−相互リンク記念 Short story−
季節外れの桜吹雪
by Sin
人気の無い駅。
駅員もいないこの無人の駅前で、1人の少年がじっとホームを見つめていた。
30分置きに来る電車にも乗ろうとはせず、やがて駅の明かりが消え去っても、少年はその場から動こうとはしない。
辺りはすっかり夜の帳に包まれ、もうすぐ春も来ようかという3月の中頃だというのに、駅には冷たい北風が吹き荒れていた。
「・・・沙奈・・」
呟く少年の声は震えている。
手に握りしめた1枚のハンカチ。彼の物にしてはやけに可愛らしいデザインだ。
「・・沙奈・・」
再び呟く。
それは、大切な・・彼にとって最も大切な人の名前・・
そして・・二度とは戻る事のない・・幸せの記憶・・
全ては・・3日前の事だった・・
一緒に出かける約束の場所。
いつもなら彼よりも30分は早く来て、待つ時間さえも楽しんでいた彼女。
だが、その日は・・いくら待っても、彼女がやってくる事はなかった・・
電話も繋がらない。
家に電話しても、誰も出ない。
不安になった彼は、彼女の家へと向かい・・そして・・・・
炎に包まれた彼女の家を見た。
「ーーーーーーーーーっ!?」
それは悲鳴だったのだろうか・・?
それとも、彼女の名を叫んだのだろうか・・?
彼にはそれも分からなかった・・
それから1時間後・・
ようやく消えた炎は、すっかり彼女の家を焼き尽くしていた。
「・・沙奈・・・沙奈ぁぁっ!!」
叫び・・
彼は、止める消防隊員や警察の間をかいくぐり、家の中に飛び込んだ。
「沙奈・・どこだ、沙奈っ!!」
必死に探す愛しい人の姿。
だが、どこにも彼女の姿は見当たらない。
その時、彼はなにかに躓いて転んだ。
「うっ・・なんだ・・?」
自分の足に引っかけた物。
それは・・見覚えのあるネックレスと・・真っ黒に焼け焦げた人の腕だった・・
「・・・・・なん・・・だ・・? なんだよ・・・これ・・・・?」
頭の中が真っ白になる。
彼女の笑顔が・・膨れっ面が・・幾つもの表情を浮かべる彼女の姿が浮かんでは消えていく。
「嘘・・だろ・・? なんで・・だよ・・なんで・・・なんでだよ・・っ!!」
浮かぶのは涙・・そして・・絶叫・・・
哀しみが・・彼のあらゆる枷を打ち崩し・・
全てが真っ黒に塗りつぶされて・・・彼の意識は途絶えた・・
「・・・沙奈・・」
再び呟く少年・・
彼の手の中にあるハンカチ・・3日前のあの前日の朝、彼女から借りた・・そして・・
「馬鹿野郎・・形見にする為に・・借りたんじゃ・・ねぇぞ・・・」
また溢れてくる涙。
それを何度も・・何度も拭って・・
その時、ふと彼は近づいてくる人の気配に気付いた。
「・・・誰・・だ?」
暗闇の中、狂い咲きした桜が季節外れの桜吹雪を舞わせている。
その中をゆっくりと歩いてくる人影。
やがて街灯の下まで来た瞬間、少年は息を呑んだ。
「・・・さ・・・沙奈・・!?」
目を疑う。
焼け死んだはずの少女。
だが、今、目の前には確かに彼女の姿があった。
痛々しい程に包帯だらけの姿で、彼女は間違いなくそこに立っていた。
「・・ここにいるって・・聞いたから・・」
そう言って微笑む彼女は、ゆっくりと少年の元へと歩み寄ってくる。
「嘘だ・・・沙奈は・・」
「生きてる・・よ。ほら・・」
後退る少年の手をギュッと握りしめる少女。
伝わってくる温もり。
それは命の証・・
「・・・生きて・・いるのか・・? 幽霊・・じゃ・・」
「足があって、体温があって、透き通ってもいない、こんな幽霊いるのかしら?」
戸惑うように聞いてくる少年に、クスクス笑いながら少女は聞き返した。
感情の爆発。
その瞬間、少年は初めてその言葉の意味を知った。
「さ、沙奈ぁぁぁぁぁっ!!」
「きゃっ!?」
突然、抱きしめられて少女は軽く悲鳴を上げる。
激しすぎる程に強く抱きしめられて、彼女は苦しそうに身じろいだ。
「い、痛いよ・・」
そんな抗議の言葉も聞こえないかのように、少年は力一杯彼女を抱きしめる。
「洸太・・くん・・」
戸惑いながら、少女は彼の名を呟く。
そしてそっと彼の背中に手を回して抱きしめた。
夜の闇の中、2つの影は1つになったまま、なかなか動こうとはしなかった。
それからしばらくして・・
ようやく落ち着いた少年は、彼女の説明を聞いた。
それによると、あの火事の時、彼女も同じように炎に巻かれたのだが、彼女の父によって床下の小さな保存庫へと逃がされ、あちこちに酷い火傷を負ったものの、一命は取り留める事が出来たということだった。
「でも・・私を助けてくれたお父さんも・・お母さんも・・」
そう言って涙を浮かべる彼女を、少年はしっかりと抱きしめた。
「・・・俺が・・ずっとお前を守るよ・・」
「えっ・・?」
突然の彼の言葉に、少女は一瞬何を言われたのか分からず、聞き返した。
「沙奈の親父さんの分まで・・俺がお前を守る・・だから・・」
「だから・・?」
「・・一生・・側にいてくれ・・もう二度と・・お前を失いたくない・・」
「洸太・・くん・・」
抱きしめてくる彼の腕の中、戸惑いを隠せない少女。
だが、やがて・・・
「ありがとう・・・洸太くん・・」
恥ずかしげにそう言うと、彼女は少年の胸に頬を寄せてゆっくりと瞳を閉じた。
冷たく吹き荒れていた風はいつの間にか柔らかなそよ風となり、2人の周りには美しい花吹雪が舞っていた。
「ずっと・・ずっと一緒にいてね・・」
「いつまでも・・何があっても・・一緒だ・・」
「うん・・」
重なる2つの影。
辺りを舞う美しい桜吹雪。
幻想的な光景の中でまるで奇跡のような物語が・・今、ひとつの幕を下ろした・・
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