DUEL SAVIOR DESTINY SS
『誰を選ぶの?』
by Sin
(8) 最終話
クレア、ベリオ、カエデ、ナナシ、ルビナスにプロポーズした大河は、残る3人、リコ、リリィ、未亜へ想いを告げるべく、側に歩み寄った。
と、その時。
「お兄ちゃん……」
「ん? なんだ?」
「お願いが……あるんだけど……」
「えっ?」
「私へのプロポーズは……その……一番最後にして……」
未亜のその言葉に不思議そうな表情を浮かべるリリィ。
「いいの? 未亜、貴方だって大河にプロポーズしてもらえるのが待ち遠しいはずなのに……」
「うん…だって……」
「だって?」
「きっと、お兄ちゃんにプロポーズされたら私……次の人の事なんて絶対に考えられなくなっちゃうから……」
そう言って照れくさそうに頬を染める未亜にリリィは思わず苦笑してしまった。
「フフッ、確かに……ね。じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。ね、大河?」
「ああ、それに……俺も未亜には一番最後に告げるつもりだったから……」
「え?」
「……みんなに想いを告げるのとは……その……また別の覚悟がいるんだよ……未亜に伝える時には……」
少し困った様子で苦笑混じりにそう言った大河にクレア達も納得した様子で微笑んでいる。
「……リリィ」
そんな中で不意に声をかけられたリリィは少し戸惑った様子で振り返ったが、すぐに今の状況を思い出して表情を変えた。
「大河……」
「お前とは初めてあった時から何度も喧嘩ばかりしてたよな」
「そうね。あの頃は私、自分が絶対に救世主にならなくちゃいけないんだって思ってたし、こんな奴がなんで私と同じ救世主候補なんだろうって思ってたから……すごく嫌な子だったよね、私……」
「そうでもないさ」
「えっ?」
「あの時のツンが今のデレとの差に繋がって、パーフェクトなツンデレ美少女ってスキルを会得したんだからな」
「そうそう、完璧な美少女……って、誰がツンデレよっ!」
「ナイスノリツッコミ」
「もう、こんな時にまでからかわないで……」
「あはは、悪ぃ。なあ、リリィ」
「なに?」
「俺、お前のことが好きだ」
ほんの数秒前までの表情が嘘のように真剣な表情で見つめてくる大河にリリィの胸が高鳴る。
「あ、大…河……」
戸惑うように見つめ返すその瞳が微かに潤み、頬が赤く染まった。
その肩を大河がしっかりと抱き寄せる。
「リリィ……俺と結婚して欲しい。お前とは喧嘩友達とかライバルって関係も楽しかったけど……俺はお前と一生を共にする関係になりたいんだ」
そう言われた瞬間、リリィの頬を溢れた涙が伝う。
なんとか大河の言葉に答えようとするものの、気持ちが溢れすぎてしまって言葉にならない。
ただ、その胸にしっかりと縋り付き、泣きじゃくる声を上げないようにするだけで精一杯だった。
「愛してる……リリィ……」
「たい…が……大河ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
もう、涙が止まらなかった。
溢れる想いをぶつけるように大河に抱きついて唇を重ねるリリィ。
「私も……私も愛してる……愛してるわ…!」
「リリィ……」
「今だけ……今の一瞬だけでいい…から……私だけを見て……私だけを考えて……! こんな我侭、今しか言わないから! だから……だからぁっ!」
叫ぶようにそう言って大河を押し倒すと、リリィはさらに激しく大河に唇を重ねた。
「ずっと……後悔してた……大河への想いに気づけなかった事……クレシーダ様を大河が愛するようになったって知った時も、私、泣く事しかできなかった……子供ができたって聞いた時には……すごく嫉妬した……気が狂いそうになってしまう位……でも……でも……それでも好きなの! 諦められなくて……ずっと好きで…それなのに結婚して欲しいって言ってくれて……あぁ、もう、何言いたいのか自分でも判らなくなってきたけど……大河!」
