−相互リンク記念 狂科学ハンターREI SS −
『夏祭り』

by Sin

 遠くから太鼓の音や祭囃子が聞こえてくる。
「ふわぁ…なんだか賑やかだね、玲」
 喜び勇んで辺りを見回しながら微笑むアリシア。
 そんな様子を皆微笑ましく見つめている。

「わわっ、アリシア。そんなに引っ張ったら……と、と、ととととっ、うわっ!」
 あまりに引っ張り回されて、タケルは思わず足をもつれさせてしまった。
 そのまま派手にスッ転ぶ。
 片手をアリシアに捕まれていた為、そのままの勢いで頭を打ち付けてしまい、
 ゴンッ、と派手な音がしてタケルは頭を抱えた。

「あっ、た、タケルくん、大丈夫?」
「いててて……あ、う、うん、大丈夫だよ」
 本当はかなり痛かったが、アリシアの手前、強がってみせるタケルに桜は思わず吹き出す。
「なんだよぉ、桜さん」
「なんでもないよ〜、ふふっ、タケルも男の子だね〜」
 からかう桜にタケルは顔を紅く染める。
 慌てて否定しても、逆に玲達にまで苦笑されて、溜息をつくしかなかった。
 そんな様子を笑って見つめていたリタは、ふと隣を歩く月形を見上げると…
「あたしは、こういう場所は初めてなんだけど……剛史、あんたは?」
「まあ、幼い頃は何度か…それ以降は来た覚えがないがな」
「………あたしには幼い頃の思い出なんて無いからね…」
「無いならこれから作ればいい…」
「………フフ…そうだね…あんたが一緒にいてくれれば…いくらだって思い出は作っていける…」
 そう言って軽く月形の肩に寄り添うリタ。
 その温もりに僅かに頬を紅くしながらも月形はそっとリタの肩に手を回した。

「ひゅ〜ひゅ〜お似合いだね、お二人さん」
「あんた達には負けるよ、桜。お腹少し目立ってきたんじゃないか? そろそろ安静にしといた方がいいと思うけどねぇ」
 言われて頬を赤らめる桜。
 和気藹々と話す3組のカップル。

 しなやかな黒髪と、透き通るような美貌の青年、姫城 玲とまさに美少女と言える容貌と見事なプロポーションの持ち主、姫城 桜。旧姓、扇 桜。
 鋼鉄のような肉体に、どこか少年のような純粋さを残した顔立ちの月形 剛史と、女豹のような鋭さに深い愛情を感じさせる瞳のリタ・ヴァレリア。
 そして無邪気な少年と言った雰囲気のタケルと、妖精のような容姿に天使のような優しさを併せ持った金髪の美少女アリシア。

 人目を引きつけるこの3組のカップルが歩く先にはいつも人集りが出来ていた。

 普段は気楽な洋服の面々だが、今日は6人とも浴衣を着込んでいる。

 玲は紺、桜は桃色。月形は濃緑、リタは黄色。そしてタケルは白、アリシアは空色の浴衣だ。
 カランコロンと鳴る木履の音が下駄の音と合わさって楽しげに音楽を奏でている。

「あっ、ねえ玲くん。あそこの金魚すくい、やってみよっ」
「いいよ。じゃあ行こうか。アリシア達はどうする?」
「う〜ん…タケルくんに任せる。一緒に色々見て回ろうよ、ねっ」
「うん。じゃあそうしよう」
「月形さん達は?」
「俺達も適当に回るか…リタ、見てみたい所はあるか?」
「あたしは祭り自体初めてだからね…あんたに任せるよ」
「わかった。じゃあ桜、俺達も適当に回る事にする。待ち合わせはこの鳥居の前でいいか?」
「おっけ〜。じゃあ、とりあえず2時間後にって事で…解散!」

 その言葉と共に、カップル達は各々思うままに祭りの中へ消えていく。

「ねぇ、玲くんは捕れた?」
「う〜ん、なかなかうまくいかないな…」
「あはは、私も。1匹も捕まえられないのよね〜」
 そんな風に笑いながら金魚すくいを楽しむ玲と桜。
 楽しんではいるのだが…2人の持つ椀には未だに1匹も入ってはいなかった。
 何度と無く挑戦したが、結果は惨憺たるもの。
 諦めてやめようとしたその時だった。

「あら、玲さん、桜。こんな所で奇遇ね」
 声をかけられて2人が振り返ると、そこには龍華が微笑みを浮かべていた。

「龍華じゃないの。ひっさしぶり〜」
「こんばんは、龍華さん」
「こんばんは。お二人とも…金魚すくいされてましたの?」
「あはは、2人で10回挑戦して、1匹も捕れなかったんだけどね〜」
「相性が悪いのかな。何回やってもすぐに紙が破れちゃってね」
「そうでしたの…でしたら……」
 そう言って龍華は悪戯っぽい笑みを浮かべると、
「私がやってみますわ」

