−“梁教授の研究所”開設記念 DADDY FACE SS −
『九頭竜式美女生成術<vs 樫緒>』
by Sin
それはいつもの様に、雪人が余計な一言を言ってしまった事から始まった。
「ふぇ〜ん、雪人兄さまがいじめる〜」
「お、おい、美花! ちょっと待てっ!!」
泣き出した美花を慌ててなだめようとする雪人。
だが、時すでに遅く…
不意に響くファンファーレ。
辺りに立ち上るスモークが視界を塞いでいく。
「な、なんだ!?」
突然の出来事に雪人はその場をなんとか逃れようとするが、その瞬間、凄まじい風と共にスモークが吹き飛ばされた。
そしてその中心にいたのは…
「雪人…また美花を泣かせましたね…」
「あ、あうぅぅ…」
結城の血全開で睨み付けてくる樫緒の姿。その恐怖に雪人は声も出せない。
「仏の顔も3度まで…雪人、迷わず成仏しなさい」
その言葉を最後まで聞くことなく全力で逃げ出す雪人。
「逃げられると思っているのですか?」
冷静なその声が逆に恐ろしい。
とにかく時間を稼いで、なんとか逃げる術を見つけ出す為に、雪人は脇目もふらずに逃げ続ける。
途中、何度も転移で追いつかれ、それでも必死に逃げ回ったあげくに雪人は海辺の倉庫に駆け込んだ。
「考えろ…考えるんだ…っ! なんとかして兄貴から逃げ切らないと、マジで死ぬ!」
逃げる術はもう殆ど残されていない。
かといって戦うには相手が悪すぎる。どう見ても勝ち目はない。
ならば一体どうするか…
その時、ふと雪人は昔、鷲士に聞いた出来事を思い出した。
『君が産まれた時、樫緒くんね、どうして女の子じゃないんだーって大騒ぎしたんだよ。そのあと美月ちゃんが産まれた時はすごく喜んだんだけど、今度は雪人くんの方に懐いちゃって。美花ちゃんが産まれたあとは大変だったなぁ…』
そう言って笑っていた鷲士。
「これだ……」
思いついた作を実行に移す為、雪人は着ている上着を脱ぎ、ワイシャツとズボンだけになって、全神経を集中させる。
グキ……ゴキッ…ベキゴキッ……メキッ…
それからしばらくの間、倉庫からは鈍い音が響き続けていた…
「雪人…もう逃げられませんよ……」
雪人が倉庫に籠もって数分後、とうとう樫緒がその居場所を探り出してしまう。
隠れている雪人の気配を捉えた樫緒の力が辺りの物を弾き飛ばして…
「出てきなさい…それとも、倉庫ごと生き埋めになりたいのですか?」
「ま、待って!!」
樫緒の言葉に唐突に響いた声。
「なっ……!?」
それは紛れもなく女性の声だった。
「馬鹿……な…確かに雪人の気配が……」
瓦礫の中からヨロヨロと姿を見せたのは、妹である美月によく似た少女。
着ているワイシャツが先程の衝撃で所々裂けている。
その隙間から覗く胸元は、確かな膨らみが……
「……なんで……こんな事するの? 樫緒兄さま……」
潤んだ瞳で訴えてくるその言葉に、樫緒は凍り付く。
「まさか…いや、そんなはずは……し、しかし……」
あまりの衝撃に後退る。
「兄さま…ボクの事…忘れちゃったの?」
「な、ななっ……そ、そんなはず……」
「樫緒兄さま…どうして……ボクのこと…いじめるの?」
「や、やめなさい、雪人! そ、そんな事をしても、ぼくは…」
「くすん…樫緒兄さま……冷たいの……」
まるで美花のように弱々しいその姿。
明らかに男の物とは思えないその身体。
そして…
「兄さま……もう、いじわるしないで…」
そう言って樫緒の腕に押しつけられた物……
程よい弾力を持ちながらも形を完全に崩すことなく、僅かに開いた胸元から覗いている女性の象徴とも言える物に、樫緒の混乱は頂点に達した。
「ぼ、ぼくは…ぼくはっ!」
「兄さま……」
「う、う、うわぁぁぁぁっ!」
顔を真っ青にしてその場から消え去る樫緒。
残された雪人は潤んだ瞳で俯いていたが、やがて…
「は…ははは……はははははは……あははははははっ! た、助かった…」
頽れるようにその場に座り込む雪人。
「ま、まさか此程うまくいくなんてな…」
「本当ですね」
唐突にかけられた声に、慌てて振り返る雪人。
そこにいたのは…
「さ、冴葉……さん?」
「お久しぶりですね、雪人さん」
「は、はぁ…」
「……今日は本当に素晴らしい光景をありがとうございました」
「なっ……?」
「これでまた楽しい商いに精を出せますわ」
そう言って胸元から出した扇子を開くと、そこには『萌え』の二文字が。
「では、次に…」
「え? 次……って?」
「雪人さんの女装によるファッションショーです。その手の趣味の方大勢お待ちになっていますわ。さ、雪人さん、お急ぎを」
「ちょ、ちょっと待って!! そんな事なんで俺が……」
雪人が不平を口にしようとしたその時だった。
『樫緒兄さま……』
唐突に聞こえてきたその声に、雪人は凍り付く。
「早速、DVDに編集させて頂きました。あと数分もすればネット上で全国に向け、販売開始…」
にっこりと微笑んだ冴葉に、雪人はもはや溜息をつく事しか残されてはいなかった。
「……ご命令をどうぞ…」
「はい、では参りましょう。雪人さん」
優しく雪人を連れて行く冴葉。
しかしその様子を撮影した映像を見た草刈家の面々は…
「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜♪」
と、誰もが口を揃えて歌い出すのだった……