「な、なんだ?」
「お願い……だから……こんな私を……嫌いにならないで…ずっと……愛していて……! クレシーダ様とか、未亜とかベリオとかカエデとかリコとかルビナスとかナナシとか! みんな…みんな愛していて良いから……私も愛して……私も……貴方の側に居させて……私、もう……大河が居なくちゃ、生きていけないの!!」
不安と期待で揺れる瞳。
その頬に大河の手が優しく触れ、溢れる涙をそっと拭う。
「俺だってお前の事を愛してる。結婚して欲しいって言ったのは俺なんだぜ? リリィに謝らなくちゃいけないのは、ただ1つ……こんなに想ってくれているお前の事を、一番に…って言ってやれなくて……本当にごめん……」
「………ううん……大河に愛してもらえるなら……順番なんて……どうだっていい……でも…いつかきっと……クレシーダ様よりも愛してるって……言わせてみせるんだから……覚悟してなさいよね…大河……」
そう言うと、ようやく落ち着いてきたのかリリィは大河と深い口付けを幾度か交わすと、ゆっくりとその身体を離した。
「……ごめん、待たせちゃったわね、リコ、未亜。これじゃあ私も未亜の事言えないわ。せめてリコの後にしておけば良かったかも」
「お気になさらず」
恥ずかしそうに頬を染めて謝ったリリィに、リコは苦笑混じりにそう答える。
「大河……」
「ん?」
「えっと……その……ふ、不束者ですが、どうか……よろしくお願いします……」
「あ、ああ。俺の方こそ……よろしく、リリィ」
見つめ合ってそう答えると、大河はリコの側へと歩み寄った。
「リコ、ごめんな、待たせて」
「いいえ、大丈夫です。おかげで気持ちを整理する時間ができましたから」
そう言って微笑むリコに、大河は照れくさげに苦笑する。
「マスター、図書館の地下であった事……覚えていますか?」
「忘れられるわけがないだろ? 俺がリコのマスターになった時の事なんだからさ」
「私もです。あの時、もしマスターが契約を結んでくれなければ、きっと今の状況は無かったのでしょうね」
「ああ、多分な」
「今更な気もしますが貴方の勇気と決断に心からの感謝を、マスター」
リコはそう言いながら大河の唇にそっと唇を重ねた。
リリィとは対照的に激しさの全く無い物ではあったが、それでも想いの激しさは決して劣るものではない。
「俺は、リコのマスターとして相応しい男になれたか?」
「貴方以上のマスターなど存在しません。大河さん…貴方は私にとって、最高のマスターです」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。……リコ」
「はい…」
「愛してる……俺と……ずっと一緒にいて欲しい」
「マス……いいえ……大河さん…」
「俺と…結婚してくれるか、リコ?」
「はい……喜んで! 私を…ずっと貴方の側に居させてください。貴方の……妻として……大河さん…愛しています」
涙ぐみながら答えたリコの頬を、一筋の涙が伝う。
その滴を優しく大河の指が拭い、そのまま二人は唇を重ねた。
先程と同じように、静かに…しかし胸の鼓動はより大きく、心の暖かさはもはや燃えるような熱さへと変わっていた。
どの位、唇を重ねていただろうか。
僅かに絡め合った舌の感触をまるで離したくないかのように、唇を離した二人の間に微かに光が伝う。
「あ…」
二人の間を結んでいた光が途切れた瞬間、リコは唇に微かな冷たさを感じて恥ずかしそうに頬を染めた。
「大河さん……ひとつだけ、お願いしても…いいですか?」
「ああ、なんだ?」
「私だけを愛して欲しいとはいいません……ただ…ベッドの中でふたりっきりの時だけは……私のことだけ……見てくださいね……」
耳まで真っ赤になりながらそう言ったリコの姿に大河は思わず息を飲み、そしてその背後では……
