−志岐様誕生日記念 Original Short story−
Birthday Present

by Sin

「お兄ちゃ〜ん、起きてよぉ」
 聞くだけで力が抜けそうな、間の抜けた声。
 これが最近の俺の目覚ましだ。
「うるさいなぁ・・今日は休みなんだから、ゆっくり寝かせてくれよ・・」
 今日は日曜日。学校もなければ、特に出かける用事もない。
 こんな時くらいはゆっくり寝てたいのに・・
「うぅ・・起きてくれないよぉ・・お兄ちゃ〜ん、起きてってば〜」

 ゆさゆさ・・・

「寝かせろ〜」
「ダメだよぉ〜せっかくいい天気なんだよ〜お出かけしようよ〜お兄ちゃ〜ん〜ねぇってば〜ねぇ〜〜〜〜〜っ」

 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさゆさ・・・・

「起きてよ〜起きてってば〜ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ〜〜〜〜〜っ」
「だぁぁぁっ、もう、うるさい〜〜〜っ!!」
 そう言った途端、急に静かになった。
 だが、ようやく落ち着いて寝られると思った矢先に・・ 

「えいっ!!」
「うげっ!?」
 気合いの入ったかけ声と共に、なにかが俺の上に降ってきた。
 それは俺の腹を直撃し、なんの備えもしていなかった俺は、しばらく悶絶する。

「うぐぐ・・・この・・・なにしやがんだっ、愛美っ!」
 怒鳴りつけて起きあがった瞬間・・
「きゃぅっ!?」
 妙な声がして、なにかが俺の上から転がり落ちた。
 見ると、ベッドの足下に頭から落っこちている愛美の姿が・・・。 
 じたばたと暴れるから、スカートが派手にまくれて、カエルパンツが丸見えだ。
「(16にもなって、こんなガキっぽいの着るなよ・・)」
 それ以前に、男の前で、こんな姿を見せている時点で十分問題なのだが。

「お兄ちゃ〜ん、起こしてよ〜」
「自分で起きろ」
「う〜っ」

 じたばた・・

「ふみゅぅ・・・起きれないよぉ・・」
「根性で起きろ」

 じたばたじたばた・・
「(もがいてるもがいてる・・)」
 ぱた・・
「(あ、諦めたな)」

「お兄ちゃ〜ん、起こして〜」
「ふあぁぁ・・・さてと・・寝るか・・」
 再び布団にくるまる。愛美は暴れて抗議するが、俺は無視して目を閉じた。
「起きれないよぉ〜」
「がんばれ〜」
 全くやる気のない応援をして、ひらひらと手を振る。
「うぅぅ・・・しくしく・・・・」
 ベソをかき始めた愛美を放っておいて、俺は再び夢の中へ・・
 だが・・
「・・・・しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・」
「・・・うるさい・・」
 そう言ってもう一度寝ようとするが・・・

「・・・・しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく・・・」
「だぁぁぁぁぁぁぁっ、うっとぉしいいぃぃっ!!」
 あまりの鬱陶しさに俺は飛び起きると一気に愛美を引きずり出した。
 そしてそのままポイッと投げ捨てる。
「きゃん! いたた・・ひどいよぉ・・」
 そう言った愛美だったが、ふと自分の格好に気付いて、慌ててスカートの乱れを直した。
「・・お兄ちゃんのエッチ・・」
 真っ赤になって抗議する愛美の様子に溜息をつく。
 自分でやっておいて、エッチもなにもないもんだ・・

 笠部 愛美、俺の妹だ。
 といっても血の繋がりはない。
 3年前、施設にいた13歳の愛美を親父達が引き取ったんだ。
 まさかあの1年後に、その親父達が死んじまうなんて、思ってもいなかったけどな。

 他に親戚もいない俺達だけど両親が残してくれたこの家と俺のバイト代でなんとか生活はやっていけてる。もっとも、家事全般は愛美がやってるけどな。
 俺は料理も出来なければ、片づけも下手だし、愛美がいなかったら、この家って間違いなくゴミ屋敷になってるだろう。

「あーっ、お兄ちゃん、またゴミ出してない〜っ!」
「ああ、わりいわりい。忘れてた」
「も〜っ、いっつも忘れるんだから〜!」
 そう言って膨れる愛美の頬をつついてやる。なぜかこうされると喜ぶんだよな、こいつ。

「しょうがないなぁ・・もぅ・・」
 いつものように、そう言ってくすぐったそうに笑う愛美。
 こいつが妹になって3年・・
 俺は・・本当に愛美を・・妹だって思えるように・・なったんだろうか・・ 

 じっと見ていたら、愛美が不思議そうに見つめてきた。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「い、いや、なんでもない」
「ふぅん・・変な、お兄ちゃん」
 そう言ってまた笑う。
「でもそんなお兄ちゃんも大好き♪」

 大好き・・
 そう言われるようになってどれくらい経つだろう・・
 
 可愛い・・
 初対面で俺が思ったこと・・
 一緒にいたいと思った・・
 あの頃はまだ、兄妹だとか・・友達だとか・・その程度のことしか知らなくて・・
『今日から僕の妹だ』
 そんなこと言ってた・・
 笑顔が見たくて・・色々馬鹿なこともした・・

