−50000HIT記念 狂科学ハンターREI SS−
すれちがい
by Sin

「う〜ん、久しぶりの日本かぁ……桜さん、元気にしてるかな……」

 絵画の買い出しの為に2ヶ月もの間、海外を転々としていた玲。
 久しぶりの日本に着いて、逸る気持ちを抑えられずにいた。
 
「不思議なもんだな……以前は他人の事なんて全く気にならなかったのに…あ、乗ります!」
 発射間近のバスに駆け込み、流れる景色を見つめながら、玲は桜の事を想い描いていた……
 

 2時間後……
 
「ただいま、アリシア!」
「あっ、玲! お帰りなさい!!」

 ようやくの事でHIMEへと帰ってきた玲に、アリシアが満面の笑みで抱きついてくる。
 人造人間のパワー全開で……
 
「ア、アリシア………ちょっ……くる……し………」
「え? あ、きゃあっ、玲! ごめんなさい!!」

 遠くなっていく意識の中で、玲はアリシアの謝る声を聞きながら、気を失った。
 
 
「………えっ? 桜さん、来てないのかい?」
「うん、玲が海外に行っちゃってから、2週間くらいは来てくれたんだけど……その後は全然……」
「どこかで逢ったりは?」
「ううん、それも無いの。前は時々誘ってくれたんだけど……玲、桜さんどうしちゃったのかなぁ……」
 心配げなアリシアに何と言って良いか分からず黙り込む玲。
 そんな玲の様子がより一層アリシアの不安を駆り立ててしまう。
 
「……私……タケルくんの所に行くね……」
「あっ、アリシア!?」

 玲が呼び止めたが、アリシアはそのまま玄関を出て行ってしまった。
 
「………桜さん……アリシア……」

 
 それから1週間。
 玲は溜まっていた雑務を片づけながら桜がやってくるのを待っていたが、結局帰ってから一度も桜が訪れる事はなかった。
 そんなある日……
 
 気晴らしにと出かけた先の自然公園……
 そこで、玲は思いも掛けない光景を目にする事になる。
 
「あっ………桜……さん……?」

 そこにいたのは、桜と……もう一人。

「あれは……まさか、桜さん……」
 思わず目を疑った。
 玲の目の前を通り過ぎていく男女の二人連れ。
 こちらには気付いていない様子だったが、その片方は間違いなく桜だった。
 なんとなく例に似た男に笑って話す桜の様子は本当に楽しそうで……
 
「………そう…か……そうだよね……2ヶ月もほったらかしにしておいて……僕に何も言う資格なんて無い……」

 桜に新しい男が……
 そう思った玲は、酷く重くなった足を無理矢理に動かして、HIMEへと帰っていく……
 
 
 それからの玲の様子は酷いものだった。
 毎日何をするでもなく、ただ虚ろに天井を見上げているだけ……
 たまに動くかと思えば、どこへともなく出かけてなかなか帰ってこない。
 心配になったアリシアが探しに行くと、大抵、どこかの河原でその川面を見つめ続けていた……
 
 
 そんな日が10日ほど続いたある日……
 
 いつものように川面を見つめていた玲だったが、その視線の中に突然誰かが飛び込んできた。
 
「帰ってるなら、帰ってるって連絡くらいくれたっていいじゃない!! 酷いよ、玲くん!!」

 その声に、虚ろな視線をゆっくりと上げる玲。
 視線に飛び込んでくる見知った姿……
 
「ちょ、ちょっと……玲……くん? ど、どうしちゃったの!?」
 だが、それが現実だとはどうしても思えない玲は、そのまま再び視線を落としてしまう。
 
「れ、玲くん?」
「桜さん……」
「あっ、アリシア……玲くん、いったいどうしちゃったの?」
「私にもわかんない……10日くらい前に出かけて帰ってきたら、こうなってたの……」
「……玲くん……ああああっ、もう!! 何があったか知らないけど、そんなグジグジしてるなんて玲くんらしくないよっ!!」
 そう言うなり、桜は玲の襟首を掴んで引きずり起こした。
 