 微笑んで水槽の側にかがみ込んだ龍華は、着物の袖が濡れないように気をつけながら、流れるような動きで近くに寄ってきた金魚をすくい捕る。
 周囲が気付いた時には、すでに椀の中に金魚が入っていた。
 殆ど水面に波紋すら立てずにすくい捕られ、他の金魚も気付いていないのか、全く逃げるそぶりを見せない。
 そのままもう一匹も捕ると、驚く周囲を尻目にその2匹を袋に入れて貰い、桜へと差し出した。

「はい、桜。これでいい?」
「すっご〜い、ね、龍華。今どうやったの?」
「ふふっ、コツがあるの」
「教えて! ね、龍華」
「それは……ひ・み・つ♪」
 そう言って笑う龍華。
「え〜っ、龍華〜」
 本気で残念そうな桜に玲も苦笑する。
「ふふっ…さてと…じゃあそろそろ戻らないと…」
「あれっ、今日もお仕事?」
「ええ、ちょっとだけ抜けさせて貰ったの。お祭りなんて何年も行ってなかったからなんだか懐かしくって」
「そっか…あんまり無理しないでよ」
 心配げな桜に龍華は微笑むとそっと桜の腹に触れた。

「桜もね。お腹の方もだいぶ目立ってきたじゃない。あんまり無理しちゃダメよ」
「うん。気をつけるね」
「それじゃ、玲さん。これで失礼しますね。桜の事、お願いします」
「はい、龍華さんも気をつけて」
「ありがとうございます。では」
 颯爽と去って行く龍華。
 その姿に人混みが自然と分かれていく。
 やがて彼女の姿は祭りの景色の中に消えていった。

 それから、射的や輪投げなどを楽しみ、屋台で色々と食べつつ玲達は人気の少なくなった境内で休んでいた。
 
「後20分くらいかな…」
 空を見上げながら呟く桜。
「そうだね。桜さん、身体は大丈夫?」
「うん、でもちょっと疲れたかも…普段ならなんて事無いんだけどね」
 そう言ってそっと膨らんだ腹をさすった。
 時々動いて返事をする子供の頭を撫でてあげるように、優しく、暖かく包み込む。
「あともう少しだね…この子が産まれてくるまで…」
「………うん…なんだか嬉しいような、寂しいような、不思議な感じ…」
「寂しい?」
「うん…もうすぐ、この子が私から離れてしまう…そんな感じなの」
「何ヶ月もずっと一緒だったんだもんね」
「うん……」
 僅かに潤んだ瞳で、桜は玲に身体を預けた。
 そっと抱きしめる玲の温もりが桜の心を、そして身体を温めていく。
「玲くん……大好きだよ……」
「僕も、桜さんが大好きだ……愛してるよ……」
「玲……くん……」
 潤んだ瞳がそっと閉ざされ…2人の唇が重なった……

「あ、やっと戻ってきた! 玲〜っ、桜さ〜ん!」
 大きく手を振るアリシアの姿に、玲と桜は走るわけにも行かず、なるべく急いで歩み寄った。
「ごっめ〜ん! 遅れた?」
「5分くらいかな。でもホントに楽しかった〜」
「あたしも十分楽しめたよ。……なぁ、剛史…次は2人だけで…」
「ああ…」
 僅かに照れくさげに答える月形の様子に、玲達は思わず苦笑する。

「ふふっ、あんたの照れた顔って子供みたいだな」
「なっ……リ、リタこそ……」
 そう言って何かを耳打ちすると、リタの顔が真っ赤に染まった。
「たっ、剛史! ば、ば、バカなこと言ってるんじゃないよ!! もう……」
 不思議そうなアリシアの視線に余計にリタは真っ赤になる。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「うん」
「あっ玲、私、今日はタケルくんのところに泊まるね」
「そうなんだ。じゃあゆっくり楽しんできなよ」
「うんっ」
「モニカさんもアリシアに会うの楽しみにしてるよ」
「私も楽しみ。モニカさんに会うのってすっごく久しぶりだもん」
 そう言ってはしゃぐ2人の様子を微笑んで見つめる玲達。

「剛史…今日は…その……」
「ああ、来い」
「……ああ」
 口数も少なく、用件だけを伝えるような月形の口調。
 だがそれが彼の照れ隠しだと知っているリタには、そんな様子がおかしくて仕方がなかった。

 やがて月形とリタが2人で夜の街へと消え、タケルはアリシアを連れて、帰っていった。 残されたのは玲と桜の2人だけ。

「……みんな帰っちゃったね」
「まあ、いつでも会える連中だけどね」
「…玲くん、その…私と結婚したこと…後悔してない?」
「するわけないよ。僕は誰よりも桜さんのことが好きで、だから選んだんだからね」
「……嬉しい…」
「何も不安に思わなくっていい。いつだって僕は桜さんを愛してるから」
 そう言われて、桜の頬が名前の通り桜色に染まる。
 恥ずかしげに俯いていたが、やがて嬉しさに込みあげてきた涙を瞳に溜めて、玲の胸に飛び込んだ。
「玲くん…」
「桜さん…」
 そっと重ねられた唇。
 HIMEへと向かう2人の足取りは軽く、下駄と木履が奏でる音色が銀座の夜に楽しげに響いていた…




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