグルウナフ・イタクァ・ヤァ・ウェンディゴ・イグカ・ズゥ・フグルムゥ……」
クトゥグァとイタクァ、2人の呪が辺りに響き渡る。
「イア・クトゥグァ!!」
「イア・イタクァ!!」
紡ぎ上げられた術が二人の前に炎と風の紋章を描き出す。
そこから溢れた赤と青の光がリルの描き出した紋章へと吸い込まれ、眩いばかりの輝きを放った。
「「リル!!」」
クトゥグァ達の声が重なった瞬間――。
「万物に宿る魂よ、第四の結印をもって魔を封じる力となれ!!」
再び放たれたリルの言葉と同時に旧神の紋章からとてつもない力が溢れ出し、レイリーをその内に包み込む。
その光によって、レイリーの動きは完全に封じられた。
人面疽が口を利くことすらない。
そして次の瞬間、俺達の剣が眩い光を放った。
「やれという事か!?」
「そうらしいな、やるぞ、アル!!」
「うむ!!」
「光さす世界に、汝等暗黒、住まう場所無し!」
「乾かず、飢えず、無に帰れ!!」
同時に光の中へと飛び込んでいく俺達。
目の前には完全に動きを止めたレイリーの姿。
そのまま俺は上空へ、アルは地上から奴へと迫る。
「「レムリアァァァッ!!」」
人面疽が一斉に目を見開く。だが……もう遅い!!
俺とアルの剣線が、奴の身体で交差する。
「「デュアル・インパクトォォォォォッ!!」」
そのまま地上へと降り立つ俺、アル、そしてレイリーの動きが止まる。
「グ…グアァ…ガァァァ…」
レイリーの身体を走る十字に刻まれた剣線。
そこを中心に、奴の身体に亀裂が走る。
「「昇華!!」」
その瞬間、交差した剣線の中央から一気に膨大な熱量が溢れ出した。
「だ、大十字………九郎ォォォォォォォォォォッ!!!」
怨念だけを固めたようなその声に、耳を塞ぐ姫さん達。
そして……。
激しい爆音と共にその声が消えると、レイリーの姿は欠片1つ残さずに消滅していた。
その衝撃に結界が揺らいだのか、辺りの風景が元に戻っていく。
「どうやら、片付いたみたいだな」
「ああ……」
辺りの様子に一息ついて声をかけた俺だったが、アルの様子がおかしい。
なんだか元気が無いみたいだが……。
「アル?」
「―――っ」
呼びかけた瞬間だった。
一瞬、びくっと震えたアルの肩。
そして……涙が頬を伝った。
「お、おい、アル?」
戸惑う俺。
姫さん達も俺達に駆け寄ろうとしながらも、その様子に歩み寄るのを躊躇っているみたいだ。
何も言わず、泣き声すら漏らさず、ただ涙を溢れさせるアル。
「………アル…お前、もしかして……」
俺の呟きにゆっくりと上げられたアルの瞳からは止め処なく涙が溢れている。
その瞬間、俺は全てを理解した。
「クトゥグァ、イタクァ、しばらくリルと姫さん達を頼む」
「む……? どういう事……」
「承知した、父上。リル達の事は我等に任せ、母上を頼む」
「ああ」
イタクァは戸惑った様子だったが、どうやらクトゥグァは俺の言いたい事が判ったらしい。
即座に答えてくるその言葉に俺は頷きを返すと、いきなりアルを抱き上げた。
「―――――――っ!?」
「少しの間……じっとしてろ」
そう言うと、俺はアルを抱いたままマギウスウイングを展開して空へと飛び立つ。
「パパ!?」
「リル、クトゥグァ達としばらく一緒に居てくれ。後で迎えに来る!」
「ふぇ……?」
俺の言葉に首を傾げるリル。
だが次の瞬間、アルの表情を見て何かに気づいたのか大きく頷く。
「九郎……」
「黙ってろ、舌噛むぞ」
涙声で呟くアルにそう言って、俺はその場からアルと共に飛び去った。
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