Original Story
『獣神変幻ビーストブラッド〜獣の魂〜』
by Sin


第4話 新しい旅立ち

「ビーストブラッド……? 君が……?」
 あまりに突然の告白に戸惑いを隠せないユウマ。
 だが、ミーシャは満面の笑みで頷くと、頭に生えたネコミミとスカートから覗く尻尾を見せた。
「ほらほらっ、これが証拠ですっ」
 そう言いながら、尻尾をパタパタと振ってアピールするミーシャ。
 しばらく呆然としていたユウマだったが、やがて……。
「本当に……ビーストブラッド……なのか……? 君が…本当に……」
「はいっ!!」
 心底嬉しそうに笑うミーシャをじっと見つめ、そして…強く、抱きしめた。

「―――っ!?」
 驚きに目を見開くミーシャだったが、抱きしめてくるユウマの肩が震えている事に気づいて、そっとその背中に手を回す。
「夢…みたいです……私のピンチを助けてくれた貴方が…ずっと会いたいと願っていた、私以外のビーストブラッドだったなんて……」
 ミーシャの呟きに、抱きしめてくる力が少し強くなる。
 その温もりをもっと感じていたくて、ミーシャは目を閉じてユウマの腕に身を任せた。
「……っ」
 不意に漏れる感情を噛み殺したような声。
 それと共に、頬に何かが零れ落ちる感触。
「……?」
 彼の顔を不思議そうに覗き込んだミーシャだったが……。
「あ……」
「やっと…やっと見つけた……」
 涙交じりの声で呟くユウマ。
 まるで離すまいとするかのように、抱きしめる腕に力が籠もる。
「……夢…なら……覚めないでくれ……」
 誰に言うでもなく願うその姿に、ミーシャの瞳にも涙が浮かぶ。
「夢なんかじゃ…ない…です……」
 
 静まり返った森の中で2人は、お互いの温もりを確かめ合うかのように抱きしめあっていた……。


 それからしばらくの時が流れ……。
 ようやく落ち着いたユウマはミーシャの身体を離した。
「……ご、ごめん……急に抱きしめたりして……」
 真っ赤になって視線を逸らすユウマ。
「う、ううん……その…私も、嬉しくて、つい抱きついちゃったし……」
 答えるミーシャの顔も赤い。
 2人とも胸が高鳴り、視線を彷徨わせている。
「あのさ…」「あのっ!」

「「あ……」」

 完全に同時だった。
 あまりの気まずさに言葉が続かない2人。
 だが、意を決して口を開くと……。

「君から……」「貴方から……」

 再び重なる言葉。
 最早2人とも耳まで真っ赤だ。

「と、とりあえずっ!」
「は、はいっ!?」
 ようやくの事で先手を取れたユウマは、一度大きく深呼吸してから口を開いた。
「自己紹介でも…しようか」
「あ、は、はいっ」
 ようやくの事で話を進められて、2人は思わず大きな溜息をつく。

「俺はユウマ。さっきも見ての通り、狼のビーストブラッドなんだ。君は…ええと…確かミーシャって言ったね?」
「はいっ、ミーシャです。私は……」
 少し照れくさそうに微笑みながら尻尾をパタパタとさせるミーシャの姿に……。
「ひょっとして、猫?」
 こくんと頷くミーシャ。
 その頭の上では2つのネコミミがひくひくと揺れている。
「へぇ……」
 興味深そうにそれを見つめるユウマに、ミーシャは恥ずかしそうに両手でネコミミを隠すと顔を赤らめた。

「あ、あまりじっと見つめないで……恥ずかしい……」
「ご、ごめん……俺以外のビーストブラッドを見るのは、初めてだったから……つい…」
 再び顔が赤くなる2人。
 傍から見ていれば、初々しいカップルにでも見えて冷やかされただろうが、ここは他に誰も居ない森の中。
 そんな輩も居ない為、一層照れくささだけが漂う。

 それからしばらくの間、2人は様々な事を話していた。
 どんな所で生まれたのか。
 どんな生活をしていたのか。
 そして……どうして旅に出たのか……。

「ええっ、じゃ、じゃあ、ユウマさんは村の人達に……」
 森の中にミーシャの驚愕の叫びが響く。
「ああ。化け物! 出て行け! ……ってね」
「そんな…そんなの酷い!」
 そう言って涙を浮かべるミーシャ。
 ユウマはそんな彼女の優しさが嬉しくて、そっと髪を撫で付けた。

「……3年…彼方此方を旅して回った。でも、ビーストブラッドを普通の人間として受け入れてくれる人は居なかったよ。少なくとも、俺が出会った人達は、恐れるか敬うかのどちらかだった」
「敬う…って?」
「その辺りではビーストブラッドって言うのは神様らしいからな。親切にはされたけど、内心は恐れてたんだろうな…逆らったら、祟られる……ってね」
 その言葉に不安げな表情を見せるミーシャだったが……。
「じゃあ…私って物凄く恵まれてたんだ……」
 そう呟くと、当時の事を語りだす。

「私の住んでいた村は、もっとずっと山奥の方で……」

――1ヶ月前。
 ミーシャは山奥にある小さな村で、優しい村人達と一緒に幸せな毎日を送っていた。
 幼い頃に両親を亡くしてはいたものの、明るく優しい彼女は友人にも恵まれている。
 そして、村人達は彼女がビーストブラッドである事を知りながらも、分け隔てのない扱いをしてくれていた。

