−Short story−
風の音色

by Sin

「ふわぁぁ・・・ん?」
辺りを見回すと、見慣れない風景が広がっている。
「ここは・・?」
ボンヤリと見ていると、不意に背後でクスクスと笑い声がした。

「ふふっ、おはよう。どう? 新居での初めての朝は?」
そう言われて俺はようやく思い出した。

「あ・・そうか・・俺、結婚したんだっけ・・」
「もぉ・・まだ、ぼ〜っとしてるんだから・・・」
彼女はそう言うと、俺の顔を両手で挟み込んでじっと見つめてくる。

「な、なに?」
「ほら、私は誰? あなたのなんなのかしら?」
思わず怯んだ俺に微笑みかけながら、言ってくる彼女に、照れながらも答える。

「渡瀬・・じゃなかった。坂木友美。俺の幼なじみで恋人で・・昨日からは、
俺の、その・・嫁さん・・」
「はい、良くできました。ふふっ」
そう言ってクスクス笑う彼女を、俺はそっと抱き寄せた。

「・・本当に・・俺達・・結婚したんだな・・」
「ふふ・・まだ実感湧かない?」
「ああ・・まだ夢を見てるみたいだ・・」
俺の腕に抱かれながら、友美はクスクス笑うと、胸に頬を押しつけてきた。

「ほら、こうしてると、弘昭の音・・聞こえるよ・・」
そう言って微笑む友美を優しく抱きしめる。

「夢じゃないよ・・だって・・こんなにあったかいもん・・」

チリ〜ン・・・

そっと抱きしめあう俺達の耳に聞こえてきた小さな音色・・

「あ・・風鈴・・」
「そう言えば、付けたままだったな・・」
昨日の夜、荷物を片づける途中で出てきた思い出の風鈴・・壊れないように
窓にぶら下げたまま、しまうのを忘れていた。

2人だけで初めて行った夏祭り・・
告白と一緒に渡した風鈴・・

窓から身を乗り出している友美の側で、風が吹くたびに風鈴が静かな音色を
奏でている。

「綺麗な音だよね・・」
「まるで、風の音色って感じだな・・」
「クスッ・・弘昭ってば、ロマンチック〜♪」
「そ、そうか?」
照れ笑いする俺に友美はクスクス笑うと、ボンヤリと風鈴を見つめた。

「・・私と弘昭が恋人同士になってから・・ずっとこの風鈴は一緒なんだね・・」
「ああ・・」
「これからも・・ずっと・・ずっと一緒にいてね・・弘昭・・」
「・・ずっと一緒だ・・友美・・」

抱きしめあう俺達を包み込むように、風鈴はいつまでも静かな音色を奏でていた・・




戻る