−Short story−
花吹雪の思い出

by Sin

この時期になると、いつも思い出してしまう・・・
薄桃色に包まれたあの日の事を・・

いつもの学校の帰り道・・
ちょっと寄り道して途中の公園に俺は立ち寄った。
ここは遊歩道の両側に桜が多く植えられていて、この時期になると
いつも美しい花を咲かせている。
俺はこの桜を見るのが何より好きだった。

そう・・あの日から・・

あの日も同じように俺は公園に立ち寄った。
特に目的があった訳じゃない。
ただ、家に帰ったところで、またうるさい説教が待っているだけだから、
少しでも帰る時間を遅くしたかっただけだ。

何も考えず、ただぼーっと過ごしていられればそれで良かったんだ。
だけど俺は・・あいつに会った・・・

− ここで、何しているの?

何気なく聞いてきたあいつ。

− なにも・・・

俺は素っ気なく答えた。
別に話す事が嫌だった訳じゃない。
答える事が無かっただけだ。

− 横、座ってもいい?

そう言ってくるあいつに俺は頷く。
何を話すでもなく、俺達はそのまま、ただぼーっと桜を眺めていた。
それからどれだけの時間が流れただろう。

− 桜・・・綺麗だよね。

ただ一言そう言ってくるあいつに、俺は再び頷く。

− また・・会える?

俺がその問いに頷くと同時に、横からあいつの気配が無くなった。
ふとそちらに目を向けると、そこには誰もいない。
ただ、桜の花びらが、さっきまであいつが座っていた場所に、静かに渦巻いていた。

あの日から俺はこの時期になると毎日ここへ来る。
そしてあいつと会って、何を話すでもなく桜を見て、そして別れる。
あいつが誰で・・いや、『なに』で、そしてどうして俺の前にいるのか、それは
解らない。

だけど俺の中で、この時間がいつの間にかとても大切なものになった・・・

だから俺はまた、ここへ来る・・・
ただ、あいつと会う為に・・





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