−歌パロShort story− ロード全章SS
ロード 〜第八章〜

by Sin

 ラストダンスを踊ったこの道の上…
 俺は何度も雪の中で君を抱きしめた。
 青い月の光が、何故か君だけを眩しいぐらいに照らしていた夜だった…

 君の掴んだ雪がゆっくりと溶けて消えていく。
 吐く息も真っ白の色をしていて…何もかもが綺麗だった…

 あの時…君は予感していたんだろうか…
 これが俺達にとって、最後の夜になるって…

 汚れのない世界に、いつまでも溢れる涙…
 君の頬を濡らしていた涙は、未来を感じていたからなのか…?

 あの至福の時間と幽玄の白夜…
 まるで幻のような幸せ…
 けれど、悠子…君は確かに居たんだ…俺のこの腕の中に…

 走りすぎる車の景色の様に、時は止まる事もなく流れ続けている。

「お揃いだね」
 
 一緒に同じ時計を買って喜んでいた君の笑顔。
 ふたつ並んで同じ未来を夢見ていた針は、ひとつ止まってひとつだけが動いている。
 この季節来る度に思い出す…あの夜の思い出を…

 雪の中で産まれて、雪と一緒に溶けた…
 人の一生なんて、瞬きみたいに一瞬なんだ…

 少し曇ってきたサイドシートの窓。
 ぼんやりと浮かんできた文字は、君の忘れ物。
 あの夜、君が指で書いた文字はいつまでも消えずに…
 俺はそっと指で「いのち」と、なぞった。

 その命を…俺は……守ってやれなかったんだ…

 俺も君も走り慣れていた道なのに、君の車はブレーキの跡さえもなくラストダンスを踊ってしまった…
 君の事を思い出しながら、俺は脳裏に浮かぶ君の幻影を何度も抱きしめる。
 
 吐く息も感じない程に冷たい…
 笑顔だった君の顔を…大雪が全て隠してしまった…

 君は幻想を魅て…きっと幻想を魅て…
 幸せに包まれて、ちょっと急いだだけだったんだろう…
 俺に少しでも早く会おうと…
 俺との幸せな時間を早く掴もうと……

 でも…

 全ては一瞬が奪ってしまった…

 人の一生なんて、まるで瞬きみたいに一瞬なんだ…

 だけど……
 君は生きてた…俺の側で笑っていた……
 たとえ一瞬だとしても……
 俺は…悠子と生きていたんだ……

 だから忘れない…
 たとえどれ程月日が流れても…
 その一瞬に刻まれた、君の全てを……

 俺は…忘れない…



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