―Short Story―
『Chocolate Kiss』
by Sin


 いつも馬鹿ばっかりやってるアイツ……
 昔からいつも側にいた……

 男とか女とか関係なかった。
 朝起きたら窓越しに挨拶。
 一緒に学校に行って、一緒にお昼食べて……
 なにをする時でも……どんな時でも……いつも私の側にいた……

 ずっと……なにも変わらないって……そう、思ってた……
 でも……

「俺さ、昨日クラスの子に告白されちまったよ〜」

 照れくさそうに言ってくるアイツを見てたら……なんだか急に悲しくなって……
 
「そう! よかったじゃない。それじゃ、もう私と一緒にいたらまずいよねっ!」

 吐き捨てるように言って私はまるで逃げ出すみたいに家に駆け込む。
 部屋に飛び込むと、扉も閉めずにベッドに寝転んで枕に顔を押しつけた。

「悲しくなんか……ない……」
 
 呟くと、胸の中でなにかが崩れていくみたい……

 ぽろぽろ……ぽろぽろ……って……

 引き出しの中にしまった小箱……本当は今日渡すつもりだった……

 初めて……一生懸命……作ったのに……
 アイツの……喜ぶ顔見たくて……作ったのに……

 私とアイツは……ただの幼なじみ……そう……ただの……幼なじみ……ってだけ……

 いつの間に眠っていたんだろう。
 気がつくと部屋の中は真っ暗になってた。

 手探りで電気を付けようとしたその時……

「なに泣いてんだよ……」

 急に暗闇から声がして、私はビックリしてその場に尻餅をついてしまう。

「い、いったぁぁ………ぃ」

 ククッ……と笑い声。
 すぐに誰の声だか分かった。

「そこで何してんのよ……女の子の部屋に勝手に入るなんて、最低……」
「扉は開いてたし、部屋には入ってない」
 私の言葉に、言い返してくる。
 なんでここにいるの……?
 告白されて、あんなに喜んで……
 そのひとの所に行けばいいじゃない………
 胸の奥が……痛い……

「断った」
 ふいに言われて、私は何の事だか分からなかった。
「……え?」

「だから、断ったんだって。告白!」
 頭が真っ白になる……
 どうして?
 あんなに喜んでたのに……
 なんで断るの?
 なんで………

「なんでよ! あんた……あんなに喜んでたでしょ!!」
「まぁ、あんな可愛い子に好かれるのは悪い気しないしな」
「だったら……だったらなんで!?」
「………だからって、その……お、俺にだって、好きなやつくらいいるんだよ!!」

 突然の言葉。
 もう、訳わかんない。

「誰よ……?」
「うっ……」
「その、好きな人って誰?」
「そ、それは……」
「ここまで言ったんでしょ! 最後まで言いなさいよ!!」

 アイツの好きな人……
 少なくとも……私じゃない……私の筈無いもの……
 知りたい……アイツに好きだと言わせる人……
 どんな人……? アイツが……好きになったのって……

「それは……その……」
「男でしょ! はっきり言ってよ!! じゃないと……私……」
「………え?」
「いいから! 言って!!」

 聞きたい……聞きたくない……
 知りたい……知りたくない……

 頭の中で、ぐるぐる回ってる……

 ぐるぐる……ぐるぐる……って……

 でもアイツは黙ったまま……
 真っ暗な部屋の中じゃ……アイツがどんな顔してるのか……わかんない……

「なんで……言ってくれないのよ……言ってよ! 言って………っ」
 なんだか……私……泣いてるみたい……
 声が……潤んでる……
 頬が……冷たい……

「………だよ……」
「え……っ?」
 聞こえない……なんて言ったの……?

