−Short story−
Kissから始まる物語

by Sin

 あたし、折原 紗理奈。
 今日からここの学校に転校してきたんだけど、高校3年の2学期に転校なんて、
冗談じゃないよね〜。
 あ、とか言ってる間に時間ギリギリじゃない!
「行ってきま〜す!!」
 誰もいない家に向かってそう言うと、あたしは鞄を持って玄関を飛び出した。
 まあ、ドアはオートロックだから気にしなくてもいいでしょ。
 初めて着る制服、初めての通学路、あたしにとってみんな初めてばかり・・
 でも、まさかあんな初めてまで経験しちゃうなんて、その時のあたしは夢にも
思っていなかった。
 バス停まで全速力で走ったあたしは、何とか間に合ったバスに飛び乗ったの。
 周りを見ると、同じ制服を着た女の子達がいくつかのグループに分かれて話してる。
 一緒に乗ってる男子も同じ学校かな?

 今、あたしの目の前にも一人の男子生徒がいた。
 あたしより10センチくらい背の高い、どっちかって言えば好みのタイプ・・かな?
 その人は、あたしの事なんか気にもしないで、ぼーっと窓の外を見てる。
 その時、突然・・
 バスが急ブレーキをかけた。
「きゃっ!」
 一斉にバスに乗ってるみんなも将棋倒しになっちゃった。
 もちろんあたしも・・・
 でも・・なんだか変・・・
 目の前に・・なにか・・・
 えっと・・・さっき、目の前にいた・・男の人?
 ・・・じゃあ・・えっと・・・今・・あたしの唇に・・触れてるのって・・
 「い、いやああああああああああああっ!!」
 今の状況が解ったあたしは、悲鳴を上げてその人を突き飛ばした。
 その人も周りの人も呆然としてる。
 だって・・しょうがないじゃない・・・・
 そりゃ・・好みのタイプだけど・・
 いきなり・・唇を・・・奪われるなんて・・・
 それからバスが到着するまでの十数分の間、あたしはずっとうずくまって泣いていた。
 バスが到着してからどうやって学校まで行ったのか、よく覚えてない・・
 気がついたときには、クラスに案内されて、自己紹介をさせられてた。
 そして席についたあたしは、思い切りため息をついた。
 その時、隣の席の男の子が声をかけてきたの。
 「あ、あのさ・・・えっと・・・」
 あたしはさっきの事がショックで、呆然としてたんだと思う。
 でも、その人を見た瞬間・・・
 「あ、ああっ!」
 そう、それはさっきあたしの唇を奪った・・・
 「えっと・・・その・・さ、さっきはごめん! わ、悪気はなかったんだ!」
 彼の言葉に周りも何事かと見ている。
 「・・・その・・あんな出会い方して、こんな事言うの変かもしれないけど・・」
 彼の顔、何となく赤い? どうして?
 「あ、あのさ、俺と・・つきあってくれないかな? も、もちろん友達からでいいから・・」
 唐突な彼の言葉にあたしは何が起こっているのか、初めは全然解らなかった。
 でも、少し経って、彼の言ってる意味がわかったとき、あたしは思わず顔を手で覆った。
 絶対に真っ赤になってる事が解ったから・・・
 あれからあたしと彼は友達以上、恋人未満って感じで付き合ってる。
 あんな事が出会いになるなんて、ほんと人生って、わかんないものよね〜。





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