斬魔大聖デモンベイン SS 『ライカ狂乱』
by Sin



「は〜い、みんな。ご飯ですよ〜♪」
 ライカの呼び声にわらわらと集まってくるジョージ、コリン、アリスン。
「わ〜い、めし〜♪」
「めし〜♪」
「〜♪」
「……よよよ…私の可愛い子供達が、すっかり九郎ちゃんに毒されて……」
 ジョージ達のその姿に俯き嘆いてみせるライカだったが……
「「め〜し、め〜し、めしめしめっし〜♪」」
「………♪(モジモジ)」
「はぅ……はいはい、わかりました。今出しますから……」
 溜息をつきながら、ライカは心に誓った。

― 今日こそ、絶対に九郎ちゃんを立ち直らせてみせるんだから!


 昼食後、ライカは子供達が遊びに出かけたのを見届けると、

【少し出かけてきます。なるべく早く帰りますが、お腹が空いた時にはこのパンを食べて待っていて下さいね】

 と、書き残し、いくつかの大きめのパンを用意して教会を出た。

 向かう先は……町外れにある、『大十字九郎探偵事務所』…

「確か……この商店街を抜けて……」

 辺りを確認しながら町外れへ向かうライカ。
 その時……

「あそこの探偵さん、かなりのロリコンだって話よ。怖いわねぇ……」
「毎日毎日、小さな女の子に性欲をぶつけてるって……」
「奥さんの所、娘さん、まだ7歳でしょう? 気を付けないと……」
「ほんとにねぇ……怖くて1人で遊びに行かせることもできないわ……」

 おばさん達の井戸端会議の横を通り抜けながら、ライカの心に更に火がついた。

― 絶対…絶対に立ち直らせないと!! そ、それにいくら九郎ちゃんがロリコンだからって…アルちゃん相手にそんなに酷いこと……

 まぁ、少々不安にはなっていたが…


 薄汚れた建物の奥。
 最も暗く引きこもった場所に、それはあった。

『大十字九郎・探偵事務所』

 あやかしの類が出そうなその雰囲気に、思わず息を呑むライカ。

 野良猫が辺りに散らばる空き缶を蹴散らす音に身を竦ませ、啼きやまないカラスの声に、逆にライカの方が泣きそうになる。

「こ、こんな所に……住んでたの? こ、これじゃあ……人間歪むかも…」

 そう呟いたその時だった……

― ん…あ……っ………は……ぁ…あっ……

 突然聞こえてきた途切れ途切れの音。

「あら? なに……かしら……?」

 訝しげに音の出所を探す。やがて、ライカはその音が目の前の扉の向こうから聞こえてくることに気が付いた。

 確かめるために、そっと耳をそばだてると……

『……九……郎っ……あ、あぁっ、そ、それは……ダメだっ……そ、そんなことをしたら……妾……妾は……あっ…ぅあ……ひ…っ………くぅ…ぁあぁぁぁぁぁっ!!』

 頭の中が真っ白になるライカ。

『や、やめっ……やめ…ろ、九郎っ! だ、だから、や、やめ……やめっ……ひぁぁぁぁっ!!』

 聞こえてくる声。

 そして町中で噂されていた九郎の所行……

 それらがライカの頭の中で1つに繋がり、空想が、妄想……そして……暴走する。

「ま、まさか、まさか、まさかっ! く、九郎ちゃんってば、アルちゃんの事を裸にして縄で縛って、気が狂うまで何度も……何度も何度も……っ!? そして、そしてっ、暴走した九郎ちゃんは、助けを求めるアルちゃんをいやらしい目で見つめながら色んな道具を駆使して、延々とアルちゃんの幼い身体を嬲り続けてるんじゃ…この扉の向こうには、むごたらしく切り刻まれたアルちゃんが、その無惨な肢体を晒して、エロエロのグログロな九郎ちゃんに、だるまプレイとか強要されているのよ…あぁ、あぁ、なんて、なんてこと、なんてことでしょう! 私が来るのが遅かったから、アルちゃんは、アルちゃんは……鬼畜で猟奇的で変態の九郎ちゃんに――っ!?」

