−歌パロShort story− ロード全章SS
ロード 〜第十一章〜

by Sin

 いつからだろう…
 今、俺がいるこの湖が、哀しみを捨てる場所だと言われ始めたのは……

 みんな同じように深い悲しみを忘れる為に来るからだろうか?

 それは判らない……

 でも、今俺はここにいる。

 大きく……何処までも大きく広がってしまった哀しみを捨て去ろうとして……

 
 目一杯泣いて、声が嗄れるくらいまで泣いて…
 溢れた涙を湖へ零していく…

 その時、俺は気付いた。
 涙の湖に、悠子…君と俺の過去が映っていることに……

 生まれた瞬間から今まで…何度も流した涙…
 すっかり忘れていたような哀しみ。悔しさ。苦しさ。

 その全てがピアノの譜面のように正確に残っている。

「人の記憶なんて…自分勝手に出来てるんだな……」

 思わず呟く。
 そう…本当に自分勝手だ。

 忘れたくても忘れられないなんて思っていても……
 あんなにも苦しかったことすら忘れていたことに気付いた…

 両親の離婚。周囲の差別や虐め。非行に走ったあの頃…そして退学。
 世間体も狭くて息苦しくて…この街が大嫌いだった……

 でも、意外だった。
 まさか君と俺の生い立ちがあんなに似ていたなんて……

 生きてた最後の夜に俺を想って泣いていた君の気持ち…
 ごめんよ、知らずに……

 君の方が俺なんかよりもずっと多く涙を流していたんだ…
 子供が出来たことを打ち明けてくれるまでに、1人悩んで苦しんで……

 溢れ続けた涙…
 受け止めるもののない涙…

 どれだけ零し続けたのか…
 君はそんなこと微塵も感じさせずに、いつも微笑んでいてくれたんだ…

 どんなにも辛かっただろう…
 此程までに愛している俺のことを残してたった1人、お腹の子供を連れて逝く事…

 君は俺に、人の出会い、別れ……恋の…愛の…時の…幸せの……命の価値も…
 生きていく事の全てを残していたんだ……

 やっと気付いた。

 この哀しみは…捨てられない……
 この哀しみは…悠子との想い出だから…
 悠子が残してくれた、掛け替えのない最も大切なものだから……

 今は…抱えきれなくなってしまったこの想い、少しだけここに仕舞っておこう。
 俺が全てを抱えられるようになるその日まで…

 いつの日か、ここにある湖いっぱいの涙は何十年経って雲になって冬になって…
 君の好きだった真っ白な雪になって空から振ってくる。

 その時にもう一度、この場所に戻ってくる……
 この命の終わる時…俺も雪になって君の上に重なろう……

 そうなるよ……きっと……


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