「べ、べ、べ、ベッドの中で、ふ、ふたりっきり……」
「た、大河とベッドで……―――――っ!?」
その状態を想像したのか、ベリオとリリィは顔全体を真っ赤に染めて挙動不審になっていたり……
「そうだな……いかに一夫多妻を認めておるとはいえ、あの時まで他の女のことを考えられるのは流石に……」
「拙者も側室であることに何ら問題は感じぬでござるが、流石に閨の中で他の者のことを思われたくはないでござるな」
「そうね。いくらなんでもベッドの中でふたりっきりって時に、他の娘のことは考えて欲しくないわ」
クレアが昨晩のことを思い浮かべて苦笑し、カエデとルビナスが同意していた。
そしてその時、未亜は……
独り、何かを考えている様子で俯いている。
それはこの後に待っているプロポーズのこと……だけでは無さそうで、その様子に気づいたクレアはそっとその肩に触れた。
「どうかしたのか?」
「ん? ううん、ちょっと考え事」
「考え事とは……プロポーズのこと……では無さそうだな」
「それもあるよ。ただ、せっかく一番最後にしてもらって、みんなより沢山時間をもらったのに、まだちょっと整理がつかない所があって……」
「未亜……」
「……大丈夫だよ、クレアちゃん。あとはお兄ちゃんに話すだけだから」
「ふむ…それならば良いが……さて、どうやらそろそろお前の番のようだな」
そう言ったクレアの言葉に未亜が振り返ると、ちょうど大河がリコともう一度唇を交わしている所だった。
「約束するよ、リコ。それにみんなにも。俺は愛する人を一人だけに決められないような優柔不断な男だけど、ふたりっきりで過ごす夜の時間には、他の娘のことは一切考えない。その時に一緒に過ごす相手だけを見るよ」
「フフ、なんとなく複雑な感じもしますけど……はい、お願いしますね、大河さん」
「ああ、必ず」
リコが苦笑しながら言った言葉に力強く頷くと、大河はそっとリコの身体を離す。
「さ、お待たせしました、未亜さん。貴方で最後です」
「う、うん。え、えっと………」
そっと大河の前に送り出されて、未亜は耳まで赤くなりながら大河に話しかけようとするが……
「未亜」
「は、はいっ!?」
「…………妹に…その……プロポーズするのって……他の娘にプロポーズするとき以上に緊張するよ……やっぱりどこかで背徳感を感じてるのかもな……」
「お兄ちゃん……」
照れくさそうに笑う大河に未亜も自然に微笑む。
「……お前が生まれてから今日まで、妹として一緒にいてくれて……本当にありがとう」
「うん……」
「俺は、お前が居なかったら、アヴァターに来る前に何処かで野垂れ死んでたかもしれない。お前が居てくれたから……俺は、辛い生活にも耐えられた。お前の為だったから……怖いと思った相手にも向かっていけた」
「そんな…私だってお兄ちゃんが居なかったら…きっとあの時、無理矢理に奪われて……そのまま死んじゃってたかもしれないし……それに、その後もずっとお兄ちゃんが私のことを守ってくれたから…私は今、ここに居られるんだよ…」
互いに寄り添い合い、見つめ合う大河と未亜。
「ずっと……私だけのお兄ちゃんだって……思ってた。他の娘になんか絶対に渡すもんか……って。でも…不思議だね……今、クレアちゃん達がプロポーズされているのを見ていても、全然悔しくないの……だから…さっきまですっごく不安だった……もしかしたら、私は自分で思ってるほどにはお兄ちゃんを愛せていないんじゃないかって……」
そう。それこそが先程までずっと未亜が悩んでいたことだった。
誰にも負けないくらいに大河のことが好きなんだと思っていた未亜にとって、自分が一番でなくても構わないと思えてしまうことが不安だったのだ。
「でも、今お兄ちゃんと触れ合って……話していて解った……私、お兄ちゃんを誰よりも愛してるけど、それと同じくらいに、みんなのことも好きになっちゃってるんだって」
そう言ってクレア達と視線を交わすと、皆微笑んで頷いた。
