−Short story−
刻を越えて…

by Sin

あの日…俺はあいつを…麗華を守る事ができなかった……
俺の腕の中でその身体が冷たくなっていく……
もはやいかなる方法を用いたとしても、麗華を助ける事はできない……
そう……麗華を助ける事は………

外法とされた術……
相手の魂に自らの魂を縛り付ける事で、必ずその相手を転生させる……
しかし、その術を用いた者は、その相手が転生し、新たに死する時まで、
永遠に死ぬ事ができなくなる。

俺は覚悟を決めた。
いかなる時を越え、永遠に死ぬ事もかなわなくなるとしても、
それでも……たった一時でいい……
麗華ともう一度会えるのなら……

ぐっと唇を噛み切る。
溢れる赤い血をあいつの唇にそっと塗る。
血の滴る唇で呪文を唱え、そのまま唇を重ねた。

激しい光と共に麗華の姿が消えていく。
次にあいつと会えるのは何年先か……いや……何百年先か……
それまで俺は死ぬ事も……老いる事もない……
だが、それでいい……
もう一度あいつと会えるなら……それだけで……いい……

見上げた空はどこまでも青く澄み渡っていた……


どれほどの月日を重ねただろう………
「あの、大丈夫ですか?」
疲れ切り、古びた神社の社に腰掛けた俺に話しかけてくる娘……
その姿は……まるで……
「麗……華………」

たとえ姿は麗華でも、もはや彼女は麗華ではない……
記憶など残っているはずもない………
だが……それでも……

「やっと……会えたな………」

俺がそう言った途端、俺は目を疑った。
彼女の頬を涙が伝ったのだ………

「あ、あれ、なんで?」
戸惑いながら涙を拭うが、いくら拭っても溢れてくる涙は止まらない。
「あれ…? あれ……っ……」
いつしか俺は彼女を抱き寄せていた。

もはや記憶には残っていない……けれども、俺たちの想いは

刻を越えて、永遠に……





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