― Original Short Story ―
『ねぇ』
by Sin


 中学生の頃から…ずっと見つめてきた……

 貴方と同じ高校に入りたくて、いっぱい勉強もした…

 貴方がどんなものが好きなのかも知ってる……

 貴方の好きな料理だって、ちゃんと練習したの…

 ねぇ……だからお願い……

 気付いて……

 私の気持ち……

 貴方の事を…こんなにも思っている私に……気付いて……


「はぁ………っ…」

 溜息。
 もう何回目だろう。

 彼のことを思うと、胸が張り裂けそうなくらい高鳴る。

 3年前。
 私は初めて彼の姿を見た。

 陸上部のエースだった彼の走る姿はとても素敵で……
 一目で恋に落ちた……

 でも…

 私は彼と一度も話すことができなかった。

 機会がなかった訳じゃない。
 相手にされなかった訳でもない。
 ただ……

 ただ……なにもできなかった……

 声をかけることも…

 微笑みかけることも……

 できたのは……思うことだけ……

 彼を思って……彼のことを調べた。
 自分でも思う。まるでストーカーみたいって。

 でも…話しかけて…拒絶されるのが……怖い……
 
 受け入れて貰えなかったら……私は……私でなくなってしまう……

 そんな気がして……


「はぁ………っ…」
 また溜息。
 もう何度目?
 溜息をつくたびに幸せが逃げていくって誰かが言ってたけど……
 だとしたら、もう私に幸せなんて残ってないよね……

「はぁ………」
「どうしたどうした、やけに暗い顔してんじゃないの!」
 びっくりして振り返ると、そこにはお姉ちゃんの姿が。

「なんだ、お姉ちゃんかぁ。びっくりさせないで」
「別に驚くような事じゃないでしょ? それより、なに考えてたのか知らないけど、酷く暗い顔してたわね。なにかあった?」
「……なにもないから……」
「複雑そうね……ね、私に話してみない? 1人で悩んでるよりずっといいかもよ?」
「でも……」
「お姉ちゃんとアンタの仲じゃない。ね、話してみなさいよ」
「う、うん………」

 悩んだ末に、結局お姉ちゃんに話してみることにした。
 これまでのこと、初めて好きになった人のこと、そして……
 どうしても声をかける勇気を持てなかったことを……

「……はぁ……そりゃ、溜息もつくはずね」
「私……どうしたらいいの……? どうしたら……」
「って、こらこら、泣かなくてもいいじゃない。まあ、なんとかしたいって言うんなら、方法は1つよね」
「え……っ?」
「告白よ、こ、く、は、く」
「え、ええ―――――っ!?」
「だって、アンタずーっと悩みっぱなしで、一度も話したことすらないんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「だったら、うじうじ悩むより、ハッキリさせた方が良いじゃない。それでふられるって言うなら、それも運命よ」
「そんなぁ……」
「由真、アンタ大事なこと忘れてるよ」
「え?」
「今のアンタがやってることは、ただの独りよがり。そんなの愛でも恋でもないわ。もし、アンタがそうやって彼のことをこそこそ嗅ぎ回ってるって彼に知られたら、それこそ本格的に嫌われるわよ」

 言葉がなかった。

 そう……自分でもわかってたじゃない。
 まるでストーカーみたいだって。

 そんなことを続けていて…いつか彼にその事を知られたら……
 告白すらできないまま、ただつきまとってるだけの女なんて……嫌われるに決まってる。

「アンタが、本当に彼のことを思っていて、恋人になりたいって思ってるなら…ちゃんと告白して、彼にアンタのことを知って貰いなさい。その上で、彼がアンタを選んでくれれば最高だし、もし選んで貰えなくても、彼の心にアンタの存在を刻むことはできるわ」

 お姉ちゃんの言葉が、私の中で広がっていく。

 まるで水面に立てた波紋のように……


「………お姉ちゃん…私……私………」
「告白……するのね?」

 頷く。
 ゆっくり……でも、はっきりと。

「頑張りなさい。由真」
「う……うん!」

 お姉ちゃんの応援を受けて、私は……


 翌日の放課後……

 部活に向かおうとする彼の姿……

 私は……


「あ、あの……せ、先輩!」
「ん? 俺?」
「は、はいっ!! ちょ、ちょっと、よろしいでしょうか!?」
「まあ……部活始まるまでもう少しあるから、長くなければいいよ」
「あ、ありがとうございますっ!!」

 精一杯の勇気を振り絞って、彼を――先輩を屋上に誘う。

「それで? 俺になんの……」
「わ、私っ!! せ、先輩が……先輩のことが……すっ、好き、ですっ!!」
「―――――っ」
「………ずっと……中学生の頃から…先輩のことが……先輩のことが好きで……私……私っ……」
「お、おい、な、なんで泣くんだよ」
「ご、ごめんなさい! 私……ずっと……勇気無くって……でも…先輩に……知って欲しくて……私の……気持ちを……伝えたく…って……」

 堪えきれない涙が、ポロポロとこぼれ落ちる。

 泣きたくなんて無いのに……

 先輩に、こんな顔……見られたくないのに……

「……真剣……なんだ…」
「当たり前……です……こんな事……冗談じゃ言えません!」
「悪い……そうだよな……」
 
 そう言った先輩はしばらく考えていたけど……やがて…

「……なぁ、君……名前は?」
「ご、ごめんなさい! わ、私、橘 由真っていいます」
「橘さんか……じゃあ、橘さん」
「は、はい!?」
「君が本当に真剣な思いで告白してくれたんだから、俺も真剣に答えるよ」
「は……い……」

 胸が……張り裂けそう……
 音が…聞こえてしまうんじゃないかしら……

「……俺は、君のことを全く知らないから……だから、今すぐに付き合うとかそういう答えは出せないよ」
「―――――っ」

 わかっていたはず…
 私なんかが……先輩に選んで貰えるはずが………

 そう思ったときだった。

「でも……」
「……えっ?」
 先輩の言葉に、溢れそうだった涙が一歩手前で止まる。

「これから君のことを知っていって、その中で君を好きになったら……その時は、俺の方から君に告白する。それまで…この返事、待ってくれないかな?」

 照れくさそうに微笑んでそう答えてくれた先輩……
 
「先輩……っ」
「駄目、かな?」

 先輩の言葉に、ぶんぶん首を振って否定する。

「嬉しい……です……先輩……」
「友達からだけど…よろしくな」
 そう言って差し出される先輩の手。
「はいっ! こちらこそ、よろしくお願いします!!」
 差し出された手を、ギュッと握りしめる。

 今…私の物語は……動き出した……


 ねぇ……
 思っているだけじゃ駄目だよ……
 言わなきゃ伝わらないことだってあるの……

 ねぇ……
 想いを伝えたとき…
 動き出す物語だってあるのよ……

 ねぇ……
 貴方はもう……わかっているはず……

 見つめるだけはもうやめて……思うだけはもうやめて……
 たったひとことでいい……

 勇気を振り絞って、貴方の思い人に伝えて……

 ねぇ……聞いて……って……


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