― Original Short Story ―
愛されたいの
by Sin
楽しげに歩くカップル……
腕を組んで、時々髪を撫でてもらったり、抱きついたり……
「いいなぁ……」
そんなカップル達を見ながら、私は思わず呟いた。
これまでの人生、18年。
一度も恋らしい恋をした事のない私にとって、あんな風にラブラブムード全開になれる恋人の存在は、本当に憧れだわ……
普通なら、幼馴染みって言ったらもっとロマンチックで、いつも傍にいるけど、どれ程大切な人なのかわからなくて擦れ違い…なんてシチュエーションがあるものでしょう?
でも…私の幼馴染みは……
「おい、さや。何をぶつぶつ言ってるんだ?」
ほら、こうやってぶっきらぼうな態度…
少しくらい、優しい言葉をかけてくれたっていいじゃない。
「こ〜いちくんには関係ありませんっ。それに、さやって呼ばないでよ。私は沙也香なんですからねっ!」
「そうか。邪魔したな」
いつもこれ。
もっと優しくて、ロマンチックな人が私の前に現れないかしら……
そんな事を思ってたある日の事……
2組の遠田くんに「話したい事があるから」って呼ばれて行った屋上――
「以前から、君の事をずっと見ていたんだ。沙也香さん、僕と付き合ってくれないか?」
突然の告白。
嬉しさよりも戸惑いの方が多くて……
「す、少し考えさせて……」
そう答えるのが精一杯だった。
あれから1週間……
私は、正直迷っている――
「どうしたら……いいのかなぁ……」
出てくるのは溜息ばかり。
おかしいよね……ロマンチックな恋愛にずっと憧れてたはずなのに…
なんだか胸の中で、『これは違う』って誰かが言ってるみたいな感じがして……
「沙也香さん」
屋上で考え込んでいた私に、遠田くんが声をかけてきた。
「遠田くん……」
「あのさ……そろそろ…返事貰えないかな……?」
「う……ん……でも……」
「沙也香さんって、誰か好きな人がいる訳じゃないんだろ?」
「うん……まあ……ね……」
「………それとも…気になる奴でもいるのか?」
「えっ……ううん……いない…と思う……」
自分でもよくわからない…
でも、なにかが違うの……
なにか……なにかが……
と、その時だった……
「僕じゃ、駄目だって言うのかい? この、僕じゃ……」
「えっ……?」
「この僕が告白してるんだよ? クラスの女子から何度も告白されて、それをみんな断って君に告白してるんだ。僕だよ? この、遠田 稔に告白されてるって言うのに、どうして迷う必要があるんだい?」
そう言うと、遠田くんはいきなり私の腕を掴んだ。
「と、遠田くん? ちょっ、ちょっと、痛い!」
「早く答えてよ、沙也香さん。僕と付き合ってくれるんだろう? 僕のものになってくれるんだろう?」
その瞬間、私は感じていた違和感の正体に気が付いた。
今の一言――僕の『もの』と言った今の一言が、全て。
彼は、女の子のことを自分の所有物としか見ていないんだ。
「離してっ!!」
掴まれた手を振り払おうとしたけど、ずっと強く握られていて、振り解けない。
「嫌! 離して! 離してっ!!」
怖い!
このままじゃ、なにされるかわかんない。
誰か……助けて!
「沙也香さん…僕は……僕はっ!」
「嫌あっ!!」
嫌がっているのに、遠田くんは無理矢理に迫ってくる。
必死に抵抗したけど、力の差じゃとても叶わない。
壁際に押さえつけられて、身動きが取れなくされてしまった。
「や、やめて!」
震える私を見つめている遠田くんの視線が、私の唇や胸元に注がれているのがわかる。
嫌! このままじゃ……こんな形で、キスされるなんて絶対に嫌!!
私は……もっと…もっとロマンチックな……
「僕のものになってよ……沙也香さん……」
ロマンチックに聞こえていた言葉も、彼の欲望を隠すためのものでしか無いことがわかった今は、気持ち悪いだけ……
「嫌……嫌ぁっ!」
頬に、なま暖かい息がかけられる……
気持ち悪くて……辛くて……哀しくて……
唇をギュッと噛み締めて、私は涙を零した。
「沙也香さん……」
もう……もう駄目!
思わずギュッと目を閉じてしまう。
唇に暖かい物が触れ……そうになった、その時!
