−相互リンク記念 DADDYFACE Short story−
愛しくて・・・
by Sin
ヴェスターランドから帰ってしばらく経ったある日の事・・・
鷲士はいつものようにバイトに励んでいた。
手慣れた工事現場の仕事・・・
だが、今日の鷲士はいつもとは違っていた。
「おい、草刈! 何やってんだ!!」
そう怒鳴られてハッと気付くと、ただ積んである砂を運ぶだけのはずが、いつの間にか10メートル近く掘ってしまっている。
「す、すみません!」
慌てて穴から這い出ると大急ぎで穴を埋め、砂を運ぶのだが・・・
「おいおいおいっ!!」
慌てた声にふと自分の手元を見ると、とてつもない量の砂をいっぺんに運んでいた。
3メートル近い高さまで積み上がった砂を軽々と運んでは、驚かれるのも無理はない。
そんな事を何度か繰り返していると、さすがに監督も様子がおかしい事に気付いていた。
「草刈、今日はもう帰れ」
「えっ、で、でも・・・」
「デモもかかしもあるかっ!! そんな状態で仕事してたら、その内大怪我するぞ! いいから帰れっ!」
そう言われてはさすがに言い返す事もできず、鷲士は監督に挨拶すると、現場を後にした。
「はぁ・・・」
溜息。
「・・・はぁぁぁぁぁ・・・」
また溜息。
「・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
延々と繰り返される溜息に、周りを歩く人達は奇異の目を向けていた。
「ゆうちゃんじゃないのに・・ゆうちゃんじゃないのに・・僕は・・・」
そう言って思い出すのは幼い日のゆうちゃんの笑顔と、あの海岸で見た美貴の笑顔。
「・・・似てるんだ・・凄く・・本当に・・でも・・」
初めて美貴に出会った日・・
『ゆうちゃん!?』
『違います!』
「ああはっきり断言されちゃったし・・やっぱり美貴ちゃんはゆうちゃんじゃないんだよね・・でも・・・」
思い出される海岸での美貴の様子。
前にも訊いたこと・・人生を左右するようなこと・・そう言った途端に表情を変えた。
あれは・・ひょっとして・・
鷲士の脳裏を過ぎる幾つもの疑問。
美沙や樫緒の美貴に対するやけに親密な態度。
そしてなにより・・
とっさに美貴が口にしてしまう言葉・・
『しゅーくん』
あんな風に呼んでいたのは、ゆうちゃんだけだ・・
考えれば考える程、鷲士の頭はパンクしそうな程の混乱に苛まれていた。
「それに・・僕は・・僕は美貴ちゃんの事を・・」
ゆうちゃんなのか、それとも違うのか、分からない・・
それでも・・それでも僕は・・・僕は美貴ちゃんの事を・・・
沈みかけた夕日を眺めながら、鷲士の脳裏にこれまで見てきた美貴の様々な表情が浮かんでは消える。なんとなく胸の奥が暖かく感じて、思わず笑みがこぼれた。
「鷲士?」
唐突に背後から声をかけられて、一気に現実に引き戻される。
慌てて振り返ると、そこには不思議そうな表情で佇む美貴の姿があった。
「み、み、み、美貴ちゃん!?」
思わず顔が赤くなる。
「・・・あ、え、えと・・どうしたの、そんなに慌てて?」
「い、いや、なんでも・・」
まさか美貴の事を考えていたとも言えず、慌てて取り繕う鷲士。
「顔、赤いよ?」
「う・・」
言葉に詰まる鷲士に、美貴は思わず吹き出す。
「はは・・」
鷲士も苦笑して照れくさげに頬を掻いた。
− たとえ美貴ちゃんがゆうちゃんでなかったとしても・・
きっと僕は・・君を愛しく思う・・・・でも・・きっと・・・
重なる面影。微笑みを浮かべる美貴の姿に、かつてのゆうちゃんの姿がだぶって見える。
「いつか・・話せる日が来るよね・・」
「ん? なにか言った?」
「・・・なんでもないよ。じゃあ、美貴ちゃん。一緒に帰ろうか」
「うん・・そうだね。でも・・もうしばらく一緒に歩かない?」
「・・いいよ、じゃあもうしばらく・・」
「うん・・もうしばらく・・ね・・」
いつかは話せる日が来るだろう・・
もう一度・・今度はちゃんと訊かなくてはいけない・・
− 美貴ちゃん・・君は・・ゆうちゃんなの?
その日を思い描いて、不安と期待が溢れそうになる・・
「ほら、鷲士。早くしないと置いてくよ〜っ!」
「あ、待ってよ、美貴ちゃん」
− 今は、その笑顔だけで・・
楽しげな2人の姿はやがて沈み行く太陽と共に街の中へと消えていった。
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