−Short story−
星空の下で

by Sin

 満天の星空の下、2人で初めてのデート・・
 夏祭りなんてイベント選んだのは失敗だったかな・・浴衣姿の彼女に、思わず真っ赤になっちまった・・

「ねえ、榊くん。せっかくの夏祭りなのに、私で良かったの?」
 そう言って彼女は下から見上げてくる。俺の方が頭一つ分背が高いからな。
「伊奈川と来たかったんだよ・・俺は・・」
「そう・・なんだ・・」
 照れくさくなって空を見上げながら言うと、伊奈川も顔を赤くしてうつむいた。

 屋台を色々覗いていく。
 金魚すくいに・・ヨーヨー釣り・・射的とか・・懐かしいな・・
 伊奈川は途中で見つけたわたあめを幸せそうな笑顔で食べている。
「榊くん、とっても甘いよ〜」
「滅多に食べられないもんなぁ、わたあめなんて」
「うん、それにやっぱりこういう時じゃないとねっ」
「そうだな」
 
 2人肩を並べて境内を歩く。
 まだ手を繋ぐような仲じゃないから、それが精一杯だ。
 
「それにしても・・凄い人だね〜」
「ああ、ここの夏祭りは毎年多いからなぁ・・」
「・・・ねぇ・・」
「ん?」
「はぐれちゃったら・・嫌だし・・その・・手・・繋いでも・・いい?」
「えっ・・あ、ああ・・ほ、ほら・・」
「うんっ♪」
 俺が軽く差し出すと、伊奈川は喜んで手を重ねてきた。

− 初めてのデートで、手を繋ぐとこまでいけるなんてなぁ・・

 そんな事を考えて浮かれていた俺は、不意に手を引かれて立ち止まった。

「どうした?」
「え、えっとぉ・・ちょっと・・お腹・・空かない?」
「ん? そう言えば、昼に食ったきりだし・・伊奈川も腹減ったのか?」
「えっ? あの・・その・・えへへ・・」
 照れくさそうに笑って舌を出した伊奈川が可愛くて・・思わず見とれた。

「え、えっと・・」
「あっ、あのさっ!」
「は、はいっ!?」
 突然の俺の声にビックリして声が裏返ってる。
 その様子に俺は思わず苦笑した。

「もぉ・・笑わないでよぉ・・」
 そう言って頬を赤らめる。やっぱり可愛いな・・

「じゃあ、焼き鳥でも食べようか」
「うんうんっ♪」
 喜んではしゃぐ伊奈川と、俺は近くの屋台に向かった。

「おいしそ〜っ! じゃあねぇ・・これと・・これと・・あ、あとこれも〜♪」
 本当に楽しそうに次々と注文する伊奈川に苦笑すると、俺もいくつか頼んだ。

「ねぇ、本当にそれだけでいいの? 足りる?」
 心配げに聞いてくる伊奈川。だけど・・
「足りなかったらまた何か買うよ。それより、伊奈川の方こそ食べきれるのか?」
「え? あ、えっと・・あはは・・わかんない・・」
「だと思った・・」
「えっ・・じゃあ・・もしかしてその為に・・」
「ま〜ね。んじゃ、とりあえずのんびり食えるところ探そうか」
「うん・・・ありがと、榊くん・・」
 そう言って、俺の手をさっきよりも強くギュッと握ってくる。
 なんとなく照れくさくて、俺は頬を掻いた。

「う〜ん、やっぱりおいし〜っ♪」
「そうだな。それにこう言うところで食べると、余計に美味く感じるよ」
「うん♪ あ、それに・・」
「ん?」
 俺が聞き返すと、伊奈川は照れくさそうにうつむいていたが、やがて・・・

「榊くんと一緒だから・・」
「あ、ああ・・」
 思わず顔が熱くなる。多分真っ赤になってるだろうな。

「・・・え、えっと・・や、焼き鳥美味しいね・・」
「ああ、そうだな・・」
 また気まずい沈黙・・だが、その時、伊奈川がそっと手を重ねてきた。

「・・今日・・誘ってくれてホントに嬉しかった・・」
「伊奈川・・?」
「ずっと・・榊くんと・・こうしてデートしたり・・お話ししたり・・したかったの・・」
「えっ・・じゃ、じゃあ・・」
 俺の言葉に頬を赤らめて頷く伊奈川。
 また続く沈黙・・だが、今度は少し違った。
 そっと重ね合った手の指を絡めて・・さっきよりももっと近くに寄りそう・・・
 そして・・それからしばらく俺達は寄り添い合ったまま、夜空を眺めていた・・

「・・あは・・すっかり焼き鳥も冷めちゃったね・・」
「そうだな・・」
「・・えっと・・」
「食べきれなくなったんだろ?」
「・・あ、あはは・・うん・・」
「仕方ないな・・ほら、貸しなよ」
「うん・・」
 伊奈川から受け取った焼き鳥を、俺は次々に平らげていく。

「うわぁ・・すっごいねぇ・・あ、えっと・・・」
「なんだ、欲しくなった?」
「う、うん・・ちょっとだけ・・だって・・すっごく美味しそうに食べるんだもん・・」
「ははは・・食欲さそっちまったか」
 そう言って俺は手に持っていた分をそのまま伊奈川の口元に差し出した。

「あ・・えっと・・?」
「ほら、口開けて」
「え、え〜っ・・だ、ダメだよ、こんなとこで・・恥ずかしいよぉ・・」
「恥ずかしがること無いだろ・・焼き鳥食わしてやるくらい・・」
「だ、だってぇ・・・」
 真っ赤になってうつむく伊奈川。
 だが、やがて観念したのか、おずおずと口を開けた。
 そこに俺が差し出してやると、伊奈川は大急ぎで食べた。よっぽど恥ずかしかったんだな。
 
 やがて、焼き鳥もなくなり、祭りも終わりの時間になろうとしていた。
 他に誰もいない2人だけの境内・・
 ふと、伊奈川がなにかに気付いたかのように俺の顔をじっと見ている。

「な、なんだ?」
「・・・じっと・・しててね・・」
「え?」
「・・・目、閉じてて・・」
「な、なんだよ・・」
「い、いいからっ!」
「・・・わかった・・これでいいか?」
 そう言って俺が目を閉じた瞬間だった。

ちゅっ・・

「えっ・・な、なにっ!?」
 慌てて俺が目を開くと、目の前には伊奈川の顔が・・・

「あ・・あはは・・えっと・・その・・く、口元に・・焼き鳥のたれが・・ついてた・・から・・」
 伊奈川の顔は真っ赤だ。俺だって間違いなく真っ赤になってる。

 そして・・・

「伊奈川・・・その・・俺と・・付き合ってくれるか・・・? 友達じゃなく・・恋人で・・」
 俺の言葉に、伊奈川は涙を浮かべて頷いた。
 
 そしてそれから数年後・・
 ふと、俺達はあの夏祭りのことを思い出した・・

「私達のファーストキス・・焼き鳥味だよねっ♪」
「・・だな」
 明るく笑ってそう言う伊奈川に、苦笑する俺・・
 これからもずっと・・焼き鳥を食べるたびに思い出すんだろうな・・

 ファーストキスの味を・・






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