― Original Short Story ―

誤解
by Sin

 長かった高校生活も…あと少し……
 無事に受験も突破して、春からは短大生になる…

 でも…

 私の胸の奥…
 楔のように突き刺さったままの想い……

 この気持ちを彼に伝えなくちゃ…先に進めない。

 たとえ…どんな結果になるとしても……

 ううん…結果が……わかっていたとしても……

「言わなくちゃ……ふられるって…わかってるけど……」

 意を決して歩き出す。

 今日の昼休み、渡した手紙はきっと読んでくれたはずだから。

 一歩一歩。

 屋上への階段を上っていく。


 本当は、ちゃんと告白して…返事を待つつもりだった…

 でも…そう決めて彼を捜していた時に…私は見てしまったの…

 去年卒業した朝霞先輩と楽しそうに話している彼の姿を…

 腕を組んだり、抱きつかれたりして……凄く仲良さそうだった…

 声をかけることも忘れて、あのまま見送ってしまったけど…私に勝ち目なんてあるはず無い…

 去年…卒業するまでずっとこの学校のアイドルだった朝霞先輩…

 男子生徒みんなの恋人にしたいランキング1位を独占し続けて、女の子達からも凄く人気があった……
 優しくて、綺麗で、頭がよくって、運動神経抜群で…

 才色兼備って…ああいう人のことを言うんだ……って、思ってた…

 まさかその朝霞先輩と、彼が恋人同士だったなんて…

 ショックだった。

 本当は今日、学校も休もうかと思ってた。

 でも…でも、やっぱり、ちゃんと気持ちを伝えなくちゃ…このままじゃ終われないもの。


 最後の段を上りきる。

 あとは目の前の扉を開けて屋上に出るだけ。

 思い切り深く深呼吸して、「よしっ」って気合いを入れる。

 震える手でゆっくりと開いた扉の向こう…

 まだまだ寒い屋上の風の中…

 彼はそこにいた……


「………神谷…くん」
 震える声で呼びかけると、彼は軽く手を挙げて応えてくれた。

「……ごめんね…寒い中待たせちゃって……」
「別に構わないさ。それにこのくらいなら大して寒くないし」
「……ありがと…」
 私がそう言うと、彼、ちょっと赤くなって頬掻いてる。
 なんだか可愛い。

「それで……俺に話って……?」
「う、うん……あ、あのね……その……っ…」

 言葉が上手く出てこない。

 言いたいことはたった1つなのに。

 言ってしまえば……それまで……なのに……

「―――――っ」
 
 情けなくて…涙が浮かんでくる……

「わた……私っ……私ね……っ」

「常磐……さん?」
 不思議そうに見つめてくる神谷くん。
 思わず見つめてしまった私に、本当に素敵な笑顔で微笑んでくれる……
 ちょっと困ったような、はにかんでいるような笑顔で…

「………神谷くん……」
「ん?」

 意を決した。

 一度、大きく深呼吸して……

「好きですっ!!」

 言った…

 言ってしまった……

 びっくりしてる彼の顔。

「え、えっと……好き……って…常盤さんが……俺のこと?」

 戸惑ったような彼の言葉に、迷わず頷く。

「ま、マジ? ほんとに俺のこと好きだって……?」
「………好きです…もう、どうしようもないくらい……好きなんです……神谷くんのことが…私……ずっと……」

 もう…泣きそう……

 答えのわかってる結果を待つのが…こんなに辛いなんて……

「本気…なんだよな? 冗談とか……からかってるわけじゃないんだよな?」
「冗談でこんな事言えません……」
「わ、悪ぃっ!! そ、そうだよな。い、いや、マジでごめん。昨日、ダチにそのネタでからかわれたばかりでさ……ほんと……真剣に言ってくれたのに……ごめん…」
「あ、え、えっと……き、気にしないで下さい」
「……そう言ってくれると助かるよ。それで……返事、やっぱり今答えた方が良いよな」