「こら玲っ!! いい加減に目を覚ませっ!!」
 思いっきり前後に揺すられて、虚ろだった玲の目に少しずつ光が戻ってくる。
 
「ちょ、ちょっと、桜さん、ちょっと乱暴過ぎじゃ……」
「まだ目が覚めないみたいねぇぇっ!! それじゃあ……仕方ないわ……」
 言い放つと、桜はゆっくりと助走をつけて拳を振りかぶった。
「いいかげんにぃぃぃいぃっ! 起きろ―――――――――――――っ!!」
「さ、桜さん!?」
 慌てて止めようとするアリシアだったが、桜の方が早い。
 今にも直撃しそうなその時だった。
 
「………………なんだ……ホントに……桜さんだったのか……」
「っ!? 気付いてて無視ってた訳!?」
「………なんで……来たの?」
「えっ………」
「……この前の彼氏の所に行けばいいじゃないか……」
「な、何言ってるの?」
「僕の事はもうほっといてくれ」
「ちょ、ちょっと玲くん!? 彼氏っていったいなんの事!? なんでいきなりそう言う話になる訳!?」
「なんのって……この前、10日くらい前に駅前を一緒に歩いていたじゃないか。少し僕に似た感じの男と!」
「10日くらい前……? あっ、ひょっとして……」
「……もう僕の事は良いから、あの彼氏と仲良くやって……」
 その瞬間、玲の頬に激しい音が響いた。

「勝手に決めつけて勝手に自己完結しないでよ!! 玲くんが見たって言うのは、多分私の友達の彼氏と、その友達の誕生日プレゼントを買いに行ったときだよ! 何贈ったらいいか分からないからって言うから、プレゼント選びに付き合っていただけじゃない!! それで、なんであの人と付き合ってるだなんて勝手に決めつけるのよ!! 玲くんのバカっ!!」

 そう言い残して、桜はその場を走り去ってしまう。
 
「玲……」
「……僕の……勘違い……だったのか……? そんな……」
「桜さん……泣いてた……」
「――っ!?」
「……追いかけなくて……いいの?」
 アリシアの言葉に項垂れる玲。
 
「追えないよ……僕の勘違いで傷つけてしまったのに……」
「玲のバカっ!! だったらなおさら玲が追いかけてあげなくちゃダメじゃない!! これ以上グズグズ言うなら、桜さんの所まで投げるからねっ!!」
「う………っ………わ、分かった、分かったよ、アリシア。行くって」

 アリシアに急かされるまま、玲はその場を駆けだす。
 桜を追ってどのくらい走っただろうか……
 やがて玲は、一本の桜の木の下で泣きじゃくる桜の姿を見つけた。
 
「なんで……来たのよぉ……」
「………ごめん……桜さん……」
「私…そんなに浮気性? 玲くん以外の人と……付き合ったりできるって……思うの?」
「……最近…桜さんがHIMEに来なくなったって…アリシアに聞いてて…」
「えっ?」
「そしたら……無性に不安になって……なんとなく街を歩いているときに……」
「私が、その人と歩いているところを……見かけた……?」
 桜の言葉に頷く玲。
 
「そしたら……なんだか凄く気持ちが重くなって……」
「玲……くん……」
「ごめん……桜さん……」
「もう……いい……」
 そう言いながらそっと玲の胸に抱きつく桜。
 
「でも……これからは……信じていてよ……」
「うん…絶対に信じるよ……」
「絶対……?」
「絶対に……だよ」

 じっと見つめ合う二人。
 ゆっくりとその距離が縮まって……
 
 閉ざした瞼の向こうに重なる唇の温もり……
 
 抱きしめ合ったその感触を確かめ合いながら、桜はそっと囁く。
 
「お帰り……玲……」



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