「……お前……だよ……」
「………えっ……今………なんて……?」
 信じられない言葉を聞いた気がする……
 本当は……一番言って欲しい……けど……でも……まさか……そんな事……

「俺は……お前が好きなんだよっ!!」

 ………一瞬、心臓が爆発するかと思った……
 ううん……今でも……
 苦しいくらいに胸が高鳴って……今にも……爆発してしまいそう……

「う……そ……」
 やっと絞り出せた声……
 上擦って……まるで自分の声じゃないみたい……

「こんな事で嘘ついてどうするんだよ……」

 溜息混じりに言ってくるアイツの言葉に、私、思わず吹き出した。

「笑うな……」

 照れくさそうなアイツの声。なんだか可笑しい。

「ったく……さっきまで泣いてたかと思ったら今度は笑ってやがる……」

 真っ暗の中、アイツの近づいてくる気配。
 うっすらと姿が見える。
 そして……顔がはっきり見えるくらい近くに……

「………で?」
「えっ?」
「だぁかぁらぁぁぁっ! はぁぁっ……」
 大きく溜息をつく。なんで?
 首を傾げる私の両肩を、アイツがいきなり両手で掴んできた。
「な、なに!?」
 しっかり捕まれて、身動きが取れない。
 暗闇の中、アイツの真剣な……今まで見た事無いくらい真剣な顔がボンヤリと見える。

「お前は……その……俺の事……」

 緊張した声で聞いてくるアイツ……

 私は……私は……あんたの事……

「………す………好き…………だよ………」
 精一杯の言葉……
 これ以上何も言えない……胸が……張り裂けそう……

 気がつくと、私いつの間にかアイツに抱きついてた……
 
 こうしてると……凄く大きくなってたんだって……気付く……

 私の顔が……胸の所までしかない……

 そっと頬を胸に押しつけてみる。
 
 アイツの鼓動が聞こえて……なんだか……嬉しくなってきた……

 しばらくそうしていて……ふと、私は引き出しの中に仕舞った物を思い出す。

「ちょっと……待ってて………」

 手探りで引き出しの中から小箱を取り出す。
 アイツに渡すと、不思議そうな目で箱を見てる。

「………今日……なんの日?」
「あ、ああ! そう言えば、今日はバレンタインだったな……」
 そう言うと、また不思議そうに私を見てる。
「な、なに?」
「いや……その……ひょっとして……これって……手作り……か?」
「そうだけ……ど?」
 まじまじと私と箱を見比べるアイツ。
 なんだかまるで、私の手作りって事がすっごく意外みたいじゃない……
 失礼しちゃうわ……
「食って……いいか?」
「ど〜ぞ」
 がさごそと音を立てて包みを開けていく……
 本当は……ちょっと心配……
 何度も失敗しながら、ようやくちゃんと出来たと思ったけど……
 それでも……アイツに嫌だと思われたら……

「……お前、意外とこういうの上手いのな」
「えっ……?」
「だから、これ。形とかちゃんとしてるし。それに……結構美味いし」

 そう言われて……なんだかホッとした……
 一口サイズに作った10個のチョコ。
 アイツ、どんどん食べちゃってる。そんなにいっぺんに食べて、お腹大丈夫なのかな?

「ふぅ、ごっそさん。美味かったよ」
「……いっぺんに全部食べるとは思わなかったわ」
 呆れたような私の言葉に、「美味かったからな」と苦笑するアイツ。
 なんだか……嬉しい……

 その時、不意に月明かりが部屋の中に差し込んでくる。
 アイツ、まだ学生服のままで……
 ずっと側にいてくれたのかな……?

 なんだか視線がそらせなくて……じっと見つめてしまう……

 不意に、アイツとの距離が縮まって……
 強く……優しく……抱きしめられた……

 見上げると、目の前にあるアイツの顔……
 そっと頬に触れてくる手……暖かい……

 胸が高鳴る……
 アイツの唇に……吸い寄せられるみたい……

 いつしか……私は瞳を閉ざしていた……
 そして……唇に触れる温もり……

 甘くてちょっとほろ苦いチョコレートの味……

 月明かりの中……私達は……初めてのキスを……交わした……


     戻る       TOP