−歌パロShort story−
青いベンチ

by Sin

 机の上に放り投げたままの一枚の葉書。
 それは高校のクラス会の案内。
 特に仲の良かった友達はいない……でも……
 
 あの頃……僕の恋人だった彼女がいる……

 期日は明日。
 彼女……来るんだろうか……
 
 そんな事を思いながら、手の中で案内の葉書を半分に折り曲げる。
 
 思い出すのは、怒られてばっかりだったって事……
 
 学校に行くのに待ち合わせしてはいつも遅れて、彼女まで遅刻の常習犯にさせてしまっていた。
 そして、あの最後の日……
 絶対に遅れちゃいけなかったあの日…
 あの日も、僕は遅刻してしまった…
 
 遅れると言っても、ほんの30分……
 いつもそう思っていた……
 だけど…いつもなら待っていてくれたはずの彼女の姿を探しても、もう、何処にも見当たらなくて…
 
 駅の隅のメッセージボード。
 その端っこに小さく書かれた、『さよなら』の文字。
 少し震えて書いたかのように歪んだその文字を見て、僕は全てが遅すぎた事を知る。
 
 泣く事も、怒る事も出来ず、ただ、呆然と立ち尽くすしかなかった僕…
 それっきり、彼女は僕の前から消えてしまった……
 
 何の目的もなく歩く並木道……
 そこはかつて、彼女と一緒に手を繋いで歩いた場所……
 でも、今はたった一人……
 通り過ぎていくたくさんの人達の中に、彼女の姿はない……
 
 あの頃……
 好きだって言葉が恥ずかしくて殆ど言えなかった……
 だけど……今はそれを一番後悔している…
 
 この声が枯れてしまうくらい、好きだって言えば良かった……
 彼女の心から、僕が消えてしまわないように、焼き付けるように伝えれば良かった……
 
 あれからもずっと、彼女に会いたくて仕方ない……
 どこにいても……何をしていても……
 考えるのは彼女の事ばかり……
 
 夕方の雲がホームの空を抜けていく……
 この街で僕は……たった一人……夢ばかり見て旅してる……
 
 
 付き合ってた頃、よく行った公園。
 横を通り過ぎるたびにいつも、あそこの青いベンチに腰掛けて僕に手を振っていた彼女の姿を思い出す…
 
 その度に僕はいつも後悔を重ねる。
 どうしてあの時ちゃんと好きだって言わなかったんだろう…
 もう二度と戻らないと判っているこの想い……
 思い出す度に胸がちくりと痛んだ……
 
 
 ふと足下の落ち葉を拾い上げて、あれから随分季節が過ぎていた事に気付く。
 二人の間を結んでいた想いはいつしか気付かないほど遠くにかき消されていく……
 
 人気の無くなった駅……
 僕は一人、まだそこに立ち尽くしている。
 
 好きだった。
 何物にも変えられないほどに大切だった。
 彼女が、僕の全てだった……
 
 なのに……
 
 こんな事になるんなら、二度とこの声が出なくなっても構わないから、好きだって何回でも彼女に言えば良かった……
 どんなに忘れようとしても、会いたくて仕方なかった。
 胸に空いた穴を埋める事がどうしても出来なくて、どこにいても、何をしていても彼女の事を思い続けている……
 
 どんなに願っても……今更どれ程に叫んでも……
 もうこの恋は二度と戻らない……
 
 叶わぬ想いが、僕の胸の中をちくりと刺した……
 


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