「だから……お兄ちゃん……私、お兄ちゃんの妹、卒業するね」
「未亜……!」
満面の笑顔で微笑む未亜の身体をしっかりと抱きしめる大河。
その耳元にそっと囁かれた言葉は……
「一人の女として……愛してます……大河……さん……」
強く抱きしめ合ったまま唇を交わす二人。
その激しさに周りでみている者たちは頬を赤らめてしまう。
と、その時。
「……大河……くん……?」
「…未亜さん……」
ベリオとリコは、大河達の頬を伝う光に気がついた。
「泣いて……おるのか……?」
「……どうして……? 嬉し泣きって……感じじゃない……」
戸惑うクレア達。
それでも大河と未亜の抱擁は終りを知らぬかのように続いている。
クレア達には理解できなかった。
それは他の誰にも理解できなかっただろう。
大河と未亜。
ずっと支え合ってきた兄と妹……
だが、その『兄妹』と言う名の絆は……
愛しあう男と女に変わり、失われてしまった。
溢れんばかりの幸せと、あまりにも大きな喪失感に、二人は唇を重ねながら絶えず涙を流し続けていた。
それからどの位の時が過ぎただろう。
すっかり夜の帳も落ちて、辺りは照明の光に照らされるのみ。
互いの背に回した手は未だに離れず、じっと見つめ合う二人。
「未亜……」
「はい……」
「俺も…お前を愛してる……一人の…男として……」
「大河……さん……」
「……俺と…ずっと一緒に居て欲しい……これからは妹じゃなく……俺の…妻として……結婚して欲しい、未亜」
その言葉をどれほど待っていただろうか。
何度も夢見て、きっと叶わない願いと思いながらも、ずっと願い続けていた想い。
「はい……ずっと側に居させてください……大河さん……貴方の……妻として……」
声を震わせながら、大河の想いに答える未亜。
そのまま唇を重ね合い、ゆっくりと身体を離すと、未亜は少し下がって床に三つ指ついて深々と頭を下げた。
「不束者ですが、どうか末永く…お願いします……大河さん……」
「ああ、俺の方こそ……未亜、これからは夫婦として……よろしくな」
「はい、大河さん。私のこと……うんと可愛がってね」
そう言って微笑む未亜に笑顔で返した瞬間、大河の膝ががくっと折れた。
「大河!?」
慌てて駆け寄ったクレアだったが……
「だ、大丈夫。ちょっと気が抜けただけだから……」
照れくさそうに苦笑する大河。
それも仕方ないだろう。
改まってプロポーズするという時には半端じゃないくらいに緊張しても当然だというのに、今回は総勢8人に対するプロポーズ。緊張の度合いもそれによってどれほどに膨れ上がったものか想像もできないのだから。
「……大河、ありがとう」
「ん、なんだよ、クレア。改まって」
「これでやっと、お前のことを夫と呼ぶことができる……ここに居る誰一人欠くこと無くな」
クレアの言葉に大河は皆に視線を向けると、返ってきたのは頬を染めた満面の笑顔だった。
「これから先、結婚に向けて色々と決めねばならぬことも多いが……大河、今はゆっくり休んで……」
「……そうだな……ふわぁ……そう思ったら、なんだか急に眠くなってきた……」
「緊張が抜けた所為だろう。なんならこのまま眠っても良いのだぞ?」
「お前達はどうするんだ? みんなだって疲れてるだろう?」
「このまま大河の側に居る……皆、お前を何よりも誰よりも愛しておるのだからな。お前の寝顔でもゆっくり眺めた後にでも休むとするぞ」
「そんなもん見てもつまらんだろうに」
「我等にとっては何よりの幸せなのだ。ほら、眼を閉じてゆっくり眠れ、大河………」
耳元で囁くようなクレアの声に、大河の意識はだんだんと薄れていく。
完全に眠りに落ちる寸前、ひとつの声が大河の耳に残された。それは……
「………おやすみなさい……貴方……」
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