 だけど・・愛美はなかなか笑ってくれなかった。

 初めはずっと警戒してた・・
 3ヶ月くらいの間はまともに口も聞いてくれなかった・・
 それが急に変わったのは・・半年くらいしたある日のこと・・

 学校帰りに、たまたま高校生に絡まれていた愛美を見つけて、やられるのを覚悟で助けた・・・。
 全然かなわなくて、ぼろぼろにされて・・でも・・愛美を守ってやれた。

 あの日からだな・・愛美の態度が変わったのって・・

『お兄ちゃん・・怖かった・・怖かったよぉ・・・』
 そう言って泣きじゃくる愛美を抱きしめて・・1人じゃ怖くて眠れないって言うから一緒に眠って・・
 それ以来、愛美は俺から離れなくなった。

 当時、15歳だった俺にとって、2歳も年下の女の子とずっと一緒にいるって言うのは、恥ずかしくて・・時々ぶっきらぼうに遠ざけたりした・・

 だけどそんな中、親父達が死んで・・
 俺達は二人っきりになった・・


「お兄ちゃん、どうしたの? ぼ〜っとしちゃって・・」
「あ、いや、なんでもない」
「ふぅん・・」
 そんなたわいもない会話が楽しい・・
 いつしか俺はそう思うようになっていた・・

 そんなある日・・

 妙に着飾った愛美が、俺の部屋にやってきた。
 いつもはゴムバンドで括ってポニーテールにしている髪を降ろして、今日は大きなリボンで止めている。珍しい格好に、俺は思わず目を見張った。
「どうしたんだ、そのかっこ?」
「え? えっと・・・ね。お兄ちゃん、今日ってなんの日だか覚えてる?」
「え〜っと・・・なんの日だっけ?」
「やっぱり忘れてる・・今日はお兄ちゃんの誕生日だよ」
 クスクス笑いながら、愛美が言った。
「あ、そっか・・今日でもう俺も18か・・」
「そう・・18歳になったんだよね・・お兄ちゃん・・」
 なんとなく、いつもと雰囲気が違う・・俺がそう思ったとき、不意に愛美が俺の側に寄り添ってきた。
「どうした?」
「私も・・先月に16歳になったし・・お兄ちゃんもこれで、18歳になったんだよね・・」
「あ、ああ、そうだけど・・・?」
 なにかが違う。
 いつもの愛美じゃない。
 戸惑うしかない俺をじっと見つめてくる愛美。
「あの・・ね・・」

 その時、俺はなにが違うのかようやく気付いた。
 愛美はいつだってすぐに俺にくっついてきたのに、今日に限って、少しだけ距離を開けて、顔を赤らめている。
 そして・・
「私を・・お兄ちゃんの側に・・ずっといさせて・・」

 なにを言われたのか、分からなかった。
 突然の言葉に、頭の中が真っ白になって・・

 だが、呆然としている俺に愛美が抱きついてきたことを知ったとき、俺は慌てて引き離した。

「・・・な、なに言って・・」
「好きなの!!」
 俺の言葉を封じるように愛美は再びそう言って抱きついてくる。
「ずっと! ずっと好きだったの!! だから・・だから・・・っ!!」
 まるで堰を切ったように言葉が溢れてくる愛美を俺はどうしていいのか分からずにいたが、いつしかその背にそっと手を回していた。

 そして・・・それだけの時間が流れたのか・・

 辺りがすっかり暗くなり、月明かりだけが俺達を照らす中で、泣きじゃくりながら俺に縋り付く愛美を、俺はそっと抱きしめる。

「そのリボン・・ひょっとして・・プレゼントのつもりだった?」
 俺の言葉に、真っ赤になって頷く愛美。
『プレゼントは私』なんて事、まさか本当にやる奴がいるとは思わなかったけど・・
 思わず苦笑した俺に、愛美はさらに顔を赤くする。

「・・・もうしばらく・・」
「えっ?」
「もうしばらく・・お兄ちゃんのままでいさせてくれないか?」
「・・お兄・・ちゃん?」
「・・・俺、正直言って、お前のことを妹だって見てなかったと思う・・」
 不安げに見つめていた愛美の瞳が、驚きに見開かれる。
「俺も・・お前のこと・・好きなんだと思う・・」
「お兄ちゃん・・」
「ただ・・まだ不安なんだ・・だから・・もうしばらく待ってくれ・・」
 照れくさくなって、視線を逸らしながら言った俺に、愛美はくすっと笑う。
 そして、コクリと頷くと、そっと俺の胸に顔を埋めた。

「ま、とりあえず、今日の所はこれだけ・・」
 そう言うと、俺は愛美のリボンをスッと解いた。
「あ・・・」
 戸惑ったような・・照れくさそうな・・そんな複雑な表情を浮かべた愛美。
 いつも見ていたポニーテールが解けて、長い髪がまるで愛美を包み込むかのように広がった。
「なんだか・・・恥ずかしい・・」
 頬を赤く染めてそう言った愛美が愛しくて・・
 強く・・だけどそっと・・抱きしめた・・・

 いつものように・・でも・・いつもとは違う・・・
 月の光に溶けてしまいそうなほど小さな声で・・愛美はささやく・・

 ・・・・・お兄ちゃん・・・大好き・・

 その言葉は・・・微かに感じた温もりと共に・・唇に刻まれた・・







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