 来た……

 ついに来てしまった……

 聞くのが怖い……

 聞くのが……辛い……

 拒絶…拒否……

 その言葉が待っているって……わかってるから…

 それでも……聞かなくちゃ……

 彼の答えを……

 彼の本当の想いを……

 そう……思って、ゆっくりと頷く私。

「……そっか…わかった」

 そう言った彼の口から紡がれる言葉…

 それは……

「ありがとう。俺なんかで……いいのかな?」

「えっ……? あ、あの……?」

「こんな俺でよければ……だけど」

 信じられなかった。

 だって彼には……

「ほ、ほんとに? ほんとに私と?」

「そうだけど…それとも……やっぱりからかってた?」
「違う! 違います……でも……だって……神谷くん…朝霞先輩と……」
「………ちょっと待て。ひょっとして、メチャクチャ勘違いしてるんじゃ…」
「え?」
「もしかして……俺が、瑠璃ねぇ…じゃなくて…瑠璃香義姉さんと付き合ってるなんて思ってるんじゃ……」
 思わず頷く私に、彼は思いっきり大きな溜息をついた。

「ったく、冗談じゃね〜っての。何で俺があの瑠璃ねぇとつきあわなけりゃならないんだよ。大体、兄貴の嫁さんに手ぇ出すほど落ちぶれてねぇって」
「え? えっと………?」

 頭の中、大混乱。

「だ、だって、神谷くん、朝霞先輩と一緒に楽しそうに歩いてて…腕組んだり、抱きつかれたりして……」
「幼馴染みなんだよ! 昔から瑠璃ねぇは俺のことああやっていつもからかって……って、まさか俺使って男避けしてやがったのか!? あ〜っ、くそっ!! 道理で俺がもてねぇわけだ!!」
「そ、それじゃあ、神谷くんは朝霞先輩と付き合ってるわけでもなんでもなくて……」
「そうだよ! 完全完璧に、年齢と彼女いない歴が一致してる哀しすぎる男なんだって!」
 
 呆然……
 信じられなかった。
 まさか……そんなことだったなんて……

「で……? その…なんだ。俺が完全にフリーだってわかったところで……常盤さん」
「は、はいっ!?」
「……マジに…俺と付き合ってくれるのか? さっき、俺のこと好きだって言ってくれて……正直、メチャクチャ嬉しかったんだけど……」
「………私で…いいですか?」
「え?」
「こんなどうしようもない勘違い娘で……ドジで……美人でもなくて……朝霞先輩みたいな才能なんて、1つもないような私ですけど……付き合ってくれますか? 私の……恋人になってくれますか?」
 最後の方は、もう心臓が破裂しそうだった。
 精一杯の笑顔を浮かべて、彼を見つめる。

 そして……

「俺の方から頼みたいくらいだよ! 常盤さん、こんな俺だけど、ほんと、よろしくな!!」

 そう言って私の手を握ってくれて…

「……うれ……し…い…」

 言葉にするのが精一杯で…
 涙が溢れて止まらなかった…

「あ、え、えっと……」

 そんな私を神谷くんはそっと抱きしめてくれて……

「……へへ…結構夢だったんだよな、こうやって慰めたりするのって」

 笑いながらそう言って照れてる彼の優しさが嬉しくて暖かくて……

「好きです……神谷くん……」
「洋介でいいよ。俺も常盤さんのこと名前で呼んでもいいかな?」
「はい……洋介さん」
「え、えっと……俺、まだ常盤さんの下の名前知らなくて……」
「あ、ご、ごめんなさい! 香奈美です。香奈美って呼んで下さい」
「香奈美か……じゃあ、これからもよろしくな、香奈美」

 彼に呼び捨てにされると、胸がきゅんってするの……

 なんだか……すごく嬉しい……

「洋介さん……」

 溢れてる涙は…
 まだしばらく止まってくれそうにない……

 でも……

 受け止めてくれる人がいるから……

「1つだけ言っておくけど……」
「………なんですか?」
「他の面は知らないけど……可愛いってだけなら…瑠璃ねぇより上だぞ、香奈美って」
「も、もう、からかわないで下さいよ……」
「本気だって」
「もぅ……」

 真っ赤になって彼を見つめる。

 この笑顔……この素敵な笑顔を……私が独り占めにできた……

 そんな最高の幸せが嬉しくて……

「大好きです、洋介さん♪」

 そっと触れる感触……

 頬に残ったその跡に真っ赤になる洋介さん。

 そんな彼の姿がおかしくて……
 そんな彼の声が愛しくて……
 そんな彼の存在が暖かくて……

 私……涙を浮かべて笑ってしまったの……

 洋介さん……

 私……今、これまでの人生で一番……幸せです♪


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