−Short story−
雨の日はふたりで

by Sin

終業のチャイムと共に俺は一気に教室を飛び出した。

別に急いで帰る用事はないんだけど、どうにもさっきから空模様が怪しい。
天気予報でも晴れって言ってたから、傘持ってきてないんだよな。

だから、降り出す前に…そう思って昇降口まで来て俺は愕然とした。
教室を出る時までは全然降ってなかったのに、今、俺の目の前にはまるで
滝のような豪雨……

「……俺に何か恨みでもあるのかよ……」

思わず溜息をつく。
そのときだった。

「お兄ちゃん」

背後からかけられた声に振り向くと、そこには妹の瑠璃香の姿があった。

「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あ、いや……その……な…」

思わず口ごもる俺。
仕方ないよな……朝、出がけに瑠璃香が傘持って行けって言ってたのに
降るわけないって持ってこなかったんだから……

「あ、ひょっとして……持ってこなかったの?」
下から覗き込むようにして見上げてくる瑠璃香。
身長差があるから仕方ないが……
いくら兄とはいえ、もう少し考えた方がいいぞ、妹よ。
今の俺達の様子、周りから見てると、どうも恋人同士に見られるらしいからな……

そんなことを考える俺をしばらく見ていた瑠璃香だったが、やがて大きく溜息を
ついた。
「もぉ……だから持って行ってって言ったのに……」
「はは……わりぃ……」
そう言って苦笑する俺に再び瑠璃香は溜息をつくと、俺にすっと傘を差しだしてきた。
「へ?」
「へ? じゃないでしょ。傘、お兄ちゃんが持ってね」
その言葉に、俺は瑠璃香が言いたいことが解った。だけど……
「お、おい、兄妹で相合い傘で帰れってのか?」
「お兄ちゃんだけ濡れて帰るって言うなら別に良いけど?」

小首をかしげながらそう言ってくる瑠璃香。
………我が妹ながら、そんな所がやけに可愛く見える……

こいつのこと、妹だって思うようになったのはいつのことだったか……
そう言えば、瑠璃香に初めて会った日も、雨だったな……

『竜介、今日からこの子がお前の妹だ。ちゃんとお兄ちゃんとして面倒見てやるんだぞ』
『………』
『竜介?』
『…………ぼく……いもうとなんて……ほしくないのに……』

あんな事言ってた俺が、今や……

「どうしたの、お兄ちゃん?」
「い、いや、つい昔のことを……」
「……ふぅん………変なお兄ちゃん」
瑠璃香はそう言って笑う。
最近、口癖になってる気もするな……

「で、どうするの?」
「………しゃーねぇな。濡れて帰るってのも嫌だし」
「じゃあ、はい」
そう言って渡してくる傘を受け取り、俺達は一緒に学校を出た。

それにしても……妹とは言ってもやっぱり一つ年下の女の子……
こんなにくっついて歩くと……何となく……その……照れる。

「ねぇ、お兄ちゃん?」
「なんだ?」
「……最近、手、繋がなくなったね……」
そう言った瑠璃香は何となく寂しそうだ。
確かに小学生の間はよく手を繋いで歩いたっけ……
けど、中学に入ってから、周りの奴らに『熱々カップル』なんて言われて、
それからは……繋がなくなったんだよな……

「お兄ちゃん……」
「ん?」
「………手、繋いでも…いい?」
「なっ……」
思わず瑠璃香の顔を見ると、うつむいてよく見えないが、頬がだいぶ赤く
なっているのが丸わかりだ。
「……ダメ?」
だぁぁっ、その、『おねが〜い(はぁと)』って感じで迫るなぁぁっ!
「おにぃちゃん……ダメ?」
あううぅぅっ、うるうるした目で見るなぁぁぁ……
「ねぇ………お兄ちゃ〜ん……」
「わ、わかったっ! わかったからそういうのやめろっ!!」
「わ〜い、やったぁ」
いつもこれだ。
結局は瑠璃香に押し切られちまう。
まぁ……嫌じゃないんだけど……な……

嬉しそうに俺の手に抱きつく瑠璃香。
………成長したなぁ……特に……この……腕に当たる辺り……
思わずそんなことを考えてしまう……
確かにこんな所を見たら、知らないヤツにとっては恋人同士にしか
見えないだろうな……

そのままのんびりと歩く俺達。
いつの間にか雨は少し弱くなったみたいだ。
「………お兄ちゃん」
「なんだ?」
「これからも……一緒にいて……ね」
「ああ」
「ずっと……だよ」
不意に瑠璃香の言葉が重く感じたので見ると、じっと見つめていたのか、
しっかり目が合ってしまった。
「な、なんだよ、真剣な顔して……」
「ずっと……一緒にいてね……お兄ちゃん……」
そう言ってまた俺の腕にしっかりと抱きつく瑠璃香。
こうなると言える事って他にないんだよな……
「ああ……」
俺の答えに、瑠璃香は嬉しそうにギュッと俺の腕に抱きつく。

一緒に……
瑠璃香の言葉が俺の頭を駆けめぐる……

あの雨の日、出会ってから……
これから先、どれくらいの月日が流れても……
きっと……

ずっと……一緒だ……

雨はあの日のように、いつまでも俺達を包み込んでいた……





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