−歌パロShort story− ロード全章SS
ロード 〜第十章〜

by Sin

 あの日から、時間が止まったままの俺達の部屋…
 そこに刻まれた俺達の想い出…

 確かにそこに愛があった……だけど…そんな過去だけじゃ…寂しいよ……
 あの頃、毎日が…愛に溢れていた……だけど…今…君がいないと…切ないよ……

 窓辺に置かれたヒヤシンス。
 君がこの殺風景な部屋を少しでも明るくしようと持ってきた物だ。

「これ位ないと、この部屋寂しすぎるもんね」

 そう言って笑っていた悠子の笑顔…
 
 あれからヒヤシンスが花を咲かせる度に、俺は怖くなる…
 この部屋をあの時のままにしておけば、いつか君が帰ってくる……そう思えるのに、花が咲く度に、時が過ぎ、哀しみが薄れていってしまう…

 忘れたくない…この想いを…
 忘れたくない…胸を裂く哀しみを…
 忘れたくない…悠子…君への愛を……

「逢いたい…逢いたいよ…悠子……」
 ここには確かに愛があった……俺達の愛があったんだ……
 いつも…いつも愛していた…愛されていた…
 それは過去かもしれない……かつてあった日々…だけなのかもしれない…
 でも…だけど……!

「君を抱きしめたい…壊れるくらいに…強く…激しく!」
 俺が抱きしめる度に、くすぐったそうに身を捩った君の姿…。
 唇を交わす度に、頬を赤らめて微笑んでいた君の姿…。
 
 昨日も、夢に見た。
 哀しげに微笑む悠子は、「ありがとう…」と一言だけ言って、唇を重ねたよ…

 夢…これは夢なんだ…それは解っていた。
 だけど…夢なら夢のままでいい! どうか、誰も俺を起こさないでくれ。
 悠子といつまでも一緒にいられるなら、二度と目覚める事が無くても…構わない…

 ……それでも…どんなに願っても…

 朝は必ずやってきてしまう…

「待って…待ってくれ、悠子!!」

 何度叫んだ……?
 何度涙を零した?
 瞼を開いてしまった自分を、何度責めただろう…

「朝なんて……来なければいい……朝さえ来なければ…悠子と一緒にいられるのに…」

 できるはずもない事…

 それでも…願わずにはいられない……

 悠子…君が生きていた証なら…この部屋中にある……
 君との愛の証なら…永遠にこの胸の中にあるんだ……だけど……

 流れのない川が無いように…記憶は想い出へと変わっていく…
 君は花と咲き、そしていつまでも枯れる事のないまま、土となって、また花へと戻っていく…
 そう…君が置いた…窓辺のヒヤシンスのように…

 …君なのか? そこにいるのは…
 何度も花を咲かせて、俺を見つめているのは…君なのか?

 この部屋に残る愛し合った過去…
 2人が心から愛し合った日々……
 
 どれ程この場所に溢れていても……
 君に会えない事が……寂しい…
 こんな日々が続くのは…切なすぎる……

「悠子…逢いたいよ……君を……抱きしめたい……この手に……抱きたい!」

 溢れる想いを掻き抱いて、俺は…喉が裂けるほど……
 君を……求めた……

「側に…いてくれよ……悠子……悠子ーーーーーーっ!!」

 叫びは…風となって空の彼方に消えていった……




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