−Short story−
また会う日まで
by Sin
3月・・
冬の厳しい寒さが終わりに近づいた頃、俺達の高校生活もまた、終わりを告げようとしていた。
毎日のように教師連中とぶつかり合った日々、クラス最下位を競ったテスト。
嫌になる事もあった・・いや、嫌な事だらけだったけど・・
こうして校舎を見上げていて思う。
「・・案外・・悪くなかったかもな・・」
胸を過ぎる沢山の思い出。
悪いこともやった。馬鹿みたいに大騒ぎもした。
それでも、そんな生活も・・いつの間にか、大切な思い出になっていた・・
「たかちゃん!」
突然、背後からかけられる声。
「なんだ、遼子か」
振り返ってみると、そこにいたのは幼馴染みの鮎川 遼子だった。
「なんだとは失礼ね・・ところで、なにしてたの?」
「ん? まあ、ちょっと懐かしんでた所だ」
そう言う俺に、遼子はクスッと笑う。
「なんだよ・・?」
「フフッ、あんなに学校のこと嫌がって、一度なんて『教師ぶっ殺して退学してやる!』なんて大騒ぎしてた、たかちゃんの言葉とは思えないね〜」
「ほっとけ・・」
俺の言葉にまた笑う。
こうして遼子と一緒にいるのも、もう今年で16年だ。
それも・・今年で終わり・・
来年から、遼子は国立大学に進む為に、この街を出る。
俺達の腐れ縁も、これで終わりだな。
そう思うと、なんとなく寂しくも感じるんだから、我ながら勝手なもんだ。
「向こうの家、もう見つかったのか?」
「今探してる所。しっかりしたセキュリティーがないとダメだってお父さんがうるさくって・・」
肩をすくめる遼子。
そんな様子に、俺も苦笑した。
「明後日・・卒業だな・・」
「うん・・」
校庭を眺めながら俺達は呟く。
「いつ・・向こうに?」
「来週の月曜・・」
少し寂しげな遼子の横顔。
「寂しく・・なるな・・」
「・・・ほんと・・に?」
「ああ・・」
「・・ありがと・・なんだか・・嬉しい・・」
俺を見つめて遼子は、そう言って微笑む。
「見送り・・行くよ・・」
「・・うん・・」
いつしか俺達は肩を寄せ合うようにして校舎に凭れていた。
「いつか・・会いに行く・・」
「・・うん・・待ってる・・ね・・」
寂しそうに・・それでいて、嬉しそうに遼子は答えて、少し照れくさそうに頬を染めた。
日が沈んでいく。
また一日が過ぎていくんだ・・
「・・・俺達・・不思議な関係だよな・・」
「・・そう・・かもね・・」
恋人って訳じゃない。
友達って言葉じゃ・・足りない・・。
ホントにあるんだな・・友達以上、恋人未満の関係って・・
「今度会う時は・・また・・違ったお前が見られるかな・・?」
「何言ってるのよ・・ば〜か・・」
「だって、俺ってクラス最下位争うような奴だし」
「一度も本気でやらなかったくせに」
そう言って笑う遼子。
まったく、隠し事も出来やしない。
知りすぎて・・それでももっと知りたい・・
これって・・やっぱり・・
「あーあ。結局、人生18年間・・一度も彼氏出来なかったなぁ・・」
「俺もだけどな」
「彼氏?」
「んな訳ねーだろーが」
答えと同時に小突く。
しばらく、じーっと睨み合っていたが、やがてどちらからともなく吹き出した。
「・・まあ、たかちゃんがいたから、別に不自由はしなかったけど・・ね」
「まーな。確かにお前が居たから、退屈はしなかった」
「な〜んか、ニュアンスが違うんですけどぉ?」
ギュッと俺の腕に抱きついて下から睨んでくる遼子。
それもすぐに和らいで、また微笑んできた。
「・・・たかちゃん・・ありがとね・・」
辺りが暗くなってきた頃、急に遼子が礼を言ってきた。
「なんだよ、急に・・」
「・・ずっと、私のこと守ってきてくれて・・ありがと・・」
「幼馴染みだったから・・ただ・・なんとなく・・それだけだ」
「・・うん・・でも・・ありがと・・」
少し頬が赤い。
そんな遼子を見ていると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「卒業から・・今週いっぱい・・一緒にどこかでかけない?」
「・・怠い・・」
「あ、ひっどぉい!」
「・・・冗談だ」
むくれる遼子にそう言うと、くしゃくしゃと髪を撫でつけてやる。
「もう・・ふふっ・・」
何気ない毎日・・
もうあと何日も残っていない・・
その日、俺は久しぶりに遼子を家まで送った。
「送ってくれてありがとね」
「寄り道のついでだ・・」
「家、逆方向でしょ?」
「・・・気にするな」
俺の言葉に吹き出す遼子。
こんな毎日・・ずっと続くと思っていた・・
だけど、俺には俺の・・そして遼子には遼子の道がある・・
「たかちゃん!」
帰ろうと背を向けた俺の背中に、遼子が抱きついてくる。
「ちょっ・・な、なんだよ?」
「もう少しだけ・・こうしてちゃ・・・ダメ?」
「・・ったく・・好きにしろ・・」
「ありがと・・」
人通りのない道端で、寄り添う俺達の影が、街灯に微かに浮かんでいた。
俺達の道はここから分かれてしまうけれど・・
「たかちゃん・・きっと・・また逢えるよね・・?」
「ああ・・」
微かに涙を浮かべている遼子。
いつか・・
きっと俺達の道が重なる時がやってくるだろう・・
その時・・また・・同じ道を歩いていけると信じて・・
「また・・逢えるさ・・」
そう耳元で呟いて・・俺は、遼子をそっと抱きしめた・・
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