−歌パロShort story− ロード全章SS
ロード

by Sin

 雪の降り続く道・・
 ちょうど1年前の夜、俺と悠子はこの道を通った。

 大雪の所為で、酷い渋滞。
 どこまでも続く赤いテールランプがなんだかとても綺麗だった・・。

 サイドシートに眠る彼女はまるで子供みたいな微笑みを浮かべて眠っている。
 でも、俺だけ起きてるのがなんとなく悔しくて・・

「おい、俺だけ起きさせとくつもりかよ・・」
 そんな事を言って揺り起こした。

「う〜ん・・なぁに? 着いた・・?」
「まだ」
「・・・寝かせといてよぉ・・」
「お前だけずるいって」
「う〜〜〜〜っ・・・」
 恨めしそうに睨んでくる。

 やがて、ゆっくりと動き出した車の列。
 なんとか渋滞を抜け出した俺達は、日付を越えながら真夜中の道を走っていた。

 いつもならとっくに寝ている時間だから、悠子は眠そうに目を擦っている。俺も流石に眠いし、このまま走って事故っても馬鹿げてる。
「適当にコーヒーでも買ってくる。何か、欲しいものあるか? 」
 俺が道端に車を止めてそう言うと、悠子は俺の手を握り返して、

「貴方の・・愛が欲しい・・」

 そう、呟いた。
 

 あれから数ヶ月。

 いつものように過ごしたデートの途中、聞かされた言葉。

「・・子供が・・出来たの・・・」
 戸惑いながら話して、悠子はうつむき口を閉ざすと、深い溜息を吐いた。

 流石に俺もすぐには答えが出せなかった。
 だけど、指先が白くなる位に強く握りしめて震えている悠子の手、そして今にも泣き出しそうなその瞳を見て、決心が付いた。

「悠子・・この冬が終わったら・・2人で暮らそうか」
 俺の言葉に、顔を上げて見つめてくる悠子。
 その潤んだ瞳から幾筋もの涙が溢れ・・
「亮治っ!!」
 俺の名を叫ぶと悠子はしっかりと抱きついてくる。

 そのまま俺達は、悠子が泣きやむまでずっと抱きしめ合っていた・・。


 あれから時が過ぎ・・
 冬も終わりに近づいた頃・・

 俺は、悠子と暮らす為に借りた部屋で、いつものように彼奴が来るのを待っていた。
 だけど・・・

 鳴り響く電話の音。
「はいは〜いっと・・悠子か?」
 てっきり、どこかに寄ってくるとか・・そんな電話を、悠子がかけてきたんだと思っていた・・でも・・それは・・悪夢のような知らせだった・・・

「・・・そんな・・・」

 悠子が・・

「嘘だ・・・なぁ、冗談だろ? 冗談だって言ってくれよ!!」

 悠子が・・・

『・・・申し訳ありません・・手は尽くしたのですが・・』

 − 死んだ −

「そんな馬鹿な話・・あるかよ・・っ・・」
 取り落とす受話器。
 とても立っていられない。
 崩れ落ちるように俺はその場にへたり込む。

「なんで・・・これから・・一緒に暮らそうって・・部屋も借りたんだぞ・・なのに・・なのに・・・っ!」

 拳を床に叩きつける。
 皮膚が破れて血が飛び散るが、痛みなんて感じない。

 だけど1つだけ、やらなけりゃいけない事を思い出した。

「悠子・・悠子っ!!」

 部屋を飛び出す。
 エンジンが掛かるのももどかしく、俺は病院へと急いだ。

 確かめる為・・真実をこの目で確かめる為に・・俺は・・

 
 飛び込んだ病室・・
 そのベットの上で、いつも眠っている時と同じように微笑みを浮かべたまま、悠子は眠っていた・・

「な・・何だよ・・寝てる・・だけ・・じゃねぇ・・か・・・しんぱい・・させやがって・・」
「亮治くん・・悠子が・・悠子が!!」
 悠子の母さんが、俺の姿を見つけて泣きついてくる。
「お、おばさん、なに泣いてんだよ・・悠子、寝てるだけじゃねえか・・な、なぁ、そうだろ? そうなんだろ!?」

「亮治くん、気持ちは分かるが・・」
 悠子の親父さんが俺とおばさんを抱きしめる。
 そのおじさんの頬にも涙が・・

「おじさん・・・」

「悠子は・・・もう・・」

 涙をこぼしながら紡ぐおじさんの言葉・・
 もう・・限界だった・・・

「う・・うああ・・うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 悠子・・悠子っ! 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ! 一緒に暮らすんだろ? 子供、一緒に育てるんだろ!? 名前だって、もう考えてるんだぞ! これから・・一緒に生きていこうって言ったじゃないか!! 目を・・目を開けてくれ・・笑ってくれよ・・なにか・・なにか言ってくれよっ!!」

 叫ぶ・・喉が裂けるほどに・・
 冷え切った悠子の身体を少しでも温めようと、掻き抱く。

 でも・・・悠子は二度と・・目を開く事はなかった・・・

 
 あれから1年・・
 俺はあの日、悠子と走ったこの道を一人きりで走っていた・・
 悠子がいない事以外、あの時と同じ・・
 俺の哀しみを少しでも癒そうとするかのように・・
 雪がちらついていた・・

 何でもないような事が・・幸せだったと思う・・

 何でもない夜の事・・それは・・二度と取り戻す事の出来ない・・夜・・





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