−Short story−
ドア越しのI'm Sorry

by Sin

「耕助のバカぁ!」
 そう言ってトイレに閉じこもってしまった真菜。
 いつもの事・・すぐに機嫌を直して出てくるだろうと思っていた
俺が甘かった・・・

「お〜い、真菜。おやつだぞ〜」
「いらない!」
 食べ物で釣ってもダメ・・

「おまえの好きな歌手、テレビに出てるぞ〜」
「ビデオ撮ってる!」
 芸能人で釣ってもダメ・・

「久しぶりにどこかに出かけるか〜?」
「いまさらなによ!」
 懐柔策は尽く不発に終わってしまった・・

 事の始まりは、単純な事だった。
「ねぇ、耕助。たまには一緒に出かけようよ。最近仕事ばかりで、
全然一緒に出かけられないでしょ?」
 そう言ってきた真菜を、俺がつい、邪険にあしらってしまった
ばかりに・・

「たまにはいいじゃない・・ねぇ・・耕助・・」
「うるさいなぁ・・たまの休みなんだ・・ゆっくり寝させてくれよ・・」
 その辺りから、真菜の様子がおかしくなってきたんだよなぁ・・

「ねぇ・・今日くらいいいじゃない・・ねっ・・今日だけ・・」
「だったら明日でもいいだろ・・昨日から徹夜だったんだからさ・・」
 俺がそう言った瞬間だった・・

「耕助・・忘れてる・・・」
「あん?」
「・・ひどい・・・忘れるなんて・・」
 そう言って泣き出した真菜。

「お、おい、なんだよ・・いきなり泣いたりして・・」
 差し出す俺の手を振り払う真菜。

「仕事仕事って・・いつも私の事ほったらかしにして・・挙げ句の果てに、
結婚記念日まで忘れるなんて〜っ!!」
 そう言って更に泣きわめく。
 で、その挙げ句が、冒頭の状況だ。

「お〜い、いい加減に出てこいよぉ・・」
 俺の言葉が聞こえているのかいないのか、真菜はしゃっくり上げるだけで、
答えようとはしない。

 結局、どうする事もできなくて、そのまましばらくほっておいたのだけど・・
 やがて・・・俺の方がピンチになってきた・・

キュルルルルルル・・・

 突然鳴り出した俺の腹・・
 トイレに駆け込もうにも、真菜が閉じこもってしまってるから、どうしようもない・・

「お、おい、真菜? ちょ、ちょっと出てきてくれよ」
「嫌」
「い、嫌じゃなくてさ・・な、頼むから・・」
「嫌ったら嫌」

 強情を張り続ける真菜に、俺の方は限界が近づいていた。

「ま、真菜さん? お、お願いだから・・出てきて・・・下さい・・」
「・・・・出てあげたら・・何してくれる?」
「な、なんでもするから・・・だから・・」
 俺がそう言うと、しばらくの後、ようやく鍵が開いた。

「・・・なんでもしてくれるんだよね?」
「な、なんでもするから・・ちょ、ちょっと待っててっ!!」

 トイレから姿を見せた真菜にそう言うと、俺はダッシュでトイレに飛び込んだ。

「な、なによぉ・・・何でもするって言ったのに・・・嘘つき〜っ!」
「真菜っ!」
「な、なに?」
「頼むからちょっとだけ待っててくれっ! できればトイレから離れて・・・」
「・・え?」
「・・・・・も、もう・・限界・・・」
「ほ、ほえ? あ・・・や、やだーーーーーっ!!」

 俺の言いたい事にようやく気付いたのか、真菜がトイレの前から悲鳴と共に
逃げ出したみたいだ。

 その後、ようやく落ち着いた俺は、それから数日間の間、真菜に振り回される事に
なったが、ただ一言だけは言っておいた。

「真菜、頼むからトイレに閉じこもるのだけはやめて・・お願い・・」

 それ以来、真菜を怒らせると、トイレが使えなくなると言う習慣が、我が家には
できてしまったのだった・・・





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