Short Short 劇場
≪梁 明≫様 Ver.

第21幕
『金持ちの所以(ゆえん)』


「大十字さん、貴方に依頼したいのは、魔導書の捜索です」
「な、何だって……」
 ミスカトニック大学の魔術を扱う学科、陰秘学科は対外的にも内部にすらその存在は極秘とされている。だが、覇道財閥はそれを調べ上げていた。そして大十字九郎に、その白羽の矢を立てたのだ。
「だが、俺は……」

 覇道の依頼を受ける

┌──────────┐
│覇道の依頼を受けない │
└──────────┘盆宰澪!


「ウィンフィールド」
「はっ」
 言い淀んだ九郎の前にアタッシュケースが置かれ、その中身がさらされる。ぎっしり詰まった新札の束が三百ほどもある。百ドル紙幣の百枚束が三百、ということは、三百万ドルの現金だ。
「それは仕事料の一部と必要経費です。成功報酬は無論、別にお支払いいたしますわ」
「引き受けましょう!」(0.2秒)
 覇道瑠璃は満足そうにうなずくと、
「では、まいりましょう、ウィンフィールド」
「は、お嬢様」
 ウィンフィールドは札束の一つから数枚の紙幣を抜き取ってテーブルへと置くと、アタッシュケースを抱えて出て行こうとする。

「へ?」

 九郎は忘我の境地にさらされそうになるのを必死で呼び戻した。そして、テーブルの紙幣をわしづかみにし、
「ちょっと待ったぁっ!」
「何でしょうか、大十字様」
 表面上は柔らかい笑顔、その実、心のこもらない視線で振り向くウィンフィールド。
「依頼料が何でこんなハシタ金なんだあっ?!」
「はて、そのお金を見て大十字様は依頼をお受けになったのですが?」
「普通、そのアタッシュケースの金が依頼料と経費じゃねぇのかよっ?!」
「ええ、おっしゃるとおりです。ですが、その金に目がくらみ、持ち逃げされる可能性も考慮に入れざるを得ないのが現状です。そこで依頼料の一部をお渡しし、魔導書の代金は本を発見してから覇道邸へと連絡いただければよろしいというのがお嬢様の意向ですので」
「なんか、世界に名だたる覇道とは思えないほどケチ臭い気がするのは気のせいでしょうか」
「金は使うべき時に使うというのが先々代からの習わしなのです。それはつまり、確実でないものには金は出さないと言うことでもあります」
「……なるほど、まだ信用できないと、そう言いたいわけだ」
 ウィンフィールドは一礼し、九郎の部屋を出て行った。
「うわー、早いとこ何とかしなきゃなぁ……」

 ぐ〜

「とりあえず、飯にすっか……」
 この依頼が彼の人生を苦労性の貧乏街道へと誘うことになろうとは、神ならぬ身の九郎には知るよしもなかった(笑)


 教訓:金持ちはケチ


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