激しい音と共に、私を押さえつけていたものが無くなった。
恐る恐る目を開けてみると……
今まで私を押さえつけていた遠田くんの姿はなく、変わりにそこに立っていたのは…
「こ、巧一……くん……」
信じられなかった。
それに、どう考えても彼がそっちの方向から来られるはずがない。
だって……
そっちの方向には、3メートルくらい離れた所に別の校舎があるだけで、他にはなにもないはず……
と、私はとんでもないことに気が付いた。
隣の校舎とこちら側を隔てる柵の一部が、大きくひしゃげていることに。
そしてそのちょうど向こう側。
階数が1つ多い向こう側の校舎の屋上……その柵が、一部分無くなっていることに…
まさか……と思った。
でも、今の状況はそれしか考えられなくて……
「巧一くん……まさか……」
私の視線を追って気付いたんだろう。
「………ああ」
肯定の言葉。
「校舎回り込んでたら、間に合いそうになかったからな」
それは全て――私のため。
一歩間違えば今頃、巧一くんは……
最悪の状況を想像して、恐ろしくなる……
「大丈夫か?」
いつものように素っ気ない彼の言葉。
でも……
今ならわかる……
彼の言葉に、どれだけの気持ちが込められているのか……
だから……涙を堪えられなかった…
「う、うぅっ……ひっく……ぐすっ……こういちくん……私………私……っ…」
素っ気ないくらいに……ただじっと見つめてくれる……
同情とか…守ってやってるとか……そんな気持ちなんて欠片もない。
ただ、じっと傍にいてくれた。
「私……怖かった……怖かったよぉ……」
いくら拭っても、溢れてくる涙。
堪えようとしてるのに、全然止まってくれない。
「うぅ…ひっく……ぐす……ぐすっ……」
泣き続ける私……
安心したら、もう止まらなくなってしまった。
その時……
「あ……」
突然包まれる温もり。
びっくりして…見ると、私は巧一くんの腕にしっかりと抱きしめられていた。
「巧一……くん……」
いつもと同じ。
ろくになにも言ってくれない。
でも、抱きしめてくれる彼の温もりが…私を包み込んでくれて……
いつしか私の心は落ち着きを取り戻していた……
あれからしばらくして……
私達は騒ぎを聞きつけた先生達に生徒指導室に連れて行かれた。
あの時、巧一くんは隣の校舎の屋上から、こっちの校舎に飛び移って、あの柵を足場にして遠田くんを蹴り飛ばしたらしく、結果として、遠田くんは右肩の骨を折る重傷で、救急車で運ばれ即入院。
巧一くんは、校舎を飛び移るような危険な行為をしたこと、屋上の柵を壊したこと、それに遠田くんを怪我させたことで、一ヶ月の停学を受けることになってしまった。
私が襲われそうになったのを助けて貰ったことを言おうとしたんだけど、巧一くんは全部自分がしたことだって言って、責任を全部背負ってしまったの……
ようやくのことで生徒指導室から解放されたときには、すっかり日も暮れていた。
「巧一くん……その……どうして私が襲われそうになってたことを言わなかったの? そうすれば、こんな停学なんてされる必要なかったのに……」
私がそう言うと、巧一くんは珍しく視線をそらせた。
「巧一くん?」
不思議に思ってもう一度声をかけると、巧一くんはバツが悪そうな表情で、頬を掻きながら答えてくれた。
「……あの事話したら、きっとお前がなにかされたって噂になるだろ……」
そう言う巧一くんの頬が……赤い……
「………照れてる?」
「うるさい」
即答。
私は、笑いが込みあげてくるのを堪えることができなくて……
「笑うな」
「無理!」
「無理でも笑うな!」
「ぜったいに、無理!」
「ったく……」
拗ねたような表情。
いつも冷め切ったような顔ばかりしていた彼の中に、こんなに色んな表情があったなんて…
「……ありがと…」
少し恥ずかしかったけど……
私がそう言ったら、巧一くんは軽くポンって私の頭を叩いて歩き出す。
ロマンチックな出逢いがないなんて……嘘。
ほんとは…もう、ずっと前から出逢ってた……
「待ってよ、巧一くんっ!」
「遅い」
「もう、少しくらい優しくしても罰は当たらないぞっ!」
「めんどくさい」
「………ほんとに、巧一くんって……」
「なんだ?」
私の呟きに振り返る巧一くん。
「……ふふっ…ううん、な〜んでも♪ ほら、早く帰ろっ!」
「あ、おい……」
ギュッと手を握って引っ張ると、また少し赤くなった。
「巧一くん」
「なんだ?」
「………大好きだよっ♪」
私の言葉に真っ赤になる巧一くん。
「……わ、わかりきったこと……今更言うな……」
真っ赤になったまま答えてくれた巧一くん……
こんなにロマンチックな出逢いをしていたのに、ずっと気付かなかったなんて、私ってほんと……間が抜けてるなぁ……
そんなことを思っていたら……
「自覚してるなら、さっさと治せ。その天然ボケ」
「もう〜っ、いじわる〜!」
まるで私の心を読んだみたいな巧一くんの言葉に、そう答えると『ぽかぽかっ』って巧一くんの胸を叩く。
「まあ、お前の天然ボケは標準装備だから、治しようがないか」
「も〜っ、巧一くん〜っ!!」
「く……くくっ……ははは……あははははは!!」
「ふふ……あはっ、あははははっ!!」
こんな楽しいこと、これまでずっとしてこなかったなんて、すっごくもったいない気がする。
でも……
これからはずっと……2人で……
大好き……巧一くん♪