−Short story−
勿忘草

by Sin

夕暮れの道を連れ立って歩く俺達。
小さい頃からずっと一緒にいたから、これからも変わらないと思っていた。
だけど・・・

「ひ、引越し!?」
あまりの事に声が裏返ってしまう俺。
そりゃあ・・由真だって家族と一緒に暮らしてるんだから、親の都合ってのも
あるだろうけど・・

「それで・・いつ?」
「今日・・これから・・」
「!?」
何か言いたいのに、言葉が出ない。
そのまま立ち尽くしていた俺達だったが、やがて・・・
「・・・なんで・・今まで黙ってたんだよ・・・」
「ごめんね・・どうしても言えなくて・・・」
俺の言葉にそう言うと俯いてしまう。
だが、その時俺は由真の足元に涙が零れ落ちたのに気がついた。

「お前・・・」
「・・・今まで・・ありがとね・・・」
こいつは俺を見つめてそう言うと、顔を覆って泣き出した。

それからどのくらい経っただろう。
俺達はさっきの場所からまだ動けずにいた。
あれから由真は、ずっと泣き続けてる。

そんなこいつの顔を見てるうちに、なんとなく、さっきまでの苛立ちが薄れてきた。

「・・・もう・・いいよ・・」
「でも・・」
泣きじゃくりながらそういう由真を俺はいきなり抱きしめた。
「正人・・・!?」
驚いて身を硬くするこいつの背中を軽くポンポンと叩いてやる。
「もういいから。もう泣くなよ・・・」
「で、でも・・・」
由真は戸惑いを隠せないみたいだけど、別に振りほどかないってことは、
嫌じゃないんだよな?
「・・・これが・・最後なんだろ・・一緒に帰ったり出来るの・・」
「う、うん・・・」
「だったら、涙なんて見せるなよ・・・一生会えないって訳じゃないだろ・・・」
俺がそう言うと、由真は余計に瞳を潤ませて俺に抱きついてきた。

「・・・また・・会えるよね・・?」
「当たり前だろ・・絶対に会う・・絶対にな」
そういって抱きしめる俺の腕の中で、由真はそっと頷いた。

夕暮れの土手を歩いていた俺達。
ふと、由真が何かを見つけて駆け寄った。
「正人」
「ん?」
「この花、知ってる?」
「俺に花の事なんて聞くなよ〜知ってるはずないだろ?」
俺がそう言うと、由真は嬉しそうにその花を摘んで俺に渡した。
「なんだ?」
「この花の名前、覚えておいてね」
そう言う由真を訳も分からず見つめるしかない俺。
「この花・・勿忘草・・・って言うの・・」
「わすれな・・ぐさ?」
戸惑って俺が聞き返すと、由真はいきなり俺に抱きついてきた。
「お、おい!?」
「この花の花言葉のように・・・私の事・・忘れないで・・・正人・・」
そう言う由真を俺はそっと抱き寄せて、初めての唇を交わした。

翌日、あいつの家に行ってみると、そこはもう空き家になっていた。
だけど俺は信じてる。
いつか必ず、また由真と会えることを。
だって昨日約束したから・・・

「そうだろ・・・由真・・・」





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