 青ざめ、扉からヨロヨロと下がるライカ。

『あっ…あ…ぁぁ……九郎……っ……妾……く……ぅぁぁあ…』

 再び聞こえてくる声。
 その声にライカは挫けかけた意識を奮い立てる。

「こ、こんな事……許してはいけないわ……待ってて、九郎ちゃん…今、このライカ・クルセイドが、歪みまくって捻れまくって、取り返しのつかないほどに人としての道を踏み外して外道の道をひたすら進みまくってる九郎ちゃんを、救ってあげるわ! そう、それこそが神が私に与えたもうた試練! 全世界の少女達の、いえ、九郎ちゃんなら男の子でもオッケーなんて軽く言って、外道の道に引きずり込むのよ! そんな幼い子供達を守るために、今こそ、私が立たなければならないんだわ! 神様! どうか力無き者達を守る力を、私にお与え下さい! ……ライカ・クルセイド、行きます!」

 一気に覚悟を決めて扉を開く。

 そして……ライカの見たものは…

 息も絶え絶えになってその裸身を横たえているアルの上にのしかかるようにしている九郎の姿……

「なっ、ライカさん!?」
「はぁ………あ、ぁあっ……九郎………まだ……まだだ…今、やめるなど……ずるいぞ……妾を……こ、こんな…に……しておいて……」

 突然の来訪者に驚く九郎だったが、虚ろな視線で九郎を見つめるアルには、ライカの姿はまるで見えていない。

 だが、そのアルの様子がライカにとっての引き金となった。

「く、九郎ちゃん……貴方はなんて事を……こんな幼い女の子を正気を失う程に嬲り尽くすなんて……神は…こんな所行をなぜ許されるのです!? いえ…神が許しても…この私が許しません! 今、このライカ・クルセイドが、貴方を断罪します!」
「ちょ、ちょっと待った、ライカさん!」
「問答無用ッ!」

 その言葉と共に、ライカはどこからともなく取り出した巨大十字架を振りかぶる。
 一糸纏わぬ状態で、身動きの取れない九郎は、逃げる術がない。

「貴方の中に宿る悪しき魂、今、神の名の下に浄化します! 受けなさい!」
「な、な、なぁぁぁぁぁっ!?」

「十字・断罪(クラッシュ・クロス)!」
「クラッシュ!? スラッシュだろ!?」
「いや、あれを叩きつけられれば間違いなく潰れる。つまりはクラッシュで間違いない」
「って、何をお前は呑気に…って、いつ復活した!?」
「今し方。と、言ってる暇などあるのか?」
「なっ!?」
 アルの言葉に慌てて振り返った九郎を襲う巨大十字架。
「ぐぎゃらぼばびゃってらばっ!?」
 激しい衝撃と共に九郎は跳ね飛ばされ、事務所の天井に無惨な姿を張り付けた。

「ふむ、遅かったか」
 シーツでその裸身を隠しながら、貼り付けになった九郎の姿を見て呟くアル。
「アルちゃん、大丈夫?」
「汝か。ん、まあ助かったと言っておこう」
「九郎ちゃんに酷いコトされたのね……貴方の傷ついた心、この私がきっと癒してあげるから……」
「酷いこと……? いや、特に酷いことなどされてはいないぞ?」
 きょとんとした様子のアルに戸惑うライカ。

「えっ? でも、さっき助かった……って……?」
「ああ、なにしろ昨日から続けざまに24時間だ。さすがの妾ももはや体力の限界。そろそろ休みたいと思っていたところだったのでな」
 そう言って溜息をつくアルの様子に、ライカは大混乱。