 ユウマにしてみれば、そんな彼女が村を出てこうして一人旅を続けていた事自体、不思議でならなかったが……。

「だって……どんなにみんなに優しくされても……私は…みんなとは違う……もの……」
 寂しそうに呟くその姿に、彼はミーシャの気持ちを悟った。
 自分だけが異質な存在…その思いがずっと彼女の心を蝕み続けていた事に……。
「それに、あの日……」
「あの日?」
「……私が村を出ることを決めたのは……村におかしな人達が来たのがきっかけだったの……」
「おかしな人達?」
「うん……」

 頷くと、その日の出来事を話し出すミーシャ。

 突然村にやってきた、数人の男女。
 不意の旅人だったが村人達は親切に彼等をもてなした。
 だが……。

「この村にはビーストブラッドが居るって噂を聞いてきたのだけど……本当?」
 夕食の際、旅人の中の一人がそんな事を言い出したのがきっかけだった。
 とりあえず村人達はその問いに曖昧な返事を返しただけだったが、一瞬で変わった空気に気づいたのだろう。
 旅人達の様子はその時からおかしかった。

 そして……。
 その夜、ミーシャは村中に広がるおかしな気配に気づいて家を出ると、気配を辿って森の中へ。
 すると……。

「あの村にビーストブラッドが居るのは間違いないな」
「ええ、私達の気配にも感づいていたみたいだし……」
 闇の中だったが、ミーシャにははっきりとその姿と声を捉えることができた。
 彼等がビーストブラッドを探している事を知り、何故か酷く不安な気持ちになったミーシャは、身を隠しながらその様子を伺う。
「で、どうするの?」
「村人に聞いても答えそうもないが、一人一人に当たっていけば、すぐに判る。こんな小さな村だから人数も大したことはないだろうしな」
「それもそうね。そう言えば、昼間会った村人の中に一人、ビーストブラッドの気配がする娘がいたわね……まずあの娘からあたってみましょう」

 そう言った女の顔は、確かにミーシャにも見覚えのあるものだった。
 昼間、村長の家を尋ねられた時に案内した時。
 あの時に、覚えられてしまっていたようで、ミーシャの胸が恐怖で締め付けられる。

――逃げなきゃ……。

 思った時には既に身体が動いていた。
 音をさせないように走りながら自分の家へ駆け込むと、必要な荷物をまとめて……村を飛び出す。
 自分がどうなってしまうのか、怖くなかったわけではない。
 だが、ミーシャにとって、それ以上に彼等の存在の方が怖かった。

 そして1ヵ月後……。
 森の中を彷徨っていたミーシャは、突然あの虫人間に襲われ……。
 ユウマに救われた。

「そうか…そんな事が……あ、じゃあもしかして、そいつらがあの虫人間の仲間……?」
「えっ……」
 思いもしなかったのか、ミーシャの表情が青ざめる。
 身体の震えを堪えようとするかのように両手で肩を抱きしめるミーシャ。
「じゃあ……じゃあ…もし逃げて無かったら今頃私……」
 震えるミーシャの姿を見つめるユウマの脳裏に浮かぶ虫人間の姿。
 彼等に捕まっていたとしたら、どんな目に合わされていたか想像すらつかない。
 だが、少なくとも幸せな暮らしが待っているとは、とても思えなかった。
「多分……ね。そいつらの狙いが何なのかは俺にも判らないけど…間違いなく狙いは君だったんだろうな……」
 そう呟いたユウマがふと見ると、ミーシャは今にも涙が溢れそうな表情で俯いている。
「ミーシャ……」
「なんで……なんでこんな事になっちゃったの……? 私……これからどうなっちゃうんだろう……あっ…」
 ぽろぽろと涙を零して呟くミーシャの身体が、暖かな温もりに包まれる。
 驚きに目を丸くするその様子に苦笑しながらユウマはしっかりと彼女の身体を抱きしめた。
「………っ」
 彼の優しさに包まれて堪えきれなくなったのか、ミーシャは声を上げて泣き出してしまう。
「……一緒に…探すか?」
「えっ……」
 泣きじゃくっていたミーシャの耳にそっと囁かれるユウマの言葉。
 それはあまりに唐突で……でも、何よりも優しく暖かく、震えていたミーシャの心を暖めてくれる。
「ビーストブラッドって一体何なのか……俺達が幸せに生きていける方法があるのか……」
「ユウマ……さん……」
「探そう、ミーシャ。俺と…一緒に」
「―――――っ!」
 思わず息を呑む。
 激しく高鳴る胸の鼓動にミーシャは戸惑いを隠せない。
 その頬が赤く染まって、感極まったミーシャの頬を喜びの涙が伝う。

「い、いいの……? ユウマさんに迷惑かけるんじゃ……」
「ビーストブラッド仲間だろ、俺達」
 そう言って優しい笑顔を見せる彼の姿にミーシャの胸が高鳴る。
「一緒に行こう。俺達の…ビーストブラッドの未来を掴むために」
 差し出される彼の手をじっと見つめていたミーシャは涙を零しながら満面の笑顔を浮かべると……。
「はいっ!!」
 躊躇うことなく、その手をしっかりと握り締めた。



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