「え? え? えぇぇ?」
「九郎の精力には、到底勝てぬ。なにせ底なしだからな……だが、此程までに妾を求めてくれる許奴の存在は…妾にとってこの上ない幸せだ……」
「し、幸せ!? 幸せ……なの?」
「汝は感じぬか? 最も愛する男に他の全てを忘れてまで求められるのだぞ? 此程の幸せ、他にあると言うのか?」
 なんの迷いも感じさせない言葉で言い切ったアル。

「………ひょっとして……私……お邪魔しただけ……?」
「いや、助かったのは事実。あのまま続けば、じきに妾は構成を維持できなくなっていただろうからな。九郎に昇天させられるのは……」
 そこまで言って、アルは言葉を濁らせる。

「アルちゃん?」
「……あ、い、いや……九郎に…その……されるのは……嬉しいのだが……そのまま…二度と会えなくなってしまうのが…怖いのだ……」
 そう言って顔を真っ赤に染めたアルの背後に近づく1つの影…

 それはゆっくりとアルの傍に近寄り、いきなり絡みつくように抱きしめた。

「にゃ、にゃああぁぁっ!?」

 驚きのあまり跳びあがったアルが振り返ると…そこにはついさっきまで天井に張り付いていたはずの九郎の姿が……

「く、九郎!?」
「九郎ちゃん!? い、いつの間に…」

 驚く2人を尻目に、九郎は恐ろしいまでに繊細な手つきでアルの弱点を攻め続ける。

「ひゃぅんっ!? く、九郎!? ま、待て、待て待て待て待て待てっ!! 今は許奴がおるのだぞっ!?」
「………アル…」
「ひああぁっ!? な、汝!? まだ正気を取り戻しておらんのか!?」
 慌てたアルが見ると、九郎は未だ頭から大量に血を吹き出していて、目は虚ろなまま。
 つまり今の状態は……

「本能のみで動いておるのか、汝は!?」

 驚愕するアルとライカ。

「………え、えっとぉ……な、なんだかお邪魔みたいだし…私はこれで……」
「ちょ、ちょっと待てぇっ! ほ、本能だけになっていると言うことは、遠慮とか手加減が一切無しって事になるのではないか!?」
「う〜ん、そうかも♪」
「『そうかも♪』ではないっ! こ、このままでは妾は今度こそ本当に壊され……ひゃうぅぅんっ!? く、九郎、や、やめっ、だ、ダメ…ダメッ! 壊れる! 妾、壊れてしまうぅっ!!」
「うわぁ………九郎ちゃんってば、すご〜い……」
「感心してるばぁいぃぃっ!? ひっ、ひゃぁぁぁぁぁっ!? くりょっ……九郎っ!!ダメッ! ダメダメダメぇぇっ!! はぁっ、はぁぁあっ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「え、えっと……そ、それじゃあ、がんばってね〜」
「ま、待て! 待てと言うに!! ライカっ!!」
「じゃ、またね〜♪」
「爽やかに去るなっ! こ、これをなんとかっ、なんとかしていけぇぇぇぇぇっ!!」

 アルの叫びを背に受けて、ライカはその場を後にする。
 
「え、えっと………うん、これでよかったのよね」

『やめっ……やめ………っ!! あっ………あ、ああああああああああああああっ!!』

「うん。楽しそうだし、これで良しって事で。あ、もうこんな時間。早く帰ってみんなの晩ご飯作らなくっちゃ」

 そう言って、楽しそうにその場を後にするライカ。
 その表情には、目的を達成したものだけが浮かべる清々しい表情が浮かんでいた。

 なにも解決しておらぬわぁぁぁぁっ! という突っ込みはライカの耳には届かない……

「今日は何がいいかなぁ……」

 夕食の献立を考えながら遠ざかっていくライカの背後……

「た…助けっ……!?」

 逃れられない世界から逃れようと藻掻くアルの手が、力無く伸ばされた後……
 静かに…墜ちた……




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